連橋優(レンバシ・ユウ)・・・近所の会社に就職。社会人一年目。18歳
城田優(シロタユウ)・・・・某大学一年
小田島義政(オダジマ・ヨシマサ)・・・・某大学一年
町田久人(マチダヒサト)・・・連橋の恩師の遺児。
*****************第2部12話**************
開かれた車のドアを蹴飛ばしながら、連橋は後部座席に乗り込んだ。小田島はタバコを手にしながら、乗り込んできた連橋をジッと見つめた。
「どこ行く予定だよ」
連橋はドアを閉めなかった。ドアは開いたままだ。運転席に座っていた小田島の舎弟らしき男が舌打ちしながら席を立ち外に出て、連橋の脇のドアを閉めてまた戻ってきた。
「遊び場だって言ったろ」
小田島はボソリと言った。
「なにして遊ぶの?」
連橋は、急発進した車の動きに僅かによめろきながら、前を向いたまま訊く。小田島も、もう連橋を見ていずに、すぐ傍の窓の外を眺めていた。
「ナニして遊ぶの」
クククッと小田島は笑った。連橋もすぐに笑った。
「おまえさ。俺と遊びたいならば、素直にそう言って誘えよ」
「素直にデートに誘えば、おまえ来てくれたのかよ?」
「勿論、喜んで」
連橋は笑った。自分で言った言葉が相当受けたのか、連橋は堪えきれないとばかり笑った。
「てめえ・・・」
窓の外に視線を投げていた小田島は、連橋を振り返った。そして、ギョッとする。
連橋の手にはいつの間にか、ナイフが握られていた。その切っ先が、小田島の頬を掠った。
連橋の怒りに満ちた目が、小田島をまっすぐに見つめている。
「山本。前の城田の車に電話しろ。今すぐガキぶっ殺せって」
小田島が語尾を震わせながら言った。山本と呼ばれた男は、バックミラーをチラリと見ては慌てて車載電話に手を伸ばした。
「冗談に決まってるだろ。小田島クン。なにびびってんだよ」
パチンと大きな音を立てて連橋が、ナイフをおさめた。そのナイフを小田島が右手で振り払った。助手席のシートに当たり、ナイフが連橋の足元に転がった。
「生意気なことすんじゃねえっ」
声と共に、小田島は連橋の顔を殴りつけた。バキッとねじくれた音が車内に響いた。ナイフと同じように、連橋の体が助手席のシートにぶつかり、また後部座席に戻ってきた。手をついて、連橋は体を支えた。キッと小田島を睨む。
「いいか。妙な真似しやがったらマジにあのガキ、ひねり殺すぞ。うちにはな。人、一人殺しても代わりにムショ入れるやついっぱいいるんだ。脅しじゃねえぞ、連橋」
叫びながら、小田島は連橋の金色の髪を掴んだ。
「脅しじゃねえのはわかってるぜ。てめーならばやんだろうよ。つーか、もうきっちり人殺してンもんな。前科がある。さすがに人殺しの脅しは迫力あるぜ。なあ、小田島」
連橋は、殴られた頬を指で押さえながら、苦笑する。
「わかってんなら、こーゆーオテンバなことすんなよ。せっかく俺が、おまえと遊んでやろうとしてんのにさ。気持ちよく泣かせてやろーって言ってんのによ。嬉しくて興奮する気持ちはわかるけど、次はねえぜ。抵抗したら、ガキ殺す」
小田島は、長い足でナイフを踏みつけながら、連橋の頭を引き寄せた。
「!?」
また殴られる!と思って連橋は咄嗟に目を瞑った。だが、殴られたのではなかった。小田島は、ガブッと噛み付かれるようなキスを無理矢理連橋に押し付けた。
「くっ」
僅かな呻きと共に、連橋は小田島の唇を受けた。小田島が、舌を絡めようとしてグイッと体を伸ばして連橋の体に寄りかかった。そのせいで連橋はそのままシートに転がった。運転席の山本は、静かになってしまった後部座席をチラリとミラーで見ては、鼻歌を歌い出す。
「おい。まだ着かねえのかよ。早くしろ」
気が済むまで連橋の唇を貪った小田島は、顔を上げるなり山本に怒鳴った。
ヒッと山本は肩を竦めると、ハンドルを持った手を震わせながら、
「すんません。あと少しです」
とビクビクと答えた。
「嬉しくて興奮してンのはてめえだろうが・・・」
体の上から退いていった小田島を横目で見ながら、連橋は思いっきり唇をゴシゴシと擦って呟きながら体を起こした。
10数分後に車は停車した。おろされた場所には来たことがあった。連橋は、そのマンションを見上げて唇を噛んだ。あの晩、ここで亜沙子と俺はコイツにレイプされた。祭りの夜の後のことだった。
「懐かしいだろ。おまえが初めてオンナになった思い出の場所だぜ」
先を歩いていた小田島は連橋を振り返りながら、薄笑いを浮かべている。
「・・・」
連橋は綺麗さっぱりそんな言葉は無視して、歩き出した。
「久人に会わせろ。あんな狂犬と久人が一緒じゃ心配だ」
「確かにな。ヤツは狂犬だが、俺の命令には忠実だ。俺が命令しなきゃ、アイツはてめえの大事なガキには手を出さない。けど、命令すりゃ・・・。結果はわかってるだろ。あいつは俺の代わりにムショ入ることも死刑になることも厭わないんだ」
小田島は、オートロックシステムを解除して、鍵を差し込んでいる。
「狂ってるな。てめえの代わりにムショだの死刑だの。城田はMか。あほくせ」
