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壁面に映し出される超迫力画像に、陽はタラリと涎をこぼしていた。
「陽様・・・」
呆れたかのようにロテが、テイッシュを差し出してくれた。
「んあ。さ、サンキュ。えへへ。すまん。なんか、カルチャーショックで」
ゴシゴシと口を拭きながら、陽は照れたように笑った。
「他にご質問はございませんか?」
「ない。色々と教えてくれて、あんがと。すげえ助かった!!」
ロテは、陽の無邪気な反応に、ニコッと微笑んだ。
「では、ごゆっくりお寛ぎください」
「あんがとなー」
ロテが部屋を出て行くと、陽は再び壁面の画像に見入った。壁一面に映し出される超美しい映像。まるで小さな映画館だ。いわゆるテレビ。この世界では、これがテレビだった。多種多様な番組。その中で、陽が見つけたのは、乳のデカイアイドルらしき女の子達がユニットを組んで、なにやら歌を歌っているチャンネルだった。その顔のまともさと、肉体的素晴らしさに、久し振りに陽の中の雄の本能が滾った。
「おっぱい〜」
でへへとやにさがり、彼女達の激しいダンスの最中に揺れる乳を見て、陽はデレデレとしていた。
「やっぱり、乳はいいのう」
馬面や蛇面や、よく訳のわかんない顔や体をした人々が溢れているらしきこの世界。そう。この世界は、異星人で満ちている。そんな中、陽が見つけたチャンネルで歌う彼女達は、地球人とほぼ同じ外見をしているのだ。なんだか、ホッとした。この世界にもまともな女かいるのだ・・・。
そしてその迫力ある大画面では、ゲームも楽しめる。ゲームチャンネルにすると、幾つかのゲームソフトが選べ、それで遊べるのだ。陽はかつてゲーマーだった。ゲーマーにとって操作性というのは、あまり問題にならない。勘で、動かすことが出来るのだ。陽はコントローラーを握り締め、格闘技ゲームに勤しんだ。
「うりゃ。このやろー。北条、死ねっ」
相手キャラを北条と見立てて、陽は思いっきり自分のキャラで、相手に殴りかかっていた。蹴る・殴るの繰り返しで、相手を地に沈める。
「格ゲーは、これだからイイ。あー、いい汗かいた。すっきりする。にしても、サイコーだな、この家広いし、なんでも揃っている」
腹が減ったら、パソコンの端末らしきで、ネット注文。すると、10分もしないうちに食べ物が運ばれてくる。食べ物だけではない。書籍から、服や小物まで。なんでも、届け
てくれるのだ。ベッドは広いし、空調も快適だ。
この世界に、こんな素晴らしい文化があったとは。桃色屋敷に監禁されていた陽には、まったく「貴方の知らない世界」状態であった。
そういえば、北条のヤロウ、体、平気なんだろうか・・・とチラリと陽は思った。血がダラダラと滴り落ちていた。俺の腕の中で・・・。
陽は思わず、自分の掌を見つめてしまう。アイツが苦しんでいるのに俺って、こんなにはしゃいでていいもんなのか?と陽は思ったが、即座に首を振った。
「おとなしくしてるタマか、アイツが。どーせ、ベッド抜け出して、ルゼとでもやってるに違いねー。心配なんかすっか!無駄、無駄」
ブンブンと首を振って、陽は心の中の北条を振り切った。
「あ〜あ。外に行ってみてえな〜」
陽は、大きな窓から、外を覗いた。もう夜だから、なにも見えないが、微かに遠くに集中した灯りが見えた。ここに来がけに見つけた、街らしき場所の光なのだろうか。街というものが持つパワーに触れてみたい・・・と陽は思っていた。しかし、羽がない陽には、この21階からの脱出は無理に等しい。
「はふ。まあ、贅沢は言えねえか・・・」
ポフッ、と陽は柔らかい弾力のベッドに腰掛けた。と、同時に、部屋のドアが開いた。
「よ。どうだ。快適に過ごしてるか?」
入ってきたのは、リスローだった。
「おう。アンタの家。すっげー快適!」
「そうか。良かったな」
そう言うリスローの脚は、どことなく危なっかしい。陽は眉を寄せた。
