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****3部20話***

小田島は、背後でガタンッとなにかが落ちる音がして、振り返った。
「ようやく気づいてくれましたか、坊ちゃん」
そこには、サングラス姿の清人が立っていた。小田島がゆっくりと視線を床にやると、清人の足元には、ガラスの灰皿が落ちている。
「人の気配にも気づかない程夢中で見てるエロビデオだから、一体どんなモンだと思いきや」
クククッと清人が押し殺したような笑い方をする。
「なるほど。随分楽しそうなビデオだな」
小田島は吸っていたタバコを、自分の目の前に置いておいた灰皿に押しつけた。
「なんの用だ?」
「ヤボ用だったんだが・・・」
そう言いながら清人は、床に直に座る小田島を追い越し、大画面のテレビに近寄って行く。そして、カタン、とビデオデッキからテープを抜き取った。
「これ。もらっていいか?」
スッと小田島が目を細めた。
「なにに使う?」
「勿論。オナニー用だ」
すると小田島は肩を竦めては、苦笑した。
「商売には使うなよ」
「一部のマニアにしか、こんなもんは受けない。商売道具としての価値はゼロだ。安心しろ」
清人の言葉に、小田島は「アハハハ」と笑った。
「いいぜ。持っていけよ。どうせ、後で死ぬ程ばらまくモンだ。好きにしろや」
ブツッと小田島はリモコンで、テレビの主電源を落した。
「ところで、坊ちゃん。女泣かせのインポ野郎の行方を知らねえか?」
サングラスを指で持ち上げ、頭の上に乗せては、清人は小田島に尋ねた。
「ガッコ行ってンだろ」
フンッと小田島は鼻を鳴らした。
「それが・・・。どうやら大学にも顔出していねえようでな。緑川の坊ちゃんがひどく心配して、行方を探している」
「それじゃあ、知らねえな。アイツは隠れ家をいっぱい持ってるからな。さすがに俺も一つ一つ把握するような暇はねえ」
「つれないな。おまえに散々怒られて、拗ねて穴ぼこに潜っちまっているかもしれねえんだぜ?迎えに行ってやんねえのか?」
「なんで俺が。しばらくあんなマヌケヅラ拝みたくもねえよ」
小田島はタバコに火を点ける。
「・・・ホントに俺達は、惚れる相手を間違えすぎだぜ・・・」
フッと呟くと、清人は小田島に背を向けた。
「邪魔したな、義政」
清人の言葉を小田島は無視した。清人も、そんな小田島の態度はいつものことだ、とばかりに気にせずに部屋を出た。
ドアの向こうに控えていた石塚に、清人はポンッとビデオテープを投げて渡す。
「これは・・・?」
「厳重に梱包して、本城克彦に送りつけろ」
石塚が怪訝な顔をした。
「本城克彦って、あの本城ですか?」
清人はギロリと石塚を睨んだ。僅かな沈黙の後に、
「他に本城がいるならば、言ってみな」
清人の言葉に、石塚は背筋を伸ばした。
「かしこまりました」
フンッと鼻を鳴らしながら、清人はサングラスを元の位置に戻した。
「さあて。俺の予想は、ビンゴかな?」
クククと清人は笑った。


緑川は、やっと探し当てた城田と対峙していた。忽然とマンションから姿を消して、大学にも姿を現さない城田を探して、もう一週間が経っていた。
金で人を動かし、ようやく城田の居場所を突き止めた。
城田は大堀組の手が届かない町で、長いこと遊び呆けていたのだ。
「いつまでこんなことやってんだよ!」
「なんだよ。なに怒ってる。羨ましいならば混ざれ。乱交大歓迎」
ケラケラと笑って、城田は隣に座るホステスの膝を撫でた。
「やん。城田くん。ところで、だあれ、あの子。お友達?かっわいい」
