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ブロンズの乙女の像。
乙女が右手に持つランプらしきものからは、涼やかな音を立てて水が流れていた。今回の銅像は、まともなところにあるなあ・・・と陽はなんとなく思った。陽は、退屈なので、よくこの屋敷の広い庭を散歩する。すると、こういう銅像と何度なく遭遇するのだ。庭に銅像。それ自体は、別に違和感はない。だが、置かれている場所が問題なのだ。木の後ろにヒッソリと立っていたり、草むらの陰に立っていたり。この前なんぞは、昼寝をしようと寝転がった芝生の草むらの奥に、ブロンズの筋肉マンが立っていて、陽は心臓が止まるかと思うぐらい驚いたのだった。人目を意識してないで、無造作に適当に置いたという感じだった。センス悪すぎ〜と陽は思った。
「はあ」
空には、二つの太陽が輝いているというのに、日差しはそれほど強烈でもなく、日本で言うならば春のようなふんわりとした柔らかい日差しだった。
「ふう」
再度溜息をついて、陽は乙女の像が佇む噴水の縁に腰を下ろした。
「それにしても、長閑だ。ああ、腐る・・・」
地球にいた頃、時間に縛られあくせくと働いていた。「俺に自由な時間をくれ〜。一日中と言わず、ずーっとダラダラしていてえ〜」とよく心の中で叫んでいたものだった。だが、母星の青い地球がぶっ壊れてくれたおかげで与えられた自由な時間は、陽にとっては苦痛以外のなにものでもなかった。もっとも、これは俺の望んだ自由ではないが・・・と思いハッとした。望まない挙句に考えてみりゃ、これって自由じゃねーじゃんと思い直した。拉致監禁状態の中の自由なのだ。尻の傷のせいで、北条とのセックスがお役ご免になり、余った時間。いかに自分が、この星に連れてこられて、北条とのセックスに時間を費やしていたかがわかった。情けなさ過ぎて、涙も出ない。
「どうした。腐った顔をして。そんなぶすっくれたツラをしていると、リスローにまたからかわれるぞ」
背後から聞こえた声に陽は、ギクリとして振り返った。視界の反対側から、この桃色屋敷の主人北条が現れた。俺に苦痛の自由を与えた張本人だ・・・。陽は舌打ちした。
「てめえは。こんな真昼間から仕事もせんで、なにをやっている」
「俺は、今日は非番だ。せっかくの休みなのに、おまえのその軟弱な尻のせいで、おまえとデキない。だから、別の者で欲望をはらして来たその帰り道に、しけたツラしているおまえに出くわしたという訳だ」
「その帰り道に俺とでくわした?おまえ、青姦好きだな」
ここは、誰がどう見ても外である。屋敷の中の廊下ではないのだ。
「青姦もルゼも好きだぞ、俺は」
ぬけぬけと北条は言った。その言葉に、ピクッと陽の眉が寄った。
「あ、相手はルゼかよ」
「そうだ」
軽く髪をかきあげながら、北条はニッコリと微笑んで、陽の傍らに腰かけた。
「どうだ?尻の方は。いつ治ると言われた?」
「永遠に治らないと言われたよ」
「嘘こけ」
「顔合わせば、尻、尻言うのは止せっ」
バッ、と陽は隣の北条を睨みつけた。
「おまえこそ。俺の顔を見る度にファイティングポーズを取るのは止めてくれ」
陽は、両の拳をしっかり握っては、胸の前で構えていた。
「るせっ。隙をみせると、てめえはいつだってサカッてくるんだからな。本当は、ツラ見かけた瞬間から、バズーカー砲で撃ち抜いてやりてえんだよ」
「んなことされたら、死ぬって」
「どうせ、おまえなんか多少のことじゃ死なねー体してんだろうが!」
北条は空をも飛んでしまうエイリアンなのだ。