「って、アンタ。飲んでるのかよ。脚がなんかフラフラしてっぞ」
「んー。イゾルデの精液は、酒みたいでな・・・。それも強力な、さ。だから、終わった後はフラフラする」
「せ、精液って・・・」
陽は顔を引き攣らせた。俺がこの部屋で健全におっぱいやゲームで喜んでいた間に、コイツはもう愛人と一発抜いてきやがったのか・・・と陽は呆れた。揃いも揃って、レコーダーというのは、しょーもねー色ボケ集団だと思った。
リスローは陽の横に腰掛けた。
「どうだ?おまえのも俺に味見させてくれねえか?」
耳元に囁かれて、陽はゾオッとした。そそくさとリスローの横から離れて、ガバッ、と枕を抱きしめた。
「ちっ、近寄るな!俺は、ブサイクなんだろ。ちんくしゃなんだろ。てめえの射程範囲じゃねえ筈だ」
「まあなぁ」
リスローは前髪をかきあげた。
「けど、たまには、珍味もいいかなぁと。サーシャがあれだけ骨抜きになっているんだから、どんなもんだろうなぁとは思っていたりする」
「思うな!」
即座に陽は怒鳴り返した。
「・・・そうだな。俺はサーシャと、おまえを争って戦うなどという絵にならんことはしたくない」
フッとリスローは鼻で笑った。
「どーゆー意味だ、このやろ」
そんな展開はこっちだってご免だよ、と思いつつ、陽はそれでもムッとしてしまった。
「俺はこれでも、自分の世界では、モテモテだったんだ!!バカにすんじゃねー」
「は。言うは自由だからな」
ケロリとリスローは言い返す。クッと陽は唇を噛んだ。
「まあ、いいさ。なにか不自由はねえか?と思って来てみただけだ。おまえは、サーシャからの預かり物だ。一応は、気を使ってやんねーとな」
「アンタさえこの部屋に来なければ、快適。なんの不自由もない。出てけ」
「わかった、わかった。じゃあ、退散するさ。さて、次は誰の部屋に行こうか」
フッフッと笑いながら、リスローは出て行った。
「どいつもこいつも・・・。腹上死しやがれよ・・・!」
バフッ、と陽はベッドに横になった。だが。
「勿体ねー。寝てる暇なんか、ねえよ!」
また北条の屋敷に連れていかれたら、もう素晴らしきこの世界は味わえない。さっきドッサリとネット注文をした雑誌を陽はパラパラと捲った。この国のファッション誌などあてにはならない。だから、実用的に・・・と、裸体の雑誌。つまりは、エロ本を仕入れていた。
「ああ、俺のチンコ。まだ使えるんだろうか・・・」
陽は下着の上から、自分の大切なブツを撫でては、パラリパラリと雑誌を捲っていった。


強烈な光に、陽は目を覚ました。いつの間にか、朝が来ていた。大きな窓から差し込んでくる日の光が、部屋一面を照らし出していた。
「ああ。リッチな感覚・・・」
うーん、と伸びをして、陽はバスルームに直行した。これまた、このバスルームが広く、一人で入るには勿体無い。惜しみなく飾られた色とりどりの花々の芳香に咽つつも、陽は広いバスタブに身を沈めた。大きく開いた窓には、遮るものがなく、ただ日の光がバスルームのタイルを照らし出していた。
「っかー。天国、天国」
もうもうと湯気が天井に向かって上がっていく。バシャバシャと陽はバスタブの中で泳いだ。
「懐かしいな。スポーツジムでよく泳いだっけ」
ふっ、とそんなことを考えて、陽はなんとなく淋しくなった。広いバスタブの中で、隅っこに移動して、膝を抱える。
地球。俺の、星。生まれた場所。本当に、もう、なくなってしまったんだろうか。確かに北条が見せてくれた映像では、あの青い星が木っ端微塵に砕け散っていた。
「でも・・・。真実なんだろうか・・・」
だとしたら、淋しい。
「ちきしょう・・・。冗談じゃねえよ・・・」
もう、戻れない。一生懸命この世界から逃げても、地球がなければ、意味がない。
「俺の生きている意味って・・・」
ホロリ、と陽の心に淋しさが湧き上がってきた。あ、俺、泣いちゃうかも・・・と思った。
「俺が生きている意味って・・・」
と、そこへ。
「陽様ぁ〜。ご入浴中ですか?朝ご飯を持って参りましたのですが。リスロー様からの差し入れです」
