連橋優(レンバシ・ユウ)・・・某都立高校3年
流充(ナガレ・ミツル)・・・・・同上・連橋の親友
川藤亜沙子(カワトウ・アサコ)・・・連橋の隣室の住人
志摩怜治(シマ・レイジ)・・・暴走族・ジレンの頭
志摩睦美(シマ・ムツミ)・・・レイジの妹で、連橋のクラスメート
町田久人(マチダヒサト)・・・連橋の恩師の遺児。
*****************第2部3話**************


戦いの場。
連橋は木刀を握る手に力を込めた。久し振りの乱闘を目前にして、自分の中の血がざわめていくのがわかって、連橋はチッと舌打ちした。隣に立つ流が、そんな連橋をジッと見つめていた。

「金髪。連橋だ」
「ジレンのやつら、連橋をかつぎだしやがった」
対戦するシェルアのグループでは、そんな声があがっていた。
「流もいるぞ。くそっ、志摩め。駒揃えやがって」
ざわめくシェルアの陣営と違って、ジレンの陣営は静かだった。
「大将は三井。たぶん、近づけば守られているからすぐにわかるだろうさ」
志摩は、タバコをふかしながら、大雑把な説明をしていた。
「で。俺達はどうしたらいい?攻める?守る?」
連橋は志摩に聞いた。志摩は、フンッと笑う。
「俺はおとなしく陣地にいねえぜ。攻めるに決まってるだろう。だから、おまえと流は、俺の援護だ。攻めながら、俺を守れ」
志摩の台詞を聞いて、フフフと連橋も笑った。
「好きだぜ、アンタのそういうところ」
「俺もおまえが好きだぜ。可愛い、俺のマスコットちゃん」
「そういうところは大嫌いだ」
プイッと連橋は顔を反らした。志摩はゲラゲラと笑い出した。
「お二人さん。時間来ますぜ」
流が言った。
「30秒前・・・・・3,2,1。GO」
ブォォンッと、双方の車のエンジンが一斉に唸り声を上げた。合図、だ。
「よっしゃ、行くぜ」
志摩は、木刀を持って陣地を飛び出した。遅れて連橋と流が志摩の右と横に並んで走り出す。

繰り出される木刀を避けて、逆に打ちつける。連橋はそうやって、敵を避けていく。志摩は、ある意味無鉄砲といえるぐらいだった。頭だというのに、そんな立場を忘れたかのように木刀を振り回して、シェルアの一群に突っ込んでいく。さすがに無敵の帝王と呼ばれるだけの迫力は充分にあった。そんな志摩の脇、背後を、流と連橋二人の連携プレイで援護していく。木刀を操りながら、流と連橋は、互いに時々は顔を見合わせて、ニヤリと笑い合う。楽な勝負だった。ほとんど打たれることなく、連橋は志摩の背後に寄り添って、敵陣に侵入していく。
「来たぞっ」
「守れ、守れっ」
シェルア側のざわめきが、連橋の耳に届いてくる。フッと、向こうのグループの声に気を取られていた連橋の前に、男が木刀を振りかぶって飛び出してきた。
「!」
目の前に飛び出してきた男を連橋は、木刀で払った。確かな手応え。
「ぐっ」
うめいて、男がゆっくりと連橋の目の前を倒れていく。倒れていく男を目の端に捕らえていた連橋は、突然自分の体の中の血液が、ドクンッと逆流するのを感じた。
「!?」
木刀を持った腕が震えた。

あの日。あの晩。こうして、俺の目の前で、アイツは倒れていった・・・。
小田島ッ!
連橋は、カッと目を見開いた。城田の木刀に邪魔されて、結局はトドメをさせなかったが・・・。目の前で倒れた小田島を・・・。俺は確かに見て、いた。
何故。何故だ・・・。あの時、どうして。木刀に突き刺さったナイフを引き抜き、何故俺はトドメをささなかったのか。時間は、あった。時間は充分あったというのに・・・。
ドクンッ、ドクンッ、と連橋の心臓が跳ねあがった。
なぜ、俺は・・・っ!
連橋は、キッと顔を上げた。ギュッと木刀を握り直すと、連橋は逃げる敵を蹴散らしながら、守りの異常に固いポイントに、突っ込んでいった。
『あそこに大将がいる筈だ!!』