ホステスの一人が緑川を見て、頬を染める。それにムッとしたように城田は鼻を鳴らす。
「やめときな。アイツ、俺より女好きで、14歳の時に女孕ませた犯罪者だから」
「ええっ」
ホステスがびっくりしたように緑川を見上げたが、フフッと笑った。
「そっかぁ。もう他の女のモノなのねぇ〜。残念!じゃ、早苗はやっぱり城田くんでイイ!」
「だろ。俺だよな、やっぱり」
ハハハと笑いながら、城田は女の子とじゃれあう。
「城田」
「るせえな。混ざる気がねえならば、帰れ」
パタッ、と城田は女の子の膝に倒れこむ。緑川はそんな城田を冷やかに見下ろしながら、ホステスに向かって訊いた。
「何本飲ませた?」
「あら?そうね。何本かしら?お客さんもボトルいれてくれたら、早苗教えてあげる」
フフフ、と女は、こなれた笑みを浮かべて緑川を見つめていた。緑川は、そんな女を一瞥しながら、尻ポケットに手を突っ込み、財布を取り出した。
「あら?」
おどけたしぐさをしていた女の目がたちまち見開かれた。緑川の掌からは、この国の最高額紙幣が、ハラハラと零れていく。女の膝の上に頭を乗せていた城田も、床に落ちていく最高額紙幣を、ジッと見つめていた。そのうちに、緑川は財布の中身の札を全て取り出すと、女に向かって投げた。
「きゃっ」
女がびっくりして声をあげた。ヒラヒラと札は宙を舞う。
「そこを退けッ!」
緑川が言うと、女が弾かれたように、席を立つ。当然のように、城田の顔はドスン、とソファにめりこんだ。緑川は、ソファにつかつかと近寄った。酔いのせいか、ぐったりとソファにのめりこんだままの城田だった。
「城田」
緑川はそんな城田に声をかけた。だが、城田はソファからピクリとも動かない。
「城田」
緑川は、城田を起こそうと腕を伸ばした。その瞬間だった。ブンッと腕は振り払われ、城田が起き上がった。城田の瞳は正常だった。いつものように、強い光を秘めている。
「!」
緑川は目を見開いた。コイツは酔ってねえ!と思った。案の定、城田は金色の髪を無造作にかきあげると、緑川を見て、ニヤリと笑った。
「酔えねえよ、歩。どんなに飲んでも、酔えねえんだよ」
そのまま城田は緑川の腕を掴んで、ソファに押し倒すと、その唇にキスをした。
「?!」
店の中が、ザワリ、とざめわいた。
「違うって・・・」
城田は唇を離すと、緑川を見下ろしながら、小さく呟いた。
「え?!」
緑川が訊き返す。
「違うって言えよ・・・」
「なんだと?」
「違うって言えよっ!」
「城田?」
「ああ・・・、ちきしょうッ。幻が消えねえっ!」
そう言うと城田は、バッと緑川から離れると、店を飛び出していく。
「待て。城田、待てっ!」
緑川も俊敏に城田の後を追った。
「城田ァッ」
いつもの緑川ならば、城田には決して追いつけない。だが、多少なりとも酒を飲んでいる城田は、いつもの感覚を失っていたようだった。少し走ったところで、緑川は追いついた。緑川は、城田の襟元を掴んで、そのままグイッと路地裏の壁に押しつけた。
「てめえは!女から女を転々としてなにをやってやがるんだ」
ハアハアと息を荒げながら、緑川は城田に向かって、怒鳴りつけた。
「るせえよ」
チッと城田は舌打ちした。
「てめえらしくもねえだろ!バカやる時はいつも俺が一緒だったじゃねえか!なんで一人でこんなに荒んでるんだ。なにがあった。話せ、城田っ」
「やだね」
城田はフンッとまるで拗ねた小娘のようにそっぽを向いた。
「てめえ!俺がどんなに心配してたかも知らねえでっ」
「俺の心配をするならば、少しは晴海のことを気にかけてやるんだな」