連橋はジーンズのポケットに両手を突っ込みながら、足元の白々しいタイルを眺めていた。
ドアが開き、少し歩くとエレベータホールだ。エレベーターが降りてきて、二人はそれに乗り込んだ。当然のごとくの沈黙だったが、小田島は僅かに自分より背の低い連橋の頭をチラリと見た。エレベーターの中の緩やかな灯りが、連橋の金色の髪を照らし出している。時折りキラリと輝くその髪を見つめながら、小田島はゆっくりと舌で唇を舐めた。
玄関をぬけると、一番手前にあったキッチンには城田が座っていた。その膝にはちょこんと久人がいる。
「にーちゃん!」
久人は、部屋にあがってきた連橋を見て、城田の膝から降りようとした。
「久人」
連橋が手を伸ばす。久人の様子は先ほどから変わっていない。殴られても叩かれてもいないようだった。それどころか、城田相手にまるで警戒もしていないようだった。そんな久人の様子に、連橋もホッとした。とりあえず今のところ久人は無事だ。だが、伸ばした連橋の腕は、当然のごとく城田に妨害される。ビシッと弾かれた。
「安心の再会の前に、ヤることあんだろ。おつとめ果たしてこいよ。ベッドは綺麗に整えてあるから」
城田は久人の肩を押さえつけていて、膝から降りられないように力を込めていた。
「飴のにーちゃん。痛いよ。おひざからおりたい」
久人はキョトンとした顔で、城田を見上げている。
「ひーちゃん。おまえのにーちゃんはな。ちょい、あっちのにーちゃんとお話があんだよ。すごく大切なお話。時間かかる。だからな。それ終わるまで、俺と遊んでいようぜ」
信じられないくらいに優しげな顔で、城田は久人の頭を何度も撫でながら囁いている。連橋は、城田のその豹変ぶりに唖然となってしまった。そして思う。幾つものツラを持つヤツだぜ・・・と。
「ほんとなの?にーちゃん」
久人はチラリと連橋を見上げた。連橋はうなづいた。うなづくしか、なかった。
「先行ってるぜ」
小田島は、フンッと鼻を鳴らすと歩き出した。キッチンのドアを開け、広々とした居間を通り抜け、ベッドのある寝室のドアを開けて入ってしまった。城田は、椅子に片足をひっかけて、連橋をチラリと見上げた。
「突っ立ってんなよ。さっさと行けば。けどさ。早めに切り上げてくれよ。俺、ガキと遊ぶの慣れてねえからサ」
言いながら城田はタバコに火を点けた。
「久人に手を出したら、ぶっ殺すからな」
「そりゃおまえ次第だろ。おまえが、俺の可愛いお姫様に下手なことしたら、お姫さんからすぐに連絡が来るようになっている。そしたらさ」
ガッと城田は久人の頭を両手で掴んだ。そして、その頭を左右に振った。
「にーちゃん。なんだよ。やめてよ」
久人が、驚いた声をあげる。
「このままコキンと首へし折るぞ」
城田は目を細め、連橋を見た。
「てめーのお望みどおり、おまえのお姫様たっぷり可愛がってやるぜ。だから、久人には手を出すな。絶対だ」
「勿論さ」
パッと城田は久人の頭から手を離して、久人を抱き上げて、自分と向かい合わせた。
「ごめんな、ひーちゃん。痛かったか?」
その顔を覗きこんで、城田はにこっと笑った。
「いたいよ。当たり前じゃないか」
久人は城田の頭をペシペシと小さな手で叩いている。城田は笑っていた。連橋は、チッと舌打ちすると、城田の腕の中の久人の肩に触れた。
「ひーちゃん。ちょっと待っててな。すぐ戻ってくるからな。そこのにーちゃんになんかされたら、大声で俺を呼ぶんだぞ。わかったな」
「うん」
久人はおとなしくうなづいた。なにもわかっていないのだから、仕方ない。久人が、命を助けてくれたという城田に面識があり、飴のにーちゃんと懐いていることが、そもそも因縁めいている。もしそんなことでもなければ、久人はこうして落ち着いて城田の腕の中にいることはなかっただろう。連橋が傍にいなければ、不安だった筈なのだ。
「頑張ってね」
城田はニヤニヤしながら、足で連橋の右足を蹴った。
「途中で参加してくんじゃねえよ」
蹴り返しながら、連橋は城田を振り返った。
「するかよ、バカ。でも。おまえが義政ので足りねえって言うならば、協力してもいいけどな。物足りなかったら、いつでもリクエストしてくれよ。駆けつけてやるぜ」
「死にな」
バンッと連橋はキッチンのドアを閉めた。居間を通り抜ける。シンと静まり返っている空気。小田島が入ってた寝室の手前にもう一つドアがある。連橋は、そっとその部屋のドアを開けた。誰もいない。使われていない部屋のようで、家具は一つもなかった。グルリと辺りを見回す。静かだった。どうやら、このマンションには、城田の他に舎弟はいないようだ。拳を握りしめ、連橋は寝室のドアを開けた。小田島はベッドの上に横になっていた。
パタンと連橋は後ろ手でドアを閉めた。小田島は起き上がると、ドアの傍に立ったまま動かない連橋を見つめた。連橋の視線は、グルリと部屋を見回している。広い部屋にはベッドしかない。小さな窓はあるが、そこには重々しくカーテンがおりている。部屋を照らす灯りは、ベッドサイドに置いてあるテーブルに乗っかった妙にアンティークな小型の室内ランプだった。薄暗い。
