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唇が離れると、潤は小さく笑った。
「怜」
「なんだよ?」
「おまえって、残酷だよな」
「・・・」
「なんだっておまえはそうやって、ツボついたよーに、俺を惨めな気持ちにさせてくれんだよ」
「潤。俺の話を聞けよ」
怜は潤の腕を強く握った。しかし、やはり、跳ね返される。
「おまえのしていることはなんだ?一体おまえはなにやっているつもりなんだ?
なあ、せっかくの俺の努力をどうしておまえは、そうやって粉々にしてくれるよ」
「潤」
触れることを拒まれて、なすすべもなく、怜は潤の名を呼ぶ。
「二階堂のせいか?二階堂の存在が、おまえをそうやって暴走させるのか。
10年間俺を拒んできたおまえが、あのガキのせいで、それを崩すのか?
さすがのおまえもマズイと思ったのかよ」
潤は、バンッとドアを叩いた。
「なあ、それってどうよ?おまえ、まるで、嫉妬してるみたいだぜ?俺達、恋人でもないのに。気づいてるか?
怜。俺がおまえの側から離れて行くの、体張ってまで阻止しよーとしてんだぜ?どうよ、これ」
潤の言葉に、怜は体が震えるのを感じた。
潤の言葉は、正しい。
俺は、二階堂に嫉妬しているのだ。
間違いない。
うなづかなければ、いけない。
そして、潤に説明しなければならない。
おまえと別れる決意をした、あの頃の自分の気持ちを。
そして、今の気持ちを。
「おまえ。自分が取ってる行動、よく考えたことがあんのかよッ」
バンッともう一度潤は、ドアを叩いた。
その音に、怜はハッとして、ビクッと体を竦ませた。
そんな怜を見てから、潤は、フウと息をついた。
そして、キッと怜を睨んだ。
「つきあい・・・きれねーぜッ」
そう叫ぶと、潤は、バッと玄関から飛び出して行った。
「待てよ、潤。潤」
言わなければ。
おまえが好きだと。
ずっと、ずっと好きだったと。
恋という感情に気づかなくって、ごめんなさいと。
気づいてからも、素直になれなくて、ごめんなさいと。
言わなければならない。

飛び出して行った潤の後を追って、怜は走った。
俊足の潤に追いつくのは、怜にとっては困難だった。
大雨に霞む潤の背中を追って、怜は走った。
潤は振りかえらないまま、走って行く。

信号がうまいタイミングで変わりそうだった。
今、渡らなければ、置いて行かれる。
今、言わなければ、手遅れになる。

怜は信号を無視して横断歩道を突っ切った。
走ってきた車が、急ブレーキを踏んで、ものすごい音が辺りに響いた。
「!」
間一髪で、怜は車を避けた。
「バカヤローッ」
運転手が窓を開けて叫んだ。
「すみません」
怜は頭を下げた。
もはや、ずぶ濡れで、怒鳴っている運転手の顔も見えない。
とりあえず何度も頭を下げた。
散々怒鳴って、やっと気が済んだらしく、車は発進していく。
怜は額に張りついた髪を掻きあげながら、振り返った。
そして。そこには、潤が立っている。
潤も雨に濡れて、びしょ濡れだった。
「潤」
「潤じゃねーだろ。てめえ」
「聞いてくれよ」
「なんだっててめえは、そうやってムチャばっかりしやがるんだ。俺の心臓止める気か」
「聞いて・・・」
「おまえはいつだって、そうやって」
「聞けよ、てめーッ」
怜は叫んだ。
「イヤだよ・・・」
潤は、ゆっくりと言った。
「おまえの話なんて、聞きたくない。もう、おまえに振り回されるのは、ゴメンだ。10年以上・・・そうしてきて。