いきなりそう言われて、緑川は目を剥いた。
「関係ねえだろっ!」
すると、城田はキッと緑川を睨んだ。その眼光の鋭さに、緑川はピクッと竦み上がった。
「歩。俺はおまえのことが好きだぜ。でもな、おまえを見てると、時々苦しくなる。おまえは、似ているんだよ。俺の母親にな。親で在りながら、自分だけの恋愛世界に生きちまっていたあの女にな。おまえはいいかもしれねえが、ガキはどーすんだよ。母親から離されて、ガキはおまえに託されているんだぜ?俺みたいなガキにするな、と言った筈だ」
城田の言葉は、グサリと緑川の心を貫いた。緑川の拳がブルブルと震えた。城田のトラウマが、母親だということを緑川は充分に知っているからだ。
「し、仕方ねえだろ・・・。仕方ねえじゃん。誰よりも。だって、誰よりもおまえのことが好きなんだからっ!親だからって、恋しちゃいけねえのかよっ!!」
バンッと緑川が壁を叩いた。城田は、ゆっくりと腕を組んだ。
「ああ、仕方ねえよな。それはわかってる。仕方ねえけど、好き。すごくよくわかるんだよ・・・。だから、おまえのこと、好きって言ったろ。嫌いにはなれねえ」
「・・・城田」
城田はクシャッと緑川の頭を撫でた。見下ろすその視線は、穏やかだった。
「惚れてるヤツがいる。惚れても、どうにもならねえ相手だ。だが、どうしようもないほど惚れている。師匠が言ったよ。惚れぬも地獄。惚れるも地獄。同じ地獄ならば、おまえはどっちを選ぶってな。俺は簡単に惚れる地獄を選んだが、想像以上に地獄だったぜ。酔えば少しは解放されると思っても、ちっとも酔えねえ。どんなに飲んでも。どんなに女を抱いても。俺の心はちっとも満たされない」
城田の告白。緑川は目を見開いた。驚きが、じょじょに怒りに変わる瞬間が、確かにその時、緑川の心の中には在った。
「誰なんだ!おまえがその心に抱えているヤツは、一体誰なんだ・・・!?」
「・・・」
緑川は城田の胸を乱暴に拳で叩いた。
「誰だよっ!ソイツ、ぶっ殺してやる!あの女か?!連橋の女だった、あの髪の長い女か?」
興奮する緑川と対照的に、城田は冷静だった。静かに首を振る。
「亜沙子じゃない。彼女じゃねえよ」
「じゃあ、誰だよっ。おまえをそんな風に狂わすのは、どこのどいつだよっ」
フッ、と城田は笑った。笑いながら、緑川の腕をグイッと引っ張った。
「し、城田。なんだよ、離せっ」
城田は路地から出ると、メイン道路に出て、タクシーを拾った。
「さあ、帰れ。おまえには緑川晴海の父で生きて欲しい。俺はおまえと今のままでいたい。おまえは、いいダチだよ。心配してくれて、ありがとな」
言いながら、城田は緑川を後部座席に押し込んだ。
「城田ッ」
緑川は精一杯抵抗したが、所詮、城田の力には適わない。
「もうムチャはしねえよ。ただ、一人にしてくれ・・・」
そう言って、行き先を運転手に告げると、城田は無理やり自動である筈の後部座席のドアを閉めた。


城田はタクシーを見送ってから踵を返した。さっきまでいた夜の街を反れ、城田はあてどなく歩いた。
あの日。
抱きしめた体の震えが、まだこの体に残っている。合わせた唇の熱さをこの体が覚えている。アイツに抉られた腹の傷が、疼く。まるでそれさえも恍惚に。勲章のように、誇らしげに、その傷は疼いて、知らせる。この体に刻まれた、連橋という男の存在を。


流は、留置中の志摩から、ジレンを譲り受けた。
今日は、その継承式だった。
「無敗の帝王と呼ばれたこの俺がこのザマじゃ、もうジレンを背負っていくのは無理だ」