「なに警戒してんだよ。言っておくけど、なんの仕掛けもねえぜ。こっちには絶対の切り札があんだ。多少てめえが警戒したとこで痛くも痒くもねえよ。ただな。ちょい殴られるのは想像出来るけど、生憎俺も婿入り前の大事な体だ。傷つけられたくねえし」
笑いながら小田島は、ベッドサイドテーブルにおいてあったものに手を伸ばした。
「どっちがいい?」
ニヤニヤと笑う小田島。小田島の手には、紐と手錠。
「てめえ。んな趣味あんの?」
連橋は口の端をつりあげた。
「悪いけど、俺だって痛いのは勘弁なんだよ。そんなの、いらない。おまえの言うとおり、久人が城田の手の中にある以上。俺は絶対に抵抗出来ない。だからサ」
連橋は着ていたTシャツを脱ぎながら歩いていく。バサッと床にTシャツが落ちた。連橋は上半身裸のまま、小田島のいるベッドに向かっていく。歩きながら、連橋は自らジーンズに手をかけて、ファスナーを下ろした。そして、勢いよくジーンズを下着ごとおろした。足首にからまったジーンズを抜き去る時、連橋は自分の体が微かに震えていることに気づいた。一瞬、手が止まった。だが、躊躇っているところを小田島に気づかれるのは悔しいので、なにごともなかったようにきっぱりとジーンズを足首から引き抜いた。
「おまえに抱かれてやる。さっさと来いよ。俺の気が変わらねえうちにな」
そう言って、連橋は、ベッドの端に腰掛けてパサッと前髪をかきあげた。
「・・・潔いじゃん・・・」
小田島は、手にしていた手錠と紐をバッとそこらに放り出し、自分も服を脱ぎ捨てた。そして、獣が獲物に飛び掛るような素早さと荒々しさで、連橋の体を、綺麗に整えられたシーツに押し倒した。
「んっ」
小田島は、連橋の体の上に乗り上げ、まず無我夢中で連橋の唇を貪った。さっき、車の中でしたようなキスを、何度も、何度も飽きることなく連橋に仕掛けた。連橋は、途中息苦しくなって、本気で咽せた。吐いてしまうかと思ったぐらいだった。そんなキスをしながら、小田島は、剥きだしの無防備な連橋の乳首を指で擦りあげていた。小さな2つの乳首は、小田島の指に擦られ、時に親指で円を描くように弄ばれ、尖りきっていく。その尖った乳首を、小田島は、舌でペロリと舐めた。ビクンッと連橋の体が震えた。小田島の左手は、連橋の乳首から離れ、体の線をなぞるように胸から脇腹、ウェストを撫でていた。連橋の、男にして細い腰のラインで、小田島の指が止まり窪みを楽しむかのように悪戯に弄くりまわしてる。
「オンナの腰みてえ」
小田島が呟いた。
「なんでこんなにくびれてんだよ」
うっとりするかのような小田島の声に、連橋はゾッと体を震わせた。その震えが小田島に伝わったのか、小田島は薄く笑い、バッと連橋の左足を抱えた。連橋は、思わず目を閉じた。
「へへ。すっげえ久し振りだな。おまえの穴」
マジマジと連橋の秘穴を小田島は覗きこんでいる。そしてその小さな穴を、小田島は指で突ついた。
「けど、どうせ。てめえは手当たり次第、流とかとサカッてたんだろうけどな」
片手で、準備よろしく枕の傍に置いてあったローションを取ると、親指で蓋を弾き開け、小田島はそれを自分の右手の指に垂らした。いったん拳を作って握りこみ、そして指を開くと、糸が引くくらいに全ての指はベタベタになっていた。それに満足すると、小田島はローションを放り投げ、連橋の足を掴み大きく開かせ、その秘穴にあてがった。ビクッと連橋の体が竦みあがった。ローションの冷たさが、肌に染みたのだ。
「っ・・・あっ」
一本。指が挿入される。乾いた穴が引き攣れるように、異物の挿入を拒んでいる。痛みだ。連橋は首を振った。指一本でもきつい。
「いてえ・・・」
「嘘つくんじゃねえよ」
「いてえよッ」
「たかが指一本で、音あげるような穴じゃねえだろ。咥え込むのが好きなくせに」
そう言いながら、小田島は指を一気に3本に増やした。ズブリ、と音がするかのようだった。
「ひっ。あ」
ググッと、穴が広がり、連橋は呻いた。恐ろしいぐらいの圧迫感と痛みに、連橋は目の前が一瞬真っ白になった。こんぐれえで・・・。そう思ったが、体を苛む痛みは尋常じゃなかった。次に来るのがこんな指どころじゃない大きさであることはわかっているからこそ、これぐらいでどうにかなる訳にはいかなかった。だが・・・。
「ん、あっ。ああっ」
グプグプと指が、中で動いた。グリグリと弄られる。連橋のつま先がぶるりと震えだす。
「ほらほら。すっげえぜ。本領発揮」
自分の指に吸い付いてくる連橋の中の熱さに、小田島はヘヘッと笑った。
「んっ。いって・・・」
連橋の喉がヒクッと仰け反った。小田島は空いた手で、連橋の勃起したペニスを握りこんだ。持ち上げて、裏を舌で舐めた。すると、早くも先端から雫が零れ落ちた。前と後ろを同時に攻められて、連橋の体はヒクヒクと小刻みに揺れた。
「尻に指いれられて、ソッコー前おったてられんだもんなあ。大したもんだよ」