今度という今度は、もうゴメンだ。なあ、怜。俺達。最初から間違えたんだよ。この感情がある限り。
おまえに対して俺が恋してる限り・・・。友達になんて、絶対なれねーんだよッ」
潤は、足元の水溜りを蹴って、怒鳴るように言った。
「俺が間違えていたんだ。怜・・・。おまえを今まで苦しめてごめん。終わりにしようぜ。こんな関係。
俺は惨めだし、おまえは辛いだけだ。もう会わないことにしよう。それが・・・1番だ」
「潤・・・」
「じゃあな。早く帰れよ。雨。ますます酷くなっているぜ・・・」
そう言うと、潤は踵を返した。バシャバシャと水を跳ね上げ、潤は走っていってしまう。
「待てよ、おい・・・」
言うものの、怜のその声は小さかった。
「待てよ、潤・・・」
足が竦んで動けない。
潤を追いかけたいのに、足が動かない。
「やべーよ。なんで、俺の足、動かないんだろ?」
怜は、ゆっくりと自分の足元を見つめた。微かに震えている。
「・・・」
その足の揺れは、次第に激しくなっていき、怜は慌てて近くのガードレールに腰を下ろした。
「ちくしょう!」
怜は掌で顔を覆った。
「なにが俺に触られると欲情する、だ。何度も振り払いやがって。潤の嘘つきヤロー・・・」
滅多に泣くことのない自分の瞳が震えていくのがわかった。
「素直に抱いてくれ・・・と言えばよかったのか?言えるか、そんなこと」
ボロリと涙が零れた。
「今更、そんなこと。どうして言えるよ?気づいてくれたっていいじゃねーか。潤の鈍感ヤロー・・・」
急にピタリと震えが止まった足に気づいて、怜はその足で、ガンッとガードレールを蹴飛ばした。
「恋って・・・!なんだよ、ちくしょー!」

雨音は強くなる。
音を立てて、ガードレールに腰かける怜の体を打った。
「肺炎にでもなって・・・。死んだろか。バカヤロウ」
怜は立てた自分の膝に顔を埋めて、いつまでもガードレールに腰かけていた。

*************************************************************
11年前。欧風学園。3年C組。

「なあなあ。うさぎ見にいかねーか?」
「えー。やだあ。旧校舎でしょ。遠いじゃん」
「んなこと言わねーでさ。な、小川も連れて行くから」
「うそ。怜ちゃん行くならば、アタシ、行くー」
「うん、アタシもーー」
「アタシも行く。怜ちゃんと行く〜」
「そうこなきゃ。な、小川。てめーも来いよ」
「ちょっと待てよ。俺、今、午後からの授業の宿題やってるんだぜ」
「そんなのあとで、遠藤にうつさせてもらえよ〜」
「そうだよ、怜ちゃん。行こう」
「ったく。てめーら、強引だな」

そんなクラスメートの会話が耳に聞こえてきた昼休み。
怜はクラスのむくつけき野郎どもと綺麗どころの女達に囲まれて教室を出ていった。
潤は、皆に囲まれて笑っている怜を見ては、苦笑した。
断れねーヤツだと思った。
そして。午後1番始めの数学の時間だった。
「すみませーん」
と言いながら、ドヤドヤとうさぎ小屋見学の連中が昼休みを大幅に過ぎて戻ってきた。
教壇に立つ教師が、ブーブーと文句を言っている。
だが、彼等は誰一人として、そんなの聞いちゃいなかった。
「可愛かったねー」
「うさぎってさー」
とか、授業中だというのに、無視して余韻に浸っている。
たまたま隣の席だったヤツに、潤は聞いた。
「なあ。小川は?」
連中の中に怜がいなかったからだ。
「え?あれ、ホントだ。小川は?」
「ありゃー。怜ちゃん、いないの?」
「アタシ、澄子と一緒かと思ってた」
「やだ。私、美樹と一緒かと思ってた」
口々に、怜は誰々と一緒だと思っていた〜などと言う。
つまり、怜は、存在を忘れられて、うさぎ小屋に置いてこられてしまったのである。
「そこ。うるさいぞ」
教師が怒鳴る。
「先生。小川怜が行方不明です。探してきます」
潤は立ちあがった。
「小川?そういえばいないな。ったく。なにやっとんだ、アイツは。じゃあ、頼む、遠藤」
「了解しました」
教師の了承を得て、潤は旧校舎に怜を探しに行った。
怜には、よくこんなことがあった。
抜群の存在感であるのに、時々、こうやって人々から、ぽつねんと忘れ去られてしまうのである。