「地球人のおまえと比べたら、確かに俺の体は頑丈だが、さすがにルゼの一族のような訳にはいかん。おまえ、俺が死んだら困るぞ。うちの他の愛人達は躾が行き届いているから、俺が戦死しても、必ず誰かが引き取ってくれるであろうけど、おまえはなあ・・・」
顎を撫でながら、北条はジロジロと陽を見つめた。
「可哀想だが、データは取り終えているのだから、即刻清掃局かもな・・・」
「おー!上等だ。清掃局だろうが、電話局だろーが、てめえ以外のところならどこでも大歓迎だね。フンッ」
鼻息荒く陽は、怒鳴り返した。だが、そんな陽をまるっきり無視して、北条は真剣な顔だった。
「ふむ。リスローによく頼んでおくか。俺に万が一のことがあったら、陽を頼むとな。アイツに万が一のことがあったら、俺はアイツの愛人の30人は面倒見る予定になっているしな」
その言葉に、陽は引き攣った。
「んだとぉ!?こ、これ以上、まだ数増やす気かいっ」
「愛人に、上限はないんだ。好きなだけ増やしていいんだぞ」
ケロリと北条は言った。陽は、呆れてあんぐりと口を開き、その勢いで顎が外れそうになった。
「と、まあ。こんなありえないことを考えているよりか、俺は早くおまえとヤりたいんだがな。本当のところ、尻の具合はどうなっているんだ。素直に言えよ」
「尻、尻、うるせーんだよって言ったろうが!」
ガアンッ、と陽は用意していた拳で、北条を殴りつけた。
「いててっ。ったく。元気が有り余っているんだな。おまえも、さっさと発散させたいだろ?」
「大勘違い!だいたいてめえはなっ」
と、陽が言いかけた時だった。二人の背後に佇んでいたブロンズの乙女の口から、サイレン音が発射された。
「うぎゃあああああっ」
陽は吃驚して、悲鳴をあげた。
「な、なに、なに?今の音、どこから」
ふと隣の北条が、ブロンズの乙女を見上げているのに気づいて、陽も銅像を見上げた。
乙女の口からは、機械音がこぼれ続けていた。
「これ、スピーカーなんかいっ」
呆れた陽であった。
「本来は、違った。だがな。過去俺は、非番の日に、緊急召集を蹴飛ばしたことがある。なぜか。こういうメッセージを聞き逃したのだ。青姦中だったんだよ。その日はいい天気で、ムラムラと外でヤりたくなって。戦い終わって部屋に帰ってきた頃に録音されたメッセージを聞いて慌てて職場へ駆けつけたが、時すでに遅し。上司には散々怒られて、愛人を20人も減らされた。事態を憂えたルゼが、こうして処置してくれたのだ。どこにいても、緊急招集を聞き逃さない為に」
陽は、呆れても声も出なかった。この広い庭の、意味不明なところにある銅像の謎が今、解けた。
「庭園の美観を損ねずに、いかに召集を聞き逃すまいか、とルゼはかなり苦労していたな」
のほほーんと北条は言った。
「てめえのせいだろ、てめえのっ!」
「しっ。黙れ。メッセージが始まる」
機械音が止み、しばらくの沈黙のあと、言葉らしきものが流れ始めた。声質は、男のようだった。
「なんて言ってる。同時通訳しろ」
「・・・惑星ジェイドで、戦争勃発。調査中のアリシード司令官生命反応消滅。ジェイドは、今うちの星が一番力を入れている大惑星だ。それに、アリシード閣下の生命反応が消失だと?えらいことだ」
北条の表情が見る見る間に険しくなっていった。
「調査中だったレコーダー全逃避警報発令中。だが、次々と生命反応消失。このままでは、全滅の恐れがある。非常事態。待機中の次のレコーダーは即刻応援に出よ」
「!?」
陽は、北条を見上げた。名前の羅列をアナウンスしているようだ。とあるところに差し掛かって、北条の肩がピクリと震えた。
「呼び出しだ。惑星ジェイドに出発する」
バッと立ち上がると、北条は走り出した。陽も後を追う。屋敷の中には、非常召集の放送があちこちから流れている。北条は、屋敷の中にある執務室に走っていく。
