BACK         TOP

雨が降り出して来た。
終電ギリギリで、怜の住む町に辿り着いた潤は、一瞬、どうしようかと考えた。
傘など持ってくる余裕はどこにもなかった。
駅前に、ぽつんと立ち尽くしてしまう。
終電客達は、次々とタクシーに飛び乗って行く。
タクシーで行くべきなのか?と思いながら、潤はアドレス帳を見た。
幸い、駅のすぐ横に交番があったので、住所を言うと、
「ああ。歩いて5分くらいかな。けど、雨が降ってきたからねぇ。少し行くとコンビニがあるから、買うとよいよ」
と、親切だった。
「ありがとうございます」
「近くにちょっとした公園があるから、すぐにわかるよ」
「すみません」
だが、少し考え、やはりコンビニには寄らずに潤は歩き出す。
たかが、5分くらいの距離だ。雨も小降りだし。いいや、と思って、潤はなにかに急かされたかのように歩き出した。
道すがら、見なれた景色であるかどうか、確認したものの、記憶に響くものはなかった。
右手に公園。そして。
「あった」
怜の住むアパート。確かに。ここは見たことがあるかもしれない。
ドクンと脳のどこかが疼いた。
住所では、怜の家は1階だ。103。だが、プレートには、名札がない。そして、当然のように部屋は真っ暗だった。
「・・・」
潤は、真夜中だということもあって、軽々しい行動はなるべく控えようと思った。
もし、怜のいなくなった後に、ここに越してきた人が女性であれば、真夜中の訪問者に、ドキリとすることだろう。
持ってきた携帯で、怜の自宅に電話をかける。
「R・・・・・」
ドアの向こうで、呼び出し音が聞こえた。
間違いない。何度かけても繋がらなかったが、怜の電話。
そして、怜の家。
だが、電話は相変わらず応答がない。
潤は、ブツリと切ると、部屋の中の呼び出し音も途絶えた。
「怜・・・」
留守のようだった。
そうだ。借りっぱなしであれば、留守は当然。今日、もう再び、海外へと戻ったのかもしれない。

潤はとぼとぼと歩き出した。
アパートを出ると、愕然とするくらい、雨足が強くなっていた。
「やべ」
真っ暗な空を眺めて、潤は溜め息をついた。
その時だった。
「!」
潤は、怜の部屋のドアを振り返った。
雨、雨、雨。
あの時も。あの時も雨が降っていた。
あの時!?
頭の中が、ざわりと動いた。
潤は雨の中を駆け出した。
そう。俺は、雨の日。この部屋から飛び出して、走っていた。
走って、走って・・・。
負いかけてくるのは、怜だ。
『待てよ、潤。潤』
必死に俺を呼ぶ、怜の声。
そうだ。走って。雨の中を走って。
追いかけてくる怜を無視して。
『聞いてくれよ』
潤は横断歩道を渡ったところで、振り返った。
そこへタクシーが滑りこんできた。
ヘッドライトが眩しかった。
潤は、目を細めてタクシーから降りてくる人物を見た。


「お客さん。着きましたよ。ここら辺、3丁目ですが」
「うっす。ご苦労さんです」
怜は、ムクリと起きあがった。
「雨、酷くなってきましたね」
運転手は、前方を見据えながら、言った。
「ですね」
タクシーチケットを出しながら、怜は顔を上げた。
「ありがとうございました」
怜は、タクシーを降りた。タクシーは、雨を弾いて発進していく。
雨は、道路を叩きつける勢いで、酷くなっていた。
「ひでー雨」
なんとはなしにタクシーのテイルランプを見送りつつ、怜は呟いた。
さっさと部屋に帰ろうと思って、怜は歩き出した。
だが。ふと。視線を感じて。
怜はバッと振り返った。
雨が目の中に飛び込んでくるのを堪えて、怜は雨の向こうの横断歩道を見た。
「!」
怜は目を疑った。何度も瞬きをして、そして確信する。
「潤!?」
横断歩道の向こう側には、見間違える筈もなく潤が立っていた。


