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結局。
発注ミスとなってしまった事実が発覚し、潤と西脇は、ほとんど徹夜で奔走したものの、
どうにも出来ないという最悪な結果を夜明けと共に迎えることになった。
2人とトボトボとビジネスホテルに戻った。
「謝り倒すしかないっすね」
部屋で、お疲れビールを飲みながら潤が言うと、西脇がピクッと眉を寄せた。
「お、俺は、来年結婚する予定なんだ。クビになってる場合じゃねえ〜」
うおおおと頭をかきむしって、ベッドの上でのた打ち回っていた。
「大丈夫ですよ。クビになるとしたら俺だから」
なはは〜と潤は呑気に笑った。
「そっか。だよな。おまえ。新人のわりにゃ頑張ってたのに。そっこークビなんて可哀想だな」
切り替えの早い西脇だった。
「そうですね。まあ、頑張ってましたよ、俺。褒めてもらえますかね」
秋也に・・・と心の中で呟いてみるものの、いや、秋也のことだ、とすぐに考え直した。
勝手に行ったんじゃねーか、知るかと言われるに違いない。それより更に。
ったく。情けね〜ヤツだなと冷ややかな顔で言われるかも、と思うとさすがに落ち込む。
「うんうん。褒めてやるって。おまえは頑張った!」
秋也と違って、素直な先輩西脇は、パーンッと潤の背を叩いた。
潤の顔がパアッと輝いた。
「やっ、やっぱり褒めてもらえる頑張りでしたよねっ」
「うんうん。今時若いモンのわりにゃ連日の飲み会の誘いに嫌な顔一つせずに、あのノリ。
もう感動したね、俺は」
「あっ、そっちっすか・・・」
ぽりぽりと潤は頭を掻いた。
「おまえは貴重な宴会要員だった。社長も大喜びだったんだがな。惜しい人材をなくすことになるなぁ」
すっかりクビ決定の潤であった。
「そだ。小野田。パーティーは午後からだ。とりあえず、少し寝ておかないと。謝るって体力いるぜ」
「ですね。んじゃ、お昼にロビーで集合でいいですね。一緒に飯食って、体力つけましょう、先輩っ」
「OK。それじゃあな。せめて夢ぐらいはいい夢見ようぜ」
西脇がそう言って、よれよれと部屋に戻って行った。
いい夢か。
秋也の夢が見たい。秋也とエッチしてる夢・・・。
想像したが。
「あ〜あ。もう勃ちゃしねえほど、疲れてるよ」
バタッと潤はベッドに突っ伏して、そのまま速攻で眠りについた。




電車を乗り継ぎ、秋也はなんとか潤がいるS市に到着していた。
昼過ぎに地元を出た筈なのに、日はもうとっぷりと暮れていた。
もう諦めて帰ろうと思った時には、地元よりS市のが近かったので、なんとか来たようなもんだった。
「ったく。電車多すぎなんだよ。路線名複雑すぎ。てか、なんでうちの地元新幹線通ってねえんだよ!」
自分勝手な文句をブツブツ言いながら、この広い駅の中央口を目指して歩いていた。
中央口に到達すると、目の前はペディストリアンデッキになっている。
「どこ行っても、さみ〜」
ビョオオオと風が吹き抜けていく。
「んで。一体アイツが泊まってるホテルはどこ」
昼間、何度電話して潤の携帯は出なかった。電源を切っているようだった。
なので、仕方ないから柚子に電話をして聞き出した。
素直には教えてくれないだろうと予想していたが、意外にあっさり教えてくれた。
だが。このホテルが正しいかどうかはわからない。
それでもあてがないので、ここに行くしかない。
メモを開いてホテルの名を確認し、駅前に設置してある大きな地図を見上げた。
「・・・」
諦めるのが早い秋也は、すぐに地図から目を離し、辺りを見回した。
すっと、秋也の前に、コートを着込んだ身なり正しいサラリーマン風の男が横切った。
「すみません」
声をかけると、男はすぐに振り返った。
「はい」