「急いでいるならば飛べよ」
「ジェイドでたっぷり飛ばねばならん。こんなところで、体力使ってたまるか」
陽は北条の後について走っていった。屋敷の中では、既に愛人達が事態の深刻さに不安気な顔をして、廊下に佇んでいる。駆け抜ける北条に、みな、なにごとか声をかけている。北条は、そんな彼らに手を振ったり、微笑んだりしながら、執務室に飛び込んだ。陽は開け放たれた扉のところで立ち止まって、部屋の中を眺めていた。
「ルゼ。今のを聞いていたな。ジェイドに出発する。あとのことは、任せたぞ」
部屋の中にいたルゼは、馬面を解いて、美しいあの顔のルゼだった。
「畏まりました。行っていらっしゃいませ」
ルゼは、手に持っていた緋色の剣らしきものを北条に手渡した。北条は、スッと鞘から剣を引き抜いた。もうひとつ、インカムマイクのようなものを手渡し、北条はそれを装着した。バサリ、と北条の背の羽が広がった。その瞬間、北条の体から、小さな光が幾つも発光した。瞬時に、北条の髪が、風に流れるほどの長い金色の髪に変わった。
「げえ。へ、変身!?」
陽は、目を見開いては、声をあげた。今の北条の姿は、長い金色の髪。純白の羽。均整のとれた肢体に、もともとの整った小さな顔。
「これが、俺の本来の姿だ。レコーダーとしての力をオープンにすると、こうなる」
掌に、ギュッと剣を握りしめると、北条はニコッと陽を見つめて微笑んだ。
「美しいだろ。惚れ直したか?」
「つーか・・・。な、なんか天使みてえだぞ、おまえ」
ジーンズ姿の天使。一瞬滑稽に思えたりするが、中々神々しい。
「それは褒めているのか?」
「い、一応な」
あまりに優雅なその姿。だが実態は天使というより魔物。いや、淫魔だ。陽は思わず顔を赤くした。
「俺が帰ってくるまでに、ちゃんと治しておけよ。おまえの尻に嵌めて、アンアン言わせてやるのを楽しみに、戦ってくるからな」
天使のようなツラで、口にするのは卑猥な言葉。陽は、ガックリと肩をおろした。
「行ってくる」
そう言うと、北条はタンッと窓枠を蹴り、空中に飛び出した。
「サーシャ様。ご無事で。どうぞ、ご無事でお戻りくださいませ」
ルゼが、窓枠から身を乗り出して、空中を飛ぶ北条の背に向かって叫んだ。
「サーシャ様、サーシャ様」
ルゼは、いつまでも叫んでいる。
「ルゼ。もうアイツ、行っちゃったよ。大丈夫だよ」
陽は、ルゼの傍に駆け寄り、ルゼの肩を抱いた。覗き込んだルゼの双眸には、涙が浮かんでいた。
「ルゼ・・・」
「ジェイドの戦争は今までとは訳が違います。アリシード司令官までお倒れになったご様子です。今回のは、かなり大きな戦・・・。サーシャ様が心配です。エルカウド最高司令官は、三大レコーダーの全てに召集をかけたのですもの」
「そ、その一人がもしかして、北条?」
「はい。あと、リスロー様と、カウマイン様。三大レコーダーの全てに召集をかけるなんて、今までなかったことですわ」
いきなり訪れたこの事態は、かなり深刻のようだった。ふっ、と陽も不安になった。だが、目の前の沈痛な面持ちのルゼを放っておく訳にはいかない。か弱い女を慰めるのは、男の役目だ。
「大丈夫だ、ルゼ。北条は命しぶとい。地球が全滅した時だって、アイツは俺を連れて戻ってきたんだろ。今回も無事に帰ってくるさ。リスローと、そのカウなんちゃらも一緒なんだろ。平気だよ、ルゼ。心配すんな!」
努めて明るく、陽は言った。すると、ルゼはコクリとうなづいた。
「はい、陽様。そのお言葉を信じて、サーシャ様のお戻りをお待ち致します」
涙を拭いながら、ルゼは唇を噛み締めた。
「その意気だぜっ」