潤も、雨の中で目を細めながら、横断歩道の向こうに立つのは、怜だと確信した。
その瞬間。ハッキリと、記憶が動いた。
自分が、12年もの間見つめ続け、そして恋し欲してきた男。
小川怜。
潤は、雨が目に入ってくるのも構わずに、向こう側に佇む怜を見つめた。
怜の顔が二階堂に重なる。そして、二階堂の顔が再び怜に戻っていく。
恋しさが募る。
空から落ちてきた雨が、足元の道路に流れていくように、流してしまうことが出来なかった。
この気持ちを。
忘れ、きれなかった。
俺は、とうとう忘れきれなかった。
記憶の彼方に追いやることが出来なかった。
和彦という存在を多いに傷つけて。
それでも。
俺は、やはり。怜という存在を忘れ切れなかった。
こんなにも。こんなにも。その存在を前にして、心が騒ぐ。
穏やかな愛には、なりきれない激しい感情。
俺にとっての、恋。



「なに、やってんだよ、潤」
怜は、横断歩道を渡り、潤に走り寄った。
潤はただ黙って、怜を見つめていた。
「潤。どうした、潤」
怜は、潤の腕を掴み、ガクガクと揺らした。
「おまえ、眼、おかしいぞ。なんだってこんな真夜中にこんな所に立っているんだよ。あぶねーぞ、おまえ」
「黙っててくれ」
だが、怜は潤の言葉を無視した。
「潤、大丈夫か?おい」
潤は低く言った。
「黙ってろよ」
怜は、やっと口を閉じた。
「紙燃やした時みたく。なんだか頭に火がつきやがった。メラメラと紙が燃えるように、すごい勢いで、そんな早さで。
記憶が戻ってきてるんだ」
怜は、ずぶ濡れの中、潤の側に、黙って立っていた。
ただ、自分の心臓が、ドクドクと脈打っているのを、怜は忌々しく思っていた。
潤は、掌で顔を覆った。
「怜。あの日。おまえは俺を追いかけてきた。そう。こんな雨の日」
「・・・」
「おまえは走る俺を追いかけてきて、車に跳ねられそうになった」
「・・・」
「おまえは。俺に、聞けよと言った。聞けよって」
潤は、掌を顔から外した。
そして、潤は、まっすぐに怜を見つめた。
「聞かせてくれ、今」
雨が、ますます酷くなる。
怜は、雨に打たれながら、ボンヤリとしていた。
俺、また、肺炎になるかも・・・と思っていた。
「お願いだ。聞くから。今、聞くから。あの時、おまえは、なにを言おうとしたんだ?教えてくれ・・・」
うつむいていた怜は、キッと顔をあげた。前髪から滴り落ちる雨粒が顔を濡らす。
怜は潤を見つめた。潤も怜を見ていた。


どうしてここにいるんだ?とか、色々聞きたいことはあった。でも、それらの疑問よりも、何故今なのか。
どうして、今なのか。そう思った。まだ、言うべきなのか?と思った。
あの雨の日、どうしてもいいたくて、でも聞き入れてもらえなかった言葉。
『好きだ・・・』
誰にでも囁いた言葉。温もりを得る為に有効でお気楽な言葉。
怜は戸惑った。
怖い。口にするのが、怖い。
誰にでも言えた言葉が、今は怖かった。
あんなに言いたかったのに、本人を目の前にした今は怖い。
その恐怖が、怜にますます自覚させる。
誰にでも囁けた言葉とは違う。同じ言葉なのに、明らかに違う。
潤にだから。潤に向ける言葉だから。
『好きだ』の違い。今ならハッキリ、わかる。
あの頃、わからなかった想い。
不安なのに。だが、心の奥に微かに期待めいた感情が湧いてくるのもわかる。
どっちなんだよ・・・と、戸惑いながら。自分では、制御しきれぬ感情。
これが恋、かと思う。今更ながらに、これが・・・。
俺にとっての、恋。


「言っていいのかよ」
「ああ」
怜は、びしょ濡れになりながら、笑った。
「じゃあ、言う」
覚悟が決まった。
やはり、潤を前にして、堪え切れるものではない。
逆にいえば、好きなヤツを前にして、10年も耐えた潤のが、おかしいぜと怜は、自分勝手なことを考えていた。
「おまえが、好き」
「え?」
潤は、思わず聞き返した。
「10年前。別れた、あの瞬間から、ずっと・・・」
「・・・」
「おまえのこと、好き、なんだ」
「・・・」
潤は、目を見開いた。
「・・・って、おまえ。冗談・・・」
「じゃねえよッ!おまえが好きだっ」
やけくそのような大声で言って、怜は、潤に走り寄った。
拒まれても、いい。拒まれてもいい、と怜は思った。
その腕の中に、怜は飛び込んだ。
潤は、腕の中に飛び込んできた怜をまじまじと見つめていた。
怜は、潤の腕の中で、潤を見上げた。
「潤」
潤の腕は、怜を抱き締めない。
「潤・・・」
怜は潤の名を呼んだ。潤は放心したように怜を見つめるだけだった。
「潤!?」
もう1度怜は潤の名前を呼んだ。
不意に、涙が瞳に溢れてきてしまい、怜はギョッとした。
思わず自分の目に指で触れようとした怜は、その手を潤に掴まれた。
「潤!?」
流れた涙を、潤は舌で拭った。
「俺も。おまえのこと忘れられなかった。ちくしょうだぜ・・・」
怜の耳にそう囁いて潤は、
「潤、俺」
言いかけた怜の唇に、奪うような激しさで口付けた。
「!」
そうして、潤の腕がゆっくりと怜を抱き締めた。
ゆっくりと、だが、きつく。
怜が、身を捩るぐらい、痛いくらいに、潤は怜を抱き締めた。
「好きだ、怜・・・」
潤のキスを受けながら、怜は潤の背に腕を回した。