「連、無茶するなっ」
流が、志摩を追い越し敵陣に一人突っ込んでいく連橋に気づいて、叫んだ。
「連、おいっ。待てっ。一人でいくなっ!」
その流の声に気づいて、打合っていた志摩も、ハッとした。
だが、連橋は止まらなかった。

あの夜。どうして、俺は小田島を殺れなかったのか!
あとから思い出しては、悔しくて、夜も眠れなかった。あの時は、絶好のチャンスだったのだ。

「うわぁああ。来やがった、マジに来やがった」
誰かの悲鳴があがる。連橋の速さに、誰もついてこれなかった。
途中、誰かの木刀が連橋の腹を、ヒョロリとかすった。
「俺の邪魔をするんじゃねえっ」
バッと、連橋は木刀を持っていない左腕で、邪魔した男の顔を殴りつけた。
「うわっ」
男は、叫んで背中から倒れていった。

「三井っ!」
連橋は叫んだ。
『小田島ッ』
心の中で、もう一人の自分の叫びが聞こえた。

「う、うわあっ」
三井の悲鳴が響いた。
ザンッ、と連橋の木刀が、三井の腹を殴りつけた。
「な、なんなんだよ、コイツ・・・。し、信じられねえっ」
三井はそう言って、ズルリと大地に倒れた。

『バイバイ、小田島クン』

連橋は木刀を振り上げた。そのまま、倒れた三井の背を打ちつけた。何度も、何度も打ちつけた。
「ぎゃっ」
三井が情けない悲鳴を上げた。
「止めろ、連。もう、ソイツは落ちている。連、連っ」
流が走ってきて、連橋が振り上げた木刀をおさえこんだ。
「離せ、流っ」
「殺す気か、連!コイツは小田島じゃねえんだぞっ!もう止めろっ」
その言葉に、連橋はハッとした。連橋のこめかみから、ツッ・・・と汗が伝って流れ落ちた。流は、連橋を羽交い締めにしながら、必死で押さえつけていた。連橋は振り返って流を睨むと、木刀を放り投げると同時に、流の腕をも振り払っていた。
「はあ、はあ・・・」
連橋は息を荒げ、クルリと踵を返して、大股で陣地に戻って行く。
「連、てめえってヤツは・・・」
擦れ違う志摩ですら、連橋の迫力に、途中で言葉を失っていた。
「はあ、はあ・・・」
肩で息をしながら、連橋は陣地に向かってひたすら歩いていた。

こうして俺は、なくしていく。少しずつ、正気を。
こうして、俺は、なくして、いく・・・。
「ちきしょうッ!」
立ち止まり、連橋は叫んだ。あとを追いかけて来ていた流が、その声に驚いて立ち止まった。
「ちきしょう、ちきしょうっ!」
狂ったように連橋は空に向かって、叫んだ。

城田・・・!
あの日、おまえが邪魔しなければ、俺は確実に小田島を殺せた。そして、今頃は塀の中だった。それでも良かった。いや、それこそ望むことだった。先生を殺した男を・・・確実に殺れた筈だったのに!!!あれほどのチャンスはなかったというのに。狂う前に・・・。狂ってしまう前に、俺は目的を果たせたのにっ!