ポンポン、と陽はルゼの背を撫でた。


北条がジェイドの戦いに赴いて、一週間が経った。ルゼは、執務室から毎日離れずに、司令室からの連絡を受電していた。今日もまた、パソコンに向かってキーを叩いて、画面を見つめている。
「どうだ?」
陽は、食事もとらないルゼを心配して、様子を見にきた。
「相変わらずの様子です。司令室でも、連絡待ちのようで混乱を極めています。さっき入った連絡では、やはりアリシード司令官は死亡されたようで、遺体をリスロー様が収容されたとのこと」
「偉い人、死んじゃったのか・・・」
「とてもすごい方だったんです。サーシャ様の直属の上司でして。本来ならば、現地になど行かれるような身分の方ではないのですが・・・。アリシード閣下は、ジェイドという惑星を愛しておられたのですわ。でも、彼は、その星に殺されてしまった・・・」
パシンッ、とルゼはキーを弾いた。
「サーシャ様もそうでした。陽様のいらした地球。我々はジンと呼んでいましたが、ジンはこの星にとって未開の星でした。とあるレコーダーが偶然発見したその青い星を、サーシャ様が一目で気に入って。ある程度調査された星にしか行かない立場のサーシャ様は自らジンに降り立って。星に惚れるということはレコーダーにとってはあんまりないのだ、とリスロー様は言われました。立場的に、ひとつの星に入れ込むのは危険なんだぞって。その点は、アリシード閣下とサーシャ様はよく似ていられるんですわね」
陽は、ルゼの言葉を聞いて、目を伏せた。
北条が愛した地球。俺の故郷。今は、もう、本当にないのだろうか。そして、北条は、大丈夫なのだろうか。陽がこの星に連れてこられて、初めての緊急事態だった。主の不在。北条の不在。その不安は、ルゼばかりではなく、この屋敷に住まう者すべてを覆っている。ほとんどの者が、日に何度もバルコニーから空を見上げて、手を組み、祈りを捧げている。隣の部屋のマークは、いつすれ違っても気の早いことに目を真っ赤にしている。あちこちに設置されたスピーカーは、情報を垂れ流し続けている。悲しいことに陽は全然理解出来ない。だから、ルゼに頼るしかないのだ。
「みんな、不安なんだな・・・」
思わず陽は呟いた。
「はい。サーシャ様が惑星ジンの崩壊寸前まで留まれていた時も、この屋敷は同じ状態になりました。いえ、もっと、深刻でした。司令部からは、サーシャ・クレイの生命反応が消えたと連絡を受けたからです。私達は皆絶望して、寄り添ってただ泣いていましたわ。けれど、ご帰還された。陽様。あなたを抱えて、サーシャ様はご帰還されたんです。あの時のギリギリまでの絶望を、皆覚えているから、不安なのです」
フウッ、とルゼは溜息をついた。
「あの方は、いつも危険と隣り合わせのお仕事をされています。いつ、なにがあるかわからない任務です。予期せぬトラブルに巻き込まれることは日常茶飯事。陽様、サーシャ様のお気持ちも少しはわかっていただけると、ルゼは嬉しゅうございます。あの方は、後悔しないように日々生きているのです」
「後悔しないように生きるって、セックスばっかりしてることかよ」
ルゼの言いたいことはわかるが、なんとなく釈然としない陽だった。
「お好きなんでしょう。サーシャ様は。他者と交わることが。代表されるレコーダーは、皆性欲が旺盛ですわ。なにもサーシャ様に限ったことではありません」
ルゼは、クスッと笑った。
「趣味のうちの最たる趣味とでも言えばよろしいのでしょうか。今のところ、サーシャ様は陽様とセックスすることが一番楽しいみたいです。お戻りになられたら、嫌がらずにつきあってあげてくださいね」
「・・・そ、それは・・・」
