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偶然目に入った光景だった。
「てめえら、なにやってんだよ。やめろよ」
その聞き覚えのある声に、凛はビクッとして、思わず木の影に隠れた。
「やかましいッ。ひっこんでろッ」
どすのきいた声が続き、ものすごい音がした。
下校途中だった。川辺リの土手を歩いていたら、その場面に遭遇した。
喧嘩である。
やめろと言って、制止に入っていったのが君津薫の声だったから、凛はドキッとして木の影に隠れたのだが・・・。
多勢に無勢。
知り合いの為だかなんだか知らないが、君津は、大勢の人相の悪いやつらに囲まれていた男に加勢するために、
喧嘩に突っ込んでいったようだ。
殴り合いの音がする。
「・・・」
物騒な音だ。
知らぬまま通り過ぎて行ってもよかったが、どう見ても形勢は不利だ。
2対4人なのだ。凛は、カバンを放り出して、喧嘩の輪に走っていった。
「てめえら、止めろッ」
すると、男達は、ギョッとしたように凛を振り返った。
「凛」
君津が凛の姿を認めて、叫んだ。
「知り合いかよ」
相手の一人が、僅かに驚いたように言った。
「うちの学園の元ジメだ。見て見ろよ、あのパツキン」
と、君津は、適当なことを言った。
金髪に、上背のある凛を見て、男達は、怯んだようだった。
「君津、加勢するぜ」
「助かるぜ、凛」
凛は、元々喧嘩は得意じゃないが、それなりにやってきた。
殴りかかってきた男を、凛はボカッと殴り返した。
すると、運よくその男が威勢よくひっくり返ってくれたのだから幸運だった。
「!」
他のやつらは、ギョッとして凛を見た。
「ち、ちくしょ。覚えてやがれっ」
と、お決まりの台詞を吐いて、逃げ出していった。
「・・・」
凛は、ポリポリと頭を掻いた。
「ラッキー?」
「みたいだね。あいてて・・・。腕やられた」
君津は、むくりと起きあがった。
「君津先輩、すみませんでした」
しこたま殴られていた男、君津の知り合いらしき男が、泣きそうな顔で、ふらふらと立ちあがった。
「大庭。この前も言ったろ。半端な気持ちでやりあうな。やりあうならば、それなりの勝機を得てから立ち向かえってさ」
「すみません」
「まあ、いいよ。凛のおかげでなんとか被害は小さく済んだ」
「柳沢先輩も、ありがとうございました」
ペコリと、大庭と呼ばれた男は頭を下げた。
「あ、ああ」
君津は、凛に向かって言った。
「俺の中学の頃からの後輩。ちょい性質の悪いやつらに目つけられててな。大庭。しばらくは、絡まれたら逃げろ。
逃げることは恥かしいことじゃねえから。強くなってから、ボコボコにし返せ」
「は、はいッ」
うなづくと、もう1度頭を下げてから、大庭はヨロヨロと去っていった。
「ったく・・・。弱い者苛めする輩っつーのは、俺はダイッキライだぜ」
君津はそう言っては、血の混じった唾を大地に吐いた。
「大丈夫か、おまえ」
凛は、君津を見ては、ボソリと言った。
「ああ。大丈夫」
と、乱れた髪を掻きあげながら君津は、言いかけて「じゃねーや」と言い直した。
「え?」
「いてえよ。凛。すまんが、肩貸してくれっか?」
「ああ」
土手を抜け、大通りまで来ると、君津はタクシーを拾った。
「気をつけてな」
凛がそう言うと、君津は凛の腕を引っ張った。
「君も一緒に来てくれる?」
「なんで俺が」
「包帯。自分じゃまけねえから」
ウルッとした目で見上げられて、凛はグッとつまった。
確かに君津は、あちこちに傷を作っているし、手なんかは相当痛そうだ。
「・・・」
仕方なく凛はタクシーに乗り込んだが、隣の君津とは、思いっきり不自然に離れて座る。