「連。しっかりしろ。落ち着け・・・」
流は、連橋に走り寄り、連橋を抱き締めた。
「もういい。終わった。帰ろうぜ・・・」
「ちきしょう・・・」
連橋は流の胸の中で、まだ呟いていた。
「チャンスはまだある。あの時だけじゃない。この先生きていれば、必ず何度だって訪れる。諦めるな、連。俺がいるじゃねえか。俺がいるよ。俺はおまえから目を反らさないから、一緒に行こうぜ。なあ、連。あせるなよ。おまえがあせると、俺は悲しくなるよ。連」
連橋は流を見た。流の、悲しそうな瞳を見て、ハッとして連橋は唇を噛み締めた。
「わりい、流・・・。俺は・・・」
「いいんだよ。連。おまえの気持ち・・・。わかるから」
「すまねえ」
連橋は、流の肩を抱くと、歩き出した。
「連。俺も協力してやるぜ」
「志摩さん」
志摩は走ってきて、連橋と流を二人纏めて抱き寄せた。
「おまえと小田島になにがあったか知らねえ。どういう経緯で憎みあっているかも、な。でも、んなことはどうでもいい。とにかく、俺はてめえの戦いに加担してやる。だから、そう落ち込むな」
「先輩が加担してくれるとなると、相当頼もしいっすよ」
流が志摩を振り返って、ヘヘヘと笑った。
「おうよ。期待していいぜ。なあ、連」
「どーなっても知らねえぜ」
連橋は無愛想に言い返した。
「睦美はおまえに惚れてる。可愛い妹の惚れた男だ。それに、俺もおまえのことは好きだしよ。だから、安心しろ」
連橋は、苦笑した。
「単に喧嘩してえだけだろ、アンタは」
「アタリ」
志摩は、豪快に笑った。そして、盛りあがる味方陣営に向かって歩いていく。
ジレンの旗が、なびいている。クラクションが鳴り響き、勝利を祝っていた。
「さあて、帰るか。とっとと逃げねえと怖いやつらが来るからな」
志摩は、連橋と城田を自分の車に押し込み、車を発進させた。

連橋は、ボンヤリと窓の外を眺めていた。

俺は忘れてはいけない。久人を得て、安穏とした暮らしに埋もれているばかりじゃダメだ。こうして、誰かと戦っていれば、いやでもいつでも思い出せるだろう。小田島を殺るということの闘志を。あの夜、果たせなかった悔しさを。さっきのように。さっきのように思い出せるだろう。こうして戦っていれば、その為の力をも得れるだろう。強くなれる。なれる筈だ。俺は忘れてはいけない。戦っていなければ、ならない。忘れてはならない。あの時の痛みを。あの時の絶望を。あの夜の自分自身への誓いを!

窓の外、車の後をついてくるような月を見上げながら、ふと連橋を思った。
そういえば・・・。久人の兄貴のことを調べるのを忘れていた、と思った。優という、俺と同じ名前の、久人の兄貴。どんな理由で町田と離れていたのか知らない。しかし、確かに久人には、血の繋がった兄がいるのだ。俺とは違う、本当の血の結びつきで、久人が「兄」と呼べる男。町田が、最期に、月に向かって名を呼んだ。しばらくの間、連橋は自分が呼ばれたのだと思っていた。だが、違う。思い起こせば、あれはきっと、離れ離れになっていた実の息子・優への呼びかけだったのだ。
父が亡くなったことを。弟の存在を。優という男は知っているのだろうか・・・。本来ならば、久人はその男に手渡さなければならない。わかっていても、連橋には、なんとなく気が進まなかった。
だが。
これも、戦うことを忘れてはいけないのと同じくらい忘れてはいけないことだと、連橋は心に留めた。自分達の車を追いかけてくる月を、連橋は横目でボンヤリと見つめていた。


