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****3部22話***
平穏な日々が続くとは思わない。
だが、今だけは、こんなのもいいかな、と思う。
多分、誰もが思ってる。
あんな重い出来事のあとだからこそ、余計に。


日差しが強く、天気のいい休みの日。
連橋達のアパートの裏庭は、とても賑やかだった。
「おまえ、くっつきすぎなんだけど」
「だってもう、離れたくないんだもん」
睦美がどういう訳か四六時中連橋のあとをくっついて回っていた。
「連橋と離れたくないの」
「あー・・・、そう・・・。でも、離れろよ。作業出来ねえだろ」
連橋の言う作業とは家庭菜園の準備だ。
家計の負担を減らす為、自分で野菜を作る、と言い出した亜沙子の手伝いをさせられている。
スコップ片手に、家の裏手の庭の土を掘り返していたところなのだ。
「いやっ」
睦美はそう言って首を振って連橋の腕に自分の腕を絡めた。
「おまえなぁ」
「なによ。片手で掘りなさいよ」
「むちゃ言うなっ」
見ようによっては単なるイチャイチャにしか見えない。
そんな二人を亜沙子と流はアパートの階段途中におのおの座って、遠巻きから見ていた。
流の吸うたばこの煙がふわりと風に流れていく。
「むーちゃん。にーちゃんが離れろって言ってるよ」
久人が如雨露片手に、連橋と睦美の傍にトコトコと近寄って行った。
「いやなの。ひーちゃんにだって、これは譲れないの」
「僕だってにーちゃんとくっつきたいよ」
どういう訳か久人は睦美に対抗意識をもやして、そんなことを言い出した。
「なんでだよ、てめーら」
うぜ、と連橋が睦美を振り払おうとしているものの、もちろん本気は出していない。
「じゃあ一緒にくっつこうよ」
睦美の提案に、久人は笑顔になった。
「それ、いいね」
「よし、じゃあ、いくよ、ひーちゃん」
「うんっ」
二人して、ガシッと連橋にくっついた。
睦美は連橋の背中に、久人は連橋の太腿にくっついた。
「だーっ。てめえら、うぜーっ。動けねーだろっ」
連橋の困惑ぶりに、亜沙子と流は、堪え切れずにププッと吹き出した。
「あーゆーキャラだったっけ?睦美ちゃん」
流が笑いながら、亜沙子に言った。
「私、睦美ちゃんの気持ちわかるよ。あんなことがあったでしょ。連ちゃんと離れていて、ずっと不安だったのよ。だから、こういう時はもう片時も離れたくないのよ」
「・・・そっか」
流は吸っていたタバコの煙を空に向かって、吐き出した。
それもあるだろうけど・・・もしかしたら、と流は思った。
女は出鱈目に勘がはたらく時がある。どんなに隠しても、バレてしまう嘘があるように、睦美は察しているのかもしれない。連橋と過ごした夜のことを。
志摩という特殊な兄を持つ睦美は、男同士の微妙なつながりを理解してしまう節がある。
認めたくなくても、どうしても認めざるを得ないものがわかっているからこそ、睦美は連橋の存在をその体で確認しなければ、落ち着かないのかもしれない。
それでも流は、睦美に謝ることは出来ないし、謝るつもりもなかった。
男と女というものを超え、欲しいものはただ一つ。それを互いに知っているからこそ、譲れないものがある。
「流くん?」
亜沙子に名を呼ばれ、流はハッとした。
「そっ、そりゃそうだよな。俺達だって連がいなくて、あんなに慌てふためいたのに。睦美ちゃんは連の恋人なんだから余計に不安だったのは当然だよな」
「あら。流くん、ちょー羨ましそうなんだけど?」
からかうように亜沙子は流の顔を覗きこんだ。
