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体育祭当日は、晴天だった。

「俺の祈りが通じたな。さあ、来い!チアガール達の華麗なる舞いよ」
フッフッと、りおは笑いつつ、白いはちまきを額に巻いた。
「なんでチアガール達の舞いが会長のところへ?」
川田は呆れたように、体育祭プログラムを握り締めつつ聞いた。
「心意気ってもんさ」
「まったくわかりませんね・・・。そればっかりに気を取られてないで、
采配も頼みますよ。これが我々の代での生徒会でのイベントは最後ですし、他校のやつらも見に来ていますし、恥はかきたくないですからね」
「任せろ。ぬかりはねえ」
「・・・いまいち不安ですが」
「ところで、五条は?」

体育祭準備委員会と生徒会合同の特別テント席の下で、りおはキョロキョロと辺りを見回した。

「会長が、どーしてもこの体育祭のエンディングテーマとして使いたいと、超ドマイナーな曲をリクエストしたせいで、五条はそのCDを探しに街へと走っていきました」
「そーか。そーか。あれを探しに行ったか。ハハハ。まあ、しばらく戻ってこねえだろうさ」
「なんの曲なんです、一体」
「俺の心のテーマ曲っつーの?この世には存在しねえ、けれど、俺の心の中には確かに流れているテーマって訳だ」
川田は、ジト〜っと、りおを見た。
「・・・五条は、A組連合の貴重な戦力ですよ。その五条を、いつまでだか知らないけど、不在にしててA組連合としてはいかがなもんか?と」
この学園の体育祭は、1年から3年までの同じクラス名が、1つのチームだった。つまり、1年のAと2年のAと3年のAは、同じチームなのだ。


「んなこた、関係ないね。俺が出ればいい話だろ」
りおは、キュッとハチマキを巻き直した。
「俺はもう、こういうテントの中で行儀良く座ってることに飽き飽きしてんだ。最後ぐらい活躍させろ」
「いつだって、おとなしく座っていた試しがあったのかよ」
ハアと川田は溜め息をついた。
「五条のヤツ。今度こそキレそうだな・・・」

この晴天。
ただでさえ、朝6時集合で、せっせと役員の勤めを果たし、なんとか開催時間までにこぎつけ、体育祭は順調に始まった。

あとはプログラム通りに進めていけば、とりあえずはテントで休める・・・といった筈だったのに、
会長挨拶を終えた小泉りおは、壇上から降りてくるなり、五条に命令したのだ。

「ドマイナーな曲だから、そうそうはないかもしれん。けれど、すぐにわかると思うぜ。壮大な曲なんだ。俺は、是非この曲でしめたい。あ。曲名はこれだから」

と言って、もっともらしくタイトルが書かれていたであろうメモを、五条に押し付けた。
五条は、疑うことすらせずに、CDを買いに走って行った。

「胃が痛い」
ブホブホと川田は咳き込みながら、胃の辺りを擦った。
「小泉。ところで」
と川田が、ハッとある疑問を口にしようと、りおを振り返った。
だが、りおは居ない。
「!?」

すると、マイクから
【おーッ。小泉生徒会長、ノリノリで借り物競争に乱入だ〜!】
と、いう司会・進行係の放送部員の声がマイクを通して聞こえてきた。

むっ、と川田はグラウンドに目を凝らした。
白く長いハチマキを翻しながら小泉が、皆の声援に手を振りつつ、走って行くのが見えた。

【会長。2―Aの代理としてのご参加ですが、借りたいものなんてご希望ありますか?】
【ハハハ。綺麗なおねいさん、とか(笑)】
【おー。会長、まるで、くれよ○しんちゃんみたいだーっ。あ。情報によると、そのような借り物もあるとか】
【マジ?気の利いたリクエストをありがとう。準備委員会の方々】
【ということで、会場の美人なおねいさん〜。生徒会長が貴方を借りに行くかもしれません〜。そん時はよろしく。では、準備はいいですか?】
ノリノリの進行係だった。

「ぬわぁにが、マジ?だ!てめえで、準備委員会脅して書かせたくせに。どこにその札が落ちてるかも、しっかりチェックしてやがるに違いない、あのバカ会長め〜」
バンバンと、川田はテーブルを叩いた。
「川田副会長。他校と、在校生の喧嘩が裏庭で始まってます」
「副会長。迷子テントが、いっぱいになってしまいました〜」
「川田さん!次の種目で使う網が破けてしまいました」
次から次へと来る問題に頭を抱えて、川田はワッとテーブルに伏せた。
「小泉〜。借り物競争終えて早く戻ってきてくれ〜。さもなきゃ、五条だ、五条。アイツの気転が欲しい〜!!」