こうして、連橋と流は、志摩率いるジレンの戦いに、積極的に参加していくことになった。春を終え、夏を終え、冬を終え。再び春がやってきそうな頃。1つの大きなグループとの戦いを、負け知らずで今夜も潜り抜けたジレンは、海岸付近にズラリと車を止めて、勝利を祝っていた。
「すげえよ。すげえよ。もう俺らを誰も止められねえよっ」
「ジレン万歳ッ!」
「にしても、やっぱり連橋さんと流さんの参加はデカかったよな」
「あん二人、スゲーよ。敵ナシっつーの?」
ジレンの下っ端達は、興奮に顔を赤くして叫んでいた。配られたビールのせいもあるが、それだけではないのは明かだった。
「流ッ。酌しろ、酌」
志摩は、砂浜に座りこんで、笑っては叫んでいる。上機嫌だった。
「いやーん。流ちゃんは、こっち。私の隣よ。来て、来てぇ〜♪」
志摩の横にいた由美子が、志摩を押しのけて、流を手招く。
「どっちいったらいいんっすか〜」
流は、両手にビールを抱えて、立ち往生だった。
「由美子、流狙いだなっ。てめえ、俺の女のくせに〜」
志摩が口を尖らせて、抗議した。
「怜治には、いっぱい女いるじゃん。ほら、洋子だって、美智子だっているじゃん。私のことは放っておいてよ」
「そーよ。怜治、いっぱい女いるんだから、由美子なんて流にくれちゃいな。私がいるじゃないの」
「そうだ、そうだ。私もいるぞ。怜治、モテモテ。良かったね〜」
志摩怜治親衛隊の女どもが、一斉に志摩に抱きついていった。志摩は、ズボッと、砂浜に埋まった。
「てめえら、寄せっ。俺のチンポは、一本しかねえんだぜ」
「キャハハハ」
皆、酔っ払っているのだ。今の志摩の言葉を、妹の睦美が聞いたら、きっと兄の顔を半端じゃなくへこませていただろう。流は、クスクス笑っていた。
「うへえ。志摩さん、マジにモテモテ」
流は、缶ビールを由美子に手渡した。
「流ちゃんだって、モテモテよ。私、アンタ大好き〜」
ンーッと、由美子は流にキスしてきた。
「うおっと」
言いながらも流は避けずに、由美子の唇を受けた。強い男には、女は自然と寄ってくる。志摩怜治にも、勿論だ。志摩は両手に花をいっぱい抱えている。志摩の花達は皆綺麗だった。揃いも揃って、上等な女が揃っていた。それは、志摩自身が、上等な花を引き寄せる魅力を持っている、ということに他ならない。
「美味しい?流クン?」
「ん。美味しい」
流は、ヘヘヘと笑った。由美子は、ニッコリと笑った。
「んとに、カーイイ子ねっ。ところで。連ちゃんは?」
「ああ。連は、どっかそこらへんに寝転がってるぜ」
「懐かない子ねえ。いつも、一人でふらふらしてるじゃない」
「アイツはね。俺や志摩さんみたく、不真面目じゃねえの。なんたって彼女いるから。あ、俺もいるけどさー。ま、俺はイイとして。連は、睦美ちゃんの男だから、不真面目できねえんだよ」
すると、由美子は口笛を吹いた。
「へえ。あのお固い睦美の男?あの連ちゃんが?ふーん。そりゃ、バカできないわね、睦美怖いもんね」
クスクスと由美子は笑う。流もうなづいた。
「そうそう。怖いからね、あの子」
「惜しいなぁ。連ちゃん、カッコイイから狙っていたんだけど」
「由美子さん、俺じゃなかったん?」
「そうよ。流が好き。好き、好き〜♪」
ガバーッと由美子は流に抱き付いてきた。
「飲も、流。今日は、特別よ。なんたって、あの高慢ちきなバッドトランスをこてんばにぶっ潰したんだから!」
「イエーイ!」
ガツンッと、流と由美子は缶ビールをぶつけて乾杯した。志摩は、両手に女を抱えてビールを頭から被るように飲んでいた。
海岸は、ジレン達一行によって埋め尽され、お祭りムード一色だった。あちこちで、喜びの奇声があがっていた。

