連橋優(レンバシ・ユウ)・・・某都立高校3年
流充(ナガレ・ミツル)・・・・・同上・連橋の親友
川藤亜沙子(カワトウ・アサコ)・・・連橋の隣室の住人
志摩怜治(シマ・レイジ)・・・暴走族・ジレンの頭
小田島義政(オダジマヨシマサ)・・・高校3年・海外留学中
城田優(シロタユウ)・・・・・同上
緑川歩(ミドリカワ・アユミ)・・・同上
町田久人(マチダヒサト)・・・連橋の恩師の遺児。
*****************第2部4話**************
「行ってくるぜっ」
「いっちぇくるぜっ」
連橋の真似をして、久人が亜沙子に言った。
「気をつけてね。連ちゃんのが興奮してるみたいだから、心配よ」
亜沙子は、ドアのところまで二人を見送りに出ながら、楽しそうな連橋を見て、苦笑した。
「夕方までには帰ってくる」
「かえっちくる」
いちいち久人は、連橋の口真似をしている。連橋は、久人の手に自分の手を重ねると、アパートを飛び出していった。
「にーちゃあん。待ってよぉ」
とてとてと久人は、走る連橋を追いかけて行く。
「久人、パンダ見れるぞ、パンダ」
なんだか久人よりはしゃぎながら、連橋は走るのを止めて、久人が自分に追いつくのを待っていた。
「パンダー♪」
やっと連橋に追いついて、ハアハアと息を切らしながら、久人はピタッと連橋の足にくっついた。
「パンダ見るの」
「うん。見ような」
駅までの道程を二人は歩いていく。ちょうど小さな公園の前を通りかかった時だった。車が向こうからやってきて、パッパーとクラクションを鳴らした。
「?」
連橋は目をこらした。
「連」
車の窓から顔を出して、連橋を呼んだのは志摩だった。連橋は、志摩の顔を見ると、スポーツキャップをグッと目深に被り、無視して歩き出す。
「にーちゃん。しーま。しーまだよ、あれ」
久人が、最近志摩のことをやっと覚えて、志摩のことをそう呼ぶ。
「ひーちゃん、こっち来い。いいもんやっから」
志摩は、久人を手招いた。久人は、パッと顔を輝かせて、志摩の元へと走っていく。
「あ、こら。久人」
志摩は、公園の脇に車を停めて、降りてきた。降りてきながら、駆け寄ってきた久人に、バッグの中からバナナを取り出して、久人に渡す。
「ばなな。だいすき」
両手で志摩からバナナを受け取り、久人は道端でバナナをムキムキし出す。
「ひーちゃん。しーまは、おまえのにーちゃんと話があるから、それ食いながら、砂場で遊んでろ」
「うん。でも、はやくね」
はぐはぐとバナナを食べながら、久人は公園に走って行った。
「俺は、アンタと話すことなんかねえぜ」
連橋は冷やかに言った。
「俺らも公園入ろうぜ」
志摩は、かけていたサングラスを外しながら、連橋の腕をグイッと掴んだ。
「てめえ。離せよっ!俺に触れるな」
バッと、連橋は志摩の手を振り払う。
「連。この前のことは、マジに俺が悪かった。謝る。謝らせてくれ。そして、俺の話を聞いてくれ」
「やだね」
「頼む」
志摩は公園の入口まで連橋を連れてくると、いきなりその場に土下座した。
「俺が悪かった。殴るなり、蹴るなり、好きなようにしてくれ」
「止めろよ。ここ、公園の入口なんだぜ」
「おまえが許してくれるまでは、こうしてる」
「なっ。ガキみてえなこと言ってんじゃねえっ」
連橋は怒鳴った。そのうち、ベビーカーをひいた奥さん連中が、ワイワイとすぐ側を通り過ぎていく。連橋と志摩を見ては、彼女達は眉を潜めて、振り返りながら歩いていく。
「いいかげんにしろよ」
連橋は、志摩の背をガンッと、蹴飛ばした。
「わかったよ。許すか許さねえかは別として、とにかくてめえの話は聞いてやる。立てよ」
すると、志摩は俊敏に立ちあがった。
「ありがてえ」
「なにが、だよ。ふざけんな」
プイッと、連橋は入口を避けて、すぐ脇にあったベンチにドカッと座りこんだ。
「あの時の俺は、酔っていた。浴びるほど飲んじまって。だが、それを言い訳にするつもりはねえよ。酔っていたのと同じぐらい俺には正気があった。あの時、俺はおまえに欲情しちまったんだ」