うさぎ小屋の前に行くと、怜は、やはりそこにいた。
「よーし。よし。うまいか?俺の指は噛むなよな」
怜はこちらに背を向けて、ウサギ達に餌をやっていた。
一匹のウサギが、怜の腕にぴょこんと乗ったまま動かない。
「てめー、重いって。降りろよ〜」
一人笑いながら、怜はウサギとじゃれていた。
「怜」
名を呼ぶと、ビクッと怜が驚いた顔をして、振り返った。
「潤!?どーした、おまえ」
「どーした?じゃねーだろ。授業始まってンじゃねーか」
「ああ。授業ね。ま、いいじゃん。だって、気づいたら誰もいなかったんだぜ」
「みんな、おまえは誰かと一緒に、先に帰ったと思っていたらしい」
すると怜はうなづいた。一瞬どこか切ない顔をした。
「よくあることだよ。別にいいさ。それより、潤。このウサギ見ろよ。さっきから、俺の腕に乗っかったまま、
ツンと澄ましてやがるぜ。雌かな、コイツ。かーわいい」
グリグリと怜は、ウサギの頭を撫でて、笑っていた。
その瞬間。潤は、自分の中の、堰が切れるのを感じた。
堰止めていた怜への想い。
自分の中で、とっくに怜に対する想いが、友達から、もっと不純で、そして純粋な、「恋心」に変わっている
ことに気づいていた。
大勢の中に君臨していながら、それでいていつもどこか一人な怜。
なにが怜をそうさせるのか。潤にはわからなかった。意図的なのか、無意識なのか。
わからないけれど、怜の持つそういうアンバランスなところに、潤はとっくにおちていた。
「怜。こっち来い」
「えー。潤?授業なんかサボろうぜ」
怜はウサギを胸に抱えて、無邪気に笑っている。
壊したい。たぶん、壊せる。
潤はそう思っていた。怜とならば、越えられる。この微妙な位置を。怜とならば、越えられる。
「ああ。サボろーぜ。ウサギ置いて、こっち来いよ」
今はもう使われてない旧校舎。こんな授業中に、誰も来やしない。
「珍しーじゃん。優等生のおめーが。あそこならば、人来ないぜ」
怜は旧校舎を指差した。
「ああ」
「どうしたんだ?怒られるかと思ったぜ」
怜はウサギを置いて、潤の側に駆け寄ってきた。
「別に」
「たまには、いいよな?息ヌキも必要だよ」
機嫌よく怜は言った。
肩を並べて、旧校舎に向かう。潤の心臓は、さっきから激しく鳴り響いていた。
俺は。おまえと一緒にただサボりたいだけじゃねーよ、怜。
おまえと、越えたいんだ。
おまえと、ヤりてーんだ。
いつも、いつも。気持ちを自覚してからは、ずっと考えてきた。
告白。そして・・・!
結局、1階の1番奥の教室にコッソリと忍び込んだ。
「使われてねーわりには、綺麗だな、ここ」
怜は教室に入ると、開口1番そう言った。
「足元は汚ねーけどな」
「ああ、そうだな」
床に転がる吸殻を蹴飛ばして、怜は苦笑していた。
「あー、なんか眠くなってきた。な、潤」
怜は潤を振り返る。潤はその視線をしっかり受けとめながら、怜の名を呼ぶ。
「怜」
「あ?」
潤の険しい表情に、怜は首を傾げた。
「どした、おまえ。なんか、すげー怖い顔しているぜ。やっぱ、サボりはビビリ?」
少しうつむき加減で、潤は、窓際に立っている。
「なんだよ。潤」
「え」
「俺の名を呼んだろ?今」
そう言って怜は、うつむき加減の潤の顔を覗きこんだ。
「!」
その瞬間。怜は、自分の身になにが起きたかわからなかった。訳がわからない。
自分が潤にキスされている・・・!?
びっくりして、怜は潤の腕を叩いた。
「ん、ん、ん」
叩いても、揺るぎもしない潤の腕に、さすがに怜はギョッとした。
逆の立場ならば、山ほど経験している怜である。
「んぅ」
髪の毛を掴まれて、ガッチリと頭を固定されてしまった怜は、潤のキスから逃れられなかった。
やっと許してもらえた時には、ダンッと壁に体を追い詰められていた。
「好きだ、好きだ、好きだ、怜。おまえが好きだ」