そんな祭りムード一色の声を遠くに聞きながら、連橋は少し離れた砂浜に、一人寝転がっていた。なにを考えることもなく、目を閉じては、波の音を聞いていた。このまま眠っちまいそうだ・・・と、ウトウトしかけていたところに、砂を踏みしめる足音が聞こえて、連橋はハッと目を開いた。
「流?」
連橋は、体を起こして振り返った。だが、足音は流ではなかった。志摩率いるジレンの、副リーダーの志村だった。志村の後ろには、その舎弟の串本が立っている。
「よお、連橋。今日の主役の一人がこんなところで、なにしてんだよ」
志村は、クチャクチャとガムを噛んでいた。志村は、連橋より1つ年上だった。志摩を崇拝していて、それなりに腕の立つ男だった。志摩がジレンを退いたら、この男がジレンを引き継ぐだろうと言われていた。連橋と流が、ジレンに合流するまでは。
「どこでなにしてようと俺の勝手だろ」
連橋は、冷やかに言い返した。
「あっちじゃ流がいい気になって、騒いでやがるぜ。おまえも合流したらどうだ?」
「いいじゃねえかよ。今日は、流の活躍が大きかった。それで勝てたようなもんだ。楽しいの、当然だろ。志村さんよ、アンタは今日どこでなにしてたの?そういや姿見えなかった気がするけどさ」
フンッと、連橋は鼻を鳴らした。最初から志村は、連橋と流に対して、好意的な態度ではなかった。連橋も流もそれには気づいていた。
「クッソ生意気な態度だぜ。ったく。いつも、いつも。んとに、可愛くねえぜ」
志村は、チッと舌打ちした。
「オイ、串本。さっきの話、マジなのかよ」
「マジッすよ。志村さん。俺、あん時しっかり見たんだから。なあ、連橋。おまえ、前に小田島らとやりあった時。あん時さ。てめえ、ヤられてただろ。小田島らにさ」
ニヤニヤと串本は笑いながら、連橋を見た。
「!」
連橋は、串本を睨みつけた。
「コイツ、慌てて服着てたけどさー。素っ裸で、転がされていたんだぜ。学ラン羽織ってたけど、胸ンとこ鬱血だらけ。見ちゃったンだよな、俺」
「小田島らも勇気あるよなー。こんなヤツ犯して、なにが楽しいんだか」
志村も途端にニヤニヤし出した。
「でもよお。その話聞いて、俺ちょっと興味が出ちまってさ」
連橋は、無言で砂を蹴って、立ちあがった。
「おっと。待てよ、連橋」
志村は、さっさとその場を去ろうとしていた連橋の腕をガッと、掴んだ。
「ヤらせろ」
「ふざけんなっ」
連橋は、志村の腕を振り払った。
「串本」
クイッ、と志村は串本に、顎で合図する。
「了解ッス」
その言葉と共に、串本は連橋に向かってタックルしてきた。
「うっ」
連橋は、串本の体がぶつかってきて、よろめいた。ドサッ、と砂浜に倒れこんだ。
「離せ。ふざけんな」
連橋は、串本の体を引き剥がそうとしてもがいた。
「わざわざ皆から離れたところにいてくれて助かったぜ、連橋。ここなら、誰にも邪魔されねえで遊べるからな」
ブッ、と志村は噛んでいたガムを、砂浜に吐いた。
「連橋。オンナになってみせろよ」
志村は言って、串本と一緒になって、連橋の体を押さえ込んだ。
「離せ、てめえら、ふざけんな。離せ、離せっ!」
二人の男に押さえ込まれながら、連橋は叫んだ。体に触れられて、連橋はゾッとした。忘れかけていた恐怖が甦る。あの、おぞましく淫らな、恐怖が。連橋は顔色を変えて、二人を押しのけようともがいた。
「コイツ、この体で志摩さんを誘いやがったんだ」
「ああ。じゃなきゃ、あの志摩さんがここまで、コイツを可愛がる筈ねえよ」