「それで?」
連橋は、自分の前に突っ立った志摩を、無表情に見つめて、聞き返す。
「それがどうしたってんだ?事実は、俺の体が一番よく知ってるぜ。てめえが酔っていようが正気であろうが、受けた行為は俺は忘れねえよ。アンタは、俺を裏切った。それだけだ。それだけだが、俺にはそれが全てだ。話すことなんざなにもありゃしねえ」
「俺の言い分も聞いてくれ」
志摩が一歩踏み出す。
「そりゃ、俺の持っている、訳のわかんねえ色のことか?そんなもんの説明ならば、もうどうだっていいんだよ」
連橋は、ベンチに肩膝立てて、志摩を睨んだ。
「どうでもよくねえよ」
「どうでもいいんだ!志摩さん、アンタよ。その色、今の俺に見えるか?俺は裸でもねえし、今は夜でもねえ。興奮するような血も流してねえし、ここは戦いの場所でもねえ。それでも、アンタにゃ、俺にその色を見るのか?」
連橋は、立ちあがって、自分を指差した。志摩は、連橋をジッと見つめた。
「見えるよ、連。おまえのその小さな顔、肩、腰、脚。俺にとっちゃ、全てがそういう色だ。どんなところにいようが、どんな格好をしてようが、おまえは俺を誘う。それが、おまえの持つ色ってヤツだ」
連橋は志摩の言葉に目を見開いた。
「そうかよ・・・。生憎、俺はアンタなんて誘っちゃいねえ。誰も誘ったりなんかしねえんだよ。幸いなことに、俺は自分のその色を知らないし、見えねえんだよ。だがな、アンタは見えるという。アンタみてえなバカ男には見えるという。くだらねえよ。けどな。見えちまうんじゃ仕方ねえよな。つきあっていくしか」
「連」
「俺はバカだが、バカなりに色々と考えた。アンタ、勝手に勘違いしてな。これからもずっと、俺に誘われ続けていろよ。だがな。覚悟しやがれ。俺だって、ただで自分の体好き勝手にさせやしねえよ」
連橋はキッと志摩を睨んだ。
「おまえらみてえなバカ男達、咥え殺してやるっ!」
「!」
「二度と女抱けねえように、咥えて千切って、ぶっ殺してやるッ!それが嫌なら、俺にゃ二度と触るんじゃねえ!!」
志摩は連橋を見つめていたが、いきなりフッと笑った。
「可愛い顔して、えれえ過激なこと言うな。おまえ、自分がなに言ってんのかわかってんのか?」
「あたりめえだろ」
志摩は笑いながら、連橋に向かって歩いてきて、手を伸ばした。連橋はハッとして、志摩の腕を避けた。だが、志摩は連橋のキャップを指で摘んだ。
「おまえの瞳を見せろよ」
キャップの影に隠れてしまっていた連橋の目が見たかったらしく、志摩はキャップを連橋から取り上げてしまう。
「なにしやがるんだよ」
「おまえに惚れた。俺は、自分で言うのもなんだが、惚れやすい性格でな。おまえを抱いて、簡単に惚れちまったよ。連。俺に惚れろよ。そうすれば、俺はおまえをこれからも助けていってやる。守っていってやる。小田島からも、誰からもおまえを守ってやる」
志摩は、連橋のキャップを被った。
「アンタこそ、なに言ってんだ?惚れただと・・・!?俺は男だぞ。バカじゃねえのかよ・・・」
唖然として、連橋は志摩を見た。
「おまえは好きな男はいねえのか?」
「なんだって!?」
「惚れた男はいねえのか?」
「・・・」
「気になる男はいねえのか?」
「・・・」
「抱かれてみてえ男はいねえのか?」
たて続けに志摩に聞かれて、連橋は言葉を失う。だが、どうしてか、頬がカッと熱くなったのを感じて、連橋は自分でもギョッとした。志摩は、そんな連橋をジッと見つめていた。
「俺が言ってるのは、そういうことなんだよ、連橋。おまえが持つ色は、生来のものか開発されたものか知らねえ。だが、それをどうにかしねえ限り、おまえは俺らみてえな男を惑わす。そして、いつかおまえもそれに捕われる。体は、心を呼ぶんだ。だから、俺は聞いたんだ。おまえがその心に抱えている男はいるのか?と。いねえならば、俺にしとけ」
連橋の唇が、わなわなと震えた。
「ふざけるな」
「おまえにならば、咥え殺されてもいいぜ」
