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****3部10話***
「ヤバイ。小田島。城田と緑川がジレンのやつらと一緒にパクられたようだ。城田のヤツ、珍しく沈められたみてーで、動けないでくたばっていたらしい。そこへ緑川が駆けつけたらしく・・・」
車内電話を受けて、淺川が助手席の小田島を振り返った。
「緑川のヤツ。戻りやがったか。ったく。アイツの城田バカにも呆れるもんがあるよな。48時間以内に釈放させろ。手段はおまえに任せる。使えるものは、全部使え」
「了解。志摩と流はどうする?志摩に関しては、叩けば埃が出るから、ある程度のところまでは引っ張られるぜ」
「志摩なんか問題じゃねえよ。問題は流だ。ヤツをどこまで留置出来るか。それが問題だ」
「出来る限り、伸ばそう」
「頼む。で。連橋は大丈夫なのか?」
「さあ。どっちみち、ヤツがパクられていても、48時間内に出しゃいいことだろ」
「あれだけ大勢引っ張られているんだから、ま、どっちみちサツは大パニックだろうさ。ざまあみろ」
クククと小田島は笑った。
「おまえも手段は選ばねーよな。たかが連橋の為だけにさ。水上にも相当怨まれるぜ」
「知ったことかよ。んなの」
淺川は、やれやれと溜め息をついた。
「淺川。このまま俺のマンションへ向かえ。連橋は、必ずそこへ来させるように仕向けてあるから」
「へいへい。小田島。おまえ、エイズで死ぬなよ」
「余計な世話だ」
こっちはやることいっぱいで、バタバタ走り回らなければならないというのに、そっちは呑気にヤりたい放題かよ・・・と淺川は心の中で舌打ちした。金があるということは、本当にそれだけ、自由に好きなことがやれるんだな・・・と改めて淺川は思った。金さえあれば、解決しないことなど、なにもない。今の小田島を見ていると、そんな錯覚さえ起こしてしまいそうになり、なんだか途端に白けた淺川だった。
混乱する場を走り抜けて、連橋はズラリと並ぶ車の中、一台の車の前に辿り着いた。その白い車には、一人の少年が乗り込もうとしていた。だが、その少年は、ドンッと後から来た大男達に突き飛ばされて、車の外に放り出された。「すんません」少年はぺこぺこと頭を下げては車から飛び離れた。車は激しい音を立てて、暴走していった。少年は諦めて、他の車に乗り込もうとする。だが、やはり同じタイミングで、逃げ惑ってきた男どもに弾き飛ばされてしまう。連橋は、思わず状況も忘れてその様子を眺めていた。3台目に乗り込もうとした少年だったが、また同じ目に遭う。「すんません。どうぞ、お先に」と言う少年に、無論礼の言葉など返ることもなく、男達は少年を押しのけて、逃げていく。のろのろと、四台目の車に乗り込もうとしていた少年だったが、また男達が走ってくる。きりがない・・・と連橋は思った。なに、グズグズしてやがる・・・と焦れた。
「どけっ」
少年を突き飛ばして、男達が車に乗り込もうとした。さすがにその光景で、連橋は切れた。
「ちったあ、遠慮しやがれよ。こっちが先だろうが!てめえら」
ドカッ、と連橋は、運転席に乗り込もうとしていた男を殴りつけた。男が吹っ飛んでいく。
「見てりゃさっきから、横入りばっかりしやがって。おい、てめえ。てめえもなにグズグズしてやがる。こーゆー場合は、先輩後輩ねーんだよ。遠慮してねえで、乗り込め」
車に乗り込み、連橋はガアンッ、とアクセルを踏み込んだ。
「は、はい」
自分に言われたのだと気づき、少年はうなづき、機敏に助手席のドアを開け、滑り込んできた。
「素早いじゃねーかよ。さっさとその調子で逃げればよかったんだ」
「はい。でもやっぱり、下っ端の俺が先に逃げちゃ・・・」
「んなの関係ねーんだよ。サツが来たら逃げるのが常識だろ」
「そ、そうですよね」
おどおどと少年がうなづいた。
「あ、あのすみません。サンドヴィの方ですか?」
「あ?いや、違うけど」
そういや、こっちの陣地は小田島とサンドヴィの合流チームだった・・・と連橋は思った。とにかく場を逃げ切る為には、味方・敵構うこっちゃなかった。利用出来るものは、全て利用しろ、と志摩にもそう教育されていた。