連橋はもがいた。だが、志村が触れた個所から、言い知れぬ熱さが昇ってきた。
「っ」
ズボンを剥ぎ取られ、連橋は叫んだ。
「やめろっ!」
グチュッと、串本の整髪料で濡れた指が、連橋の奥に潜りこんできた。
その瞬間、連橋の体の中で「なにか」が動いた。ビクッと、体が跳ねた。
「うっわ。すっげ。飲み込んでいく・・・。お、女みてえ」
串本の指が、二本。連橋の秘穴に埋まった。
「うっ、くっ」
連橋は眉を寄せた。弄られるソコから、ジワリジワリと熱が這い上がってきた。
「志村さん、押さえててくださいよ」
「ああ。串本、俺にもヤらせろ」
「いいっすよ」
串本の指が退いていき、連橋の穴に、志村の指があてがわれた。
「うっく」
ヒクッと、連橋の喉が鳴った。
「げえ。マジに女みてえだ。中、熱い。くう〜」
「す、すげえよな。こんなんなるんだ」
「ぬけっ!指、ぬけよっ。痛えんだよッ」
連橋は、ジタバタと暴れた。その連橋の頬を串本が殴りつけた。
「おとなしくしてろよ。感じてるんだろ」
グッと、串本が連橋の半勃ちのペニスを掴んだ。
「あ、」
「志摩さんら、大丈夫だよな。まさか、来ねえよな」
息をあげながら、志村がチラリと後方を気にした。
「大丈夫ですよ。あっちは超盛りあがってるし」
「だな」
笑いながら志村は、連橋の足首を掴むと、ガッと両脚を開かせた。
「ヒクヒクしちまってるぜ。穴がよ。マジで、コイツ。慣れてやがる」
舌なめずりをしながら、志村は再び連橋の秘穴に指を突っ込んだ。
くちゅ、くちゅという淫靡な音が、辺りに響いた。連橋は、耳を塞ぎたい気分で、目を閉じた。
なんで。どうして、こんなことになりやがるっ!どうして、俺は、いつも・・・。
「んあっ」
深いところを容赦なく抉られて、堪え切れずに連橋は叫んだ。
「ひえ。たまんね。も、もういいや。挿れちまえ。可愛がってやっから、おとなしくしてやがれよ」
「だれが・・・っ。誰がおとなしくなんて、するかよっ」
ドカッと、連橋は志村の腹を蹴飛ばした。
「このヤロウ。オンナの癖して、乱暴なことするんじゃねえっ」
「俺はオンナじゃねえッ。離せ!」
「オンナじゃねえか。こんなところヒクヒクさせて、俺の指嬉しそうに飲みこんでやがって」
グイッと、志村は連橋の中で更に凶暴に指を動かした。
「うっ、くっ」
ヒクッと、連橋の喉が仰け反った。
「へへへっ。ったく、どうしようもねえ、淫乱なヤツだなあ。強気なわりにゃ、可愛い体してんじゃん」
レロッと、志村は連橋の勃ちあがったペニスに舌を絡ませた。グッと扱いてやると、連橋は「アッ!」と叫んだ。
「なんか、おめえ、強烈に色っぽいな」
舌を舐めると、志村はジーンズを下ろした。
「串本。連橋のチンポ、舐めてやってろ」
「次は、俺にも挿れさせてくださいよ」
言いながら、串本は連橋のペニスを口に含んだ。
「わかったよ。どれどれ。男の中っていうのは、どんななのか、おまえで試してやらあ」
グッ、と志村は、ペニスを連橋の秘奥に突き当てた。
「や、やめろっ!」
連橋が肩を浮かせて、叫んだ。
「うるせえっ」
バッと、志村は連橋の髪を掴むと、そのまま体を進めた。
「あ、あっっ」
連橋がうめいた。
「な、なんだよ、これ・・・。すっげえ」
ヒクン、ヒクンと動いて、連橋の秘穴は、志村を締めつけた。
「や、やめろっ。あ、い、いやだっ。うっ」
ズクッ、と連橋の奥に志村が侵入しかけた時だった。