その頃のりおは、いかさまよろしく、「美人のおねいさん」札をゲットして、
保護者の観覧席から、妖艶なる美女を探し当て、ご機嫌よろしくゴールのテープを切っていた。


そして、その頃の五条は。

「お客さん。そういったアーティストでそーいったタイトルって、検索しても全然ないけど」

駅前のデパートの大きなレコード屋にもなく、心当たりのある店を駆けずり回って、ここが最後だ。
大きなCDビデオレンタル屋。だが、そこの店員は、無情にもそう言ったのだった。

「マイナーな曲とは言ってたけどさ。すぐにわかるって言われた」
「イロマサのヒーローなんて曲聴いたことないよ。だいたいイロマサっていうアーティストなんて全然知らないな。リクした先輩、もっと詳しく言ってなかった?」
「さー。ナイのはある意味覚悟してたけど、知らないってなると、もしかしたら先輩の勘違いかもしれねえな」
五条は、りおから預かったメモを取り出した。

iromasa HERO と書いてある。
「確かにイロマサだぜ・・・。iromasa・・・。ん?」
五条は、よーくそのメモを見つめた。
「イロマサねぇ・・・」
店員は、カチャカチャとパソコンをいじりながら、検索しているようだった。
「げ。マジかよ」
五条は、クシャッとメモを拳の中で潰して、舌打ちした。
「ないなァ。ないぞ。俺は、東洋ジャンル問わず、結構色々なアーティストは知っていると思ってたんだけどな」
店員は、ブチブチと呟いていた。
「ありがと。もういいや」
カウンターを軽く叩くと、五条は店員に向かって笑って見せた。
「よくないよ。俺が気になるよ」
「いいんだ。今思い出した。このイロマサってヤツ、数年前に、麻薬と強姦と殺人で捕まって今はブタ箱入りの超極悪人だった。そのせいで音楽界から追放された伝説のヤツだ」
「え?そんなヤツいたっけぇ?」
店員は目を丸くした。
「彗星の如くデビューして、彗星のごとく落ちていったヤツだ。ともかく、忙しい中つきあってくれてありがと。もう忘れて」
「あ、ああ。ったく。そんなヤツがHEROとかいう歌作ったりしてたんだ」
「まったくだよな〜。今度別の借りに来るから。どうも」
「役に立たなくてすまなかったね」
パンッと、店員はキーボードを叩いて、画面を落した。
「こちらこそ。リクエストした俺の先輩に、よーく文句言っておくから」
五条は、タッと駆け出した。
時計を見たら、もうお昼近くだ。
とうとう午前の部は、完全にサボッた形になる。
ま、いいさ。元々、体育祭なんてかったるい行事は、一般だったらフケていたからな。
たまたま役員になってしまっただけで参加していたようなもの。
クラスのやつらには、文句を言われるだろうが、小泉の名を出せば、やつらもおとなしく納得するだろう。

問題は。そう。その小泉だ。小泉りお。
美貌の熱血生徒会長。
五条は走りながら、ムッとしていた。
この俺を、ここまでコケにしやがって。
さすがの五条も、今までのような態度を取れる自信がなかった。
あえなく、小泉の策略にひっかかり、あちこちを走りまわされた。
学園内ならばいざ知らず、とうとう街中まで、だ。
「くそっ。ぜってー仕返ししねえと気がすまねえ」
五条は学校に急いだ。
急がないと、始まってしまう。午後の部が。
りおが、心から楽しみにしていた応援合戦。
チアガール達の華麗なる舞いが・・・!


ピンポンパーン!

