公衆電話から、絢は隆文の泊まる予定のホテルへ電話をした。
隆文はチェックインしていたが、外出中だと言う。
係に、「すまなかった」と伝言を残し、絢はそれからブラインの携帯に電話を入れた。
食事の予定だったが、こんなずぶ濡れでは、レストランも受け入れてくれないだろう。
ブラインは、迎えに来てくれた。
レストランでの食事はキャンセルとなり、絢は一緒に泊まる予定だったブラインの部屋のバスルームで冷えた体を温めていた。
流しっぱなしのシャワーが、元々濡れていた絢の黒髪を更にぐっしょりと濡らしていく。
だが、雨と違い、この粒は暖かい。
絢はバスタブにたっぷりと張った湯の中に体をすっぽりと沈めながら、溜め息をついた。
シャワーを止めて、肩まで湯に沈む。ずっと閉じていた目を、ゆっくりと開く。
冷たい雨が北斗で、この暖かい雨がブライン。
絢は湯を掌ですくった。
寒さに縮こまっていた体はもうとっくに解凍していて、今はただ暖かい。
絢は、立ち上がった。
ザバッ、とバスタブから湯が大量に零れた。
絢の黒い瞳は、強い意思を持って、柔らかい光のあたるバスルームのオフホワイトの壁を見つめていた。


バスローブを纏って部屋を出ると、ブラインが交代でバスルームに向った。
食事が用意されていた。絢はそれに少しだけ手をつけ、それからソファに置いてある自分の荷物に目を走らせた。
守山が届けてくれたのだと言う。絢は、立ち上がり自分のその荷物、小さなリュックを手にした。
ちょうどその時、バスルームの扉が開き、ブラインが出てきた。
「気分はどうだい?」
ブラインが優しく訊いてきた。
「ありがとう。おかげ様で気持ちいい」
ブラインはうなづきながら、指でベッドを示した。
「ベッドへ行きなさい。ken」
「その前に。アンタに話すことがある。ソファに座って、ブライン」
絢は、リュックを肩に担いで、ソファに腰かけた。ブラインはうっすらと微笑み、おとなしくソファに腰かけた。
絢はソファの間にあるガラスのテーブルの上にリュックの中身をぶちまけた。
テーブルの上には、高価な花瓶に生けられていた豪華な花々がある。絢の乱暴な行動に、花瓶がぐらりと傾いだ。
それらをちっとも気にしたふうもない絢にブラインが苦笑しながら、花瓶を支えた。
「相変わらずワイルドな子だ。この花瓶は高いよ、きっと」
言いながら、ブラインは絢のぶちまけたカバンの中身にさっと視線を走らせた。
「契約を解除してほしい」
いきなり、絢はそう言った。
「ブライン。守山とどういう契約を交わしたのか、俺は知らない。でも、もし、それが金ならばこの通帳。俺の全財産。
足りるかどうかは知らないけれど、これで勘弁してほしい」
絢は、通帳をブラインに押し付けた。ブラインはそれを受け取ったが、中を確認するようなことはしなかった。
「契約とはなんのことかい?」
ブラインはさすがに大人で、静かに聞き返す。
「僕は守山に、kenが僕と一緒にいたがっている、と聞いただけだが」
「本気だと思う?それ」
絢は即座に言い返した。
「俺は。アンタにだってなにも一言も言わずにどっか行っちまったようなヤツだぜ。その気があれば、いつだってアンタと
一緒にいることが出来た。それがなんで今更?と思わないのか?」
「気まぐれな君だから、そういう気まぐれがあってもいいじゃない?僕はそういう君が好きだよ」
絢は僅かに眉を潜めた。なにもかも知りながら、はぐらかす。
高い所に住む奴らは、いつだってこういう態度なのだ。それを絢はよく知っていた。
「わかったよ。じゃあ、それは慰謝料。Sorry。俺はアンタとは一緒に行かない。行け、ない」
その時だ。ブラインが本性を表すのは。
「NO」
今までのどこか温和な表情がきちりと引き締まり、ブラインは完全拒絶を口にする。
英語のNOは、短い音なのに、恐ろしいぐらいの威圧感がある、と絢はいつも思っていた。
「うん・・・。そうだよね。それはわかっていた。俺のこと、愛してくれてありがとう、ブライン」
「どういたしまして。君は本当に僕にとって魅力的な子だよ。愛してる、ken」
「アンタには、いっぱい、いっぱい、愛する人がいるのに、その中でも不思議なぐらいアンタは俺に執着してくれた。
俺ぐらいの顔や体ならば、そこらに掃いて捨てるほどいるのにね」
「君は誤解している。君は君だ。他の誰とも比べられない。君は、君の魅力を君自身で排除している。僕はそういう
モデルを知らない。モデルの子達は、いつも自信に満ち溢れている。私が一番、俺が一番。君には、そういうところ
がない。だから、好きだよ」
「ありがとう。でも、本当は違うだろ?たとえそう思ってくれていたとしても、俺に執着するのは、もっと別のことでしょ」
ブラインの青い瞳が見開かれた。
「アンタは俺を完全征服したいんだ。誰一人として自分の意にそぐわぬヤツなどいなかったのに、俺一人が拒絶した。
ただ、それだけだよ。でもね。征服しちゃった俺は、きっとつまらないよ。証拠にさ。抱いてみなよ」
絢は、バスローブの紐を解いた。ブラインにとっては見慣れた裸体だ。絢は、恥ずかしいとは思わなかった。
ブラインは眩しげに絢のその裸体を眺めては、自分のバスローブの紐を解いた。
「結果は君を抱いてからだ」
ブラインはそう言って、絢を抱き寄せ、その黒髪に軽くキスをした。