バシッと、連橋は志摩の頬を叩いた。
「最低な野郎だ」
「なんとでも言え。おまえに惚れた」
「アンタの話なんて、聞いて損したぜ」
志摩に背を向けて、連橋は砂場を見ては、久人の名を呼んだ。砂場でおとなしく一人で遊んでいた久人が手を振った。
「連」
「うるせえ」
「俺は。ただ、おまえに正直な気持ちを伝えたかっただけだ。ま、最初から素直に受け入れてもらえるとは思ってなかったからな」
「当たり前だっ!バカな話聞かせてンじゃねえ。気味わりいんだよっ」
連橋は志摩を振り返った。
「気味が悪い?よく言うぜ。おまえ、流の気持ち知ってるんだろ。知っていて、おまえ、流と一緒にいるんじゃねえか」
連橋は、ギクリとした。
「流のヤツ。おまえを好きだろう。気づいてるだろ、連。アイツ、俺がおまえを犯したなんて知ったら、俺を殺すだろうさ。知ってて、そんな流を側においておくおまえも大概罪なヤツだよ」
「流はてめえと違う」
「どう違う?体が入らねえだけで、想いは同じだ」
志摩の言葉に、連橋は激しく反応した。
「多いに違うだろうがっ。俺は、俺を変えるヤツを許さねえ。流は、俺を変えない。俺を変えないで側にいてくれるんだ。おまえとは違う!」
「・・・つくづく、罪なヤツだ。ガキだな、おまえ。あんな体持っているくせして、心はまるっきりガキなんだな。しようがねえヤツだよ。もちっと、大人になりやがれよ。・・・変化してしまうのが怖いか?連」
「るせえ!てめえ、うるせえよ。俺に説教たれるなっ!」
連橋が猛烈に言い返すのを聞きながら、志摩は皮肉めいた笑みを口元に浮かべた。
「説教なんか出来る立場じゃねえよ。実は俺も怖い。おまえに嫌われるのが、な。これ以上は、もう怖くてなにも言えねえよ」
連橋は、志摩の言葉にムッとした。
「好き勝手ほざいて、なにがこれ以上だ。笑わせるな」
ダンッ、と連橋は右足で地面を踏みつけた。
「戻ってこい。ジレンに。おまえが、変わるのが怖いならば、俺はもうなにもしやしねえよ。俺も耐える。流のように堪えておまえの側にいる。だから、俺のところに戻って来い。頼む、連。戻ってきてくれ・・・」
「・・・」
「連、また一緒に戦おうぜ。おまえと一緒に戦いたいんだ」
志摩が自分を見つめてくる瞳を受けて、連橋は唇を噛んだ。
「にーちゃん!おはなしおわったぁ?」
久人が走ってきた。黙っている連橋を見て、久人は次に志摩を見上げた。
「しーま?どうしたの?」
久人は、首を傾げた。
「ひーちゃん、いい子にしてくれてありがとな。また遊ぼうな」
志摩は、ポンッと久人の頭を撫でて、
「またな、連」
キャップを連橋に戻して、志摩は踵を返して、歩いていく。少しの後、エンジンがかかる音がして、車が走り去った。
「にーちゃん。パンダ。パンダ、みにいこうよお」
久人は連橋のジーンズを引っ張った。
「あ、ああ。そうだな。ごめん、ひーちゃん。行こうか」
連橋は、久人が引き摺っていた小さなリュックを、背中にしょわせてやりながら、うなづいた。
****************************************************************
その日。いつものように連橋は、亜沙子の部屋で久人と流とで夕飯を食べていた。すると、バタバタと階段を駆け上がる音がして、ドアがノックもなしにいきなり開いた。
「連橋さん、流さん!た、大変です。バッドトランスのやつら、奇襲してきやがったんです。志摩さん達がヤバイっす。埠頭で、混戦中です。いきなりですみませんが、応援に来てくださいっ」
ジレンの下っ端が、顔を真っ青にしてドアのところで叫んだ。
「なんだって!?」
流は、傍らにおいてあった木刀を持って瞬時に立ちあがると、部屋を飛び出した。
「流、待て。流。行くな。もう俺達には、ジレンも志摩も関係ねえんだから。とまれよっ」
即座に追いかけてきた連橋が、流の背に向かって怒鳴った。流は、階段を下りきったところで走るのを止めたが、前を向いたままだった。