小田島は感心したように呟いた。連橋のペニスを握りこみながら、小田島は秘穴を攻める指を速めた。
「あ、あっ」
マヌケな音を立てて、連橋の秘穴がヒクリヒクリと捲れあがった。真っ赤だ。いいように擦られて、濡れて光っている。
「フィストもいいかもな。てめえだったら出来るかも」
物騒な呟きをもらした小田島だったが、人差し指を中で屈曲させた瞬間
「ひっ。うっ!」
連橋が射精したので、舌打ちしながら指を引き抜いた。濡れた熱い指で、小田島は自分の完勃ちしたペニスに触れた。連橋は、開かされていた足を慌てて閉じながら体を丸めてしまい、射精の快感にシーツの上で喘いでいた。小田島は、そんな連橋を見下ろし、鼻を鳴らした。
「起きろよ」
「・・・」
小田島は、連橋の髪を掴んで、上半身を無理矢理起こした。
「今度は俺の番だ。咥えろよ」
そう言って、小田島は自分のペニスで、連橋の固く閉じた唇を突ついた。
「やだね」
払いのけ、きっぱりと連橋は言った。目元は既に潤んでいるというのに、連橋の口はハッキリと拒否の言葉を吐いた。
「それは趣味じゃねえ」
小田島は、一瞬キョトンとしたような顔になり、だが見る見る間にムッとした顔になった。
「趣味だ趣味じゃねえって言ってる状況かよ。わかってねえな」
「それだけ勃ってりゃ、十分だろ。咥える必要なんかねえ。さっさとぶち込んで、終われよ。俺は久人を連れて帰りたいんだっ」
「上等だな」
小田島は、連橋の髪を更にきつく握りこむと、ベッドサイドに手を伸ばした。受話器を持ち上げる。ブツッと回線が繋がった音がした。
「ガキ殴れ」
「!」
小田島は、にやつきながら、受話器を連橋の耳に押し付けた。しばらくの後に、受話器から激しい殴打の音が聞こえた。途端に、久人の泣き声が聞こえた。
「やめろ。城田、やめろっ!」
連橋は顔色を変えて、受話器に縋りついた。小田島は受話器を取り返す。
「城田。もういいぜ。ただし。ガキ捕まえておきな」
小田島はそう言いながら、連橋の唇にペニスを押しつけた。
「状況、わかったろ。・・・おとなしく、咥えろ」
小田島が連橋の耳元に囁いた。連橋は目を瞑り、小田島のペニスを口に含んだ。小田島は、相変わらず受話器を手にしたままだった。
「少しでもおかしな真似しやがったら、ガキがどうなるかわかってんだろうな」
脅し。連橋は、小田島のペニスに指を沿え、舌を使って、舐めた。このまま、コイツのコレを食い千切ってしまったらどんなに気持ちいいだろう。そう思った。小田島が腰を揺らす。喉を突かれて、連橋は小田島のペニスを吐き出す。
「ごほっ。うっ」
だが、すぐに頭を掴まれて、含まされる。ピチャピチャと淫らな音が響く。
「聞こえてるか?城田」
「聞こえてるよ」
「連橋が俺のしゃぶってるぜぇ。音聞こえるだろ・・・」
「良かったな。連橋の中はイイか?」
「すげえイイ」
「勝手にやってな」
ブツッと回線が途切れた。小田島は受話器を戻すと笑いながら、連橋の顎を掴んで、腰を突き上げた。連橋の喉を奥を突いた。
「!」
何度か連橋の喉を犯し、小田島はその口の中で射精した。
「!!」
吐き出そうとして開こうとした口を押さえつけられて、連橋は小田島の精液を飲み込んだ。
「アハハハハ。傑作だ。俺の、飲みやがった。ざまあみろ」
飲みきれなかったものが唇を伝い、連橋は、ガバッとシーツに突っ伏した。吐いた。口を押さえて、うずくまる連橋を背中から抱きしめて、小田島は連橋の耳朶を舐めた。顎を掴み、無理矢理顔を上向かせ、赤い唇を奪う。
「気持ちいいな。おまえを自由に抱けるって。すっげえ楽しい。すげえ楽しい」
まるで子供のように小田島は、無邪気に喜んでいる。連橋は、悔しさのあまり体が硬直してしまっていた。最初から考えていた。なにをされても堪えようと。だが。思った以上に小田島のを口に含まされたのはショックだった。あげくに飲まされた。悔しくて、悔しくて、涙が零れそうになった。
「ん!や。うっ」
小田島は、抵抗のなくなってしまった連橋の体に、あちこちにキスしたり乳首を弄くっていたが、それに飽き、連橋の秘穴をさっきから舌でずっと嬲り続けていた。小田島が塗りこめる唾液で、連橋の秘穴は、赤く染まっていた。ヒクヒクと蠢いている。
「ふ、ううっ」
連橋は、発熱したかのような体の熱さに、ぜえぜえと喘いでいた。ジンジンと昇ってくる、得体の知れないあの感覚。頭が朦朧としかける。知らぬ間に、腰が疼いて浮いてしまいそうになった。
「ううっ」
朦朧としかけていた連橋の体を小田島が強引に引っ張り上げた。
「さあ。今度は乗れよ。俺の上に、乗れ」
「乗れだと・・・!?」
カッと連橋は、顔を赤くした。怒りで、である。その連橋の怒りを察したのか、小田島はますます楽しそうに言った。
「てめえの穴に、俺のを挿れろよ。ケツ振りながらサ」
「!」
連橋は、その言葉を反芻して、眩暈を覚えた。自分で挿れろ、だと?人の体を勝手に弄り回して、舐めまわし・・・。挙句に咥えさせておきながら。今度は自分で・・・!?