昼飯のメロンパン・豪華幕の内弁当・ファンからの差し入れをペロリと平らげ、りおは特別テント席の中で、午後の部を静かに待っていた。

テントの前には、結構きわどい露出の手作り衣装を着たチアガール達が、準備の為だかなんだかしらないが、パタパタと走って行く。
この学園の応援合戦・チアガールみたさに他校のむさくるしい男どもも結構観覧に来ていた。
【生徒会長小泉りお先輩。電話でーす。桜井なつきちゃんから、お電話が入ってます。事務室横の電話まできてください】
「会長」
川田は、りおの肩を突ついた。
「ん?」
「エロオヤジのよーな目で、チアガール達を見てないでさ」
「っせえな。誰がエロオヤジだ。ピチピチの18歳を捕まえて」
多いに反論するりおだった。
「今の目。完璧エロオヤジでしたって。デレッとしちまって、情けないっすよ」
「だあってろ。欲望に忠実なだけじゃねえか。俺はいっぱい取り柄があるが、素直なのもその1つだ」
「へーへー。電話ですよ」
「あ?」
「聞いてなかったんですか。今の呼び出し」
「なに?」

チアガール達に邪な視線を送ることに夢中で、りおには、呼び出しの放送が聞こえてなかったようだ。
「電話だそうです。事務室横の電話に呼び出し」
「電話だァ?このくそ忙しい時に、誰だよ」
「どこが忙しいんですか。エロ目送ってるだけで。桜井なつきちゃんだそうです」
「あ。そう。誰だか知らねえが、女の子からの呼び出しじゃ、無視する訳にゃいかねえな」
いそいそと、りおは立ちあがった。
「ごゆっくり」
「わきゃねえだろ。すぐに戻ってくらあ」
りおはテントから駆け出して、事務室横の電話に向かった。


事務室横の公衆電話では、受話器が外れていた。
「小泉でーす。電話取りますよ」
事務室に一応そう声をかけて、りおは受話器を手にした。
「もしもし」
だが、受話器からはツーツーと言う音。
「んだ?切れてるじゃん」
りおは、?という顔をして、受話器を戻した。
「なんなんだよ」
「イロマサ様。ご所望のCDは、手に入りませんでした」
「!」
すぐ背後に、五条の声が聞こえて、りおは硬直した。
五条の声が、あまりに険悪で、振り返ることが出来なかった。
「気配を消して、俺の後ろに立つんじゃねえよ・・・。五条」
「アンタが鈍いだけでしょ」
「俺は桜井なつきちゃんからの電話を受けにきたんだが」
「桜井なつきは俺の可愛い男のダチの名前。ちょい使用させてもらいました。先輩、可愛い女の子の名前じゃないと、絶対にココまで来てくれそうになかったから」
「てめえな・・・。事務員のおばさんを騙すなよ」
「あんなオバサン、ちょいニッコリ笑って頼めば、ちょちょいのちょいだよ。それより」
そう言いながら五条は、りおの目の前に、スッとメモを広げてみせた。
「駅前のデパート。個人のお店。レンタル屋。計5店を、午前中に駆けまわって探しましたが、お笑いタレント・イロマサの出したヒーローっつー曲はありませんでした」
「へへ。イロマサは、お笑いタレントなんかじゃねえぞ。ジャニー○も真っ青の美形タレントだ」
「だったら、生徒会長なんてかったりーことしてねえで、今すぐデビューしたらどうなんだよ」

ビリビリと、五条は、メモを破いてみせた。
りおは、バッと五条を振り返った。

五条は、明らかなるムッとした顔で、りおを見ていた。
「5店も駆けまわって、やっと気づいたか。アホ」
「一応真剣に、会長の望みは叶えたいと純情にも思ってましたので」
「あっほくさ。ぜーんぶ前日にプログラムして、完璧に用意したことを当日に変えるような面倒くさいことすっかよ。
考えてもわかるだろ。俺は、そーゆー手際の悪いことは大嫌いだ」
「そーそー。そうでしたよね。おかしいとは思ったんですよ。いきなり、CD探して来いなんてさ。会長は、俺にだけは無駄な動きをさせても、
他のことに関しては無駄な動きをしたりはしませんからね」
「そーそー。わかったか。タッコ」