*******************************************************
ずぶ濡れになったまま、2人は部屋に転がりこんだ。
もつれるようにベッドに倒れこみ、何度も、何度も、キスを交す。
飽きることなく、舌を絡ませ、唾液が零れるのも構わずに・・・。
そして、キスをしながら濡れた服を互いに脱ぎあう。
雨で体に張り付いた服は中々脱げない。
怜は、とにかく潤とのキスに夢中で、脱ぐ手も止まりがちだった。
焦れた潤が、唇を離し、怜のズボンに手をかけた。
「潤!?」
下着ごと、潤は怜のズボンを取り去った。
そして、そのまま抱き締めてベッドに押し倒す。
「潤。待て、ワイシャツ・・・」
怜はワイシャツを身につけたまま、下半身だけ剥き出されてベッドに押し倒される。
だが、潤は怜の言葉を無視して、怜の下半身に顔を埋めた。
「!」
既に半ば勃ちあがった怜のペニスは無視して、潤はひたすら、怜の最奥の小さな蕾を舌で撫でた。
「潤、潤、ちょっと待て」
怜は息を荒げながら、潤の髪を掴んだ。
「いきなりは無理だ。潤、おい」
だが。潤の指は、無遠慮に、怜の蕾に潜りこんでくる。
「っ、あっ」
長い潤の指は、怜の内襞をまさぐる。
「う、う」
くぐもった声を怜はあげた。
「待てっつってんだろ!俺は、男は10年ぶり」
きつく潤の髪を掴んだところで、潤がその言葉を容れるはずもない。
「おまえの気が変わらないうちに、俺は刻みてえんだよ」
掠れた声で、潤は言った。
「気なんか、変わるか!あっ」
長い潤の指と、そして再び舌が加わり、怜の最奥は途端に熱を持て余す。
かつての疼きが、戻ってくる。じゅくじゅくと、淫猥な音が響く。
「あ、潤。潤・・ッ!」
散々弄られて、怜のソコはヒクつきはじめる。
潤は、ソコをユルリと中指で撫でた。
「あ、んんっ」
ピクンと怜は背を反らした。
「おまえを抱きたかった。いつだって、こうやって。おまえを濡らして、そして泣かせたかったんだ」
「エロい言い方してんじゃねえよッ」
「悪いか?俺は10年分溜まってんだよ」
潤は、グイッと怜の脚に手をかけた。
「や、やめろって、潤。まだ、足りねえよ。ダメだってば」
どうして、コイツは・・・。俺が止めても、いつだって聞いた試しがねえよ・・・、と怜は心の中で嘆いた。
「!」
グッと潤は、腰を進めた。
潤のペニスが、怜の奥にズキッと侵入してきた。
「あ、あ、あ」
痛い。痛いッ!無理矢理広げられる、痛み。この言い知れぬ痛み。
怜は、あえぎながら、潤にしがみついた。
この痛みは、初めて潤に抱かれた時の、あの時のことを思い出す。
12年。あれから、12年経った・・・。
「怜・・・ッ」
低く耳元に囁かれるように名を呼ばれ、怜は吐息をもらす。
潤の、首筋に怜は唇を寄せた。触れて、そして、顔を上げその唇に自らキスをする。
唇を離すと、そこには僅かに驚いたような潤の顔があった。
「最中に、おまえからのキスって、初めて・・・」
潤が言った。
「うるせぇ・・・。いいだろ」
「すげ、嬉しい・・・」
怜をまっすぐに見つめながら、潤は嬉しそうに笑う。
その顔を見て、怜はカッと顔を赤くした。
「そんなに嬉しいのか?」
「ああ。むちゃくちゃ嬉しい」
「・・・バカ、みてぇ」
「悪かったな」
少しムッとしたように潤は言い返す。
「すげえ、バカ・・・」
再び怜は、潤の肩に腕を回し、その唇にキスをした。
潤の舌を誘い、絡め、息さえ奪うように。10年分の想いを込めて。
「ん、あ」
潤は、怜の奥を突いた。ビクッと怜の体が震えた。
パクパクとアナルが震えて、潤のペニスをギュッと締めつける。
「あ、あ、あ」
潤は、怜の雨で体に張り付いたままのワイシャツの上から乳首を擦った。
「うっ」
そのまま舌で、乳首を転がすように舐めた。
「んぅ」
感じるもの全てが、怜のアナルに直結して、潤を締め上げる。
「っ、は、あ」
潤は身を乗り出して、怜にキスをした。
繋がった部分が、ギシギシと軋むように擦れていく。
息を求めて、離れた唇。
潤の腰が、一層深く怜を追い込んだ時。
「う、ああっ」
「!」
怜は、達した。遅れて、潤も怜の中で達した。