「あの。×××ホテルに行きたいのですが、場所わかりますか?教えていただきたいのですが」
寒いのと使い慣れない丁寧語で、舌が回らんと思いつつ言ってみると、男はちょっと困ったような顔で
「すみません。私も地元じゃないのでわからないのですが、ちょうどそこに行く予定なのです。
連れが詳しい筈なので一緒に行きましょう。その連れと、はぐれてしまってますが、すぐに探しますので」
秋也にとって、とても助かる提案をしてくれた。
「いいんですか?」
「ええ。構いませんよ」
男はにっこりと笑う。
よくよく見ると、大層な美形だった。やや年上に見えるが、同世代だろう。
端正という言葉がよく似合う、姿勢が正しい清潔そうな男だった。
ついていって間違いなさそうだ、と秋也は判断し、頭を下げた。
「お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
「いえ。こちらこそ。ですが、つれの携帯が繋がらなくて。もう少し待っててもらっていいですか」
「もちろんです」
男は、携帯を操作していた。
その姿を見ながら、秋也は、くしゅんとくしゃみをした。
「ああ、どこかでお茶でもしますかね。寒いですもんね」
繋がらないのか、携帯をたたみながら、男が言った。
「平気ですよ。今のはたまたまですから」
などとやっていたら、男が急にバッと振り返った。
「は〜る〜かさんっ。どこ行ってたの、もう」
「なに言ってるんだ。君が勝手にどっかに行ったんだろう」
「はあ?俺はちゃんと普通に歩いていたよ。貴方が勝手に迷ったんでしょ」
「俺こそ普通に歩いていたよ。君がフラフラしていたんじゃないか」
男が連れとなんだか言い合いを始めた。
「って。あれ?」
男の連れが、秋也を見た。
連れもやはり、やや年上の同世代に見えた。背が高く、垂れた目が印象的だ。
「どなたですか」
はて?と首を傾げて、男に聞いていた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。同じホテルに行くのだが、こらちの方も地元の方じゃなくて迷っていて。
一緒に行くことにしたので、君を待っていたのさ」
男が連れに秋也を紹介した。
「そうなんだ。お待たせしました。俺、野瀬高弘って言います。よろしくお願いします。えっとお名前は」
とても人懐っこい男のようで、握手を求めてきた。
「須貝秋也といいます。よろしくお願いします」
とりあえず握手を返してみる。
「私は松井遥と申します」
最初の男の方も自己紹介した。
「ってことで、野瀬。君が案内人となってくれ」
「おまかせを〜。やー、俺、やばくないですか?両手に花っすよ、両手に花。遥さんが綺麗なのは勿論として、
こちらの須貝さんも美人さ〜ん」
ガバッ、といきなり腕を組まれて、秋也はギョッとした。
「こら、野瀬。失礼じゃないか」
松井が怒っていったものの、野瀬のもう片方の腕は、松井の腕もちゃんと掴んでいた。
「あ、すみません。両手に花、してみたかったんですけど。失礼でしたね。すみません」
無邪気とすらいえる笑顔のまま、野瀬は謝った。
「い、いえ」
潤で、こーゆースキンシップはだいぶ慣らされたものの、そうでなければ、殴りつけていたかもしれない。
「駅からちょい歩くので、タクシー捕まえるね」
松井が言った通り、野瀬は慣れてるらしく、さっさとタクシー乗り場に向かって歩いていく。
「すみません。どうも人懐っこさが度を越してしまう時があるので。私がきちんと押さえますので、許してください。
目を離した隙になんかやらかしたら、遠慮なく言ってくださいね。その・・・。彼は、綺麗な男性には目がないんです」
松井が言いにくそうにボソリと言った。
「はあ」
とりあえず、頷くしかなかった。
気配からして、お仲間らしい。秋也は複雑な気分だった。一発で、お仲間引き当ててしまったよ・・・と。
