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****3部24話***
明日には、川村が家の前まで車で迎えに来てくれるという。
亜沙子は、やや調子が悪そうだが、とにかく久人が大喜びだ。
つくづく、自分では、久人に歳相応の楽しみを与えてやることは出来ないのだと、不甲斐なさにぶちあたる連橋だった。
もっとバイトを増やして、とにかく金を・・・と思い、更に気分が沈む。
所詮世の中は金か。
「ちっ」
連橋は舌打ちして、気分転換の為に、ガラッと窓を開けた。
「!」
と、偶然、アパートの下に佇んでいた流と目が合った。
「どうしたんだ?」
「いや、近くまで来たもんでな。声かけようと思ったが、明日の支度で忙しいかと思ってさ」
流が吸っていたタバコの煙が暗い夜の空気に流れていく。
「女じゃあるめーし。亜沙子はまだ荷物の点検してっけど、俺は別に。今下に行く」
部屋を出て階段を下りながら、連橋は、流と二人っきりで会うのはあの夜以来だと思った。
ちょっとした気まずさが胸にせりあがってきたが、連橋はそれを振り切り、流の元へと走った。
「川まで、ちょい歩こうぜ」
「いいのかよ」
「だから。別に支度なんてねえって」
佇む流をスイッと追い越し、連橋は川べりに向かって歩き出す。
「ひーちゃん、さぞや楽しみにしているんだろうな。姿が目に浮かぶさ」
流が、クスッと笑う。
「まあな。旅行なんて一大イベントだからな。うちらには」
連橋も、笑う。
「連」
「ああ?」
「川村さん。一応調べさせてもらった」
「どうだった?」
「怪しいとこはねえみたいだけど、ちょい増山さんが捕まらなくてな。増山さんのおやじ元マルボーだからさ、色々情報持ってっし。聞いてみておきたかったんだが」
「増山さん、パクられてるちゃうか?」
おどけて、連橋が言った。
「それ、ありえるな」
足元の石を蹴って、流も苦笑した。
「川村さんさ。時々ちょい気持ちわりー瞳をすんだよな。それが気になるっていえば気になるんだが。まあ、ちょっとした勘だから根拠はねえけど」
「わかる。だから、俺も調べさせたんだが・・・」
ちょっと流は口ごもった。
「なんかあっても亜沙子とひーちゃんだけは必ず守る」
連橋の強い口調に、流はハッとした。
「そうだな。おまえは、そうだよ。おまえは守るべきものを守ってりゃそれでいい」
「ああ」
「俺は、おまえを守る。連、俺は、おまえを守るよ」
そう言って、流は連橋の反応を、待った。
昔の連橋だったら、「てめえの身はてめえで守る。気色悪いことは言うな」と言い返す筈だ。
だが、連橋は僅かな沈黙の後に「適当によろしく」と言ったのだ。
「へえ。ふざけんな、とか言われるかと思ったな」
言いつつ、そうは言われないとわかっていた流だった。
「俺と一緒にいるおまえだ。俺が言ったってきかねーように、おまえだって俺が言ったとこで、ききやしねえだろ」
「そういうこった」
悲しいことに、俺達は大人になった、と流は思った。
もう、くだらないことで言い合うことはなくなってしまった。
ぶつかりあうこともない。
それがいいのか悪いのか。
「物足りねえか?」
流の気持ちを察したように、連橋が言いながら、ひょいっ、とその場にしゃがみ込む。
「昔は、俺達、よく意見が違っては言い合ったよな。なのに、今じゃもう、そんなこともない。俺達は諦めを覚えてしまったのか」
「そうじゃねえよ、連。俺達は現実を知っただけだ。それが大人になるってことだろ」
連橋からの返事はなかった。
「なあ、連。俺さ。おまえに会いに来たんだが。近くまで来たから、なんて嘘なんだ。なんかもうおまえに会えなくなる気がしてさ」
「はあ?たかだか2、3日の旅行だろーが」
「まあ、そうなんだけどさ。胸騒ぎっつーか」