「じゅ、潤・・・!?」
「友達なんかじゃなく、おまえが好きだ。好きだ」
怜は目を見開いた。
「友達なんかじゃなく・・・!?」
「そうだ。友達なんかじゃ、ねえよ」
「じゅ・・・!あ」
再び髪の毛を掴まれて、キスされる。突っ込まれる舌に、怜は眉を寄せた。
潤は強引に怜の肩を掴んで、体をひっくり返した。グイッと怜の胸が壁に押しつけられた。
「潤、てめー。なに考えてやがる。おいッ」
「この状況で、おまえがそれを聞くのかよ」
「頭おかしいのか?俺は男だぜ」
「関係ねーよ」
怜の自分より細い胴に腕を回し、潤は強引にズボンの中に腕を差し込む。
「待て。待て。どうしちゃったんだ、一体」
怜は、慌てて潤のその腕を押さえて、潤を振り返る。
「おまえ、おま・・」
ちょうどいい位置に怜の顔が、こちらを振り向いたので潤は三度のキスを怜に浴びせた。
「!」
何度やっても懲りない怜は、驚いた目をしている。
その隙に、潤は目的の怜のモノに、直に手で触れた。
「んん?」
唇を塞がれて、体が捻られた状態で、怜はくぐもった悲鳴を上げた。
キスに気を取られている怜をいいことに、潤は、怜のモノを指で撫でた。
途端に、ビクビクと怜の体が揺れた。
「は、離せ、潤」
唇が離れると、怜はそう叫んだ。怜の指は、相変わらず自分のモノを握りこんでいる潤の腕の上に、あった。
「手伝う気がねーならば、その指除けろ」
潤は怜の耳元に囁いた。
「バカ。てめえ、正気か」
「残念ながら至って正気だよ」
「離せ」
「邪魔だ、手除けろ」
潤の声に、怜はビクッとして、思わず指を離した。自由になった腕で、潤は両手で怜のモノを握りこむ。
「あ、あ」
その刺激に、怜は声を上げた。
「や、やめろって・・・。潤。潤・・・」
「出せよ。怜。出しちまえ」
「バカ!」
怜はダンッと両腕を壁に突っ張った。
「ふ。う、う、あ」
潤の指からダイレクトに来る刺激に、怜は眉を寄せた。
「や、あ。あ・・・」
胸の中で、肩を震わせる怜の首筋にキスをしながら、潤は、怜のモノを擦り上げた。
「あ、あ!!」
短く嗚咽を漏らすと、怜のモノから白濁した液が溢れた。
「う。く・・・」
ぜえぜえと怜は、肩を揺らしていた。
「なんで・・・だよ。男の指でイッちまった・・・」
トンッと怜は折った頭を壁につけて、溜め息をつくように言った。
もう少しで、ズルズルと壁伝いに崩れ落ちそうになっているクニャクニャの怜の体を引き寄せて、
潤はその胸に抱え込んだ。
「!?」
「今度は俺がイかせてもらうぜ」
「ちょっと・・・。待て。てめえ・・・」
抱え込んだ怜の小さな頭が、潤の胸元でビクリと反応する。
「まさか、マジかよ。尻使う気じゃねーだろーな」
「マジだ」
「いきなり。なんなんだよ、それは。待て、待て。指で、いや、俺、口でヤッてやるから、尻は勘弁しろよ」
「色気ねーこと言うな」
「てめー相手に色気なんかクソくらえだ。ヌきてーならば、ヌいてやっから、ソコ使うのだけは止めてくれ」
「経験済みか?」
「訳ねーだろッ」
「なら、1番乗り、させてもらうぜ」
「ふざけんな」
バタバタ暴れ出す怜の体を壁に押さえつけて、潤は、容赦なく怜の制服のズボンを膝まで降ろしてしまう。
「!」
怜は、猛烈に暴れた。だが、潤も夢中だった。夢中で怜の抵抗を封じ込めて、怜の尻に指で触れた。
「潤。止めろよ。どうして、だよ・・・」
怜が途端に体を強張らせて、言った。
「なんで、おまえ・・・」
さきほどの怜の吐き出したモノが指に絡まったままなので、潤は、ゆっくりと中指を、怜の固く締まった場所に入れた。
怜の体の緊張が、差し入れた指に伝わってきた。
潤は、さすがにこめかみに流れる汗を意識せずにはいられなかった。
「怜、怜。おとなしくしてろ」
「いられるかッ」
