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なんでこんなことに・・・。
凛は、すっかりしょげていた。
店の中央では、みきと克巳と薫が3人でマイクを奪い合いながら、なにやら熱唱していた。
『克巳くんと凛ちゃん・交際スタートおめでとうの会』などという会が、急遽催されることになった。
あのあと、廊下で呆然としていた凛を連れて、克巳はみきの経営する美容院に駆け込んで行った。
経緯をすっ飛ばして、克巳はみきに事実だけを説明すると、みきは喜びの声をあげて、
「店閉めたら、お祝いしよう♪」と言い出した。凛には、兄に経緯を説明する暇もなかった。
兄の指定した店に、再び克巳に無理矢理連れていかれた凛は、驚いた。
みきと一緒になぜか薫もいたからだった。


みきの行きつけの店。それは勿論、♂×♂が集う秘めやかな場所。
そんな中、こじんまりとした店の中央にあるマイクで、みきは早々に熱唱しはじめていた。
凛にとって、この店の雰囲気は耐え難くいかがわしかった。
男同士で肩を寄せ合ってはヒソヒソと仲良さそうに喋っていたりするし、さっきからあちこちの席から妙な視線が飛んでくるのを感じて振り返った。
目を合わせては、相手ににっこりと微笑まれて凛はゾーッとした。
いやだ。もう帰りたい〜!と思うのに、みきは当然としても、克巳も薫も、流れるこの、明かにいかがわしい雰囲気をまるっきり気にしていないようで、
凛を席に残して二人してみきとマイクを取り合ってカラオケ中だ。
なんて無神経な幼馴染だ。
凛はそう思って、本気で泣きたくなっていた。そう思いながら、凛は部屋の隅で、ちびちびとコーラを飲んでいた。
「いゃあん。盛りあがってるわねぇ。この雰囲気、肌に馴染むわっ!イェイ!」
地響きするような低い声がいきなり部屋に響いた
。パチパチとあちこちで拍手が起こる。熱唱する3人は、その声の主に同時に手を振ると、再び歌い出していた。
「凛ちゃん!おめでとう。とうとう克巳とつきあうこと、カミングアウトですってね。嬉しくて、頼子もお祝いに駆けつけたわ」
ブーッと、凛は飲んでいたコーラを吹き出した。
「いやぁねぇ。今更照れちゃって。はい、これ」
頼子が差し出した花束。白を基調にした中々センスの良い花束だった。
「ブーケの代わりよ。気に入ってもらえるといいんだけど」
「・・・ブーケって。結婚するンじゃねえんだけど、俺」
凛は、その花束を受け取るのが怖くなってきた。
「気持ち的に、よ。気持ち的。ね、ほらぁ」
ドサッと、強引に凛に花束を押しつけると、頼子は凛の隣に腰かけた。既にもうハンカチを取り出して涙を拭っていた。
「凛ちゃん。本当におめでとう。ほんとうにおめでとう!正直一時、頼子は凛ちゃんに嫉妬もしたわ。でも・・・。
今はもうそんなことどうでもいいの。克巳を幸せにしてあげてね」
凛は、頭をクラクラさせていた。酒を飲んでいる訳でもないというのに。
だいたい、未成年の癖して、君津と黒藤はさっきからヒョイヒョイ酒飲みやがって。
おまけに、黒藤は飲酒喫煙だぞ。アイツ、なんとかならんのかっ!凛は唐突に苛々してきた。
「あら、そんな顔して克巳を睨んで。わかった。妬いているのね。ダンナをみきさんと、薫ちゃんに独占されて。うふふ」
「そんな事実は、全然ねえです。頼子さん、だいたいね、俺はっ」
と言いかけたところに、マイクを捨てて克巳がやってきた。
「いよお。頼子。わざわざサンキュー」
「克巳。今回はおめでとう」
頼子が克巳を抱き締めた。
「いや、まあ。俺達もそろそろハッキリさせておかねぇとな」
克巳の言葉に、凛は猛烈に抗議した。
