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To Heart

柳沢凛(ヤナギサワ・リン)
旺風学園2年C組。生徒会副会長。金髪ヤンキー風。性格・地味。

黒藤克巳(コクトウ・カツミ)
旺風学園2年C組。生徒会書記。見た目クール。性格・超自信過剰

君津薫(キミツ・カオル)
旺風学園2年A組。生徒会会長。見た目ロリ系キュート。性格・天真爛漫
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【旺風学園・5月】

「模擬店は、比率で決めた方がいいと思います。会長いかがです?」
「反対。それじゃあ、我校風に反します。自由という校風がモットーな我学園に規制は必要ない。
やりたいことをやりゃいいんだ」
「却下。自由という言葉の使い方を間違えているよ。書記くん」
「フン・・・」
「副会長。君の言う通り模擬店は比率で行くよ。比率は君に任せる。君に任せておけば間違いはないから。
以上今日の議題オシマイ。解散」

そう言って生徒会長の君津薫はさっさと生徒会室を出ていった。
その背を見送って、役員達もそれぞれ席を立った。

「・・・」
副会長の柳沢凛も、君津が完全に部屋から出ていったのを
見送ってから、黒板に書いた字を消そうとした。

「ストップ。副会長。俺、まだ全部写してねえから、消さないで」

書記の黒藤克巳が、机の上に脚を乗っけたまま、だらしない格好でノートにペンを走らせていた。

「じゃあ、写したら消しておいてくれ。俺も教室に戻る」
「ちょっと待っててくれよ。どうせ同じ教室だし、ついでだから一緒に帰ろうぜ」
「誰が」

凛は、ポイッと黒板消しを放り投げると、自分も教室を飛び出していった。
「ちぇーっ。つれねーヤツ」
克巳は、ガジガシとシャープペンを齧りながら、肩を竦めた。

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さっさと帰り支度をして、教室を後にして昇降口に辿りついた凛は、そこに薫の姿を見出した。
「君津」
「一緒に帰ろっ♪」
「あ、ああ・・・」
どうやら自分を待っていた気配である薫の態度に、凛は断りきれずにうなづいた。
本当にイヤなのに・・・と心の中で呟いてオシマイにする。

「凛はさ、一人暮しなんだって?」
「・・・まあな」
「克巳から聞いたんだ。今度遊びに行っていいかい?」
「なんで?」

思わず凛は聞き返す。君津薫とは、生徒会長と副会長という間柄で、もちろん面識はありすぎるほどある。
しかし、クラスは別だし、生徒会以外での繋がりは皆無である。友達といえるほど親しくもないのだ。
「友達になりたいから。生徒会だけの繋がりなんて、つまらない」
アッサリと薫は言った。
「・・・部屋汚ねえから」
「気にしないって。そんなん」
そう言って、薫は豪快に笑う。
ロリ系の可愛い顔して、君津薫は竹を割ったような性格だった。
さっぱりしていて、成績優秀、スポーツ万能。まさに生徒会長になるべくして生まれてきたような男だった。

「なあ、ダメ?」
薫はヒョコッと凛を覗きこむ。そしてニッコリと微笑んだ。
男の自分でも、ちょっとした可愛い女の子に微笑まれたような気分になって、ドキリとする。

「そんなに来たいならば、来いよ」
正直迷惑だけどな・・・と凛はまたも心の中で呟いた。
「やったね!サーンキュ」
心底嬉しそうに薫は笑う。
「言っておくけど、汚くても文句は・・・。うっ」
突然背後から、羽交い締めにされて凛は言葉に詰まった。
「なーに、俺を仲間外れにしてやがる。てめえら」
「は、離せ。黒藤」
ジタバタと凛は暴れた。
「俺も一緒に行く〜。いいよな、凛ちゃん」
言いながら、フッと耳に息を吹きかけられて、凛はボカッとカバンで黒藤の頭を叩いた。
「気持ち悪いことするなーー」
「俺も行く。いいだろ」
凛は、背中の克巳を振り払い、キッと睨む。
「おまえはイヤだ」
「なんでだよ〜。それってすげー差別じゃねえか。薫はよくってどうして俺はダメなんだよ。ひでーよ。凛ちゃん」
「馴れ馴れしく凛ちゃんと呼ぶなってっんだろ」
「凛ちゃん、凛ちゃん、凛ちゃん〜♪」
ボボボボと、気の済むまでカバンで黒藤を殴りつける凛だった。
「いて、いてててっ」
「はい。御二人とも。ストップだよ」