そうなのかな?と流は自問自答だ。
連橋が、自分の守備範囲から離れることに、単純に嫉妬しているだけなのかもしれないと惨めなことを考える。
たかだか3日程度の旅行で連橋が自分の生活範囲から離れることに不安になるなんて、俺はこの先大丈夫なのか?と流は本気で自分が心配だった。
そうして、本人を前にして、やはりこんなにも胸が騒ぐ。
あの夜以来、二人っきりでは、こうして話したことはなかった。
互いに、二人っきりになることを、意外とわかりやすく避けていたのはわかっていた。
それは、どちらも意識していることに他ならない。
「俺ら川村さんの車で事故って全員死んでたりして。おまえの予言大当たりってな」
かははは、と連橋は軽く笑う。
「そんなんで死んでいーのか」
「いい筈ねえけど、なんかさ。そーゆー運命的なもんには、勝てねえだろ、どうしたって。なんとかなるもんにゃ立ち向かうけどさ」
ポンッと連橋は、暗い川に向かって、小石を投げた。
「おまえにゃ随分長いこと俺につきあわせちまったな。早く幕引きしねえと、おまえはどうにも動けねえな。俺のせいでおまえの人生既に滅茶苦茶で、
このまま行けば確実に婚期も逃すな。亜沙子だって、同じだよ。あんなに美人でいい女なのにさ」
横顔のまま連橋が言う。
「俺が婚期逃したら、責任とっておまえが俺と結婚してくれ」
ポケットに片手を突っ込んだまま、流がぶっきらぼうに言った。
「外国でか?」
「どこでもいいさ。おまえがいるなら」
「死んだら、根性で女に生まれ変わって、そしたら、おまえと結婚してやるよ。おまえさ。いい男だもんな。俺はきっと幸せになれる。でも、この世では、
睦美もいっし、亜沙子もいっし、俺が幸せにしないといけない女が後にひかえてるしなあ」
へへへ、と自分で言った言葉をバカらしく思ったのか、連橋は照れた。
「慰めてくれるのか。もうこの世で俺とはどうにもなんねえよとも言ってるよな」
「流」
困ったような連橋の声。
流はすっと目を閉じた。
「連。俺はさ。なにもかも諦めるつもりはねえんだよ。いつだって、隙を狙っている。俺はそういうヤツだ、覚えておいてほしい。でも、俺は、このポジションを
誰にも譲る気もねえ。まあ、なんだ。俺は、おまえ中心で生きていることを、別に気の毒がられる筋合いはねえってことさ。俺も亜沙子ちゃんもさ。おまえは
そーゆーヤツだって知ってて、ここまでついてきたんだ」
目を開けると、連橋が、じっとこちらを見つめていた。
「今更おまえが無駄に諦めたりなんかしたら、俺達がおまえに付き添ってきた意味がねえ。やるなら徹底的にやれよ。諦めるな。人がどんなに無駄で愚かなことだと
言ったって、おまえは曲げなかった。その曲げないおまえを俺と亜沙子ちゃんは知っててついてきたんだ。今更俺の将来なんて心配すんな。それより、おまえが曲がるな、連」
パンと膝を叩いて、連橋は立ち上がった。
「おまえの彼女の香澄ちゃんに昔言われたよ。俺は復讐という楽な道を選んだんだって。その為に、皆が不幸になるって。あん時は強がったけど、俺はいつも、心の中に
その言葉を抱えている。おまえの彼女は、正しい。そして俺は間違っている。流」
連橋の強い視線は、暗い黒い川に注がれていた。
「俺な。未来が見えないんだ。もしかしたら、近い将来に死んじまうのかもしんねえな。きっとろくな死に方しねえだろう。それだけは想像がつくんだが。まあ、それが罰ってやつさ。
間違った道を行くヤツの、神様から与えられる罰ってやつ。だから」
言いかけた連橋の体が硬直する。
流が、バッと連橋を抱きしめたからだ。
「連。そんなこと、言うな」
「流」
きつく抱きしめられて、連橋は、小さく咽た。
「香澄は神か?香澄の言葉がすべて正しいのか?多数決の原理で言えばそうかもしんねえ。でも、連。おまえに惚れて、おまえの進む道を理解し、助けたいと思う俺は、