ニヤッとりおは笑った。
だが負けずに五条も、ニコッと微笑み返す。

「やっぱり好きかも。あ、先輩。俺と、つきあってくれませんか?」
五条はいきなり言った。
「!」
りおは目を丸くした。
今、なんつった?コイツ・・・。
「・・・はい?」
りおは、思わず首を傾げた。
「やった。ありがとうございます」
そう言って、五条はさっさと踵を返して歩き出した。
りおは、ハッとした。
「ちっがーう。今のは、了解の【はい】じゃねえ。後ろにハテナがついたんだ。おい、五条」
りおは慌てて、五条を追いかけた。
「つきあうんだから、小泉先輩とか会長じゃなんかよそよそしいよな」
「勝手に進めるな。今のはな。了解の、ハイじゃねえんだよッ」
「りおでいいかな?」
「と、年上を呼び捨てにするな〜!」
五条はすごい早歩きだ。りおは、チッと舌打ちして走った。
「五条、てめえな。年上をからかうな」
「からかってねえよ。じゃあさ。人前ではりおちゃん。二人っきりの時はりおでいいよね」
「いい訳、ねえだろうが。こら、五条。てめえ、止まれ」
「やだね」
とうとう五条は走り出した。
「どこ行くんだ。ちょっと待て。俺はおまえとなんかつきあわないぞっ」
「男らしくないですね。さっきちゃんとハイって聞いたよ」
「だから。それは、了解のハイではなくって、疑問のハイだったんだ。首傾げたろ、俺」
「うん。縦に傾げたよな」
「横だ、横。横に首傾げたんだ」
「どっちでもいーよ」
「よくねえだろ、アホ!」

ダダダと二人は、走った。
グラウンドからそれて、何故か体育館方向に。
五条は、体育館横にある用具倉庫に飛び込んだ。
りおは、つられてその倉庫にドドドと飛び込む。
ピシャン!ガチャッ★
りおが用具倉庫に飛び込んでくるのを確認して、五条は施錠した。
「この倉庫。施錠出来るの、りお知ってた?」
「いきなり呼び捨てかいっ。ざけんなっ」
「俺、この前気づいたんだよね。体育祭準備で、アンタにあちこち走りまわされてる時にだけど。ま、施錠しなきゃ出来ないことを、
ここで密かに楽しんでいたヤツらが過去にいたってことだろうけど」
五条は、施錠したドアに背を預け、腕を組みながらニヤリと笑った。
さすがに、その笑みにりおは、ゾーッとした。
「ご、五条クン。君、なに考えてる?」
ピ、ピンチ。絶対絶命。
闘牛士に振り回される牛よろしく、こんな危険な用具室に飛び込んできてしまった自分を、りおは後悔した。
勿論。この用具室に鍵がかかることは知っていた。
「りおはさ、知らないかもしれないけど。俺、こう見えても、結構ホモっ気あるんだよな」
五条の言葉に、りおは心の中で密かに
【知ってるし、見える。てめえは、ホモに見えるぞ〜】
と思ったが、今言うにはあまりに恐ろしすぎた。
「あ。そーなの?でも、安心しろ。それは俺とおまえだけの秘密。に、しておいてやろう。だから、道を間違えずに健全に歩け。
ま、俺ぐらい美しいと、おまえがよろめく気持ちもわかるが、俺に近づくと、火傷するぜ・・・」
フッ・・・と笑って。
って。
余裕で微笑んでる場合っかーの。俺のアホ。
1度は言ってみたかった台詞を、五条に言ってどーする。
こんなこと言ったら。こんなこと言ったら・・・。
「え。いーよ、俺。火傷したい」
やっぱり。五条はそう言うと思った。
「却下。却下。冗談はもう止めた。とにかく、な。ホモっ気あるのはいいが、俺には出すな。他当たれ」
「なんで?俺がその気を出した方が、りおにとっても都合いいでしょ」
「え?」
ギクリ★
りおは、五条を見た。
忘れていたが、妹に頼まれていたことを考えれば、確かにこの状況は俺にとって、都合はいいかもしれねえが・・・。
コイツ、まさか知っている!?
「な、なんでだよ」
「憧れの男女交際に突入出来るじゃん」
「は?女じゃね〜だろーが、てめえはッ」
「彼女いない歴18年。川田先輩に聞いたよ。だから、りおが男女交際にすっごく夢見てるってことも」
「〜ッ!か、川田めっ。へん。うっせーや。いいだろ、別に。理想が高いんだよ。俺はっ」
「理想が高い?そうじゃねえよな。アンタね。可哀相だけど、モテないんだよ。何故かって、高いところに咲きすぎてんの。告られることはまずないでしょ。で、アンタは作戦変えて、告る訳だ。けどね。誰も本気にしない。アタシなんて、ふつりあいだわ・・・って、女が思うの。だからでしょ。彼女が出来ないのは・・・」
「ぐっ・・・」
りおは、五条の言葉に詰まった。当たってる・・・!
前に、告白した子にそう言われたことが、あった。