男を相手に商売していた最初の頃。やたらと入れたがるヤツがいた。でも痛くて。
そして、とても、とても、情けなくて。怖くて。半分も入らないうちに、泣きをいれたらソイツは許してくれた。
それから、もうどれぐらい経っただろう。
「うっ・・・」
絢のくぐもった声が部屋に響いた。ブラインの舌が、絢のアナルを柔らかく解く為に、何度も行き来する。
その柔らかい感覚は、何度も味わった。
「力をぬきなさい」
ブラインは、その手に英語で書かれたローションを持っていた。それらを掌に塗りつけた。
「lubeだ。私はこの味が好みでね。取り寄せている」
掌でゆっくりとブラインは絢のアナルの周りを撫でると、また、クチュリ、と舌で舐め始める。
卑猥な音は耳に慣れている。絢はギュッと目を閉じて、両手でシーツを握り締めた。
大きく開いた脚の間で、ブラインの金髪が揺れていた。
ヒクッと絢の喉が反り返る。ブラインの長い指が、絢のアナルに一本挿入されたのだ。
「君に挿れたくてたまらなかったよ」
「エロ・・・ジジイッ。あうっ!」
指が増えたことがわかった。そこを荒らす圧倒的な質感。
「腰を浮かしなさい」
言われた通りに、絢は腰を浮かせた。
ピチャピチャとブラインは、自分の指を三本咥えた絢のアナルを舌でまさぐっていた。
「ん、ぅ」
絢のこめかみに汗が伝った。その瞬間、体内を犯す指が退いていった。絢はホッとしたが、ハッとした。
ブラインが、細い絢の両の足首をその手に掴んだからだ。
「いただくよ」
ブラインが絢の耳元にそっ、と囁いた。その言葉を訊いて、絢の瞳に涙が浮かんだ。
「ああ。本当に君は可愛いね。ホンジョウはなんて、幸せな男なんだろう・・・」
溜め息のように言って、だがブラインは容赦せずに絢の両脚を担ぎあげては、ペニスを絢のアナルに押しつけた。
「あ、あ、あ!」
ズブズブと体内に入ってくる指とは違った圧倒的な大きさに、絢は喘いだ。
「いや、だ。ああ、イヤだ。あっ」
ブンブンと絢は首を振った。痛み。痛み。痛みしか感じなかった。
「痛いっ。やあ、ほ、北斗っ」
耐え切れずに、絢は叫んだ。
かしんっ、と音がした気がした。
そんな音が聞こえる筈もないのに、絢の耳の奥には聞こえた気がした。
ブラインのペニスが体内に完全に納まったのだ。
「あ、痛いっ。んんん」
ボロボロと絢の瞳から涙が零れた。
「力を抜きなさい。そして、僕を感じなさい、絢。そうすれば、痛いだけじゃなくなるから」
ふるっ、とブラインが腰を小さく振った。
「!」
ジワリとアナルからこみ上げる感覚に、絢は喉を詰まらせた。
グッ、とブラインは腰を入れて、絢のアナルに深くペニスを押し入れた。
「んんんっ。あ、あっ」
痛みが麻痺していく。ズンズンと容赦なくそこを突かれて、溢れ、零れ出す。
グチュグチュと中をかき回す淫らな音を今度こそはっきりと耳に捕らえ、絢は泣いた。
「北斗、北斗、北斗。ああっ。北斗・・・」
叫びながら、絢はブラインの背にしがみついた。
「そういい子だ。色っぽい顔をするね。脚を僕の腰に回して。そう」
深く密着する体に乳首を擦られて、絢は喘いだ。
キュン、と絢のアナルが早い反応を起こす。ブラインのペニスが体内で更に大きくなった。
「反応がいい。さすがにセックスが好きなだけある。一年間もよく我慢してきたもんだよ、ken」
ブラインは、組み敷いていた絢の体を繋がったまま起こし、自分が今度はシーツに横たわった。
「ひっ。あっう」
いわゆる騎乗位という体位になりながら、絢は自分のアナルがさっきより深くブラインに貫かれて、
悲鳴じみた声をあげた。
ブラインは、サイドテーブルに手を伸ばした。そこには、ポラロイドが置いてある。
「記念に撮らせてもらうよ」
腹の上に絢を乗せたまま、ブラインはシャッターを切った。絢には、もはやそれから逃れる術がなかった。
顔を隠すことも出来ずに、ただ両腕を突っ張りブラインの腹に押し付け、体の中を犯すブラインのペニスを
引っこ抜いてしまいたかったのだ。
「ああ。んんっ」
フラッシュを浴びているのがわかっているのに、絢にはどうすることも出来なかった。
「止めて、くれ。お願い。止めて。助けて、北斗・・・」
ポトポトとブラインの腹の上に絢の涙が落ちた。
気が済んだのかブラインは、ポラロイドをベッドサイドのテーブルに戻すと、体を起こし絢の腰をしっかり支えた。
ズンッ、と下から突き上げられて、絢は息を呑んだ。抵抗はもう出来ない。
ブラインのペニスは、北斗のペニス。そう思うことにして、絢はブラインの動きに身を任せた。
何度も、何度も突き上げられる度に、北斗の名前を呼んだ。
涙は尽きることなく、絢の瞳から零れ続けた。


続く