嫌だよ・・・と、陽は心の中で呟いた。口に出して言うには、ルゼには申し訳ない気がした。
「それよか、ルゼ。北条の留守に、俺にこの国の言葉を教えてくれねえか?俺、ジッと待っているだけって趣味じゃねえんだ。なんか、時間に押しつぶされそうで。ルゼだって、毎日、パソコンに向かっているの疲れるだろ。俺、覚えはそんなに悪くねえから、悪い生徒ではないと思うぜ」
陽の提案に、ルゼはうなづいた。
「喜んで。この星の言葉は、比較的簡単ですわ。コツがあるんです」
「ルゼって、俺の星の言葉をすぐに習得したよな」
「元々、私は言語能力を研究していた研究員でしたから。サーシャ様が私の星にやってきた時も、彼に言葉を教えたのは私です。この星のレコーダーは、言語能力が発達している人々ばかりなので、サーシャ様はいい生徒でしたわ」
陽は、ムッとした。北条に負けてたまるかよっ!と思った。
「この星で生きていく覚悟を決められましたか?陽様」
ルゼは、微笑みながら陽の横顔を見つめた。
「それとこれとは別だよ。俺は今でも地球に戻ることをあきらめていない。あの星が死んだとはどうしても思えないから。けど、今のところ・・・はな。ここで生きていくしかないし」
それに、流れ続ける緊急放送を、すぐに理解出来ないのが鬱陶しかった。一体、今がどういう状況なのか。北条はどうなっているのか?生きているのか、死んでしまったのか。いつ帰ってくるのか。陽は、ちゃんと自分で、事実を聞き取りたかった。


ルゼの教えは、分かりやすかった。やることがなかったので、陽は一週間の時間をまるまる、この星の言語の勉強に費やした。細かな言い回しはまだ理解出来ないが、だいたいは理解出来た。
「素晴らしいですわ、陽様」
ルゼにも褒められ、陽はご機嫌だった。ルゼは、ここ最近、あの馬面ではなく美しいルゼのままだった。美女と寄り添い勉強するのは、楽しかった。不謹慎だぞ、と戦場の北条には怒られそうだったが。
今朝も、定刻に状況報告の放送が流れ始めた。惑星ジェイドでの任務は、想像以上に困難を極めているらしく、星の滅亡に慣れているこの星のレコーダー達も相当苦労しているようだった。昼飯を食べて、陽はいつものようにこの星の言語の参考書を片手に、庭のお気に入りの場所の芝生に腰を下ろした。ブロンズ像はすぐ後ろにある。昼の定刻の状況報告が始まった。なんとなくそれを耳にしながら、陽は青い空を眺めた。穏やかな青い空。
「もう二週間か・・・」
北条が出発してから、二週間。主のいないこの屋敷は、奇妙な静けさに包まれていた。誰もが、皆、放送に耳を澄まし、主の無事に祈りを捧げている。神に祈りを捧げる信者って感じで、宗教みてえ・・・と陽は思いながら、参考書のページをパラリと捲った。
「教祖様、早くお戻りを〜」
そんなふうに呟きながら、陽はページを捲り続けた。と、ピクッとページを操る指先が止まった。
「ジェイドから緊急報告。リスローレコーダーより通信です。会話、フルオープン致します」
アナウンスがそう告げた。
「リスロー・アーヴァインより、アリアウド司令官へ伝達致します。通信妨害を受けて、報告が遅くなりましたことを、お詫び申し上げます。全軍帰還中です。ジェイドでの任は終えました。ですが、現在惑星フルシェードの攻撃を受け、応戦中。全滅を避け、カウマイン部隊とサーシャ部隊に応戦を任せ、我が部隊は帰還中。ゲートのオープンを願います」
「了解しました。リスローレコーダー。ゲートオープン、準備完了。帰還を急いでください」
「了解」
リスローが帰還する。陽は、本を閉じた。だが、サーシャとカウマインは、まだ応戦中とのことだった。
「・・・」
バシッ、と陽は本を芝生に叩きつけた。