そんなことするぐらいだったら、泣き喚いているうちに無理矢理突っ込まれる方が数倍マシだと連橋は思った。怒りで脳味噌が沸騰する。そして・・・。憎むべき相手に、ここまで好き勝手なことを要求されて、受け入れなければならない自分を情けなく思った。プライドが粉々になっていく。俺は・・・。どうして、こんなことを・・・。どうして、ここまで・・・。悔しい。悔しい!!なぜ、こんなヤツの思うままにならなければならないのか!連橋は無意識のうちに握りしめていた拳を、思わず振り上げていた。
「てめえっ。抵抗するのか?」
小田島は、連橋が振り上げた拳を見て、受話器に手を伸ばした。
「城田」
小田島が受話器を取り上げ、城田を呼び出す。
「!」
城田を呼び出すことは、即ち久人への暴行だ。連橋は腕を振り下ろした。
「やめろ。もうやめろ。久人には手を出すなっ!おまえの言うとおりにするからっ!」
連橋は叫んだ。叫びながら、とうとう悔しくて、瞳から涙が溢れた。泣きながら、連橋は小田島の手から受話器を振り払うと、小田島の体を跨いだ。小田島は、涙を零す連橋を見上げて、目を見開いていた。
「っ」
自らの体重で、連橋は小田島のペニスの上に自分の体を落とした。どんなに息を吐いても、苦しい挿入の瞬間。
「ふっ。うっ」
連橋が痛みに竦みあがっていると、小田島が手を伸ばし、連橋の腰に触れた。
「連橋」
小田島が連橋の名を呼んだ。
「おまえに惚れた」
その言葉と共に、小田島は連橋の腰を引き寄せ、連橋の体の中心を貫いた。
「あ。あ。ああーっ!」
断続的に、連橋の喉から悲鳴が零れた。ズルッと小田島のペニスが連橋の最奥に到達する。
「だからおまえも俺に惚れろ。そうすりゃおまえは楽になれる」
小田島は激しく腰を振りながら、連橋の耳元に囁いた。
「くっ。うっ、うっ」
グチュグチュと湿った摩擦音が、結合部分から溢れ出してくる。熱く痺れる感覚に、連橋は首を振り続けた。足首を掴まれて、左右に大きく開かされ、揺らされた。小田島は、ジッと結合部分に見入っている。クプクプと小田島のペニスを連橋の秘穴が飲み込んでは震えていた。そこに小田島は、中指を擦るように突き入れた。
「ん、あっ」
連橋の背が弓なりに反れた。小田島の腰の動きが上下からゆっくり円を描くようになっていく。連橋は、その動きにあわせて自分の腰が揺れるのがたまらなくイヤだった。痛みが快感に摩り替わるその時。
溺れるな!この感覚に。溺れるな、溺れるな、溺れるな!!俺は溺れない。溺れるのは、溺れるのは・・・!!
『てめえだ、小田島っ!』
ビクッと小田島が連橋の最奥を突いた。
「ああっ」
連橋の身が捩れた。大きく開いた足の間で、小田島の腰が蠢いた。
「くうっ。で、る」
小田島が、連橋の中で勢いよく射精する。咆哮をあげながら。一瞬、グタリと小田島の力が抜ける。連橋も、体の中を荒れ狂う確かに快感と呼ぶソレを感じていた。感じていたが・・・。
カッと連橋の目が見開かれる。快感を上回る憎悪。唐突に湧き上がってきたその感情が、連橋の体を、快楽よりも強く貫いた。
『もう、なにも考えられねえ。目の前のこの男を殺すことしか!』
力の抜けた小田島の体を、渾身の力で振り解き、連橋はサイドテーブルに手を伸ばした。卓上室内ランプ。それを手にすると、思いっきり小田島に振り下ろした。
「うわあっ」
小田島の絶叫が響いた。室内ランプを手にした時に、連橋は一緒にコードを引き抜いていた。そのコードで、小田島の首を絞めた。ギリギリと絞めあげる。連橋の目から涙が零れた。あれ程泣かないと決めたのに・・・!!悔しい、悔しい、悔しい!!!