「なんでそんなに離れているんだよ」
「広いんだから、くっつくこともねえだろ」
「まあ、そーね」
クククと君津は笑った。
凛は、思わずカバンを抱き締めては、ゾッと体を震わせた。
ついうっかり、仏心を出してしまったが、マズイか?と、心の中で冷や汗をたらす。
「俺ン家、汚ねえけど我慢してくれよ」
君津はご機嫌な声で言う。
「別に。遊びに行くんじゃねえから、どーでもいいよ」
「茶ぐらいは出すよ」
「いいって」
そう言って、凛は黙りこんだ。君津もそれ以上は話かけてこなかった。
チラリと凛は君津を見ると、君津は目を閉じていた。
傷が痛むのだろうか・・・と、ふと凛は思った。


「これ、人間の住む所かよ」
案内されたところは、恐ろしいぐらいのボロアパートだった。
地震どころか、大型台風でも来たら、ペシャンコになりそうな・・。
凛は唖然として、アパートを見上げていた。
「住めば都っちゅーだろ」
言いながら、君津は鍵を開けて、凛を招きいれた。
君津は、一人暮しだったのだ。凛は、知らなかった。
「どわっ」
そして、また、唖然とする。
「おまえ。その顔で、この部屋はねえだろ」
凛は、思わずそう呟いてしまった。
本、本、本。服、服、服。食い散らかしたコンビニ弁当の残骸、空き缶。
「だから、おまえの家より20倍は汚いっつったじゃん」
君津は平然と言った。
「50倍だよッ」
君津は、足元に転がる物をガンガンと避けて歩いた。
「まあ、その辺座れよ」
「どこに座るところがあるんだよ」
凛は、言い返した。
「んじゃ、ベッドの上にでも座ってな」
さすがにベッドの上は、綺麗である。
「ったく。こんな状況でよく勉強なんか出来るな」
「しねえもん。勉強なんて」
君津の言葉に、凛はムカッとした。
そうだ。コイツは、そういうヤツだったんだ・・・。
君津は、冷蔵庫から、ウーロン茶を取り出した。
「ほれ。飲めよ」
「んなん、いいから、救急箱出せよ。腕、痛いンだろ」
「ああ。そんなの、どこにあったっけ・・・」
この状況じゃ、それもそうだろう・・・。
凛は呆れかえるを通り越し、哀れになった。
思わず腕をまくってしまう。
「凛?」
「おまえがベッドに座ってろ。俺は、この部屋をどーにかしたい」
綺麗好きな凛である。君津の部屋は、どうにも我慢出来なかった。
「え?片付けてくれんの?こりゃラッキー♪」
君津は、えへへと笑う。
「邪魔だから、ベッドに座ってろよ」
「はーい」
凛は、キッと部屋の中を睨んだ。
そして、おもむろに近くにあった東京都のゴミ袋を見つけては、バッと広げた。
「耐えられねえ、こんな部屋」
絶叫しながら、凛はバババと、ゴミ袋にゴミを収納しつつ、狭い部屋をあちこち匍匐前進したのであった。
君津は、楽しそうに、そんな凛をベッドの上で胡座をかいては眺めていた。


「すげー綺麗・・・」
1時間後。
恐ろしいぐらいに美しく変身した君津の部屋がそこに在った。
「ふう・・・」
既に疲れ切って、凛は畳に寝そべっていた。
「なんか俺の部屋じゃねえみたい。綺麗だぁ」
君津は、ベッドの上から部屋を見渡しては、感動の声をあげた。
「これ。どこになにを収容したか、書いたメモ・・・」
ヒランと、凛は、メモを君津に向かって投げた。
「そんなんいつの間に・・・」
メモには、几帳面な凛の字で、○○は押し入れ下部のダンボールの中とか、キッチリと書いてあった。
「さすが、副会長。手際の良さには感服致す」
「ちゃかしてんじゃねえよ・・・。ああ、疲れた」
「俺、近くのコンビニで弁当買ってくる」
バッと君津は、ベッドから飛び降りた。
「いらん。ゴミを増やすな」
ガバッと凛は起きあがった。
「それよりか。傷の手当てが先だろう」