と、ロテの声が、バスルームに響いた。
「え?マジ?今、行く。今、行く〜〜〜」
バシャッと水滴を体に纏わりつかせながら、陽はいそいそとバスタブから脱出した。
淋しさは食欲には勝てなかった・・・。


「んまい、んまい」
もぐもぐと、陽は片っ端から、テーブルに並べられた食事を平らげて行く。
「リスロー、アンタ、天才じゃねえのか?すげえ美味いぜ」
「ふふ。まあな、俺は天才だろう」
並べられた食事は、全てリスローが作ったものだという。
「俺のところではな。初めて来た愛人に、必ず俺の手料理でもてなすという決まりがあってな。俺が作った決まりだが」
ブッ、と陽は吹きだした。
「俺は、てめえの愛人じゃねえっ!」
「そうだが。一応、おまえは客人だしな」
リスローは、陽が食事をガツガツと平らげていくところを満足気に目を細めて見つめていた。
「見事な食いっぷり。天晴れというところか。それも俺の料理の上手さ故だな」
「っかしよー。ホント、アンタってすげえよな。レコーダーの癖に、医者だし、料理上手いし」
要は手先が器用ということなのだろうか、と陽はスプーンをくわえつつ、思った。
「そうだろ、そうだろ。サーシャと比べて、俺はどうだ?」
「アンタのがマシなんじゃないの?アイツ、頭の中セックスだらけだもん。ヤツが料理してる姿なんて見たことねーし」
陽の言葉に、リスローは、ウムとうなづいた。
「そうなんだよなぁ。どう考えたって俺のが全て秀でているのに、なぜかヤツの方がモテる」
不満気なリスローだった。
「顔の差なんじゃねえの?ヤツは、顔だけは、とにかくマトモだからな」
陽の言葉に、リスローはムッとした。
「なんだと?」
「へへ。いつものお返し!」
陽は、ニャハハハと笑った。
「・・・くそっ」
悔しげに言うものの、リスローは笑う陽を、ジッと見つめた。
「おまえ。笑うと、可愛いな」
「あ?」
きょとん、として陽はリスローを見た。
「笑うと可愛い」
ニコッとリスローは微笑み、言った。
「俺は笑っても泣いても怒っても可愛いもん」
「ほう」
キラリ、とリスローの瞳が輝く。
「確かに表情豊かで、バラエティに富んでいる。俺の愛人達にはいないタイプだ」
「だっ、だったら、なんだって言うんだよ」
リスローの怪しげな流し目に、陽はビクッとした。
「おまえのこと、もっと知りたいかもしれない」
と、リスローの言った言葉に、陽はゾーッとした。
「や。知らなくていいから。あんたは、自分の愛人達を可愛がっていりゃいいことだし。なあ、ロテ」
リスローの傍に付き添っていたロテは、少し戸惑っていたようだが、やがてコクンとうなづいた。
「ほらほら。ロテもそうだって言ってるし!興味本位で構われちゃ俺、迷惑だし」
フッ、とリスローは笑って、立ち上がった。
「ロテ。時間だ。明日のアリシード閣下の葬式の式典のリハーサルが行われる。支度を頼む」
「は、はい」
ロテは慌ててリスローの後をついてゆく。
「よく噛んで、ゆっくり食べることだ。それではな、陽」
リスローは、陽の髪をクシャッと撫でると、部屋を出ていった。
「ちっ。からかいやがって。でもまあ、仕方ねえか。やっとアイツも俺の美貌に気づいたってことで。仕方ねえなぁ、罪な男、俺♪」
キャハッなどと一人自画自賛ではしゃいでいられる今が、陽にとっては一番幸せだったのかもしれない。


「ん〜」
寝返りを打って、陽はギョッとした。窓が開いて、窓枠にはリスローが佇んでいた。背後には大きな月が二つポッカリと浮かんでいた。
「り、リスロー」
陽にとっては有り得ない、だが、リスローにとっては容易いことである、窓の外からの訪問。
「なっ、なんだよ、てめえ」
リスローはレコーダーの姿をしていた。北条と同じように金の長い髪に、羽。だが、陽が瞬きをしている瞬間に、いつの間にか褐色の肌のいつものリスローの姿に戻っていた。
「どうしたんだよ」
陽はベッドの上で、リスローを怪訝に見た。