「2人とも早く〜」
タクシー乗り場で、野瀬が大きく手を振っていた。



ホテルの控室では、険悪な空気が流れていた。
まだパーティーには時間がある。
主催者側の担当者に、潤と西脇は説明に出向いていた。
話を聞いて、担当者は、かなり怒っていた。
「だいたいおたくの会社が頑固だから悪いんですよ。かぐらにしか、あのせんべいをいれないから、
かぐらしか頼めなくて。うちとしては、あのおせんべいさえあれば、本当はいいんです。亡き奥様が
非常に好きだったので、会長はあのせんべいの為だけにおたくに毎回発注してるんですよ。それが
入っていない品など幾ら用意されても意味などありません」
「はい、はい。もうそれは十分存じております。申し訳ありませんっ」
西脇がペコペコと謝った。
「だいたい今日のパーティーは、亡き奥様を偲ぶ会ですよ。その会で配る物に、奥さまが好きだった
あのせんべいが入ってないとわかったら、会長の怒りがどれだけのものかおわかりですよね。私達
もいい迷惑です」
担当者の言い分はもっともだった。
「どうしたんですか。いつも、完璧な手際のおたくさんが、こんなポカするなんて」
担当者が、ハアアと大きなため息をついた。
「すみません。担当者が代わったせいで行き違いがございまして」
西脇が潤をチラリと見た。潤は西脇に頭を下げた。
「頭が痛いですよ、ほんとうに」
やれやれと担当者はソファにドサリと腰かけた。
「会長は、さきほど到着して、控室におられます。先にいただいた電話で、だいたいのことは、私どもの方から
お話しております。どうぞ会長に納得のいく説明をしてきてください。私どもはなにも出来ません。今後の取引の
件もありますし、どうか慎重にお願いしますよ。なにかあっても保障できませんから、そのつもりで」
「は、はい」
最悪の事態を覚悟して、潤と西脇は、担当者の控室を出て、会長がいる控室へと向かった。
「小野田。もう言い訳一切なしで、謝り倒すぞ」
「っかりました」
ビジッと潤は敬礼ポーズで、西脇の言葉を受け止めた。
「おまえなぁ」
緊張感が飛ぶわ、と西脇は笑う。
「そういや。そのニヤケ顔、封印だぞ」
「俺、ニヤけてます?」
「顔がイイから、ニヤけて見えんの。引き締めろ」
「了解ッス」
そんなやり取りをしながら、会長の控室に行く為に、二人は小走りに長い廊下を歩いた。
会長の控室は、フロントを横切った、反対の廊下にある。




大した距離を走らず、タクシーはホテルに着いた。
「出張の割にゃいいホテル泊まってるな」
秋也はホテルを見上げ、呟いた。
「そういえば、須貝さんは、このホテルにどんな用件で?俺はオヤジが主催するパーティーに
呼ばれて仕方なく来たんですけどね。母がこっちの生まれで、時々来てはいるんですが」
タクシーの中では、自己紹介が続いていて、お互い何歳だの、どこに住んでいるだの、
趣味がどーのとか。そんな話をしてるうちに着いてしまったのだ。
「俺は、人探しです。知り合いが出張でこちらに来ているらしくて」
「へえ。なんで探してるんですか。だって知り合いならば、教えてもらえばいいでしょ」
野瀬は、グイグイと切り込んでくる。
「・・・」
秋也が、言葉に詰まっているのを察した松井が、フォローしてくれた。
「まあ、いいじゃないか。事情はそれぞれあるもんさ」
助かりました、の意味でぺこりと秋也が頭を下げると、松井は「いいんですよ」と言わんばかりに、
にこりと微笑んだ。
野瀬は松井のアドバイスを受け入れ、追求を止めた代わりに、別のことを言ってきた。
「せっかくのご縁ですし、一緒にこの後食事でもどうですか」
タクシーを降り、フロントに移動しながらの会話だった。
このホテルのフロントはわかりにくい。