「てめえなんか・・・。てめえなんか死ねばいいっ。てめえが死ななければ、俺の心の中のあの夜は終わらねえんだよっ!」
「うっぐ」
小田島は目を見開いて、首に巻きついたコードを必死に引き剥がそうとしていた。小田島の顔は、連橋の零した涙と、頭から流れてきた血が混じり濡れていた。
「死ね、死ね、死ね。てめえなんか、死ねっ」
連橋は腕に力を込めた。今まさに、この瞬間に。町田の恨みを。一度城田に邪魔されて出来なかった悲願を。・・・達成するんだっ!手が震える。人を殺すということへの、恐怖。だが。自分は、この日を夢見て、今まで生きてきたんだ。
「れん、ばし」
ガクッと小田島の首が垂れた。
「義政っ」
ドアが開いた。城田が部屋に駆け込んできた。飛び込んできた城田は、躊躇することもなく、連橋を殴り倒した。城田の拳を受けて、連橋はベッドから吹っ飛んだ。
「義政、義政、しっかりしろ」
城田は小田島の頬を叩いて、首に巻きついていたコードをナイフで切り裂いた。ぐったりした小田島に再生を施す為に、城田は人工呼吸をした。
「ごほっ」
咽て、小田島が反応を返す。
「義政」
城田は小田島を抱きしめた。抱きしめながら、額から流れている血を、シーツで拭ってやった。呼吸を確かめると、小田島は危なげなく息をしていたが、すぐにまた気を失ってしまったようだった。城田は、小田島をそっと抱き上げた。そのまま足早に部屋を出て行った。ドアは開け放たれたままだった。バタン、バタンと何度か音がして、城田は外へと出て行ったようだった。
連橋は、よろりとベッドの縁を掴んで起き上がった。頭が朦朧とする。城田に殴られ、吹っ飛んだショックで壁に頭をぶつけた。起き上がらなきゃ。城田はきっとすぐに戻ってくる。久人が危険だ。久人が・・・。ああ。なんで久人はいねえんだ。どうしてこの騒ぎに、久人の声が聞こえない?自分の想像にゾッとしながら、連橋は投げ捨てたジーンズを拾いあげ履いて、歩き出した。そして、その瞬間に、その場に倒れた。
「いてえよ・・・」
さっき、自分が小田島にぶつけた室内ランプの傘の破片。それが、連橋の足の裏に突き刺さったのだ。かなり大きな破片だった。こんなところにまで飛んでくるほど、手加減なしで小田島の頭に叩き付けた。打ち所悪くて、今日にでも死ぬかもな、アイツと連橋は思った。
「いてえよ」
もう一度呟き、連橋は足の裏に突き刺さった破片を抜こうとした。指が震えて動かない。指の一本、一本が寒さに凍えたように動かない。
「・・・先生・・・」
破片を抜き取るのを諦めて、連橋はその場に転がった。どくどくと足の裏からは血が流れていく。
「先生。町田先生・・・。どうしよう。俺・・・。久人の声が聞こえない。久人の声が。俺が小田島にあんなことしたから・・・。城田がもしかして・・・」
血と共に、涙が溢れた。泣かないって決めたのに。ちきしょう、ちきしょう・・・!足が痛い。血が止まんない。久人はどこだ。でも探しに行くのが怖い。俺は城田の大事な小田島をあんな目に遭わせた。だから、城田も俺の大事な久人を同じ目に遭わせたかもしれない。城田は、受話器から聞こえていた音で、事態を察していた筈だから。
「ひーちゃん・・・」
もう一度破片を引き抜こうとして、連橋は指を伸ばす。
「っつ!」
痛かった。皮膚に突き刺さり、血もたくさん流れていた。どうしても抜くことが出来ない。
その時、人影を感じて、連橋は振り返った。城田がドアのところに立っていた。相変わらず、暗い目をした男だった。
城田はつかつかと歩いてくると、連橋の傍でピタリと止まって、連橋を見下ろした。
連橋も城田を見上げ、キッと睨んだ。一瞬、瞬きをした時、溜まっていた涙が零れて落ちたが、連橋はそんなことは気にしなかった。
「今まで泣いてたくせに、俺だけはちゃんと睨むんだな。躾のいいネコだぜ」
城田は屈むと、連橋の足の裏を持ち上げ、そこから破片を引き抜いた。
「うああっ」
連橋が悲鳴をあげた。
「情けねえ声出すなよ。殺人未遂ヤローが」
そう言いながら、城田は近くにあったシーツをひっぱり、口で引き裂いた。ビリビリとシーツが破れ、それを包帯代わりに連橋の足に巻いて、城田は連橋を抱き上げた。
「・・・な、にしやがる」
「本格的な手当は亜沙子ちゃんにしてもらいな」
「てめえの手なんか借りるかっ。おろせ」
「うるせー。だまれ」
冷やかに城田は連橋を見下ろし、言った。
「久人はどこだ。城田、久人はどこだ。まさか、てめえっ」
「ああ。ひーちゃん。もういいぜ、出て来い」
城田が呼ぶと、久人は、食器棚の影からそろそろと姿を現す。そこはちょうど窪みになっていて、久人ぐらいの小ささであれば、スポッとそのスペースに隠れることが出来るのだ。
「久人!」
連橋は、久人の姿を見て、声をあげた。良かった。とりあえず無事だ。無事だった。生きていた。
