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なんで、こんなことになってしまうのだろう。
好きになったことが、そんなにイケナイことだったのだろうか!?
「っ」
開かされた脚の間からのぼってくる振動に、ピクッと体が揺れた。
「人形みてーだけど。なんだかんだ言って、ちゃんと感じてるじゃん。幸彦」
「ヤンちゃんの躾の問題だろう」
「あっ、くっ。ああっ」
ジュプッと音がもれて、自分の中で三谷が射精したのがわかった。
「気持ち、イイ・・・」
掠れた声で、三谷が呟いた。
「次、俺。次」
寝室で待ち構えていたもう一人の男、島田が嬉々として言って、三谷を押しのけた。
ズルリと秘所から、三谷のペニスが抜けていく感覚に、なつきは竦みあがった。
「挿れる前に、ちょい掻き出しておけよ。濡れ濡れだぜ、中」
前髪をかきあげながら、三谷が呟いた。
「ヤンの野郎。一体何発決めやがったんだよ」
島田が不満気な顔をした。
「知らねえよ。あんな変態のプレイなんて」
ギシッと三谷がベッドを降りていった。
「見せてもらうよ。桜井さん。あとで、美貴に報告しなきゃなんねえから」
なつきには、もうなにも言えなかった。ただ、ただ、うつろな目で天井を見上げている。
すっかり抵抗する気力を失っていた。
バスルームから寝室に、ヤンに連れてこられた時点で、なつきは無抵抗だった。
抜け殻のような体をベッドに放り投げられて、そのまま三谷が多い被ってきて、強引に三谷のペニスを体に含まされた時ですら、苦痛に一瞬悲鳴をあげて、
あとは感じるままに喘ぎをもらすだけだった。
島田の手が、開いたなつきの脚の間に潜りこみ、三谷やヤンの放った精液の残るなつきの秘所を指で抉った。
「うっ。あ、あ」
ビクッとなつきは、右腕を宙に浮かせた。
島田の指が、体中に這い回る恐怖は、既にバスルームで絶頂を迎えていた。
ヤンの指がなつきの体に触れた途端、なつきは吐いた。
なのに、ヤンはまるでそんなことは当然かというように、なつきに挑んできた。
自分が嘔吐したものの匂いで、なつきは頭を痺れさせていたというのに、ヤンは涼しい顔だった。
野田という男に無理矢理開かされたように、ヤンもなつきの体を強引に開き、押し入ってきた。
体中が総毛だって、一瞬頭の中が真っ白になった。
瞬時に気を失っていたようだが、体の中を突かれる感覚に、すぐに我に返った。
バックの体位で犯されながら、なつきは胃の中にもうなにも残らないぐらい吐きまくった。
体の、頭からつま先までが小刻みに震えていった。
バラバラに、なる。そう思った。恐怖と悪寒とそして・・・。痛み。
痛い、痛い、痛い。
受け入れることになれていないこの体は、痛みに悲鳴をあげる。
「痛い?ごめんねぇ。でも、俺は気持ちイイよ。君、男嫌いなんて嘘だろ。才能あると思うよ。勿体無いよ。早く治って、梶クンのでっかいの挿れてあげなよ」
耳元にそう囁かれて、たぶん、なつきは最後の嘔吐をした。もう次はなにも出ないだろう。
梶本。また、同じ場面になっちゃったよ。ごめんな。なんで俺って、こんなに頭悪いんだろ。おまえが呆れても仕方ねえよな・・・。
「梶クンの名前出したら、すっげえ締まったよ。オモシレ。梶本、梶本、梶本」
呪文のように、ヤンはなつきの耳に梶本の名前を囁いた。
悔しいけれど、その名前だけで、なつきの体は反応した。ビクビクと脚が震えた。
中心にしっかりと埋め込まれたヤンのペニスを自分の中がきつく締め上げるのがハッキリわかった。
「可愛いねえ、君」
うふふふとヤンが笑いながら、一際体を揺らして、なつきの中に射精した。
ブワッと体の中を広げられるその一瞬に、なつきは涙を零した。
もう頭が朦朧としていた。なにも、考えられない。
そして、なつきは、バスルームで、思考を手離した。
あとは、ヤンが自分をどういう体位で抱いたか、何回射精したか。そんなことはもう全然どうでも良かった。
寝室に連れてこられて、待ち受けていた三谷が自分を犯した時ですら。
「んっ」
島田のペニスが、赤くヒクつくなつきの秘所に潜りこんで来た時。
なつきは声をあげた。
なんだか知らないけれど、やたら痛くて、うすボンヤリしていた意識がゆるゆると復活していく。
「あ、う」
また穢れた・・・と思って、なつきは泣けた。
野田に犯された時にも思った。この体は、汚いと。どうしようもなく汚いのだ、と。
医者に指摘されたとき、なつきは自分がそういうものを持っていたことに驚いた。
処女性。愛する人に処女を捧げる。