自分をちっとも後悔してねえんだ。人から言わせりゃ俺だってろくでなしの部類さ。俺が言ったって説得力はねえだろうが、でも、連」
流は連橋の肩に顔を埋めて、息を吐き、そして。
「おまえが地獄に落ちるならば、ついていってやる。心配するな。おまえに振り回される人生を俺が選んだんだ。一人で死なせやしねえよ」
連橋は、目を見開いた。
「すげえ、口説き文句だな。足震えるんだけど、マジで」
その言葉通り、連橋の体の震えが、微かに伝わってくる。
「欲しいならば、幾らでも言う」
「いらねえ。鈍る」
そんな風に、きっぱりと言い、するり、と連橋は流の腕から、逃れた。
「おまえにそんなこと言われたら、俺、鈍る。生き方鈍くなっちまうよ。俺を甘やかすな。おまえの言う通り、俺は曲がらず生きていく。約束する、流」
「ああ、連」
奪うように得たぬくもりだ。逃げられて当たり前だ、と流はグッと拳を握りしめた。
「曲がらずに行くためにゃ、おまえが必要。だから、会えなくなる筈なんかねえから、心配すんな。おまえが嫌がっても、俺はおまえの傍から離れねえよ。
けどさ。さっき言ったが、事故とかはしょーがねーから、諦めてくれよ」
連橋は再び、歩き出した。
「川村さん家、運転手付きだからさ。運転のプロだから心配ねえよ、流」
「まーな」
連橋を抱きしめた感覚に、まだどこか酔っている流の返事は、どことなく上の空的な感じだ。
「聞いてんの?」
くるりと連橋が振り返る。
「聞いてねえ。てか、おまえの体、もう一度触りたい」
一瞬、張りつめた空気が二人の間をよぎった。
連橋の眉が困ったように寄ったのを見て、流が自分でその空気を振り払った。
「お触りさせて、連」
にぎにぎと拳を握ったり開いたりして、流はニヤリと笑ってみせた。
「なっ。てめ、人が真面目に話してンのによ」
自分の体をギュッと抱きしめてから、連橋は流の腰に軽くキックした。
「土産、なにがいいか、考えときな。ああ、そうだ。恵美子さんにも聞いとかねえと」
せっかく連橋が雰囲気を変えてくれたので、流もつきあう。
「恵美子さんに土産買ってく気か?高級品じゃないと、まずいだろ、あのお嬢様にゃ」
「あー・・・。そ、そうかな。んじゃ久人に選ばせて誤魔化すか。海岸の貝殻とかな」
流の的確なアドバイスに、連橋は急に弱気になって、妙な提案をしたりするのだった。
「なんじゃ、そら。ひでーな」
いつもの、小田島達の前で見せる強気な連橋とは、まるきり違う連橋に、流は思わず笑ってしまう。
「っせえな。いかにもガキが考えそうだろうが」
「そりゃ、女の子ならば通じるが、あのひーちゃんが貝殻せっせと海岸で拾ってるの想像出来ねえんだけどよ、俺」
「うっ」
確かにな、と連橋は言葉に詰まった。海岸の貝殻とか踏みつけて、走り回って遊んでいそうな久人を二人は容易に想像出来たからだ。
「困ったなぁ。でも、恵美子さん、俺らが別荘行くの知ってるし、無視出来ねえだろ」
歩きながら、連橋は、う〜んう〜んと唸っていた。
強いおまえも弱いおまえも大好きだ、連。
アパートに戻る為に歩き出している連橋の背を見つめて、流は心の中でそっと呟いた。
「バタバタうっせーよ。なにやってんだ、おまえ」
小田島がソファで城田を振り返った。
確かに城田は、ここ数日、色々と忙しかった。
そんな忙しさをぬって、小田島の様子を見に小田島邸にやってきたものの、淺川から連絡が入ったり、清人から連絡が入ったりと、
ファックスをチェックしたり携帯したりと、落ち着かない。
なんたって、連橋が清人の別荘に行くのはもう明日なのだ。
「この前から、淺川と緑川とおまえとでなにやってんだよ」
城田は小田島の言葉に、肩を竦めた。
「鋭いな、気づいてたのか。婚約者様のご機嫌とりで気づいてねえかと」
「っせえな。なんかあったのかよ」