「そこまでにしとけや」
その声と共に、ボトトト、と志村の頭にビールがひっかけられた。志摩が立っていた。
「ひっ」
「し、志摩さん」
志村と、串本は、連橋を押しのけて、立ちあがった。志摩は、無言で二人を殴りつけると、「うせろ」と低く言った。
二人はずり落ちたジーンズを持ち上げながら、バタバタと砂浜を逃げて行った。

「志摩さん・・・」
連橋は、志摩を見上げた。だが、息が弾むのを止められずに、連橋は志摩から慌てて顔を背けた。
「連、おまえ・・・」
「あ、あっち向いてろよ」
連橋は、開いた脚をバッと閉じた。そして、俯いた。片手で、脱がされたズボンを探していた。
「おまえ・・・」
「うるせえ。なにも言うなよッ」
「連。こっち見ろ」
「いやだっ」
志摩は、強引に連橋の髪を掴んで、こちらを向かせた。連橋の顔を覗きこんで、志摩は目を見開いた。連橋の頬は興奮によって紅潮していて、挙句に目は潤んでいた。
「中途ハンパなところで、とめちまったのか?俺」
「違う。関係ねえっ。手を離せっ。!」
志摩は、無理矢理連橋に口づけた。
「な、なにしやがる」
「なにしやがるって。オンナみてえに潤んだ瞳で見られてよ。俺もなんだか興奮しちまったんだよ」
ペロリと舌で唇を舐めて、志摩はニヤリと笑った。志摩は酔っているのだ。
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ。酔っ払いッ!」
志摩は、ジーンズのジッパーに手をかけた。
「連。おまえ。男を知ってるのか?」
「・・・」
「そうとしか思えねえ色っぽさだぜ、今のおまえは」
志摩は、グイッと連橋の足を開いた。
「ココ、まだヒクヒクしやがってる。志村のじゃ、食い足りねえって感じだ」
ツンツンと、志摩は不遠慮に、連橋の秘穴を指で突ついた。
「ん。あ、ざ、ざけんな」
「俺のを食えよ、連橋」
「やめろよ、志摩さんっ」
「やめられねえな」
連橋は、もがいた。だが、志摩の力には叶わない。トロトロに蕩けた連橋の秘穴に、志摩は唇を寄せた。
「こんなに濡れちまって。待ってるンだろ」
「バカ言ってんじゃねえ」
「くれてやる」
「いや、だっ!あぅっ」
グッと、志摩のペニスが連橋の秘穴に挿入された。ヌチュッと淫らな音が響いた。
「ひっ」
「初めてじゃねえだろうが。こんなの」
「や、やめろよ。ああっ」
グイグイと腰を動かされて、連橋は目の前が一瞬弾けたように白くなった。
「あああっ」
射精だ。挿れられて、アッという間に、連橋のペニスが暴走したのだ。
「俺はまだ、だ。しっかり咥えてくれよ」
「あ、あ、あ」
体を揺すられて、連橋は目を閉じた。グチュッグチュッと、粘膜を掻き混ぜる音が響きまくる。
「なんだ、おまえのココ。尋常じゃねえぞ・・・。なんだよ、これ・・・」
志摩は、自分のを咥えてめいっぱい開いている連橋の秘穴を指で突ついた。
「や、あう!」
「俺の目の前がお花畑だ、連」
「う、う、う」
連橋は首を振った。志摩は、砂浜から連橋の腰が浮くくらいに脚を持ち上げて、その脚の間に割り込ませた腰を、力強く揺すった。連橋は、自分の腰が砕けるかのような錯覚を覚えた。
「い、ああっ!あ、あっ!」
連橋は、叫んだ。ドッと志摩の精液が、連橋の中に流れこんできた。
「すげえ、体持ってるな」
志摩は、連橋を抱き上げると、今度は近くにあった車のボンネットの上に、その体を押し付けた。再び脚を開くと、たった今自分が注ぎこんだ精液が、連橋の真っ赤な秘穴からドッと零れ落ちてきた。志摩は、そこを指で、何度かまさぐったが、堪え切れずにすぐに再び勃起したペニスを挿入した。
「あーっ!」
抵抗する間もなく、連橋は志摩の挿入を受けて、悲鳴を上げた。
「いやだ、いやだっ。志摩さ、ん。志摩っ」
ボンネットの上で、連橋は志摩に犯され続けた。志摩が腰を揺するたびに、連橋の体と、そして車が激しく動いた。激しく奥を突つかれながら、連橋は薄れゆく意識の中で思った。
掘られている・・・。
まさに、そんな感じだった。志摩のペニスに、自分のソコが、掘られている・・・と。ズボッという音がする。何度も、何度も。
「いやだ・・・。もうやめてくれ・・・。俺を、これ以上・・・変えないでくれ・・・」
飲み込まれる。痛みが消えていく。痛みと代わりにあらわれる、ソレ。体の深いところからこみ上げて来る、快感というソレ。支配される。なにも考えられなるほどに。痛みのがマシだ。痛みのがマシだ!と連橋は心の中で繰り返す。
「俺を、変えないでくれ・・・。頼むから、俺を、変えないで・・・」
瞳から涙を溢れさせて、連橋は志摩に向かって、叫び続けていた。志摩は、そんな連橋を真上から見下ろして、ズルリとペニスを秘穴から引き抜いた。
連橋の目の前で、志摩が吐き出した精液が、散った。