「憧れの男女交際。ま、ちょっと違うかもしんねーけど。俺とやんない?楽しくさせてやるぜ。俺ね。高いところに咲いてる花であればあるほど、
毟り取りたくなる性分なんだよ。俺とアンタ、お似合いだと思わない?」

ジリジリと五条がにじり寄ってくる。
「どこがお似合いだっ!俺はてめえと交際する気なんぞ、全然ねえよ。第一俺とおまえじゃ、男男交際だっつーの。
俺が憧れているのは、男女交際。大きな違いだ、アホっ」

うがー!茜。今は許せ。
今、この場で、五条のペースで交際スタートは、俺のプライドが許さね〜!!
りおは、ブンブンと首を振った。
「アンタじゃなきゃ、俺はダメなの」
「ぎゃ〜!!」
りおは、絶叫した。
間近に迫る五条の顔。恐ろしいぐらい整った顔。
確かに美形であるこの俺様とは、これぐらい整った顔の男ならば、つりあいが取れるかもしれない。
けどさ。けど・・・。
生憎俺は、美形好みじゃねえし、男はもっと好みじゃねえ〜。
これじゃ、これじゃ。
誘惑するどころか、俺が、されてるんじゃねかよ〜。
「これからよろしく。りお」
チュッと軽い音を立てて、五条の唇がりおの唇に重なった。
「んぐっ」
重なったと思ったら、あっという間に吸い尽くされるかのような勢いで、へビィなキスが落ちてきた。
「んっ、ん〜」
てめえ、ホントに17歳かよッ!ってくらい、濃厚なキスであった。
テレビドラマとかエロビデオで見るよーな。
音がむちゃくちゃ響くようなキス、してんじゃね〜!
逃げられない自分が悲しい・・・と、りおはジタバタしながら思っていた。
ドササッと、そのまま近くにあったボロボロのマットの上に転がった。
「ごっ、五条。会った瞬間に押し倒すような真似すんじゃねえ」
キスから逃れ、りおは叫びながら、五条を押しのけた。
「そっちが勝手に転がったんじゃねえかよ。腰に来た?」
フフフと五条は笑う。
「バカヤローッ」
五条は、時計を見た。
「ま、いいや。今日はこれぐらいで勘弁してあげる。そろそろ行こっか。りお」
五条は、りおの腕を取って、起こしてやる。
「キサマ。俺は、絶対におまえとつきあわないからな」
「嘘吐きはよくないぜ。生徒会長ともあろう人が」
「嘘じゃねえって。だから、あのハイは、疑問のハイであって」
「うるせーな。もういいって」
「なにがうるせーんだ!聞け、人の話をっ。うっ」

施錠を解き、五条がガラガラとドアを開けた。
薄暗い用具室にしばらく居たせいで、外の光が眩しい。
りおは、目を細めた。

ふと、すぐ側にある柱に取り付けてあるスピーカーからは、聞きなれた体育祭のメインテーマが流れてきてはピタッと止まった。
【はーい。皆様、いかがでしたでしょうか!当学園自慢の応援合戦は!チアガール達の華麗なる舞い、素晴らしかったですね♪
さて。この素晴らしい余韻のまま、午後の部突入致します〜】
ガンガンッと、スピーカーから、放送部員の美声が聞こえてきていた。
りおは慌てて時計を見た。
13時30分。応援合戦終了の時刻だった。
「うわ。すっげえな。ぴったりじゃん。13時30分。さっすが、りおが企画立案しただけあるよな。超予定どおりの進行っぷり」
五条は、りおを振り返った。
りおは、ハラハラと泣いていた。
「てめえ・・・。わざとだな。わざと俺を・・・。チアガール達の競演、朝から楽しみに・・・。これだけが楽しみで、3ヶ月前から準備頑張ってきていたのに・・・」
キッとりおは五条を睨んだ。五条は苦笑しつつ頷いた。
「そ。わざとだけど、おつきあいの申し込みは本気だぜ」
勝ち誇ったように五条は笑った。
「俺になんの怨みがあんだッ!」
「怨みはイッパイ。けどさすがに、今日は頭に来たよ。IROMASAのHERO。アルファベットを並び変えれば、リオサマ・ヒーロー。こんなくだらない仕掛けで、走りまわされたから」
「おまえなんかっ。おまえなんか、嫌いだっ。絶対に、絶対に!俺はおまえなんかとつきあわないからな〜」

りおは、青い空を見上げて、心からの気持ちを込めて叫んだのであった。

続く

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