ギロリと小田島は、城田を睨んだ。
「なんかって。まあ、合コンとか」
城田が言うと、小田島は、「くっだらねえっ」と吐き捨てた。
「そりゃ興味ないでしょーよ。おまえの興味はもっぱら、金髪の男だしな」
「やかましいっ」
いつにもまして、小田島は機嫌が悪かった。
おっかね、と城田は呟いた。
そろそろ連橋切れってヤツかいな、と城田は思った。
会えなくて久しい。姿だけでも見たいとか思って、イライラしているかも。
「お姫様に会いたいかぁ?見に行くだけならば、ついていってやってもいいぞ」
試しにそんな風に言ってみた。
「殺すぞ」
案の定な言葉が返ってきた。
「あーはいはい、すみません」
首を竦めて謝った城田だったが、
「見るだけで我慢できっか」
と小田島に言われて、吹き出した。
「おまっ。本気で連橋病な」
小田島は読んでいた雑誌をバサッと城田に投げつけた。
「てめえは、合コンで女ひっかけてりゃいんだよ。俺の趣味に口出すな」
「趣味か、連橋が」
「趣味だよ。飽きたら、別のにうつる、単なる趣味だよ」
顔を引き攣らせながら、小田島は大声で言い返した。
「おまえにしちゃ随分長続きしてるよな、その趣味」
城田が低い声で言うと、小田島は、カッと顔を赤くした。
「げっ。ちょっと待てって。おまえ、ほんと、勘弁。なに、その顔」
あっけにとられた城田を見て、小田島はハッと我に返ったようだった。
「今すぐに部屋から出てけっ」
ドカッと城田の体を押しのけた。
「わかった。ちょっと、押すなって」
ドスドスと背中を蹴られて、城田は情けなくも部屋から追い出された。
「なんだよ。今の。義政のあんな顔、初めて見たぜ」
城田は驚いて、追い出された部屋のドアを茫然と見つめていた。
連橋が清人の別荘に行くなどと知ったら、どうなるか。
城田はゴクリと唾を飲み込んだ。
万全にガードしたつもりだが、こういう時に限って、蟻の穴のような小さなところから、崩れたりする。
城田は小田島の部屋から離れて廊下を歩きながら、ジーンズの尻ポケットに入れておいた携帯を引っ張り出した。
淺川の番号を呼び出す。
「もしもし、淺川。今回の計画、もう一度チェックしてくれ。義政が俺達の動きに気づいている。あいつに今回の件が気づかれたらマズイ。義政に情報がもれないように、
思い当たる場所すべてに蓋しろ。マズイぞ、アイツ連橋病だ。会いたくてたまんねーらしい」
『気色わりーったらねえぜ』
電話の向こうの淺川の声が、げっそりとしていた。
「淺川。おまえのその気持ち、わからないでもねえよ」
と城田は言い、苦笑する。
『もう一度チェックしておく』
「ああ、よろしく」
電話を切ってから、城田は髪をかきあげて、虚空を睨んだ。
今回はいろんな意味で心配なことが多いので気を引き締めないと、と考えていた。
特に、清人と夕実の憂鬱は、どう考えてもスルー出来ないぐらいに、不吉だと思うのだ。
亜沙子は、妊娠していた。
病院に行って、調べてもらい、確実なものとなった。
お腹の子は、城田の子だ。
それは間違いがない。
以前とは比べようもない、気持ち。
腹を撫でる掌から、幸せな気持ちがこみあげてくる。
だが、その気持ちとは裏腹な現実が亜沙子を待っている。
城田の子を身籠ったなどと、連橋に流にどう説明すればよいのか。
ましてや、産みたいなどと、どうしたら言えるか。
それ以前に。
久人が心待ちにしていたこの旅行をなんとか妊娠していることを悟られずに乗り切らなければいけない。
亜沙子は、気持ちを引き締めた。
「亜沙子ー、川村さん、来たぞ」
「はーい」
ボストンバッグのチャックを閉めて、亜沙子はスクッと立ち上がった。
いつもだったら駆け下りる階段も、そろりと慎重に降りていく。
「こんにちは、亜沙子ちゃん。久しぶりだ。相変わらず美人だ。楽しい旅行になりそうだね」