「すみません。じゃあ、小田島さんの・・・。俺、まだ入りたてで皆さんの顔覚えてなくって」
小田島の奴らと一緒にすんなよ・・・と連橋は思ったが、今ここで「ジレンだよ」と言ったところで、殺伐とするだけだ・・・と思って誤魔化す。
「いいけどよ。ところでおまえ、幾つ?」
「16です」
「ふーん。どうりで小さいと思った。おい、後ろ見てくれ。平気か?」
「あ、はい。大丈夫です。サツ、ジレンのやつらをパクるのにパニくってるようですから」
「・・・」
連橋は思わず目を伏せた。流と志摩はともかく。睦美のことが心配だった。あの女は、無事逃げ切れただろうか・・・。
「危ないですよ。前見て」
「う」
クッ、と連橋アクセルから足を浮かせた。
「すまね。ちょい余所見してた」
「い、いえ。こちらこそ、助けてくれてありがとうございました」
「見ててじれったくなっちまっただけだ。助けた訳じゃねえよ」
それに、俺も逃げなきゃならなかったし・・・と連橋は心の中で呟いた。
「右と左にいく奴らがいるけど、どーする?」
「俺はどっちでも構いません。先輩のお好きなように・・・。あ、あの。お名前は・・・」
おずっと少年が訊いてきた。
「・・・言わなきゃいけない?」
「あ。い、いえ。別に」
ブンブンと少年は首を振った。
「城田・・・だったりしたらどーする?」
「え?し、城田さん・・・ですか?」
「緑川でもいいけど」
揃ってバカな小田島連中の名前を連橋は挙げてみては、少年の反応を待つ。
「からかっているんですか?幾らなんでも、お二人のことぐらい、俺だって知ってますよ」
「お二人と来たかよ。オイオイ」
連橋は、クスクスと笑った。
「か、からかわないでください、マジに」
連橋の笑いにムキになって少年は言い返してきた。
「ワリー。ちょいマジおかしくて。なあ、おまえ。なんで、小田島のところになんか入ったよ?ヤツは、チーム組んでる訳でもないし、派手な走りはしねえぜ。もっとも悪いことやりてーだけならば、超オススメだけどな」
「別に走りたい訳じゃないですし、わりーことしたい訳でもねえっす。ただ。俺は・・・」
「なに?」
「憧れる人がいたからです。小田島さんのところに」
そう言った少年の言葉に、連橋はなぜか嫌な予感を覚えた。訊き返さないでおこうと思った。
「あ、そう」
「だから。城田さんの名前語るのだけは止めてくださいっ!」
うわ、サイテー・・・と連橋は舌打ちした。
「なにが、だから、だよ。意味不明だよ」
やっぱり・・・とは思いつつ、穏やかではいられない連橋だった。
「俺と兄貴。憧れているんですよ。だから、俺も金髪にしてるんですけどね」
てへへと少年は自分の髪を引っ張った。
「カッコイイんですから!って、知ってますよね?兄貴と俺、二人でファンなんです。ってゆーか。俺、兄貴に影響されているんですけどね。数年前、城田さんがジレンの連橋とやりあったところなんか、すっげえゾクゾクしたって兄貴興奮していたから、今日、やっと見れるかと思ったのに」
「へえ・・・」
ヒクッ、と連橋は頬を引き攣らせた。引き攣りたくもなる。挙句に、城田がカッコイイなど褒め称える言葉など聞いていてもちっとも愉快ではなかった。
「残念っすよ。城田さんのターゲットが、今回は流だって聞いて・・・。せっかく連橋との一騎打ち見れると思っていたのに。ギタギタに叩きのめしてくれると思っていたんスけどね」
少年の言葉に、連橋はピクッ、と反応した。
「ターゲットが流?なに、そんなこと聞かされていたのか?」
「ええ。淺川さんが、前もってそんなふうに言ってました。緑川さんが連橋を、って。先輩は、聞いてなかったんですか?」
「聞いてねえよ。それ、なんか意味あんのかよ?」
「時間稼ぎ・・・って言ってましたが」
「時間稼ぎ・・・???」
連橋には、なんのことかわからなかった。だが、なにか、動いている気がする・・・と思った。
「おい。俺、この先の交差点で降りるぞ。あとは、てめえで運転して、どこへでも行け。ただし、サツには気をつけろよ。無免なんだからな」
「わ、わかりました。あの、でも。送りますよ、先輩」