「連。1度聞こうと思っていたがな・・・。この前、志摩さんとなんかあったか?」
いきなり流はそんなことを言った。
「流!?」
「怖くてずっと聞けなかったんだけどよ・・・。バッドトランスに勝ったあの日の夜。なにかあったのか?気づいたら志摩さんとおまえはあの場から消えていた・・・。聞いても志摩さんはなんも言わねえし・・・。それ以来、おまえはパッタリジレンとの関わりを断っちまうし」
「志摩と、もめただけだ。意見の不一致なだけだ。別になにもねえよ・・・」
すると、流は連橋を振り返った。
「なら、いいけどさ。わりいな。つまんねえこと聞いて。ただ、俺は・・・。今は退かねえぜ、連!」
後半、声を荒げて流は、連橋に向かって言った。
「流」
連橋は、流の迫力に、一瞬たじろいだ。
「おまえは戦っていてえんだろ?このまま、埋もれていく気はねえんだろ?だったら、俺達はジレンを手放しちゃいけねえんだよ。ジレンは、俺達を戦わせてくれるんだ。戦う理由をくれるんだ。俺とおまえの二人だけじゃ、どうすることも出来ねえ。小田島に抵抗するには、俺達には数も必要なんだ。わかるだろ、連。わかるだろ!?だから、俺は、ジレンに関わる。退かねえぜ。おまえがイヤならば、おまえはそこにいろ。俺はおまえのためだけに、ジレンに関わる。志摩先輩を、本当ならばぶっ殺してやりてえんだけどよッ!」
叫んで、流はギュッと唇を噛み締めた。
「!」
連橋は、強張った顔で流を見つめた。流は、そんな連橋を見ては、小さく笑うと、
「行くよ。行かせてくれよ。俺は行く」
そう言って、流は今度こそ走り去った。
「連ちゃん」
2階から亜沙子が連橋を呼んだ。ハッとして、連橋は2階を見上げた。亜沙子は久人を抱えながら、
「行ってらっしゃい。本当は、ずっと行きたかったんでしょう」
片方の手で、連橋の木刀を投げた。連橋は、パシッとそれを受け取った。
「連ちゃんは、強くならなきゃいけないのよ」
連橋は、うつむいた。だが、木刀をギュッと握ると、顔をあげて亜沙子を見上げた。
「行って来る。久人を頼むぜ」
亜沙子はうなづいた。連橋は、流の後を追いかけた。流には追いつけなかったが、場所はわかっている。
忘れてはいけない。戦うこと。強くなること。ジレンは、その為の踏み台だ。流はそれを知っていて、必死にジレンに食らいついていてくれたのだ。
『すまねえ、流!』
自分だけ逃げようとしていたことを、連橋は恥じた。利用できるものは、なんでも利用する。この体1つしか、俺は持っていねえんだから・・・!そう流に言ったのは自分だったのだ。
埠頭では、既にもう乱闘が始まっていた。激しく、敵と味方が入り乱れていて、場は混乱を極めていた。連橋は、グルリと周りを見渡しては、スッと木刀を振り上げた。そして。連橋は、再びジレンの戦いの場に戻って行った。
バッドトランスの大将・荘田は、陣地の奥深くで、苛々しながら時計を見ていた。
「連橋が合流したようだ」
副リーダーの小島が、状況を報告してきた。
「ちっ。厄介なヤツが出てきちまった。まだか?」
「まだのようです」
「仕掛けるのが早かったか」
バンッと、荘田は倉庫の壁面を叩いた。そこへ舎弟達が走り込んできた。
「荘田さん、来られたみたいです」
「マジか?」
「ええ。車がっ!こっちに向かって、数珠つなぎになって走ってきてます」
「やっと来てくれたかっ!」
心からホッとしたように、荘田は埠頭の入口を振り仰いだ。舎弟の言うとおり、次々と車が埠頭に入ってきた。ハイビームのせいで、点々とスポットライトを浴びている戦いの場が、そのせいでざめわきを増した。
「なんだ?バッドのヤツ。また、手勢を増やしやがったか」
志摩が、額を押さえて、うめいた。さすがの志摩も、奇襲のせいで、珍しく負傷していた。額を切っていて、押さえた指の間から血が零れた。
「すげえ大勢だ。一体なんだよ、これは・・・」
流は、バッドトランス側の陣営を見据えた。
「流」
連橋は走ってきて、流達に合流した。