「お久しぶりです、川村さん」
川村がアパートの下に車をつけていた。
「ひさとー」
「たもつー」
子供同士がリュックを投げ出して駆けより、子供なりの久しぶりの挨拶を交わしているのを微笑ましく見ていた連橋だったが、
「俺に挨拶はねえっすか、川村さん」
亜沙子へのねちっこい挨拶にむかつき、川村に嫌味を言った。
「おー、いたの、連橋くん」
川村は、にこやかに亜沙子に挨拶をしていた視線を連橋に移した。
「最初からいやしたけどね」
フンッと連橋は鼻を鳴らした。
「まあまあ。では、川村さん。私とひーちゃんと連ちゃん、3人をよろしくお願いします。ちなみに私、車酔いしますので、よろしくお願いします」
ぺこりと亜沙子は礼儀正しく挨拶をした。
「おまえ、車酔いしたっけ?」
え?と連橋が聞き返す。
「おほほ。私も歳をとって、体が変わっちゃったのよぉ」
やーね、と亜沙子は連橋をどついた。
「テテテ。怪力女め。ってことで、川村さん、俺ら3人よろしくー」
「連橋くん、君は来る必要ある?」
と、川村が連橋の荷物を凝視して、からかった。
「そんなこと言っちゃいますか〜?」
バキバキと連橋が拳を鳴らした。
「おっと、冗談、冗談。さて行こうか」
川村達が車を発進させてしばらくすると、パッパーとクラクションが鳴り、向こう側の道路から流達のバイク集団が、手を振っていた。
ジレンである。
「おお。お友達かね」
川村が少し驚いたように窓の外を眺めて言った。
「ながれー、行ってきまーす」
窓から手を振り、久人が叫んだ。
「ああ、あれ。流くんか」
川村は目を細めて、ジレンの集団を見た。
「うわ。外から見ると、まるでヤンキーだな」
連橋が苦笑した。
「まるでじゃなくて、完全ヤンキーでしょ。連ちゃん含めて」
亜沙子が連橋の金色の髪を引っ張って、言った。
「すみません」
謝り、腕を組んで、連橋はふっと窓の外に視線をやろうとしたその時。
ミラーで川村と視線が合う。
川村は、クスッと笑った。
「・・・」
その視線に、連橋は眉を潜めた。
きゃーっとおおはしゃぎする久人と保の声に遮られ、川村の視線が連橋から外れてゆく。
目が笑ってねえんだけどさ。
心の中でそう思い舌打ちし、連橋は今度こそ窓の外に視線をやった。
連橋達を見送り、ジレンのメンバーは流を筆頭に、そのまま皆で走りに行った。
あちこちを走りまくり、結構な距離になった。
今回ばかりは流も、小田島を警戒することがないので気持ちが楽だった。
心地よい海風と仲間たちの賑やかな声に流は癒されていた。
「今晩は連橋さんとは比べもんになんねーけど、うちらもこのままどっか泊まってゆっくりしようや。長い距離走って疲れたしな」
誰かの提案に、それもいいな、と流も頷いた。
そんなこんなで、連橋達が旅立ったその日の夜のことだった。
流達が、地元から遠く離れ、場所を変えたいつもの飲み会をしてる時だった。
携帯が鳴り、機嫌よく飲んでいた流に、依田が携帯を渡しにきた。
「流さん。増山さんからです」
「お、サンキュ」
流は、依田から携帯を受け取った。
「増山さん、あんた生きてたんすかー。ムショでも入ってるンじゃねえか、と連と言ってたんすよ」
半分酔っぱらいながら電話に向かってヘラヘラと言った。
しかし、電話の向こうから聞こえてきた増山の言葉に、流は一気に酔いが覚めた。
「なんだって・・・!?」
『もう一度言う、流。川村清人は、大堀清人だ。大堀組の組長だ。あいつはインテリヤクザで、ビジネスマンとしての顔も持つ。おやじがそう言っていた。流。
川村はヤバいぞ。大堀のパートナーは、もちろんわかっているよな。小田島だ』
ぼとり、と流の手から、携帯が落ちた。
続く
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