往生際の悪い怜は、下半身を捻って、必死に逃げようとしていた。
「動くな、指が」
潤があげた声も半分悲鳴であった。不手際なのは仕方ない。
「!」
ズルッと思惑を反れた形で、潤の指は、怜の柔らかいソコに入り込んでしまう。
「ん、あ。いてっ」
引き攣った悲鳴が怜の口から漏れた。
潤の長い指が、ソコに納まってしまうと、怜はゆっくりと、潤を振り返る。
「潤・・・。痛ぇ・・よ。抜いて・・・」
僅かに涙に滲んだ目で訴えられて、潤は、ブチッと理性の切れる音を頭の奥で聞いた気がした。
無言で、怜のソコから指を引きぬくと、自分の勃起したソレを、濡れた掌で握りこんだ。
頼りは、怜の零した欲望の証の液体しかないが、それでも濡らすという行為には違いない。
「潤。待て。おまえ、眼の色変わって・・・」
「誰が変えさせた」
「俺のせいかよ。ひっ」
鈍い衝撃が。そして、それから、声にならない程の痛みが、怜の体を襲った。
あまりの痛みに、怜は喉を詰まらせた。
「・・・」
潤のソレが、自分の奥深くに侵入してきたことを、いやがおうでも、全身で感じさせられた。
「あ、あ、あ」
ズルッと怜のつま先が埃まみれの床を蹴った。
完全に崩れ落ちそうになった怜の体を支えて、潤は壁に押しつけた。
怜は、ガシッと壁に両手をついた。
「は、あ・・・。う、う」
潤は右足で壁を蹴った。その反動で、つられて浮いた怜の尻を掴んで引き寄せた。
「ひ。ん、ああっ」
怜が悲鳴を上げた。完全に怜の体の深くまで自分を納めると、潤は怜の頭の上で息をついた。
熱い怜の中に、きつく絞られて、潤は唇を噛み締めた。
「怜、手」
落ちかけた怜の腕を、潤は持ち上げて、壁に突かせてやる。
「てめえで支えてろ」
「動く・・・気か?死ぬぞ、俺。も・・・。こんだけでも、あ、体、変なのに・・・」
怜は切れ切れに言った。
「このまま、おとなしくおまえの中でジッしているつもりはない」
「ひでーよ。おまえも。おま・・・えも。俺と同じじゃね・・か」
「なに?」
「最低・・・だ。こんなオ・・・チ」
ボロッと怜の目から涙が落ちた。
怜の腰を支えている潤の手の甲に、その涙が落ちては弾けた。
「泣くな。おまえが好きだ。意地悪してんじゃねーんだぞ」
「・・知って・・るよ。この場面で。そう言うっきゃねえ・・」
ゼーゼーと喘ぎながら、怜が言った。
「とっとと動け。動いて、俺を殺せよ」
「怜、怜。泣くな。苛めてるんじゃねーんだよ」
ポタポタと怜の涙が、潤の手の甲に弾けた。
「信じていたのに。おまえだけは・・・って」
「え?」
怜は潤に背を向けたまま、叫んだ。
「熱い。あ、もう・・・。潤、なんとかしろよッ」
「好きだ、怜。それだけは本当だから」
「うるせえ・・・よ。なんとか・・・して」
潤は、怜の耳に唇を寄せて、再び「好きだ」と
囁いてから、腰を動かした。
「ふ。う、う、あ」
深く入り込み、繋がった場所が、軋んだ音を立てた。
「ん、んーッ」
ガリッと怜は壁を爪で擦った。
「ん、ん、ん」
開いた怜の唇から、唾液が落ちる。
「あうっ。あ、あ、ああっ」
汗で滑る怜の尻を掴んで、潤は、何度も、何度も、その腰を引き寄せては、奥を突いた。
「潤、潤、潤」
怜は何度も潤の名を呼んだ。
初めて、ソコを犯される感覚に、怜は、どうしようなくて、潤の名を呼ぶしかなかった。
痛みが薄れていくのが怖かった。
痛みが、快感に変わる瞬間を自分は知っている。
女が自分の下で、その時を得るのを、怜は何度も見ている。
あんなふうに、自分は変わるのか。
潤の手によって。潤のモノによって。
自分は、あの女達と同じになっていく。潤によって。潤のせいで。
「う。んん。あ、潤、潤」
絶望の涙は、やがてきわどい快感の涙に変化していくのを、怜は知っていた。
そして。潤の欲望が、体の奥深くに、零れて行くのを感じて、怜は目を閉じた。