今度こそ、互いに濡れた服を全て脱ぎ捨て、抱き合う。
もう雨に濡れた寒さは、とっくにどっかへいってしまっていた。
体が、ひたすら熱くて疼いていた。
今さっき、潤が解いた欲望の証が、怜のソコからズルリと流れ落ちていく。
潤は再び、潤う怜のソコに指を挿し入れた。
「怜」
「う?」
ピクッと反応しながら、怜は潤を見た。すぐ間近に潤の顔があった。
「俺が欲しいか?」
そう言いながら、潤は、濡れた怜のソコをグリッとまさぐった。
「んんっ」
つまさきから、ピクピクと昇ってくる熱に、怜は唇を噛み締めて耐えた。
「欲しいって言えよ」
「言わなくても・・・わかってんじゃねえか」
怜のソコは、潤の指をキュッと締めつけてはヒクついている。
「俺は。おまえの言葉が欲しいんだ。俺が欲しいって言えよ」
「うるせ・・・。そんなの、今更言えるかよ」
「この後に及んで、まだ言うか。今更でも、とにかく。俺は、おまえの言葉が聞きたいんだよ」
潤に、見つめながら囁かれて、怜の頬がカッと赤くなる。
「言わねえと、ココに、やんねえぞ」
意地悪く言って、潤は長い指をズルリと引き抜いた。
「ふ、う。くっ」
怜は肩で息をしながら、潤をキッと睨んだ。
ズキズキとアナルは、隙間を埋めるものを求めて収縮している。
それを知りつつ潤は、怜の体のあちこちにキスの雨を降らした。
それこそ、触れなくなって10年も経つ恋人の体を、思い出すかのように。
こんなふうな気持ちで、潤に抱かれたことのない怜は、それだけでビクビクと体を震わせた。
「おまえ。こんなに敏感だったっけ?」
潤が口を開く。
「っせえ・・・。何年振りだと思ってる」
「10年。ああ、10年だぜ」
再びキスを交す。
もどかしげに、潤は怜の乳首に指で触れる。
「っ」
怜はビクッと顎を引いた。
「感じ過ぎだぜ」
「だから!いちいち、うるせえよ」
当たり前だろ、と言う言葉を怜は飲み込んだ。
恋してると自覚してから、おまえに抱かれたことはねえんだよ。ほとんど口から出かけたが、返り討ちにあいそうで黙った。
「ん、ん、ん」
グリグリと乳首を攻められ、怜は声を堪えることに必死だった。
既に、下半身のペニスは再び勃ちあがりつつあった。
潤の唇を首筋に感じながら、怜は目を閉じた。どこに触れられても、感じてしまう。
触れられる度に、体のどこかが1つ、また1つ、と疼く。
「はっ・・・」
潤のペニスも、既に熱く濡れていた。
「言えよ。怜」
「しつこい、な。てめえも」
「そんなに言いたくねえのかよ」
「恥かしいんだよ。こんなコトしておいて、今更言う必要あんのか?」
「あるんだよ。俺には」
潤は、怜の頬を両手で挟んだ。
「俺がおまえを欲しがったことはあっても、欲しがられたことはねえんだよ」
「!」
「否定出来るなら、してみやがれ」
怜は、潤の両腕を掴んで、自分の頬から引き剥がす。
そして、潤の指に、自分の指を絡めた。10本の指が、絡みあう。
「過去はそうかもしんねえ。でも、今。今は違う。潤・・・」
潤を見て、怜は照れたように笑った。
「おまえが欲しい。欲しくてたまらないから」
一旦は言葉を切って、怜は少し黙った。
「おまえを、俺にくれよ。おまえが、欲しい」
「本当に?」
「疑ぐり深いヤツ・・・」
拗ねたように怜は言い返す。潤は、笑った。
「じゃあ、おまえのことも貰うぜ・・・」
言いながら、潤は怜を抱き締めた。そして、貪るように怜の唇にキスをする。
「あっ・・・」
焦らしまくった怜のアナルに、潤はペニスをあてがう。