ズルルと、凛は、ゴミの山から見つけ出しておいた救急箱を引き寄せた。
「腕」
「すまねえな」
君津は、凛の前に赤く腫れた腕を差し出した。
「乗りかかった船だから」
無愛想に凛は答えた。
湿布を君津の腕に貼って、それを器用に包帯で巻いていく。
「手際いいな、凛」
「昔。よく苛められていた頃、傷作ったから。慣れてるンだよ」
「そっかー。おまえ、苛められっこだったんだな」
「うるせえよ。改めて、言うんじゃねえ。それにな、おまえ。正義感強いのは結構だけど、おまえこそ勝てる喧嘩だけしてろ。
あの台詞は説得力なかったぜ。納得したおまえの後輩、アホだな」
君津は苦笑した。
「フーン。心配してくれてんだ」
悪戯っぽく言って、君津は凛の顔を覗きこんだ。
「心配じゃなくて、忠告だよ」
プイッと凛は顔を反らした。
「心配じゃんか。ま、いいや。言ったろ。俺は弱い者苛めは好かんって。それに、勝てない喧嘩じゃねえもん、アレ」
「自信過剰」
「お褒めにあずかり光栄です」
「誉めてねえんだけど・・・」
綺麗に巻かれた腕の包帯を見て、君津はしみじみと言った。
「おまえっていい嫁さんになれるなァ」
「嫁に行く予定はねえ」
「んじゃ、今すぐ予定しろ。俺ンとこ」
「!」
グイッと君津は、凛の髪を引っ張った。
そうすることによって、2人の顔は、一気に距離を縮めて近づいた。
「な、なにすんだよ」
「おまえって綺麗可愛い。間近で見ると、改めて。すごく好み」
ゾワワと凛は、鳥肌を立てた。
「はっ、ハッキリ言って、おまえのが顔可愛いぞ・・・」
鳥肌を立てながらも、凛はマヌケなことをぬかした。
しかし、間近に迫る君津の顔は、明らかに可愛いのである。
「凛の好みならば、その台詞も嬉しいけど、一般的な誉め言葉ならいらねえな」
「男は嫌いだ、手離せ。痛いッ」
「この可愛い唇。克巳のバカに、先に持って行かれたと思うとはらわた煮える」
君津はそう言って、凛の唇に指で触れた。
「そりゃ、俺の台詞だろッ。な、なんだよ。ちょっと待てよ」
ずいずいと迫る君津の顔に、凛は咄嗟に近くにあった鋏を握り締めた。
「それ以上近づくと、この鋏、ぶっ刺すぞ」
「やれるもんなら、やってみな」
ドサッと、凛は、君津に押し倒された。
「喧嘩万歳。おまえに介抱してもらって、おまけに部屋まで連れこめた」
「うわ、うわ。てめえ、離せーーーーーッ!」
「凛。隙ありすぎ。警戒甘過ぎ。怖いならば、部屋に入るな。同情すんなよ。俺も克巳もマジなんだからさ」
「だあ、い、やだッ」
ガバッと君津の唇が凛の唇に重なった。
あまりの速攻に、凛は覚悟すら出来なかった・・・。
「!」
容赦ない攻めキスに、凛は目を見開いた。
握っていた鋏が手から落ちた。脱力したのだ。
そのまま、腕を取られて、両手首を畳に押しつけられる。
首筋に、君津の唇が降りてきた。
「!!」
首筋に熱い息を感じて、それから、所有の印を刻まれる。
それくらい、強く、首筋を吸われたのだ。
「君津、君津、バカヤローッ」
「なんとでも言え。克巳に負けるのだけは我慢ならねえ」
「てめえらの競争なんて、知るか。あ」
バッと、君津は、凛の学ランに手をかけた。
「なにしやがる」
「なにって、ナニさ。高校生が1番興味あって、やりたい盛りのナニ」
「バカヤロー」
凛は脚をバタバタさせてもがいたが、君津はビクともしない。
どうも、こういう体制に慣れているとしか思えない。
「てめえそんな顔して、経験者かーッ」
「つか、おまえこそ、そんな顔して、もしかして初めて?」
君津に聞かれて、凛は思わず顔をカッと赤くした。
「うわ。マジ、可愛い」
凛の反応に、君津も顔を赤らめた。
「ダメ。俺、もう止まらねえっ」
「いやだ、わー、止まってくれぇぇぇ」