そういう感覚を持ってる女はたくさん居て、自分が遊んできた女の中にはそういう女もいた。
そんなんばからしいぜ、となつきは思っていたが、いざ自分がオンナの立場になると、自分もそれを持っていたのだ。
梶本に一番最初に抱かれたかった。愛する男に。なにも知らない体に、梶本を刻んで欲しかったのに。
俺は、野田に犯されてしまった。
初めて知る痛みと、そこから生まれる快感を野田と共有した。
痛いだけじゃなかったんだ、梶本。
俺は、あの時、最後の方で確かに快感を感じてしまっていたんだ。
助けを呼びながら、それでも体の奥深くから揺すぶられるかのようにして、愉しんでいたんだ。
愛する男とは違う男と愉しんでしまった不実さが、無意識に心を責めるのだと医者に言われた。
俺は、これでもけっこう純情だったらしいとその時驚いたものだったが。
「ひっう」
島田のペニスが、ズンズンと奥に侵入してくる。なつきは呻いた。
気が狂うほどの痛みと引き換えに、気が狂うほどの快感がやがてやってくる。
その時。なつきの思考が鮮明に弾けた。三谷の言葉。
俺を守るために、梶本は身を引いた。
『言えないんだ・・・』苦しそうにヤツは呟いた。
理由は言えない、とヤツは言った。
そうだよ。もしその理由を言ったならば、俺は確かに吉川に言い返していただろう。「やれるもんならば、やってみな」と。
引かない俺の性格を、梶本は誰よりもよく知っていた。梶本は身をひかざるをえなかったんだ。おまえは頭がイイ。人を読んで、先回りする。
俺を安全な場所に移すまで、おまえは安心できなかったんだ。だから吉川とも接近したんだろう。それがおまえの愛し方だった。俺への愛だった。
わかってやれなくて、ごめんよ。俺は、本当に全然わかっていなかった。おまえがわからなくて、ただ、ただ、不実な裏切りとしか思えなかった。
もう少し、もう少し、昔の自分のように、おまえへとねばっていれば、理由を訊き出すことを出来ただろうに。
そうしたら、こんなことにはならなかったのに。
俺がこんなことになって、またおまえは傷つくだろう。
苦しんで、苦しんで、おまえが切り出した別れを、無にしてしまったんだから・・・。
でも!
おまえは、それでも、言うべきだったんだ。別れの理由を。勇気を出して、俺に言うべきだったんだ。
だって。
俺は、レイプされるより、おまえを失うことの方が全然辛い。辛かったんだ。
体の傷より、痛みより。心の傷が、痛みが。俺にはよっぽど、だ。
眠れない夜を幾つ過ごしたか。おまえが離れていくのが辛くて、悲しくて。
悔しいけれど、この俺が、何度毛布を頭から被って泣いたか。ブザマすぎて、最後には泣きながら笑っていたぜ。
梶本。梶本。梶本。
この体は穢れていく。
処女性は、今度こそ完璧に粉々になっていく。
こんな汚ねえ体、おまえに捧げることなんて、なんかもう出来ねえ気がすんだよな。
こんな俺を見て、またおまえが傷つくのは、もうイヤだよ。
俺は、根性ねえから、な。可哀相な梶本。
俺は、とうとう松木の時に受けた梶本の傷心を癒してあげることは出来なかった。それどこか、逆に傷広げちまってよぉ。
アイツ、恋愛運ねえよな。
惚れちまって、ごめんな。本当に、ごめん。別れを告げられた時点で、諦めてやれなくてごめんよ。しつこく好きでいて、ごめん。
今日、俺が、おまえを取り返しにこなければ、おまえは傷つくこと、なかったのに。
自分がイヤだ。もう、自分がイヤだ。マジでイヤだ。自分が、ダイッキライだ。
「手を離せよ・・・」
なつきは、自分の体に多い被っている島田を見上げて、言った。
「なんだと?」
「俺の上から退けよ」
「!?」
ベッドサイドの椅子に腰掛けていた三谷を、島田は振り返った。
「コイツ、正気に戻ったみてえだぜ」
「みたいだな」
「縛っちゃう?」
「そうするか」
「ふざけんなっ」
バッと、なつきは甘く痺れた体を、渾身の力を込めて動かした。
「うわっ」
島田が悲鳴をあげた。ドカッ、となつきは島田を膝蹴りして、自分の体の上から蹴り飛ばした。
島田のペニスが体から抜けた瞬間、なつきは一瞬体の力が抜けたが、堪えた。堪えて、起き上がった。
「Hなこと散々されて。アンタ、体痺れてるでしょ。んなんで、喧嘩出来るの?」
三谷が椅子から立ち上がった。
「やってみなきゃわかんねえだろ。吉川の犬が」
グイッとなつきは、掌で涙を拭った。
「威勢がいいよな。な、島田」
「ああ。ったく、イイところでひっこぬいてくれちまってよ。冗談じゃねえっつーの。おとなしくアンアン言ってればいいんだよ」