「ん、うぅ・・・」
今度は痛みは、ない。痛みはないが、もどかしいような感覚が、怜を突き上げる。
「じゅ、潤・・・」
「痛いか?」
「そうじゃ、なくて・・・」
「なに」
ピタリと、体を深く繋げあった今。
「俺を諦めないでいてくれて、サン、キュ」
怜は息を吐きながら、僅かに震える声で言った。
「怜?」
「頭ワリーから、俺。このまま、終わっちまうとこだったよ」
「・・・」
「おまえが執念深くて、良かった」
「悪かったな」
「誉めてんだよ。俺は、誰かのモノになりたかった。大勢の人のモンじゃなくて。そんで、それがおまえで、良かった・・・」
「おまえ。いつも、たくさんの人と居ても一人だったよな」
潤は、怜の頭を撫でた。
「知ってた?」
「ああ。誰も信じてないってな」
そう言って潤は笑った。
「んっ。わ、笑うな。てめ、響く」
怜は、もどかし気に体をよじった。潤はきつく怜を抱き締めた。
「おまえはもう一人じゃない。俺がいるよ」
「ああ。俺には、もう、おまえがいる。てか、おまえひとりがいれば、いい」
うなづき怜は、潤にしがみつく。
「すげえ、下半身直撃な台詞」
そう言って、潤は、本当に腰を動かした。
「ん、あ」
怜は、ビクッと体を震わせた。
「1つ聞きたい」
「な、んだよ、もう・・・」
「別れた瞬間から俺のこと好きだった、ってなんだよ」
「・・・あとで・・・」
繋がった部分が痺れているというのに、と思いつつ怜は言い返した。
「今、聞きたい。じゃなきゃ、動いてやんねえ」
潤はこうと決めたら、強情だ。怜はチッと舌打ちした。
「俺、おまえが俺に恋してるって知らなかったんだ。おまえが、恋人じゃダメなのかって言った時。俺は初めて、気づいたんだ」
あっさり言う怜に、潤は目を見開いた。
「なに、それ」
潤は脱力したようだ。腕から力が抜けていく。
「やっぱり、怒るよな」
怜は、慌てて潤の腕を掴んだ。
「・・・怒るっつーか・・・、おまえ。俺、何度もおまえに好きだって言っていたつもりだけど」
「好きだ、なんて、俺だって誰にでも言いまくってたもん。っていうか、俺、好きの意味をちゃんと理解してなかった」
「・・・俺も大勢のうちの一人ってことか?信じてもらえてなかったんだな」
「そーゆーこと」
「エバんなよ。頭悪いとは思っていたけど、まさかそこまで悪かったとは」
「うるせえっ」
「飽きれたぜ」
グッと潤は、腰を進めた。
「あっ。潤、怒るな・・・よッ」
乱暴な潤の腰使いに、怜はビクついて、潤の腕に縋りついた。
「飽きれてるけど、怒ってはいねえよ。どうしようもねえくらいおまえが好きだから」
「・・・そうやっておまえはいつも、好きだ好きだって。だから、俺が間違えたんだよ」
怜は、照れたようにボソリと言った。
「俺のせいかよ」
怜は、ウッと詰まって、誤魔化すように潤の耳元に囁いた。
「おまえが好きだ」
潤は、不意をくらって、顔を赤くした。
怜は、潤の唇に唇を重ねた。
掌を重ね合い、何度も唇を重ね、言葉を封印し、再び体を繋ぐ。

恋を、する。
これから。

同じ強さで好きと言いあえた、この夜から。
2人にしか出来ない、恋を。
やりなおし、じゃなく、新たに。

2人でしか出来ない恋を。

HAPPY  END

************************************************************
BACK      TOP

BGM  浜田省吾「君の名を呼ぶ」 01/09/09