「先ほどな。明日の式典のリハでサーシャに会ったのだが・・・。ヤツめ。俺の好意を全然理解していない挙句、俺のことを下半身無節操男とぬかしやがった。だから、今すぐ陽を戻せ、とな」
ムスッとした顔で、リスローは言った。
「って・・・。それって、真実じゃねえかよ。ま、ヤツにも人のこたぁ言えないねーけどな」
ハハハと笑ってから、陽は、ドキッとした。
「そ、それがもしかして、俺になんか関係ある・・・とか?」
さすがの陽も、リスローの不気味な目の光に気づいて、ベッドの上から体を起こした。
「あるとも。ここまで紳士的にふるまっていても、ヤツは俺をめちゃくちゃに罵り、口にするのは陽を返せ、陽を返せ、ばかりだ」
トンッ、とリスローは床に降り立った。
「さすがの俺も頭に来たぜ。ならさ・・・。遠慮するこたぁねえな、と思って。どうせなら、おまえとヤッておこうと思ってさ」
バサッ、とリスローは衣装を解き、素早く全裸になった。
「って、素早すぎ!なにしやがる。離せ」
あまりの展開の速さに、陽は、ベッドから逃げるのが遅れた。グッ、とリスローに腕を掴まれた。
ドサッと、ベッドに押し倒される。
「や、やめろって!俺はおまえの好みじゃねえんだろ!食ったって美味しくねえよ。やだ、やだ」
陽は、リスローに覆い被されたが、その体の下でバタバタともがいた。
「あのサーシャを虜にするぐらいだからな。興味はある。それに、おまえはよく見ると可愛いことに気づいた。ヤるにはなんの支障もない」
リスローは、陽が今朝ほど通販で買ったばかりのお気に入りのティーシャツと短パンを軽々と剥がしてしまう。
「マジ、やめろって。離せ、離せ、バカ。ほっ、北条っ。助けろ、北条〜」
陽の、小さな乳首に指を絡めていたリスローが、フッと目を細めた。
「嫌ってる筈の男に助けなんか求めるなよ」
「冗談じゃねえよ。お、男に抱かれるなんて、アイツだけで充分だっ。嫌だ」
「なにを言ってる。素質があるから、アイツの愛人になれたんだろう・・・」
チュッ、とリスローは陽の乳首に吸い付いた。
「っつ!」
ビクッ、と陽の体が跳ねた。望まぬとも教えられた感覚を、体が覚えていて、敏感に反応する。
「バカ。リスロー、止めろ。正気に戻れええっ」
喚く陽の唇に、リスローの唇が重なった。
「んぐっ」
無理やり奪われる唇に、陽は眉を顰めた。こじ開けられた唇に、リスローの舌が潜り込む。
「んん」
息が苦しくて、陽はもがいた。チュクッ、と音を立てて、唇が離れて行く。互いの唇が唾液で結ばれていた。陽の頬は、早くも上気し始めていた。グッ、と陽が唇を擦った。
「ほお。おまえでも、中々色っぽい顔になるんだな。こういうことをしていると」
リスローは満足気に笑った。
「るせえ、るせえ。俺から離れろっ!」
陽は、リスローの胸板を両手で押した。だが、ググッとリスローの胸板は押し戻され、再び陽の体にピタリと合わさる。
「熱い体だ。気持ちいい。どんな異星人と交わっても、体というものは熱いのだな」
「痛いっ」
リスローに力いっぱい抱きしめられて、陽は悲鳴を上げた。
「おまえの体に、刻印してやる。俺とおまえが、こうして抱き合って、セックスしたことを証明する為にな。あのスカしたサーシャに、見せつけてやろうぜ」
「んなもん!冗談じゃねえ」
暴れても、圧倒的な体格の違いに、陽の抵抗はリスローに届かなかった。リスローは言葉の通り、陽の首筋から、胸元、腹にかけて、ねっとりと愛撫と、そしてキスの雨を降らしていく。
「ん、ん、ん」
その感覚に、陽は声を堪えた。
「なんで、俺が、こんな目にっ」
地球に居た頃、男とのセックスなど、陽には眼中になかった。酔っ払ったはずみで、一度だけ、北条と寝てしまったことがあるが、それだってしばらくは立ち直れない程ショックだったのだ。なのに、この星に連れてこられてからは、ほぼ毎日が北条とのセックスの時間で、それからやっと解放されたと思ったら、今度はまた。それも、北条以外の男、とだ。