「なんだよ、それっ。ハッキリもクソもねえだろっ。だいたい、なんだよ。今日のこの集いは。俺は内緒にしておきたかったのに、
てめえときたらベラベラ喋りまくりやがって。このお喋りっ。アホ、ボケ、カス、インポ」
「インポ!?」
クススッと克巳は笑って凛の左隣に腰かけた。
「試してもいねえのに、そりゃねえだろ」
すると、マイクを通して、
「克巳はインポだぜぇ〜。凛、今からでも遅くねえから、俺とヤろうぜ〜」
薫が叫んだ。店内は、ドッと笑いの渦だ。
「黙れっ。ド変態どもっ」
凛は、克巳を睨み、薫を睨んでは怒鳴った。
「あらまあ。克巳。手の早い、アンタがまだ凛ちゃんとは済んでないの?」
頼子は吃驚したように、凛と克巳をジロジロと見た。
「そーなんだよ。コイツ、見かけによらずに超晩生でさァ。俺って、可哀相なことキライじゃん。あんまり無理出来なくてよ」
「てめえのどこが、可哀相なこと嫌いだっ。思いっきりSのくせして。嘘つき」
「まあまあ。お二人さん。早々に喧嘩はなしだぜ」
薫が席に乱入してきた。凛の右隣に腰かけていた頼子を押しのけて堂々と凛の横をキープする。
「おーや。そういいつつ、さりげに俺のカノジョの隣に図々しく座りやがって。なに考えている会長殿?」
「俺の将来のカノジョに傷でもつけられたら困ると思ってる。副会長殿」
薫と克巳はバチバチと睨みあった。
「まあ、ステキ。ママから聞いていたけど、本当に薫ちゃんってば、凛ちゃんのことが好きなのね。克巳と薫ちゃんと凛ちゃんは▲関係なのねっ。
ステキよ。ステキ!二人のこんなイイ男に言い寄られるなんて、頼子、凛ちゃんが羨ましいわっ〜」
頼子はキィィとハンカチを噛んでは、雄叫びをあげていた。
「いや、別に、俺は全然嬉しく。ぎゃあっ」
克巳が、凛の肩に手を回した。
「な、なにすんだよ、手を離せっ。兄貴がいるんだぞ」
「みきさんは、カラオケでもう世界に入ってしまっているさ。んでもって、これはマーキング。凛、おまえは俺とつきあうことになったんだから、
ちゃんと俺の匂い、覚えておけよ。なあ、そうだろ」
言うなり、克巳は、カプッとまるで凛の唇を噛むように、キスしてきた。
「!!!」
凛は、目を見開いた。
「ん〜っ!!」
まさか、こんな人目のある場所でそんなことされるとは思っていなかった凛は、あまりのショックに呆然として、唇を克巳に好き放題吸われてしまった。
「な、な、な」
唇が離れて、凛は克巳を見た。ジワッと、瞳に涙が浮かんだ。
「上書きしちゃおうっと」
その言葉と共に、薫の腕が凛の肩に素早く回ってきた。
「うっそ」
だろ〜!!と叫ぼうとして、悲鳴はやはり薫の唇に吸い込まれた。
「んんっ」
凛はジタバタともがいた。その凛の体を、克巳が背中から抱き締めて、薫からもぎ離す。
「薫ちゃん、往生際悪いっつーの。幾ら寛容な俺でも許せねえってことあるんだよな」
凛は克巳に抱き締められていることも忘れて、ハアハアと息をついていた。頭の中がパニック中だった。
「なにが?どうせ姑息な手で、嫌がる凛を無理矢理カノジョにさせたくせに。そんなヤツに、堂々とそーゆーこと言える権利あるのかよ」
「おまえ相手に、ちんたらやってる場合じゃねえからな。どんな手段でも先にやったもん勝ちだ。たまたま俺のが早かっただけで、
おまえだってどうせその頭でロクなこと考えてねえんだろ」
「少なくとも、おまえよりは高尚な手段を考えているよ」
「おっかねえな。そういうこと言うおまえは大抵ろくなこと考えてねえんだ。凛、マジで気をつけろよ」
克巳は凛を覗きこんだ。
「てめえら・・・。てめえら、俺を無視すんなっ」
凛は叫びながら、うっかり溜めてしまった涙をグイッと拭っては、頼子からもらった花束で、克巳と薫をぶっ叩いた。