******************************************************

「ビックリしたよ、怜ちゃん。同じ病院に入院するなんて」
絵里は、パジャマ姿のまま、怜の病室に来ていた。
「ハハハ。俺もビックリしたぜ。気づいたら、病院のベッドの上だもんな〜」
「会社の人、見つけてくれなかったら、死んでたよ!」
「あー、まーな。マジに肺炎になるとは、俺もスゴイ」
怜はベッドの上で、点滴されている腕を押さえながら言った。
「なにかるーく言ってんのよッ。どうしてお兄ちゃんに電話しなかったの!まだ喧嘩中!?」
キャンキャンと絵里は吠える。
「怜ちゃん。無断欠勤して、会社の人が家まで来てくれなかったら、肺炎で死んでいたのよ」
「見つけてもらえたから、いーでねーの」
「誤魔化さないで。お兄ちゃんとはまだ喧嘩したままなの?」
「潤の話は今、したくねーよ」
プイッと怜は顔を反らした。
「なんで?」
「変な夢見てたんだよ」
「なんの夢よ」
「・・・潤に犯される夢」
怜が言うと、絵里はキョトンとした。
「冗談だよ」
フフッと怜は笑う。
「怜ちゃん。兄貴に犯されたの?」
「だから、冗談だってば」
「二人の始まりって、もしかして、そうだったの?」
絵里が言う。
「始まりって・・・」
「知ってたよ。アタシ。二人がそういう仲だったってこと」
その絵里の言葉には、さすがの怜も、動揺した。
「知ってたって、おまえ」
「だって。私、見ちゃったんだもの。前、家で。怜ちゃんが、宿題やりに兄貴のところに来ている時。
兄貴が無理矢理怜ちゃんにキスしてたとこ」
怜は、絵里をまじまじと見た。
「無理矢理?」
怜は聞き返す。
「うん。怜ちゃん。怒ってたもん。兄貴殴って、怒ってたモン」
「怒ってたか、俺」
絵里はふと悲しそうな顔をした。
「怜ちゃん・・・。私ずっと感じていたの。無理すること、ないんだよ。イヤだったら、イヤって言えばいいんだよ。
うちの兄貴。顔はあんなんだけど、強引な人だからさ。怜ちゃん、優しいから、言えなかったんでしょ。本当のこと」
「本当のことって、なんだよ?絵里」
「兄貴のこと、好きじゃないんでしょ?恋人として見れないんでしょ?最近の二人のぐらつきは、
たぶんそういう食い違いから生まれていると見た。仲直りしてほしかったけど、怜ちゃんに無理させるのは、
酷かな・・・と言ってから、思ったの」
あっけらかんと絵里は言った。
「女の勘よ。当たってるでしょ」
「外れ」
怜はこれまたあっさり言い返した。
「えー?なんでさ」
「俺達。もうとっくにそういう関係じゃねーもん。10年前にそういう関係止めてるから」
「あらら。そうだったの?」
チェッと絵里は舌打ちする。
「だったら、どうして二人、ぐらついているの?」
それは。たぶん、それは・・・。
怜は絵里をジッと見た。
「仲直り。もう出来ないんだよ、絵里。俺ね、潤に嫌われちまった」
「へっ?」
「俺ね。潤に絶交されちまったんだ。もう会わないって言われたの」
潤は。俺に振り回されるのはゴメンだと言った。会わない方がいいって言ったんだ。
1番、1番。俺が恐れていた台詞を。アイツは、言ったんだ。
「怜ちゃん」
絵里が、目を潤ませて、怜の名を呼んだ。
「怜ちゃん」
何度も、絵里は怜の名を呼んだ。
「泣かないでよ、怜ちゃん」
涙は、あの日、あの雨の中に捨てたっつーに。俺も、ホント、つくづくヤワな男だよ。
「絵里。俺ね。潤が好きなんだよ。すげえ、好き」
言えなかった今まで。
知らなかったあの頃。
もう、戻れない。

続く
************************************************************

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