志摩が妹睦美に託した言葉だった。そして、志摩は、自分が作り上げたものを流に譲り渡した。
賛否両論があったが、結局流は、ジレンを受け継いだ。
本人は「恥ずかしいからイヤだ」とかなり抵抗していたが、ジレンの頭としての継承式に臨むにあたっての特攻服はかなりの確立で流に似合っていた。連橋は口の端を緩めて、笑った。
海岸に、赤々と燃える炎は、新しくジレンを背負って立つ流を、頼もしく映しだしていた。遠巻きにそれを眺めていた連橋は、声をかけられて、振り返った。
「香澄ちゃん」
連橋を呼んだのは、流の幼馴染兼彼女である香澄だった。連橋は、香澄が手招いたので、ジレンのメンバー達を避けて、砂浜を歩いた。香澄の元へ辿りつく。香澄は、波打ち際にポツンと一人で立っていた。
「呼び出してごめんね」
香澄は言った。
「別にいいさ」
「・・・連ちゃん。私ね。充に、別れてくれって言われたの」
「え?」
唐突に切り出された言葉に、連橋は眉を寄せた。
「ジレンの頭になる責任は、おまえにも付いてくるって。だから、危険だから、別れてくれってさ」
アハハと香澄は笑う。
「・・・」
黙り込む連橋を香澄はジッと見つめた。
「私ね。はっきり言って、アンタ嫌いよ、連ちゃん」
「!」
連橋はハッとしたように、香澄を見た。
「ずっと前から嫌いだった。そして、今日最高に嫌いになったわ。私、充とは別れたわよ。それがヤツの望みだからね。悲しいことに嫌いにはなれないのよ・・・。充には嫌われたくない。だから、別れたの。でもね、その前に連ちゃんに一言言わなきゃってさ」
香澄は、フッと笑った。
「昔の充は、私を守る為に、危険をおかしてくれた。でもね。今の充には、それが出来ないの。それはどうして?と思うと、単純に、もう私のことを守れないからなのよね。充には、他に優先的に守るべき人がいるから」
香澄と連橋の視線がきつく交差した。
「連ちゃん。他の誰が違うと言っても。私は違うとは思わない。充は、連は楽な道を選ばなかったってよく言っていたわ。でもね。アンタは、一番楽な道を選んだのよ!人を憎むという、復讐するという道をね。憎むことは、許すことより簡単でしょ?アンタが楽な道を選んだ故に、他の人は、皆困難な道を行くのよ!」
香澄の言葉は、連橋の胸をグサリと突き刺した。
「自分の我侭で、他の人間がどれほど苦労しても、アンタは自分の意見を変えない。悪いけど。私から見れば、アンタは愚か者。でも、そんなアンタに惚れた充は、もっと愚か者ね」
連橋は唇を噛み締めた。愚かだとは知っていた。それは今更の意見ではない。だが、自分が楽な道を選んだのだ、とは初めて言われた言葉だった。そして、それは真実を言い当てている、とも思った。
「・・・」
言い切って、香澄は、目を閉じた。が、しばらくの後、香澄は目を開いた。その目は涙に潤んでいた。連橋はそれに気づいて、唇を噛んだ力を緩めた。
「今からでも遅くないわ。引き返しなさい。アンタは間違っているのよ」
連橋は自分の足元に視線をやり、香澄から目を逸らした。
「連ちゃん!どうしたのよっ。なんとか言いなさいよ。私から目を逸らないで。なんとか言いなさいよっ。反論するならば、すればいいでしょ!」
香澄の目から涙が溢れた。僅かな沈黙の後、連橋は顔を上げた。金色の前髪をかきあげる。
「反論はしねえ。香澄ちゃんの言うとおりだ。俺は確かにバカだが、これでも悩んだ。何度も、何度も悩んだ。それでも、どうしても、香澄ちゃんの言う困難な道を選ぶことが出来なかった。楽な道を選んでしまった。愚かだと思う。だけど、俺は過去を消せない。未来はこれから変えられても、過去は消せない。消してしまいたく、ない。俺は生きたいんだ。生まれてきたからには、望むままに生きたい。それが、人から見ればどんなに迷惑で愚かな生き方でも・・・」