「ひーちゃん」
城田は、腕の中の連橋の体が、小さく震えたのに気づいて、苦笑した。
「飴のにーちゃん。もう喧嘩は終わったの?」
城田は、喧嘩が終わるまでそこでジッとしていろと久人に言いつけておいたのだ。
「ああ。終わったよ」
城田が答えた。
「ひーちゃん。怪我は?大丈夫か?腫れてねえか?どこぶたれた」
立て続けに連橋は、訊いた。久人はキョトンとしている。だが、すぐにフニャッと久人は悲しそうな顔をした。城田の腕の中にいる連橋の足から、血が垂れているのに気づいたからだ。包帯代わりのシーツはもう真っ赤だった。
「にーちゃん。足から血が出てるよぉ・・・」
「俺は平気だ。それより久人。ぶたれたとこは」
「ぶたれたとこ?ぶたれたとこなんて、ないよ。にーちゃんのが痛いよ。血がいっぱい」
久人は城田の足元から連橋を見上げている。その目には涙がいっぱい浮かんでいた。
「ぶたれたところがねえ?」
連橋は城田を見た。城田は、視線を反らした。
「てめえっ。くだらねえ芝居なんかしやがって!」
ハッとして、連橋は叫んだ。
「芝居じゃねえよ。本当に殴ろうとしたんだが、目測を誤ってな。コイツすばしっこいから。そこの食器棚を殴っちまっただけだよ」
確かに、食器棚の一部が凹んでいる。ここをいきなり殴りつけた城田に吃驚して、久人は声をあげたのだろう。
「降ろせっ。なんでてめえなんかに運ばれてなんなきゃいけねえ。俺はてめえの大事なお姫様を殺しかけたんだぞっ。おまえは俺や久人に構ってる暇ねえだろうがっ」
言葉だけで連橋は暴れた。実際は、セックスの余韻と城田に殴られた時のダメージ、足の裏の痛みで、連橋の体は動かなかった。たぶん、城田もそれはわかっている。だから、連橋を抱いている力は緩い。
「ねえよ。確かにな。舎弟どもに一足先に義政を病院に運ばせたが、俺だってこれからすぐに追いかける。けどな。てめえらこの部屋に残しておくと、色々とマズイんだよ。ちゃんと後始末しておかねえと、あとでこっちにも都合が悪いことがあるからな。そのために、おまえらがここにいちゃ邪魔なの。わかるかよ?親切心で、こんなことしてるんだと思ったら大間違いだぜ、連橋。おまえが義政殺していたら、おまえなんか今頃霊柩車乗せられていたぜ。俺は怒ってるんだからな・・・」
城田は、マンションの前に停まっていたタクシーに、連橋と久人を押し込んだ。連橋は上半身裸だったので、運転手が奇妙な顔をした。それに気づいた城田は、自分の着ていた上着を連橋に投げつけた。それを連橋は無視していたら、久人がうんしょと屈んで、その上着を拾い上げ、連橋の肩にかけた。
「いい子だな、ひーちゃん。その調子でにーちゃんの足の傷。手当てしてやれよ」
「うん」
久人がうなづいた。城田は、窓のところに顔を寄せ、連橋に声をかけた。連橋は横顔のままで、決して城田の方を向いたりはしなかった。
「連橋。おまえは約束を破った。本当ならば、ひーちゃんはコキッだ。けどな義政は俺に命令しなかった。あの状況じゃ出来なかったんだろうけどさ。おまえ、無茶なことすんなあ・・・。もしあの場で、義政がヒイヒイ言いながらも俺に一言命令したら、やばかったんだぜ。ま、俺も命令されなくて助かったけどよ。だが、覚えとけ。せっかくあそこまで我慢したのに、おまえは自分でそれを台無しにした。ってことは、だ。おまえ、辛抱足らねえんだよ・・・」
ククッと笑って、城田は背を向けマンションに戻っていった。
「にーちゃん。痛いの?びょういん、もうすぐだって」
久人が目を閉じている連橋の顔を覗きこんできた。
「ひーちゃん」
連橋は、目を開けて、すぐ傍にある久人の顔を見つめた。
「ごめんな。心配かけて」
「ひーちゃんこそ、ごめんね。にーちゃん、傍離れるなって言ったのに。離れちゃった。だから、にーちゃんは飴のにーちゃん達とお話しなくちゃならなくて、それでにーちゃん達が怒っちゃったんだよね」
「・・・おまえはいいんだよ。んなの気にしなくて。とにかく、ごめんな」
「にーちゃん!?」
連橋は腕を伸ばし、久人をギュッと抱きしめた。子供らしい体温の高さに、連橋はホッとした。生きている久人のぬくもり。
城田の言う通りだ。なぜ、俺はあそこでキレてしまったのか。俺はいつもそうだ。辛抱が足りねえ。最後まで、小田島に素直につきあえば、久人を危険な目に遭わせることはなかった。それなのに。あの時俺は、自分の目的だけを頭において、久人のことを忘れてしまっていた。殺せる。今なら!そう思ったら、止まらなかった。もしあそこで小田島が死んでいたら、久人だって死んでしまっていたかもしれないのだ。そう考えると、ゾッとした。
「ひーちゃん。にーちゃん・・・薄情でごめんな・・・」