「いや、羨ましいでしょ、そりゃ。俺だってもういっそ、睦美ちゃんみたく連の恋人になっちまいてーよ」
半ばやけくそのように流が言うと、亜沙子は拗ねたように、
「それ言うならば、私なんか、連ちゃんになりたいわよ」
と言った。
「えっ。亜沙ちゃん、俺とつきあいたいの?」
流がキョトンとした。
「やっ、やだ。ち、違うわよ。でも、今の話の流れだとそーなるわね」
あせった亜沙子は、どうしよう、違うの、と思ったがうまい言葉がみつからない。
私は、連ちゃんになればアイツと・・・なんて流くんに言える訳ないわ、とあたふたしていると、
「ねえ。こいびとってなあに?」
とすぐ傍らで久人の無邪気な声が聞こえて亜沙子は振り返った。
いつの間にか、久人が階段の下に立っていた。
「あら、ひーちゃん。いつのまにこっち来たの」
久人は連橋とお揃いの麦わら帽子をかぶっていた。それがとても可愛く似合っていて、亜沙子は思わず微笑んでしまう。
「だって、にーちゃんとむーちゃんが仲良しでひーちゃん、入れないの・・・」
と久人は唇を尖らせた。
亜沙子と流は二人を見た。確かに、まだぎゃいぎゃいやりあっているが、仲睦まじいには間違いない。ましてや久人には、そうとしか見えないだろう。
「まあ、確かにな。あの雰囲気にゃ入れねえよな。そっか。久人。恋人に興味あんのか。じゃあ、俺が教えたるで。恋人っていうのはなぁ」
流がタバコを揉み消して、身を乗り出した。
「なによ、流くん。なんだかやらしー顔してるよ。流くんが教えたら、危険」
亜沙子が久人のことを背で庇う。
「いやいや。こーゆーのは早い方がよいよ、亜沙ちゃん。性教育ってやつ?」
悪戯っ子のように流はニヤニヤしていた。
「流くんは、黙ってなさい。あのね、ひーちゃん。恋人って、大切な人のことを言うのよ。愛してる人のこと」
こくっと久人とうなづいた。
「あいしてるひとって、たくさんすきなひとってことでしょ」
「そうそう」
えらいわ、ひーちゃん、と亜沙子は久人の頬を撫でた。
「じゃあ、ぼくにとってはにーちゃんはこいびとだよね。あさこねーちゃんも」
俺は〜?と流が言ったが久人に無視された。へこむ流を後目に亜沙子はうーんと考え込む。
「いや、それとはちょっと違うかなあ。にーちゃんとあさこねーちゃんはひーちゃんの家族だから、家族のことをたくさん好きって言うのは恋人とは言わないんだよ」
「え〜?」
わかんない、と久人は首を振った。
「ひーちゃん、学校で好きな女の子いる?」
「たくさんいる」
えへへと久人は照れた。
「オイッ」
流がぴんっ、と久人の頭を指で弾いた。麦わら帽子が飛んでいきそうになった。
亜沙子は笑いながら、頬を掻いた。
「たくさんいるのか。そっか。その中でひーちゃんが一番一番好きな子が、ひーちゃんのこともやっぱり一番一番好きになってくれて気持ちが通じ合ったら、それが恋人かな。って、なんか難しいなあ、説明」
うーんと、亜沙子は腕を組んで悩む。
「だからさ、もうそのものズボッと言っちゃおうよ。亜沙子ちゃん」
完全にふざけている流を亜沙子は睨んだ。
「ズボッってなに」
久人が無邪気に聞き返した。
ほら、もう、と亜沙子が流の膝をバシンッと叩いた。
「流くんってば!なんなの、もう。さっきから、そのやらしい雰囲気はっ。だいたいね。セックスなんて恋人じゃなくても出来るんだからねっ」
「いやいや、俺よりズバリすぎっしょ、亜沙ちゃん」
さすがに流は亜沙子の遠慮のない言葉にたじろいだ。
「やば、つい・・・」
亜沙子が掌で口元を覆う。だが、久人は「えっくす?」とか全然違うことを言っているので、二人はホッとした。
「あー・・・、えーとね、ひーちゃん」