「連ちゃん・・・」
「周りにいるやつら。出来れば巻き込みたくはねえ。迷惑はかけたくねえ。そう思ってる。嘘じゃない。けど。どうしても、一人。一人だけ。失ってしまいたくねえヤツがいる。ソイツは、俺がどんなバカで愚かなヤツかもすべて知っている。それでも。ソイツは、俺と共に生きてくれることを選んでくれた。俺の生き様を見届ける、と。一度はソイツを逃そうと思った。安全な場所へな。だけど、その時、ソイツは言ったんだ。見届ける、と。その言葉をおまえは了承したんだから、俺を安全な場所へ逃がすな、とも。だから。俺はもう二度とソイツを裏切らない。裏切れねえんだよ」
スウッと連橋は息を吸った。そして、香澄の目をまっすぐに見つめて、連橋は言った。
「流を、俺に、くれ。俺にはアイツが必要なんだ。流を・・・。俺に、くれ」
香澄は目を見開いた。そして、次の瞬間、香澄は連橋の頬をパアンッと叩いていた。香澄は、一切容赦のない勢いで連橋を引っ叩いた。連橋の左足が、ザクッ、と後ずさった。
「交渉・・・決裂ね」
香澄は、小さく呟いて、グイッと掌で目を擦った。
「ううん。交渉なんて、初めから出来る立場じゃなかったのよね・・・。私、知ってたわ。充が、連ちゃんのこと、どれだけ好きかってこと。本当はとっくに気づいていたのよ・・・」
「香澄ちゃん」
キッ、と香澄を顔を上げ、連橋をまっすぐに見上げた。
「貴方が嫌い。貴方は間違っている。訂正はしない。謝りもしないわ。私は思ってることを正直に言った。すっきりしたわ。でもひとつだけ感心したことはあるわ。貴方は逃げないのね。強いわ。それだけは、立派なことだと思う」
すっきりしたかのように、香澄は笑って、言った。ピクリ、と連橋の肩が揺れた。
「違う。逃げてえことだって・・・、ある。今だって、逃げてることはある。俺は全然強くねえよ」
連橋の語尾がかすれた。香澄はそれに気づいた。香澄は首を振った。
「貴方は、私が惚れた男が、惚れた男よ。そんなにヤワじゃないでしょ。今逃げてることも、連ちゃんならば、いつかきっと、立ち向かう。私とこうやってまっすぐに対峙してくれたようにね」
サクッ、と香澄が砂を踏みしめた。
「さようなら。送ってくれなくていいわ、充」
香澄がそう言ったので、連橋は、ハッと振り返った。僅かな距離を隔てて、さっきまでは炎の向こうで大勢の人々に囲まれていた流が、立っていた。
「連ちゃん。充を貴方にあげる。大切にしてやってね。バイバイ」
サクッ、サクッ、と香澄は砂を蹴り、走っていく。流と香澄は至近距離で擦れ違ったが、流は、香澄に声をかけなかった。香澄も、声をかけられることを期待している風もなく、躊躇なく流の横を駆け抜けて行った。
「・・・」
流は香澄を振り返らなかった。振り返らずに、まっすぐに連橋の傍へと歩いていく。風に、長い特攻服の裾が揺れていた。連橋は、流がこちらに向かって歩いてくるのをジッと見つめていた。闇の中、月灯りだけが二人を照らし出す。その灯りの下で、二人の視線が交差した。あと数歩で流が連橋の傍らに辿り着く。そんな時だった。連橋は、ふっ、と微笑んだ。流は、その笑みを見て、笑みを返す。
「流」
連橋が流を呼んだ。
「なんだ?連」
流が応える。
「おまえが欲しい。今すぐ」

続く
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