「くそっ。てめえ、恨んでやるっ。北条のバカの売り言葉をまんまと買いやがって」
ボカボカと陽は、自分の下腹部を彷徨っているリスローの黒髪を殴りつけた。
「痛いぞ。まったく、最中の間ぐらい、大人しく出来んのか。って、これで、サーシャも傷が開いたのか・・・。ま、気の毒と言えば、気の毒だがな・・・」
濡れた舌で、ペロリと唇を舐めながら、リスローはニヤリと笑った。
「サーシャとのやりとりは、単なる口実だ。ここ数日で、実はおまえに興味を持っていたのだ。喜怒哀楽の激しいところも慣れれば可愛い。懐かせることが出来れば、より一層可愛くなるに違いない、とな」
その言葉に、陽は激しく反論した。
「俺様が可愛いのは、最初からだ!気づかねーてめーの眼が悪かっただけだ。今更、んなこと言われたって、俺は嫌だ。口説き文句なんか通用すっか!も、もう充分だろ。俺の体、キスマークだらけじゃねえか。もう充分だ〜」
ブンブンと陽は首を振った。
「や。まだだろう。もうひとつ、重要なところが残っている。俺は、ココに挿れるのがなにより好きでな。挿入第一主義者なのだ。フェラよりも好きだ」
ツッ・・・とリスローの指が、キュッと閉じた陽の最奥を突いた。
「自慢することかっ!ひっ」
陽は竦みあがった。
「あのサーシャを虜にした、ココの味。たっぷりと堪能させてもらうぜ」
リスローは、掌に自分の唾液を吐き、それを指に馴染ませた。
「じょっ、冗談じゃねえぜ。俺は、ソコ、一回切らしたことがあんだ。で、デリケートなんだ。俺のソコは。いいい、いやだ。いやだ〜」
ズルズルと背でシーツを擦り、陽はリスローから体を離そうともがいた。だが、リスローの指から逃げることは出来なかった。リスローの指は、ピタリと陽の最奥を差し込まれ、モゾモゾと動いていた。
体の奥を掻き回される感覚に、陽はピクピクと体を震わせた。
「た、助けてくれ。北条のバカヤロー。こんな時になにしてやがんだ、クソヤロー!根性出して、助けにこんかーいっ」
無意識だったが、陽の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「無理だな。今夜、このマンションには、サーシャに関する全てを拒否するロックがかけてある。ヤツは、シールドに阻まれて、ここへ来たくても来ることが出来ない。やつは、歯軋りしながら、この夜が過ぎるのをただ待っているだけだ。ざまあみろ、だ」
ガッ、とリスローの指が、陽の両手の指に絡まった。そして、陽の腰がググッ、とシーツから浮いた。リスローが陽の尻を膝で持ち上げたからだ。
「行くぞ」
「来るな!」
ズルッ、と陽の最奥に、リスローのペニスが潜りこんできた。
「あ、あうっ」
体が覚えているペニスの形じゃないことに気づいてか、陽の最奥の襞がキュウッと締まった。
「つっ」
リスローが眉を寄せた。
「初めて並のきつさだな。すげえ」
リスローは感嘆の声をあげた。
「うっ、うっ、うっ」
体の真ん中を進んでくるペニスのきつさに、陽は唇を噛んでこらえたが、喘ぎは口の隙間をついて、音となる。
「んぁ。あ、ああ」
リスローのペニスが、完全に収まったのか、リスローは動きを止めた。ヒクヒクと陽の体がシーツを跳ねる。
「これはイイ・・・」
リスローはうっとりしたかのように言っては、陽の指から自分の指を解き、グッと陽の両足を掴んで、肩に担ぎ上げた。
「ひっ。ああ」
斜め上から突かれて、陽は唇を噛んでいられなくなった。
「うう。う、うっ。ああ」
クッ、とリスローは腰を動かした。ゆっくりと、そして、少しずつ速く。
「あ、あ、あ」
リスローの腰の振動に合わせて、陽の声も跳ね上がった。
「や、やだ。ち、違う。い、いつも・・・と、違う。やだ・・・」
うわ言のように陽は言って、首を振った。
「いつもと違うか?それはそうだろう。俺はサーシャじゃない。陽、どっちがイイ?俺だろ。俺の方が、いいだろ?」
リスローは腰を突き上げながら、陽の耳元に囁いた。
「っあ。あ。ふ・・・。う、うう」