困る亜沙子を眺めながら、流は、再びあの夜のことを想いだした。
そう。確かにそうだった。恋人じゃなくてもセックスは出来る。
連橋がくれたあの夜は、決して甘やかな恋人同士の夜ではなかった。
錯覚を起こすと知っていて、それでも手に入れた。
手に入れてからの方が辛いと知りながら、どうしても拒めなかった。
流は脳裏を過る、まだ鮮明なあの時の記憶にかすかに体を震わせた。
「あさこねーちゃん。じゃあ、にーちゃんはむーちゃんが一番すきなの?ひーちゃんじゃないの?さっきながれが、むーちゃんとにーちゃんはこいびとっていってたよ」
悩む亜沙子にお構いなしに久人は質問をぶつけてくる。好奇心の旺盛な時期なのだから、仕方ない。
「えっ。あ〜・・・。えっとぉ」
「こいびとっていちばんすきなひとどうしのことでしょ」
「う、うん、そーなんだけどぉ。家族とは別なんだよ」
「どおちがうの」
「えっとぉ。家族って血が繋がって、あ、でもうちら繋がってないか。えっと恋人っていうのは、男の人と女の人でなるもんであって。あ、でも家族でも男と女っているし」
亜沙子は歯切れが悪い。僅かな間のあとに、大学生の流くんよろしく、と亜沙子は流にふったものの、流も俺もうまく説明できねーと逃げた。
「にーちゃんはひーちゃんが一番好きっていつも言ってくれてたんだけどなあ。やっぱりにーちゃんはおんなのこがすきなんだね」
困る二人をよそに、勝手に解釈して、落ち込む久人だった。亜沙子は完全におてあげだった。
「しかし・・・。こんなちっちぇのでも嫉妬すんだなぁ」
流はちょっと感心したように呟いた。
亜沙子も流の言葉には同感だった。これは立派に嫉妬だ。
人を愛せば、強く愛せば、誰もが必ず経験する気持ち・・・。
「ひーちゃん、連ちゃんはちゃんと、ひーちゃんのこと愛してるんだからいいじゃないの」
「それはわかってるけど、ひーちゃんは、にーちゃんのいちばんでいたいの」
亜沙子と流は顔を見合わせた。流にいたっては、ここにもライバルが・・・と心の中で思ったりしていた。
しょんぼりしてしまった久人のところに、なにも知らない連橋が睦美を背負って、うんしょうんしょとやってきた。
だいたいにして、この二人のこんな光景がさっきからこの説明に困る状況を生んでいるというのに・・・と亜沙子も流もムッとした。
久人もつられてムッとしていた。
「なに話してんだよ、おまえら。俺もいれてくれ」
三人の気持ちを知らずに、平和に連橋が声をかけてきた。被る日よけの麦わら帽子がまた、なんだか脱力させる雰囲気を漂わせていた。
「もう、連ちゃんのバカ!」
いきなり亜沙子に怒鳴られて、連橋はキョトンとした。
「へっ?」
「そーだ、そーだ、連。おまえは、もう、ほんと、なんか始末におえねー」
流も言った。
「にーちゃんなんかきらいだよ。おんなずきめ」
べーっと久人も舌を出す。
「ええっ!?な、なんだよ、おまえら」
きょとんとしている連橋と睦美。
「勝手にイチャイチャしてるがいいわ。流くん、ひーちゃん、さっ、行きましょ」
亜沙子はさっさと階段を駆け上って行った。二人は亜沙子の後をついていく。
「俺、なにしたってんだよ。なあ、睦美」
眉を寄せる連橋だったが、聡い睦美は、なんとなく理解出来てしまった。
「あんたって、ほんと罪な男ね・・・」
そう言って睦美は、連橋の背から離れると、
「待って、亜沙子さ〜ん。私が悪かったわ。ひーちゃんもごめんなさいね」
と亜沙子たちを追いかけていった。
照りつける太陽の下、如雨露片手に、連橋は一人置き去りにされてしまった。