「連っ。やべえよ。バッドのやつら、応援呼んだようだ」
「みてえだな」
「ちっ。グラスハートの増山に連絡いれろ。この前売りつけた恩、今こそ返してもらうぜ。やつら、どうせすぐそこらを流してる筈だからな」
志摩は、舎弟に命令する。舎弟はうなづいて、走って行く。連橋は、敵陣営を静かに見つめていた。
おびただしい数の車が、バッドトランス陣営に飛び込んできた。
「応援ありがとうございますっ」
荘田は、先頭の車に駆け寄って、頭を下げて挨拶した。
「待たせたな」
「いえ。助かりました、小田島さん」
小田島は、助手席から降りてきた。
「懐かしいぜ、この雰囲気・・・」
小田島は、ニヤリと笑いながら、タバコをくわえた。
「なあ、城田」
運転席から降りてきた城田を振り返って、小田島は言った。
「そうだな」
城田は、バンッとドアを閉めて、フッとジレンの陣営に視線を投げた。
「やっぱり、日本はまだ楽しいぜ」
小田島は、クククと笑う。緑川も、後部座席から降りてきた。
「小田島。いよいよ連橋姫と、感動の再会だな。2年。長かったな」
からかう緑川の言葉に、小田島は、フンッと鼻で笑う。
「連橋は、あっちにいやがるか?」
荘田に、小田島は、聞いた。
「さきほど合流したようです」
荘田はうなづいた。
「よし。なら、会いにいってやっか」
小田島は、城田に、顎で合図した。
「道を開け、城田」
「ああ」
城田は、持っていた木刀をビュッと振った。
「行くか、緑川」
「オッケー」
城田は緑川を伴って、ジレン側に向かって走り出した。城田達に続いて、バッドトランス側も勢いを盛り返して、ジレン側に突入をかける。
「特攻だ」
志摩が、バッドトランス側の陣営を見て、呟いた。
「仕掛けてきやがった。どさくさに紛れて体制立て直しやがったな。こっちも立て直すぜ。前線にいるやつら後方に戻せ」
チッと志摩は舌打ちして、味方に退きを伝達した。
「来るぜ、来る。先頭は誰だ?金髪!?」
流が、ハッとして身を乗り出した。
「まさ、か・・・」
その流の横を、連橋がフワッと駆け抜けていった。
「城田だッ!」
連橋は走りながら、叫んだ。
「なんだって!?」
志摩はポロリと、持っていたタバコを落した。
「城田だ。城田だ。城田。アイツ戻ってきやがった」
流は叫びながら、慌てて連橋の後をおって、走り出した。
「戻れ、流、連橋。迂闊に城田に近づくなッ!」
志摩は怒鳴った。
受けながら退いて、陣営に駆け込んできた味方を支えるようにして、連橋は立ち止まった。流も立ち止まる。城田達は、もうすぐそこまで来ていた。数の違いが、城田達をやすやすと陣地に招き入れてしまったのは歴然だった。グラスハートの応援が一刻も早い段階で来ないと、この場は圧倒的にジレンの不利だった。
「緑川!城田!てめえら戻ってきてやがったのか」
流は、連橋を背に庇うようにして、少し向こうに佇む二人に向かって叫んだ。
「つい、さっきな。成田についてすぐに、荘田に応援頼まれてな」
答えない城田に代わって、緑川が流に向かって言った。
「こうして疲れているところを、わざわざ来てやったんだよ」
緑川は、木刀で肩を叩きながら、笑っている。
「連橋。流の背中に隠れてねえで、出て来いよ。小田島が、おまえに会いたくて、涎垂らして待ってやがるぜ」
フフフ、と緑川は鼻で笑った。
連橋は、流を押しのけて、前に進み出た。連橋の視線は、緑川を通り越し、緑川のすぐ後ろに佇む城田を捕らえていた。城田は黙って立っていた。だが、やはり城田の視線も、連橋を捕らえていた。城田は、連橋の視線を受けて、ゆっくりと笑った。
その時。
風に流されて雲が動いたせいで、隠れていた月が姿を現す。
月光の下で、城田の髪が連橋と同じ色に輝いた。
金色の髪をした城田と、同じく金色の髪をした連橋は、月が現れたのを合図とするかのように、同時に前へ踏み出した。
5話に続く
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