一旦引き抜かれ、瞬く間に体をひっくり返され、陽はバックから攻められた。
「ん、くぅ。うっ」
枕を噛みながら、陽は最奥から駆け上がってくる快感と思しきものと戦いながら、心の中でずっと、『違う、違う・・・』と呟き続けた。
リスローは、陽の最奥を攻め続けながらも、陽の背中にキスを散らしていった。
「はあ、はあ、うっ。んん・・・っ」
枕を、唾液と、そして、涙が濡らしていく。陽は泣いていた。快感の涙でもなく、自分でも訳がわからないが、とにかく泣いていた。
「ううう」
そんな陽に、リスローが首を伸ばし、マウストゥマウスを求めてきた。唇が離れた後、リスローは陽の耳元に囁いた。
「サイコーだ、おまえ」と。『こっちはサイテーだ・・・』とは、無論今の陽には言えなかった。


朝。目が覚めると、もうベッドにはリスローがいなかった。そういえば、今日は午前中から式典があると言っていた。今頃は支度でもしているのだろう。陽はホッとした。
「ちきしょう。好き勝手やりやがって・・・」
セックスした後のいつものことで、腰が痛い。腰に手をやりつつ、窓から差し込んでくる朝日に、陽は目を細めた。が。その光に照らし出された自分の裸体を見て、陽はサーッと血の気が引いた。本当に、体中は、キスマークだらけだった。
「・・・って、オイ。洒落になんねー・・・」
これを見た時の、北条の怒りが、陽には簡単に想像できた。
「お、俺が悪い訳じゃねえ。だ、だいたいアイツがリスローに。ちゅーか、リスロー!ちきしょー。てめえ、出てこい!俺の体をこんなふうにしやがって。出て来い、出て来いっ」
キイキイと陽はベッドの上で叫んだが、部屋はシーンとしている。諦めて、陽は再び横になった。
「どーなるんだ、俺・・・」
本気で陽は不安になった。考えていくうちにどんどんと不安になった。
「に、逃げよう!」
いきなり陽はそう思い立ち、腰の痛みを堪えて、ティーシャツとジーンズを身につけた。そして、ササッと部屋を見渡し、この数日でネットで購入した服やら本やら色々とお気に入りのものを風呂敷に包み(どっから風呂敷が・・・)、陽はそれを背負った。
「逃げます、逃げます。稲葉陽、逃げまーす」
ババッと部屋を飛び出そうとした時だった。開いたドアが風圧でバタンと閉じてしまった。
「!」
驚き、陽は振り返った。窓に佇む影は、逆光でよく見えない。陽は後ずさりながら、目をこらした。
「ほ、北条」
あっと言う間もなく、北条は翼を広げると、陽をその腕に抱いて、窓から飛んだ。
「おま、おまえ。今日式典・・・」
「まだ時間には間に合う」
北条の腕に抱えられながら、陽はボソリと言った。
「傷はもう・・・いいのかよ」
だが、北条からは答えが戻ってこない。
「北条?傷は」
と言いかけた時、陽は強引に唇を塞がれた。
「んんっ」
長々としたキスを終えた頃、陽の瞳には開いた窓の風景が飛び込んできた。
「えっ?」
開いた窓に、北条は陽を運び込んだ。
「ここはリスローの隣の俺のマンションだ。滅多に使わないがな。今は時間がない。おまえをここに置いていく。式典を終えたら、ここに帰ってくる。いいか。逃げ出そうとは考えるなよ。もっとも逃げることなど不可能だけどな」
北条の切れ長の瞳の光と、声色が、怒りを陽に伝えた。
「ちょっ、ちょっと待てよ、北条。俺はなんも悪くねえからなっ!」
陽は柄にもなくビクつき、慌てて言った。
「その話は、後でゆっくりとしよう。俺は今、閣下を見送らねばならぬ」
そう言って北条は再び羽を広げ部屋から出て行った。
シーン。
だだっ広い部屋には、なにもなかった。ベッドすらない。ただ、空調は効いているようで、寒くも暑くもないのが陽には救いだった。
「怒ってるよ、怒ってるよ、どうすべ・・・」
陽は、ペタリとその場に座り込み、北条の飛んで行った窓の向こうに見える青い空を見上げた。

続く

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