顔には、「?」が張り付いている連橋だった。



緑川邸のいかめしい門が開く音が遠くに聞こえた。
「城田。やっと復活してきたみたいだな」
淺川が大きく開け放たれた窓の方を見て、言った。緑川はうなづいた。
「すまねえ。遅くなった」
そう言いながら、城田は部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、城田。生きてたのか。どこに隠れてた?」
淺川が聞くと、
「るせえ。歩に見つかっちまったから仕方なく出てきたさ」
ポンッ、と城田は緑川の頭に触れた。
緑川は、だらしなくソファに腰かけたまま、城田を見上げて言った。
「どこに隠れていようと俺はおまえを見つけ出すぜ、城田」
「出たよ。緑川の城田命。おまえ、ほんと何年経っても変わらんな。おまえらいい加減くっつけよ」
茶化す淺川に城田は鼻を鳴らした。
「身分違いで無理だろ」
城田にしては珍しい冗談だったのだが、緑川は「家なんて捨てるから平気だぜ」とケロリと言い返した。
「冗談言ってる場合じゃねえよ、てめえら。それよかちょい清人さんから声かけられてな」
俺は冗談じゃねーよ、と緑川が淺川に言い返したが、淺川は無視した。
「俺らに頼まれて欲しいことがあるってさ」
城田はドサリと緑川の隣に腰かけた。
「清人さんが?」
「今度の休みに、連橋のガキと女を別荘へ誘い出すらしい」
ガキと女。久人と亜沙子ということだ。城田はスッと目を細めた。
「それで連橋も一緒に?」
緑川が聞くと、淺川はうなづいた。
「くるだろ、そりゃ。んでまあ、それを小田島に悟られないようにして欲しいってさ」
淺川が頼まれたことを聞いて、緑川は、うなづいた。
「なるほど。バレちゃ、のこのこ小田島は行っちまうもんな。連橋恋しさになあ。今回だって城田のせいで中途半端で終わっちまったらしいからめちゃくちゃ怒ってたしな」
ケケケと、緑川が笑う。淺川は、こえ〜、と肩を竦めた。
「俺のせーじゃねえよ。ありゃ連橋が熱出したからだよ。第一あれだけヤりまくってて、中途半端も糞もねーだろ」
城田は長い脚を組みながら、うんざりした口調で言った。
「んなんもんは、どーでもいいよ。とにかく小田島にはまだまだ連橋は足りないらしいってのは、清人さんもわかってるらしくてさ。しゃしゃり出てこねーでくれってさ。了解?」
淺川がタバコに火を点けながら、城田に視線をよこした。
「清人さん。まじで素性かくして、連橋らと接触する気なんかよ。他に魂胆ねえの?」
「さあな。俺に読める訳ねーだろ、あん人の魂胆なんて」
盛大に煙を吐きながら、淺川がぼやいた。
「はあん。ま、いいんじゃねえの?じゃあ、俺らすることねーだろ」
城田は両手を挙げた。
正直、連橋にはしばらく関わりたくない、というのが城田の本音だった。
自覚したうえに、たかがキスで、膝がぬけるなんつー、ていたらく。
連橋がらみのゴタゴタなんざ今起こされたら、今度という今度は、自分の理性がもつかなんて自信はこれっぽっちもなかった。
関わらないのが一番だ、と今は思う。
「確かにな。でも城田。清人さんからご指名なんだよ。おまえが別荘周りを護衛してくれって」
淺川の言葉に、城田は一瞬、耳を疑った。
「やなこった。冗談じゃねえよ、なに、それ」
たった今、関わりたくないと考えたのに、なんだ、それと城田は、とりあえず淺川を睨んでみた。
「俺を睨んでも仕方ねえだろ。清人さんご指名なんだからよ。だったらおまえが断れ」
「出来るか」
連橋と同様、関わりたくのは清人も同じだ。
「やっぱりどう考えても、おまえ以外に適任はいない。なにかあっても、咄嗟の状況判断が出来るし。ってことで、当日は城田が出る、と。となると緑川もペアだろ」