タクシーで降りた階にはなく、何階か上にあるようだった。
スタスタと歩く野瀬についていくのに精いっぱいだ。
松井も同じらしく、キョロキョロしていた。
「もちろん、須貝さんのお連れさんも一緒に」
「それは構わないんですが、ヤツがここにいるかどうかも微妙でして」
「ヤツ?ヤローですか、相手は」
キランと野瀬の瞳が輝いた。
こら、野瀬と、松井が野瀬の袖を引っ張っているが、野瀬は全然気にしていなかった。
「ええ」
迫力に押されながら、秋也は頷いた。
「なら、余計に。ねえ、遥さん。いいでしょ」
「須貝さん。お断わりしてくださって構いませんから」
はあ、と松井は掌で顔を覆っていた。
松井にとっては、野瀬のこの人懐っこさは悩みの種のようだが、秋也にとって、不愉快ではなかった。
どこか潤を彷彿させるからだ。潤と出会う前だったら、こういうグイグイ来るタイプは苦手だった筈だけれど。
「ええ。でも、潤に聞いてみないと」
フロントに到着した。外からの寒い空気が、一瞬のうちにどこかに飛んでいき、暖かった。
人が多いせいかもしれなかった。
「へえ。お連れさん、ジュンっていうんですか」
野瀬が言いながら、チラリとフロントの時計に目をやった。
「あ〜。オヤジ、時間にうるせえからな。タクシー使ってよかった。まだ余裕あるや」
と、野瀬はそこらのソファに腰かけた。
「じゃあ、須貝さん。お連れのジュンさんに確認していただけます?今晩の予定」
ソファに座ったまま、野瀬は、傍らに立っていた秋也に、声をかけた。
「君ってやつは。どうしてそう強引なんだ。だいたい、なんだ。そのエラソーな態度は」
松井は、ソファに座っている野瀬の耳朶を引っ張った。
「イテテ。遥さん、もしかして、妬いてるの?」
「誰がっ」
松井と野瀬がぎゃいぎゃいやりあってる横で、秋也は、携帯を取り出した。
野瀬の言う通り、潤に確認しなきゃならないことがあるからだ。
食事云々よりも、そもそもこのホテルに本当に泊まってるか、怪しい。
潤の携帯は、繋がらなかった。
「またかっ」
仕事中ならばまだしも、普通に考えれば、定時は過ぎてる時間だ。
幾ら出張中で、内勤時とは違っても、多少は、携帯に出ても許されるのではないかと思う。
せめて、折り返す、ぐらいの声が欲しい。
「!」
もしかして、潤のヤツ。俺からの連絡を避けてるのか?
いきなり、秋也の心に、疑問の灰色の雲が沸いた。
『うちの女子社員。身元確かな美人ばかりよ』
柚子の言葉が甦る。
今日の出張。女子社員と来てるのかも。
「須貝さん?」
野瀬が、座ったまま、こちらに視線を向けた。
「繋がらないんです・・・。ずっと」
「えっ」
「俺。避けられてるのかも」
口にしてみて、なんとなく、それが確信に変わった気がした。
だいたいアイツなんて。
たった一度会った俺に惚れただのなんだのぬかせるお気楽野郎だ。
一週間もありゃ、気持ちなんかコロッと変えられるタイプかも。
秋也は、一気に体が冷えていく感覚に襲われた。
「喧嘩でもしてるの?」
野瀬に言われて、秋也は苦笑した。
喧嘩にさえなんねーよ。
だって、全然会えねえんだもの。
今だって、電話は繋がらなくて。潤がどこにいるかもわからない。
「フロントで、部屋確認したらどうですか」
松井に言われて秋也は、ハッとした。
「そう・・・でしたね」
そんな簡単なことすら思いつかない程、頭が回らない。
俺。
なんで、こんなところに来ちゃったンだろう。
ぼんやりと秋也はフロントに視線をやった。
「!」
そこへ、潤が通りかかったのだ。
見知らぬ男と2人、喋りながら、歩いてきた。
その光景は、まるで、スローモーションのように見えた。
秋也は、瞬きした。
スーツ着てる。初めて見た。
声をかけようとしたが、体がかたまってしまって、動けなかった。