アパートに辿りつき、階段を昇ろうとして、連橋は立ち止まった。腰が痛い。脚を持ち上げるのさえ辛い。

『連。おまえは、男を誘う色を持ってやがる。その色を早く消さねえ限り、俺みてえな男をおまえは誘い続けるだろう。おまえの、ソレはヤバイぞ!自覚してるのか?自覚はあるのか、連ッ!?俺だけを責めるなよ・・・。おまえだって、悪いんだぜ。俺だけを責めるんじゃねえよ・・・』
なんで、俺が悪いんだよ。勝手に俺を犯したくせにっ!志摩の野郎ッ。なにが、色だ。なんだよ、それ!どうやって消せばいいんだよ。そんなの、知るか!!消せるもんなら、とっくに消してるぜ。消し方を教えやがれ!勝手なことをぬかすな。どいつもこいつも。人のせいにしやがってッ。俺を変えるのは、てめえらみてえな男じゃねえか!志摩、小田島、刺青の男、大林。てめえら、皆、死んじまえっ!
俺の進んで行く道は、これからもこういう道なのか。なんだかわかんねえ色を消せねえ限り、俺はあんな男どもに好き勝手にされる運命なのかよ・・・ッ!一瞬、連橋は目の前が真っ暗になるのを感じた。だが、連橋は首を振った。歯をくいしばって、階段を昇っていく。
負けるもんか。負けるもんか・・・ッ!どんなことになろうとも、俺は、負けねえっ。

やっとの思いで階段を昇りきり、連橋は自分の部屋の鍵を開けた。ガチャッと静かな空間にドアの開く音が響いた。すると、バタンッと亜沙子の部屋のドアが開いた。
「にーちゃん!」
パジャマ姿の久人が飛び出してきた。
「ひーちゃん」
砂だらけになった服を着込んでいた連橋だったが、腕に飛び込んできた久人を抱き締めた。
「どうした、おまえ。もう夜中だぞ」
「あのね。にーちゃんが帰ってくるまで、待ってたの」
久人は、連橋を見上げて、ニコニコと言った。
「ちょっとだけ寝ちゃったけど、でも、待ってたの。おかえり、にーちゃん」
「ああ。ただいま、久人。ただいま。遅くなって、ごめんな」
ギュッと、連橋は久人を抱き締めた。
「連ちゃん」
亜沙子は、連橋を見て、一瞬顔を強張らせたが、すぐにニコッと笑った。
「待ってたよ、連ちゃん。帰ってきてくれてありがとう」
「なんだよ。帰ってくるの、当たり前だろ」
連橋は言い返しながら、亜沙子の言葉に込められた深い意味を、すぐに悟る。
「ごめん。心配かけた。俺は大丈夫だ」
「連ちゃんはいつもそう言うわ。大丈夫。俺は大丈夫。でもね、でも・・・」
傷だらけの連橋の顔を見て、亜沙子はクシャッと顔を歪めて、
「大丈夫じゃなくなったら、すぐに言うのよ。一人で我慢したら、承知しないから!承知しないわよ。いい?覚えておきなさいよッ!」
「亜沙子・・・」
泣かれるかと思ったが、亜沙子は泣かなかった。そして、ニコッと微笑むと、
「お腹すいてるでしょ。ご飯とっといたから。食べれば」
「あ、いや。俺・・・」
言いかけた連橋に、亜沙子は首を振った。
「食べなさい。色々あった時は、お腹いっぱいにして、あとはバタンキュー。なにも考えずに眠るの!」
「亜沙子・・・」
「わあい。ご飯、ご飯♪ひーちゃんも食べるぅ。ふりかけでたべるのー」
久人は、キャッキャッ★と無邪気に喜んでいる。
「ひーちゃん、真夜中だぜ。おまえ、んとに食いしん坊だな」
連橋は笑いながら、久人を抱き上げると、うなづいた。
「メシ。食わせてくれ、亜沙子」
「うん!そうこなきゃ」
亜沙子は、元気良くうなづいた。連橋は、そんな亜沙子と久人を見つめて、微笑んだ。

そして、連橋は改めて思った。
俺は、まだ、崩れるわけにゃいかねえんだよ・・・。絶対に、絶対に・・・!
こんなところで、ヘタれている訳にゃいかねえんだから・・・!

4話に続く

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