学ランをアッと言うまに脱がされて、上着はTシャツのみになってしまう凛。
「教えてあげるよ、俺が」
そう言って君津は人差し指で、Tシャツの上から、凛の乳首をツンッと突ついた。
「ぎゃあ〜!」
凛は喚いた。
「さ、触るな、そんなところ」
「そんなところだから、触るんでしょ」
ニッコリと君津は笑う。
そして、凛が放り出した鋏を手にした。
「いいもんみっけ」
「待て。待て。それでなにをするつもりだ」
「君の邪魔な上着を、裂いちゃおーと思って」
てへへとブッそうに君津は笑った。
本気で、ゾーッとした凛である。
「や、やだ、やだ。た、助けてくれーッ!黒藤〜」
「なに?」
君津が目を丸くした。
「そこでどーして克巳の名を呼ぶ?」
「うるっせえ。てめえら競ってんだろ。だったら、アイツが来るのが筋ってもんだろーが」
「まあ、確かに。でも。気持ちはよくないね。最中に別の男の名を呼ばれたみたいだ」
君津は明らかにムッとしていた。
「バカヤロー、なんだよ。てめえ〜」
「克巳は来ないよ。誰もこんなところ、来ねえ。諦めな、凛」
「いやだ、諦めねえ。誰か、助けてくれえ〜」
凛の悲鳴が、狭い部屋に響いた時だった。

バンッ★
ドアが開く音が、した。
「薫ちゃ〜ん♪いるぅ?」
ドスの利いた声が部屋に響いた。
「げっ」
君津は、玄関を振り返った。
つられて、凛も振り返る。
そこには、着物を着た大柄の、明らかなるオカマが立っていたのだった。


「キャハハ。まあ、まあ、ごめんなさいね、凛ちゃん。うちの子、すんごく手が早くて〜」
「は、はあ・・・」
君津はムスッとした顔でベッドに転がっていた。
顔は、往復ビンタの跡で、真っ赤に腫れあがっていた。
「殺しと強姦と放火だけはするなって、きつく躾たつもりなんだけど」
君津パパ(?)は、キッとベッドの上の息子を睨んだ。
「うるせーな。オヤジ、さっさと出勤しろ」
「ガタガタぬかすなッ。俺は、用があってここ来たんだよ。てめえ殴りに来たんじゃねんだよ」
君津パパは、怒鳴った。
その背に隠れていた凛が、ビクゥッと凛はすくみあがる。
声の振動が、背中にまで響いたのだ。
「あらあら。凛ちゃんに言ったんじゃないのよぉ。うふふふ。怯えちゃって」
「誰だって怯えるよ。てめえのツラみたら」
君津がムスッとして言い返す。
「タコ殴り。もっかいしたろか?ええ?」
「ゴメンだね」
君津パパは、咳払いをしつつ、凛を振り返った。
「オホホ。それにしても凛ちゃん、可愛いわねぇ。うちで働かない」
君津パパは、どこぞでオカマバーなるものを経営してるらしい。
「え、遠慮しときます・・・」
ビクビクと凛は後ずさった。
「んふ。薫が目をつけるのもわかるわ〜。その金髪よく似合うわヨ」
「あ、ありがとうございます」
とりあえずは礼を言う凛であった。
「おい。なにしに来たんだよ。お邪魔虫ヤロー」
君津が投げやりに言った。
「克巳の携帯の番号聞こうと思ったのヨ。うちの店の頼子ちゃんが、克巳と連絡取りたいってうるさいの。
克巳、ほら、前回頼子ちゃんとホテル行ったじゃない。それから、ずっと頼ちゃんお熱なんだけど、克巳が
つれなくってね〜。ヤり逃げは許さないわヨって感じぃ?」
君津はガバッと起きあがった。
「克巳のせいで、俺ン家来たのか?てめえさえ来なければ、俺は今頃凛と・・・。あのヤロー、どこまで俺の邪魔すりゃ気が済むんだ。
番号は、俺の携帯の中だよ。とっととコピーして出てけ、バケモン」
「まあ。親に向かって、バケモンって。それより、今、聞き捨てならんこと言ったわね。あんたらまた、同じものを取り合っているの?」
そう言って、チラッと君津パパは、凛を見た。