「泪?いや、違う。潤!?」
そんな秋也の横で、野瀬が、声を上げた。
すると、潤がこらちを見た。
確かに、こちらを見た。
秋也は、潤と視線が合ったのが、はっきりとわかった。
しかし、潤は、なにも言わずに、目を逸らし、そのままスタスタと言ってしまった。
「ええっ?なんだよ、あれ、潤かぁ?」
野瀬が、ソファから身を乗り出して、素っ頓狂な声を出した。
「って、まさか、ジュンって」
ハッとした顔で、野瀬が秋也の腕を掴んだ。
「貴方、もしかして。潤の知り合いですか?さっき言った知り合いのジュンって、小野田ですか?」
「なぜ、貴方が潤を・・・」
なぜ野瀬が潤を知っているのか、わからない。
だが、野瀬の言ってる潤は、間違いなく秋也が探している潤だった。
「そうです。俺が探していた潤は、小野田です」
言いながら、秋也は、さっきのことを思い出していた。
潤に、無視された。
ちゃんと目が合ったのに。無視された。
「・・・」
なんか色々と。
なんだか、すっごく。
悲しくて悔しくて恥ずかしい。
秋也は、グッと唇を噛んだ。
「すみません。俺、今晩、飯行けません。ここまで色々とありがとうございました。帰ります。では」
秋也は2人に頭を下げた。
「えっ、帰るって」
松井がキョトンとしているその横を、秋也は走って通り過ぎた。
「遥さん。須貝さん、追って」
背後で、野瀬の声が聞こえた。
「えっ?えっ?」
動揺している松井の声が聞こえたが、秋也は構わず走った。




潤の心拍数は、ものすごかった。
なっ、なんで、秋也がここにいるんだ。
それになんか、野瀬っちがいたような気が。
なんで秋也と野瀬っちが2人一緒??
ゆ、夢かな。ええ??
ニヤけかけたが、
「小野田。気を引き締めろ」
西脇にドンッと背中を叩かれて、潤はハッとした。
そうだ。とりあえず目の前の仕事をきちんとしないと。
控室をノックし、返事があったので、入った。
さっきの担当者の控室とは全然違う空気が漂っていた。
中央には、スーツ姿の秘書たちに囲まれた男が、深々とソファに腰かけていた。
堂々たる体躯。ものすごいオーラだ。
さすがは、数々の会社を経営している、野瀬グループの会長だ。
潤と西脇は、張りつめた空気の中、なにも言わずとりあえず深々と一礼した。
さすがは、あの野瀬グループの会長だ。無言の迫力。
って、え?野瀬って、もしかして・・・。
あれ?と頭を下げたまま、潤が首を傾げたと同時だった。
バンッ、とドアが乱暴に開き、
「潤」
と名を呼ばれた。
「?」
振り返ると、やはり、そこには兄の古くからの友人の野瀬高弘が立っていた。
よく知った、家にもしょっちゅう出入りしていた長男泪のダチの野瀬だ。
いいところのお坊ちゃんと聞いていたが、気取らず明るい男で、潤は好きだった。
「あら。やっぱり野瀬っち・・・」
隣の西脇の顔色が青くなったのがわかって、潤は、しまったと掌で口を覆った。
「おまえ、なにやってんの、こんなところで。なに、そのスーツ姿。泪かと思ったよ。激似。こえ〜よ」
「い、いや、あの。野瀬っち、じゃない、野瀬さん。え〜っと。これには事情が」
と潤が言いかけた時。
ソファの会長の声が部屋に響いた。
「高弘。いきなりやってきて、私に挨拶もなしか」
「あ、忘れてた。ごめん、父さん。ご無沙汰してます」
野瀬が、てへへと笑って、言った。
やっぱ、そうか。ガクッと潤は項垂れた。
「それよか、潤。このあと、俺と遥さんと須貝さんと皆で一緒に食事に行こうぜ」
この緊張感溢れる空気をまったく理解せず、野瀬が言った言葉に、
さすがに能天気な潤も顔を引き攣らせたのであった。



続く

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秋桜のカップルでした!(笑)