連橋は車を脇に止めながら、首を振った。
「いらねーよ。いいか、てめえ。今度またドンパチあったら、よく覚えておけ。ああいう場では、下っ端とか関係ねえんだよ。逃げるが勝ち。誰にも遠慮もするな。自分のことだけを考えろ」
「は、はいっ」
「よし。なら、いい。じゃあな」
ハンドルから手を離し、連橋は、車を降りた。
「ありがとうございましたあっ」
元気のいい少年の声が響いた。連橋はその声に僅かに苦笑したが、すぐに表情を引き締めた。なにか仕組まれている・・・。頭の片隅で警鐘が鳴り始めていた。
「ふう」
緊張から開放されて、少年は大きく息を吐いた。カッコイイ人だったな。おまけにぶっきらぼうだけど、優しい人だったな。あ、名前訊き忘れたと思いつつ、少年は、もそもそと助手席を降りて運転席に座ろうとしたところを、グイッと肩を掴まれて慌てて振り返った。
「おい。郷田」
「あ、姫島さん」
郷田は、見知った顔の先輩である姫島を見て、ペコリと挨拶をした。
「おまえ・・・。なんつーことしてんだよ」
姫島の顔が強張っていた。
「え?」
姫島の言葉に、郷田はキョトンとしていた。
「今の、パツキンのタッパのある男。ありゃ、ジレンの連橋じゃねーか」
「え・・・。嘘?!」
「なにが、嘘、だよ。ったく。知らなかったのかよ、オイ・・・」
呆れたような姫島の声に、郷田は背筋がゾーッとしていくのを感じていた。
連橋は交差点を走って、しばらく歩いてはタクシーを捕まえて、アパートに戻った。そして、愕然とした。亜沙子の部屋のドアが開いたままだった。覗きこむと、誰もいない。
「亜沙子?ひーちゃん」
こんな真夜中に、亜沙子と久人がどこかへ出かけることなど有りえない。ましてや、部屋のドアを開けっ放しなどと。連橋は自分の部屋を開けた。だが、ここにも二人の姿はない。ハッとして、廊下を見ると、鮮血が落ちていた。
「・・・ちっきしょう。小田島かっ!」
経緯はわからない。だが、明らかに流を狙っていた城田と、誘導していた緑川。小田島側の参謀、淺川の言う「時間稼ぎ」。これと、亜沙子と久人の失踪が無関係ではない、と思った。
連橋は、慌てて亜沙子の部屋に入り、アドレス帳を掴むと、アパートの下にある公衆電話に走った。震える指でダイヤルする。真夜中なのに、小田島の家の電話はすぐに繋がった。しばらく待たされて、電話がどこに転送されたようだった。
『なんだよ』
けだるい小田島の声が受話器の向こうから聞こえた。
「てめえっ!亜沙子と久人をどこへ連れていきやがった!!」
受話器に向かって連橋は怒鳴った。怒りで受話器を持つ手がブルブルと震えた。
『返して欲しけりゃ、取りにこいよ』
「どこへっ」
『俺のマンションだ』
「知らねーよ。てめえのマンションなんてっ。どこにあんのか、なんてっ」
『知らなければ、迎えをくれてやる。おとなしく、アパートの前で待ってな』
そう言って電話が切れた。一体なにがあったのか。あれほど、亜沙子には注意をしろと言っておいたのに。廊下に落ちていた血痕が、気になって仕方ない連橋だった。電話ボックスを出ると、まるで待っていたのように、黒塗りの車がやってきた。
待っていたのだ。と連橋は思った。これは、小田島が仕組んだことだ。サツを呼び寄せたのも、小田島の作戦だったのだ。改めて、連橋は小田島の執念深さにゾッとした。
黒塗りの車に乗り込み、連橋は後部座席で、目を閉じた。自分の身に起こることは容易く想像出来るが、亜沙子と久人と志摩と流と睦美。この5人がどうなってしまうのかが想像もつかなかった。
自分の身に起こることならば、どんなことにでも耐えようとは思うが、この5人に襲い掛かる小田島の牙が、恐ろしかった。
「無事でいてくれ・・・」
連橋は思わず呟いていた。
志摩と流は留置所へ。睦美は兄の導きにより、無事逃げた。亜沙子と久人は、城田のマンションに監禁された。そして。連橋は、小田島のマンションへと連行されていこうとしていた。
続く
次回こそ、赤でございます(汗)かなり鬼畜エロを予定してます(笑)
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