「なんなんだよ、さっきから。勝手にキスして、挙句に手段だのどーの。俺は物じゃねえよ。黒藤と君津の、てめえら二人の物じゃねえっ。
俺を無視して、勝手に話進めるな」
「凛ちゃん。おまえ、俺のカノジョよ。約束したじゃないか。ある程度の拘束は覚悟しなきゃ、カレシカノジョはやっていけんのよ」
克巳は、苦笑していた。
「そーんなのは無効、無効。凛、どんな約束させられたのか知らねえけど、念書かわしてる訳でもねえんだから、こんな男との約束は破棄っても、
全然男として恥ではないのだよ。旺風学園生徒会長のこの俺が保証してやるよ、凛」
「うるっせえ。もう、俺はイヤだっ」
バッと、凛は立ちあがると、店から飛び出していった。
「業務命令。頼子、克巳を押さえ込め」
薫は、ビシッと頼子を指差して言った。
「え?」
頼子はキョトンとしていた。
「業務命令ってなんだよっ。うおっ」
克巳は、いきなりドンッと自分にのしかかってきた頼子に驚いた。
「俺、実は副店長なの。オヤジに無理矢理押しつけられていた役職だったが、今は感謝するぜ」
そう言って片目を瞑っては、薫は凛のあとを追って飛び出していった。
「ここは店外だぞ。命令は無効だ、頼子。俺の上から降りろ〜」
「あらん。そんな固いこと言わないの♪固いのはここだけで充分」
ギュッと、頼子は克巳の股間を握った。
「てめえな・・・」
「ところで、克巳。さっきから聞いていれば、あんた達、なんかおかしくない?」
頼子は、ズーイッと克巳を覗きこんでニッコリと笑った。
「み、みきさーん。弟の危機ですよ、みきさーん!」
克巳は叫んだ。
だがみきは、さっきから歌の途中で、他のボックス席からお声がかかり、すっかりそっちの席にしけこんでいたので、
こちらの騒動にまったく気づいていなかった。


「凛っ」
「うるせえ。追っかけてくるなっ」
店を出て、凛は走っていた。だが、凛は、横断歩道で一瞬躊躇してしまった。信号は赤。だが、車は来ない。渡れる。
けれど・・・。真面目な凛の性格は、こんなところで凶と出た。その僅かな躊躇。そのタイムラグで、凛は追いかけてきた薫に捕まってしまった。
「離せよ、君津。離せっ」
「好きなんだ。おまえが、好きなんだ。マジに好き。凛。おまえが好きなんだ」
「な・・・」
「俺とつきあえ。幸せにしてやるからっ。つきあえって言えよ。うなづけよっ」
そう言って、君津は凛にキスした。凛は目を丸くした。
ちょっと待てぇ〜!!こっ、ここは、往来だぞ。横断歩道のすぐ脇で。公共の道路なんだぞ。
し、信じられねえっ・・・!!
あまりのことに脱力しかけた凛だったが、薫はすぐに唇を離したので、ホッとした。
文句を言おうとして、凛はギョッとした。薫がこちらを睨んでいたからだった。
「うなづくまで、キス、やめてやらないからな」
「!」
そして、再びキスを挑んできた。凛は目を見開いた。君津の背中越しに普通に歩いていく人々。
「あれ?男同士?」
「学ランだよ」
「うぇ。気持ちわりぃな」
そんな言葉が、凛の耳に届いた。凛は、唇を奪われながら、ショックで再びポロポロと涙を零した。
目を閉じた。
なんで、こんな、こと。どうして、俺がっ。俺は普通に真面目に生きてきただけなのに・・・。
どれぐらいの時間が経ったかわからない。凛は観念して、頭を振った。
縦に、振っていた。

続く

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これ、本気でどうなるんだろうか・・・(汗)
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