凛は、ブルブルと首を振った。その反応に、君津パパはニッコリと笑う。
「あら、まあ、そう。こーんな可愛い子じゃ、確かにうちの頼ちゃんじゃ、勝ち目ないわねぇ」
「克巳のバカに言え。てめえは頼子とくっついてろって」
「それでおまえは、凛ちゃんとラブラブ?」
「ったりまえだろーが」
再び君津パパは凛を見た。再び、ブルブルと凛は首を振った。
「凛ちゃん、男殺しねぇ。親バカだけど、うちの薫は可愛い子だし、克巳は綺麗な子よ。その2人を手玉に取るなんて・・・・」
「取ってないです。取られてます・・・」
悔しいが、凛はそう説明した。
すると、君津パパは口に手を当て、ホホホと笑い出す。
「やあだ。ボヤーッとしていたら、バックバージンさっさと奪われるわよ。この子も克巳も、やったらと手が早いから。親の私が保証するわ」
そんなもん保証されても・・・と凛はゾーッとした。
「いやです」
「そりゃそーよね」
「こんなやつらに・・・。いやです」
「凛ちゃん。他に好きな子がいるのね!?」
「・・・いませんけど、こいつらには、イヤです」
「じゃあ、早く好きな子作らなきゃ!そして、さっさとその子とくっつけばいいのよ。その子に守ってもらえばいいのよ」
「は、はあ」
「余計なことふいてんじゃねえ。克巳の番号コピッたら、とっとと出てけ」
「っせえな。さっきから。親に向かってその口はなんだ!ああ?」
言いながら、君津パパは携帯の番号をコピーすると、立ちあがった。
凛の腕を取りつつ・・・。
「じゃあね」
「凛をどこへ連れていくんだ」
「送るのよ。いつまでも股間を疼かせているアンタの部屋に置いておくにはいかんでしょーが」
思わず凛は、ハッとして君津のソコを見てしまった。
「マジかよ、おい」
凛は思わず上擦った声で呟いた。
「マジです、ハッキリ言って」
君津は股間を指差し、力なくハハハと笑った。
カーッと凛の顔が再び赤くなる。
「あらあら。いやん。なんかいちいちウブい子ねぇ。可愛い」
ギュバッと、君津パパに凛は抱き締められた。
「ということで、薫ちゃん。バーイバイ」
「くっそー!てめえも克巳も、ダイッキライだッ」
「一人でせこせこヌいてな。青少年」
「バカヤロー」
ガアンッと君津は、近くにあった鋏を投げ付けた。
「おっと、危ねえ。さ、行こっか、凛ちゃん」
「は、はあ」
凛は、君津パパに手を引かれ、君津の部屋を後にした。
大通りに出る為に歩きながら、君津パパは言った。
「ホントにごめんね、凛ちゃん。うちの子、顔の割には過激で・・・」
もしかしたら、親譲り?と思いつつ、凛はうなづいた。
「君津。マジなんでしょーか?」
「そうねぇ。あの子はマジだと思うわヨ。克巳は知らないけど」
んっと考えこむように、君津パパは人差し指を頬に当てた。
「そうですか。マジですか」
「マジだと思わなかったの?押し倒されといて・・・」
「なんか。今更ながら怖くなって・・・」
「え?」
ボタッと凛は涙を流した。
「凛ちゃん〜。ご、ごめんなさいねぇ。怖い思いさせちゃって」
「い、いえ・・・。別に悲しいんじゃなくて。なんか、よくわかんねぇけど・・・」
ポロポロと涙が溢れるのに、自分でも驚いて凛は涙を拭った。
ちくしょう!冗談じゃねえ。こんな怖い思いは、もう沢山だッ!

「お、俺。カノジョ作ります。絶対に作ります」
泣きながら凛は言った。
「そうね。その方がいいわ。うん、絶対にそうよ。頑張って、凛チャン。私も薫の行動に目を光らせておくわ。注意しておく。安心して」
力強く、君津パパは、凛の背中をバシーッと叩いた。
泣きながら凛は、コクコクとうなづいた。

続く
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