「くそっ。とっとと戻ってこいよっ」
更なる不安を呼ぶ報告に、陽は苛々した。またルゼが胸を痛める。ルゼ以外にも、この屋敷に住む、北条の愛人達も。そして、そりゃ、俺だって・・・。陽は、グッと唇を噛み締めた。


誰もが不安を募らせて、眠りについたその夜。真夜中に、緊急放送が入った。陽はベッドから跳ね起きた。
「こちら、カウマイン・ベース。司令部を出せっ!」
「こちら第二司令部。ウォン・シュームです。通信は届いています。どうしました、ベースレコーダー」
「サーシャの部隊がレーダーから消滅した。訳がわからん。サーシャの生命反応を探してくれっ。俺達の部隊は帰還する。これ以上は、無理だ」
「了解。現在、クレイレコーダーの生命反応探査中」
「ゲートをオープンしろ。突っ込むぞ」
「そちらも了解。クレイレコーダーの生命反応、探索完了。時空嵐に巻き込まれた模様。第一ポイント通過中。第二ポイント通過中。引き戻します」
「早くしろっ。サーシャが、戻れなくなるっ」
「第三ポイント通過中。スピードが早すぎるっ!」
通信員の、緊張に満ちた声が生々しくスピーカーから聞こえてくる。
「第四ポイント通過。第五ポイント通過。第六・・・捕らえました。戻します。けれど、このスピードでは、肉体的損傷は免れません!」
カタタッとキーボードを打つ音がする。
「早くっ。生きてりゃいい。サーシャを現ポイントに戻してくれっ」
カウマインが絶叫した。
「第五バック。第四バック。第三バック。第二バック。第一バック。帰還。クレイレコーダー、現在ポイントに帰還。ベースレコーダー、確認願います」
「レーダーに戻ってきたぞっ!やった。サーシャがレーダーに戻ったっ」
「そのまま、全軍帰還してください。応戦は不要とのこと、アリアウド司令官からの伝達です」
落ち着きが通信員に戻ってきた。
「当たり前だ。もう帰るぞ、俺達はっ」
カウマインは怒鳴り散らして、そのまま通信をぶっち切った。


廊下を走る音がして、ルゼが陽の部屋に飛び込んできた。
「陽様っ」
「ルゼ」
陽は、握っていた掌を、開いた。掌は、じっとりと汗で滲んでいた。
「陽様っ」
ルゼが、陽に抱きついた。
「怖かったです、怖かったです」
「あ、ああ。よかったな。よかった・・・。北条が戻ってくるよ」
「はい。はい」
陽の腕の中で泣きながら、何度もルゼはうなづいた。
「・・・俺も、怖かった。すげえ、緊張した・・・」
ルゼの髪を撫でながら、陽は深々と溜息をついた。
「ルゼ、もう大丈夫だよ」
声をかけたが反応がない。
「?」
と思ったら、ルゼはパタリと目を閉じていた。緊張と不安が限界に達していたところへ安堵し、ルゼは瞬時に眠りに落ちてしまっていた。気絶してしまった・・・と言うべきか。
「お疲れさん、ルゼ」
ルゼの体をベッドに横たえると、その体にそっと毛布をかけてやってベッドを譲った。陽は、窓を開けてバルコニーに出た。まだ空は、暗い。だが、夜空を縁取る星の煌めきが眩しい程だった。この空が明るくなる頃には、北条は戻ってくるだろう。
「仕方ねえから、今度からはちっとは優しくしてやっか」
空を見上げながら、陽はボソリと呟き照れたように小さく笑った。


続く

少しは進展したのかな?裏にあった頃は、ただエッチだけさせていたけど、(裏だったから、ひとつの話に、二回エッチさせようと決めていた)表に呼んできたからには、ある程度の話にさせないと・・・とおもって。裏にあった方がよかった?次回はエッチだけどね。当然だけど(笑)
そして、コメディ路線に戻ります♪

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