「当たり前だろ。俺は城田が行くならばどこへでも行くぜ」
緑川は恥ずかしげもなく堂々と言う。
「けっ。またヘタしたら流とやりあわなきゃなんねーのかよ。もういい加減連橋専用の兵隊組めってんだよ。俺は飽きたぜ」
どさっと城田は緑川の方へと体を寄せた。
「とか言って城田。この前流に完璧沈められて、サツにもッてかれたろ」
淺川の言葉に城田は眉を寄せた。
「おまえほどのやつをしずめるたぁ流ってやつは、やっぱすげーな、おい」
「城田を挑発してんじゃねーよ、淺川」
「今回は別に小田島絡みじゃねえし、清人さんも保坊ちゃん連れて、単にバカンスしてーだけなんだろうから、流達が出る幕なんかねえよ。だからおまえだって大して活躍しねえで済むだろ、城田」
チッと城田は舌打ちした。
「やりゃあいいんだろ、やりゃあ。淺川、おまえ、清人さんから幾ら貰ったんだよ、小遣い」
ばふっ、と城田は仰向けで、緑川の膝の上に倒れこんだ。
「内緒だ、そんなの」
ふん、と淺川は鼻で笑った。
「かったりぃ。なあ、歩。晴海は元気かよ。流とやりあうぐれーだったら、俺は晴海と遊んでいてーよ」
緑川を見上げながら、城田は笑う。緑川は、城田の視線を受けながら、笑い返す。
「まあ、それは俺も賛成だな」
さりげに淺川が城田に同意した。
「淺川。てめえ、なにげにうちの晴海狙ってねえか?」
緑川が、城田から視線を離し、淺川を見て、言い返した。
「ね、狙ってなんかいねえよ」
その迫力に淺川はたじろいだ。
「こいつ、マジであぶねーぞ。うちの晴海の尻追っかけまわしてやがるんだ」
「え。淺川ってショタコン??」
淺川は緑川の膝の上でゴロゴロしていた城田を蹴飛ばした。
「バッカヤロー。なに言ってやがる。晴海だったら、俺は、歩のが断然いいッ」
「はあ?俺はおまえなんかヤダね」
緑川はプイッとつれなく言った
「淺川。おまえ・・・。連橋の時はどんなブスでも女のがいいって言ってたくせに」
人それぞれ好みってあるんだな・・・と城田は苦笑しつつ呟いた。
チラリと城田は淺川と緑川を交互に眺めた。
「おまえらでくっついとけ」
「あるわけねえだろ」
二人が、同時に嫌そうに叫んだので、城田は満足して笑った。
「で、淺川。その清人さんのバケーション、いつなんだよ」
緑川の膝から起き上がって、城田は淺川に聞いた。
「そうだな。あと二週間後の連休らしいぜ」
「ふうん。わかった。じゃあ、それまでに一応の計画つめとこーぜ」
「ああ、そうだな」
淺川はうなづいた。
そして、城田は、ふと思う。
こんなこと、いつまで続くのか・・・。
いっそのこと連橋なんか死ねばいいのに、と凶暴なことを願ったりする。
そして、「死」という言葉を心に浮かべた瞬間、城田の脳裏に激しく、あの夜が思い浮かんだ。
思わずギクリと身が竦む。
実の父を刺したあの夜。空に浮かんでいた金色の光。月。
城田は髪をかきあげた。掌に僅かに汗が浮かんでいた。目を閉じる。
連橋。
おまえも時々考えるだろう。あの月が眩しかった夜のことを。
おまえも想いだしているだろう。
俺達は、きっと、還るだろう。あの時間へ。あの場所へ。あの夜へ。
俺達は、いつか・・・。
「城田、城田」
緑川に二度名を呼ばれて、ようやく城田は、月の幻から解き放たれた。

続く

いよいよ、川村×連橋に突入していきます。
あと、結構物語が動いていくと思います。
これから死人が出ます〜。


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