バキッと、島田の拳がなつきに飛んできた。
「っ。ざけんな、てめえっ」
受けたものの、なつきは殴り返した。ベッドの上で、ドサドサッと島田となつきがもつれあった。
「いてっ。三谷。なにやってんだ。手伝えよ」
なつきの拳を交わしながら、島田が叫んだ。
三谷は、2人の争いを横目で見ながらも、なにかを探している。
「わり。今、電話が。携帯が」
三谷は、どこに置いたか忘れてしまった携帯の、バイブの振動音を耳にして、キョロキョロしている。
そして、やっと見つけた携帯に手を伸ばした。
「もしもし?美貴か。え?・・・ああ、わかった」
ブツッと電話を切りながら、三谷は島田を振り返った。
「島田。雇い主から、終了のおたっしだ。梶本が、こっちに向かってるらしい」
「なんだって。俺、まだ一度もイッてねえんだぞ。てめえらだけで楽しみやがって。ヤンの野郎はやるだけやったらとっとと金もらって帰ったのに」
「金はやるし、あとで、ちゃんと可愛い子紹介してやるから、今は諦めろ。梶本に殴られてーか?おまえ。逃げるが勝ちだぜ」
「ちっ。こんな綺麗な子、滅多にいねえのに」
ぶつくさいいながら、島田はなつきの体から退いた。
「桜井さん。彼氏が来るよ。続きは、彼氏にやってもらいなよ。アンタ、もう男平気でしょ。俺達に散々触れられたって、立ち回れるぐらいなんだから。
感謝しなよ。美貴にね」
「死ね。てめえら」
なつきは、低い声で言い返した。
「これに懲りたら、彼氏の言うことは、たまには素直にきけよ」
三谷の言葉に、なつきは目を見開いた。それ以上は言わずに、三谷はドアを閉めて出て行った。
「うっ・・・」
なつきはシーツに突っ伏した。
体がガタガタと震えた。殴られた頬も痛かったが、それ以上に、心臓が痛かった。
どうしよう。梶本が来る。また、こんな姿を見られてしまう。早く、この場を去りたいのに。
体が動かねえよ・・・。
なつきは、全身に鳥肌を立てて、シーツに突っ伏したまま、嗚咽をもらした。このまま、意識を失えたならばいいのに。
吐こうとしたが、もはや、なにも吐けなかった。
「くっ」
ズルッと体が動いたと思った瞬間に、玄関の方で音がした。ビクッとなつきの体が竦んだ。
足音がして、その音は迷わずに、この部屋のドアの前で立ち止まった。僅かな時間をおいて、ドアが開いた。
なつきは、ドアを振り返った。そこには、当然のごとく、梶本が立っていた。
ベッドの上でまるまっていたなつきと、ドアの傍で立ち尽くす梶本の視線が合った。
なつきは、息を詰めた。
「・・・」
梶本はなにも言わなかった。
ただ、いつも冷静で、ほとんど表情を崩したことのなかった梶本の顔が、瞬間、クシャッと歪みその目から涙が零れた時に。
なつきは、ベッドサイドに置いてあった電気スタンドを掴んで、それを放り投げた。
梶本の足元すれすれで、それが床に落ちて、割れた。
いっそ、怒鳴られた方がマシだと思った。
梶本が、静かに零した涙は、なつきの心を圧迫した。
「俺はっ。俺はなんも後悔なんかしてねえぞ!だから、おまえは泣くんじゃねえよっ。おまえはなんも悪くねえんだよ。俺の性格からして、こうなるべきだったんだから。
だから、泣くなよ。梶本・・・。頼むから、俺のせいで傷ついたりなんかすんなよ。俺のせいで泣いたりすんなよっ。俺なんか」
言いかけて、なつきはもう言えなかった。涙が溢れて、止まらなかった。
「うっ」
嗚咽から、そして、号泣へ。子供のように、なつきは声をあげて泣いた。
恋しい男。なんで、こんなに恋しいのか。
その姿を見ただけで、心が揺れた。
本当は、後悔してる。おまえの言うことをきかなかったこと。その結果が、これだ。
俺は穢れた。前よりより一層。
恥ずかしい。恥ずかしい・・・。おまえとまともに顔を合わせられない。
ビシビシと心臓に亀裂が入っていくような感覚を覚えて、なつきは胸に手をやった。
次から次へと湧き上がってくる感情が制御しきれない。思わず、感情の波に飲まれそうになって、なつきは喘いだ。
「桜井さん」
梶本の声が近づいてくる。なつきは、ほとんど呼吸困難状態で体を喘がせていた。
「桜井さんっ」
なつきはシーツに突っ伏した。
「桜井さん」
梶本の悲鳴。喘息の発作のような症状が、なつきを襲っていた。全身が痙攣していく。
「しっかりして。桜井さん」
あ。意識が、落ちる・・・となつきは思った。梶本の腕がなつきの体を抱き上げた時。
なつきは、フッと瞼を閉じた。

続く

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