呟き、連橋は久人をますますギュウッと抱きしめた。大切なものを守りながら、戦うことを、俺はもう少しきちんと考えなければならない。悔し涙が溢れそうになって、連橋はグッと唇を噛んで堪えた。
「お客さん。あそこに総合病院がありますから。おろしますよ」
タクシーの運転手の声に、連橋はハッとした。
「あ、すんません。お願いします」
おりる時、かなり難儀した。運転手に病院の入り口まで連れて行ってもらった。礼を言い、連橋はジーンズの尻ポケットに突っ込んでおいた財布で金を払った。よろよろと病院の廊下を歩きながらも、連橋は久人の手をずっと握っていた。久人もその手を離さない。ふと連橋は、会社クビかもな・・・と思った。この足では運転は出来ない。
「オオバカヤロウ。幸い命はあったが、義政は頭を何針も縫う大怪我だ。もっと考えてから、義政にサカらせりゃ良かったんだ。てめえも一緒に参加するとかよぉ。義政と連橋二人っきりにさせるなんて、こうなることわかりきってるんじゃねえかよ。ったく、ドアホ」
大堀は、散々殴り蹴りを繰り返してから、城田の体をポイッと庭に放り出した。城田は腹を抱えてその場にバタリと倒れた。意識を失ったようだった。
「誰か、水ぶっかけてやれ」
言われて、舎弟達が城田の体にバシャッと水をぶっかけた。城田は、弾き起きた。
「ったくよ。俺は信彦に散々文句垂れられて、挙句に二週間もお預け食らっちまったぜ。傍にいてくれるな、だとさ。どうしてくれるよ。てめえ責任持って俺に尻出せ」
「役不足でしょ・・・。俺とじゃアンタだって勃つもん勃たたないじゃん」
城田は濡れた髪をかきあげながら、その場から動かないでうずくまっていた。縁側に腰掛けていた大堀は、ヒラリと庭に降り、大股で城田の傍まで来た。
「義政はな。卒業したら、とあるご令嬢に差し出されることになってる。おまえだって知ってるだろう。知らぬは本人のみだがな。アイツの体に傷が増える度に商品価値が落っこちていくんだよ。わかるか、城田」
「わかってます」
「だったら、二度とこういう無様なことさせんなよ・・・」
「すみませんでした」
「ったく。てめえは頭イイんだか悪いんだかわかんねえな。義政のこととなると、すげえ甘くて。読み間違えることが多いんだよな」
「頭悪いんでしょう、きっと」
城田はフンッと鼻で笑う。
「おまえの気持ちはよくわかるさ。俺もそうだからな。俺たちにとって、小田島兄弟っていうのは惚れちゃいけねえ世界の人間だ。だがなあ、城田。惚れても地獄、惚れぬも地獄。同じ地獄ならば、おまえはどっちを選ぶ?」
「惚れる地獄に決まってるじゃん」
城田は即答した。
「いい子だ。同じ地獄なら、惚れぬきてえよな。けど、盲目じゃダメなんだよ・・・。そこんとこ、おまえももちっと勉強しねえとな」
大堀は、グイッと城田の顎を持ち上げると、その唇に自分の唇を押し当てた。城田の、青痣になってしまった目元をゆっくりと撫でながら。
「看病してやる。ついでに久し振りに可愛がってやるから、あとで部屋来い」
ニッコリ笑って、大堀は城田の背を蹴飛ばして、行ってしまった。
「俺の看病はアイツで、連橋の看病は亜沙子ちゃんかよ。代わってもらいてえぜ、まったく」
城田はやけくそのように、その場に大の字で寝転がった。服が泥だらけになると一瞬思ったが、考えてみれば、血だらけで水浸しだ。それに泥がくわわったぐらい大したことはない。
「世界が違うだと?だかんだ言って、てめえは信彦と相愛だろ。ふざけたことぬかしやがって。惚れぬも地獄。同じ地獄なら・・・。って、結局どっち選んでも地獄なんだよなあ。だったらさ。惚れて惚れさせ一緒に地獄落ちだっつーの」
俺は親殺しの罪で、地獄行き、決定。けど、地獄に落ちる時、一緒にいたい相手。城田は空を見上げた。
ふと、城田の耳に、小田島が繋げていた受話器の向こうからずっと聞こえてきていた、連橋の、アノ時の苦痛に満ちたでもどこか甘い声が甦ってきていた。その声を思い出すだけで。
「勃起しちまうな」
初めて。義政が持っているものが羨ましいと、城田は思った。今まで、なに一つ義政の物など羨ましくもなかったけれど・・・。
連橋は、全身全霊で義政を追いかける。それが愛でなくても。果てしない憎悪でも。その、執着。その執着が、義政を更に奮い立たせる。自分の存在を強く求めるものに、哀れな義政は愛を錯覚している。
言ってしまおうか、連橋。俺は町田康司の息子だぜ。久人の兄貴の町田優だ。そして・・・。おまえの大事な町田を殺したのは、本当は俺だってな・・・。
そうしたら・・・。おまえは俺を追いかけてくるか?義政でなく、俺を。
「くだらねえ」
我ながら、馬鹿げた妄想をしているなと思い、城田は目を閉じた。蹴られた腹がまだ痺れて痛くて、涙が出そうだった。
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