薫が凛と克巳の間に入って、二人を引き離す。
「克巳。てめえは、邪魔者だから今回は諦めな」
「ひでえよ。薫までそんなこと言うのかよっ」
「俺はあくまでも凛の意見を尊重しているだけサ。行くぜ、凛」

そう言って薫は凛の腕を引っ張って走り出す。
「克巳、バイバイ」
「あ、こら、待て。薫、凛ちゃん!」
「待たねえよ。バ〜イ」
「君津。痛えよ。腕引っ張るな」
「グズグズしていると克巳に追いつかれる。速度あげるぜ〜」
「君津〜。いいかげんにしろ。俺はおまえみたく瞬発力はねえんだ。持久力になら自信があるが。痛え」

ほとんど薫に引き摺られるようにして、凛は走った。
掴まれた腕に込められた力がハンパじゃなく凄くて、痛かった。

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「なるほどね。噂には聞いていたけど。こーゆーことだったんだ」
薫は、窓枠に手をかけては呟いた。
「こーゆー訳だったんだよ」
よっこらしょと、克巳は窓枠を越えて部屋へ入ってきた。
「お隣サンとは聞いていたけど、まさか侵入可な距離だとは思ってもいなかったよ」
「俺もなァ〜。前の住居者はキレーな姉ちゃんだったから、今回もすげー期待してたんだよ。
そんで窓チェックしてたら、今度の住居人は男だと知ってガッカリでさ」
「フーン・・・」
二人の会話を聞いていた凛はムスッとする。
「俺だって好きでこんなヤツと近所になった訳じゃない。おまえが住んでいると知ってたら絶対にこんなトコ住んでない」
「まーた。照れちゃって」
ワハハと克巳は笑って、不貞腐れている凛の背を叩いた。
「照れてねえよ」
誰が照れるかっつーんだと凛は思った。
本当に最悪な事態だった。風を入れようと引越し初日で窓を開けたら、いきなり克巳と目が合った。
ジロジロと遠慮のない視線にムカついて、思いっきり窓を閉めてやった。
そしたら、次の日。転校初日、配属された1―Cのクラスにソイツはいやがった。

黒藤克巳。
1年、2年と同じクラスで、生徒会でも副会長と書記というつきあいで、よりによって家ですら、窓から窓へと伝ってこれるほどの近接さ。
腐れ縁としか言いようがなかった。
「でもさ。汚いって言ってたけど、この部屋どこが汚いんだよ」
薫は、キョロキョロと部屋を見まわしてはそう言った。
「俺の部屋なんて、この20倍は汚いぜ〜。綺麗なモンだよ、凛の部屋なんて。女の子の部屋みてーだ」
感心したように薫は言う。
「そうそう。凛ってさ、そういうところあるよな。まったくさ、頭はパツキンで、イカれヤンキーみたいな面しやがって、すげー
マジメだし、頭いいしよ。見かけによらねえっつーの?」
「おまえに言われたくねえよ」
凛はブスッとして言い返す。
「この頭だってさ、聞いたところによるとコイツの兄ちゃんが美容師で、転校生は舐められるから、
威勢よく行けって言われて無理矢理パツキンにされちまったらしいぜ」
ヒャッヒャッと笑って、克巳は凛の頭を叩いた。
「気安く触るな。それにアニキのことは言うな。勝手に部屋入ってきて寛ぐな」
「一気に捲くしたてるなよ。合理主義者め」
「おまえとは長く話したくない」
凛は注いできたコーヒーのカップを薫の前にだけ置いた。
「仲悪いよな、てめえら」
薫は苦笑する。
「俺は慕っているんだぜ。なのに、凛がつれねーだけだよ」
「まあ、つれなくしたくなる気はわかるけどね」
薫と克巳は小学校・中学校・高校との長いつきあいなのである。
どちらも成績優秀、スポーツ万能、ルックス良しの、学園では有名な幼馴染コンビだった。
成績も常に1位・2位を争っていた。そこへ転校生の凛が割り込んだ形になったのだ。
大抵トップは薫だったが、2位と3位を凛と克巳が競っている。
本来だったら、生徒会長・副会長は、薫と克巳の幼馴染ペアがなるものだとほとんどの人達が思っていた。
しかし、投票の結果、会長は薫に、副会長は凛に、書記が克巳となった。どれも僅かの票差の結果であった。

「じゃあな〜。家はわかったし、今度はうるせー克巳とは別に単体で来るから。その時に友好を深めよーぜ」
結局薫は、克巳の喋りにつきあわされてろくに凛と喋ることが出来ずに帰る羽目になってしまった。
「またな」
玄関まで見送っていて、凛が言うと、薫はクスッと笑った。
「それ本気で言ってる?俺は本気にするからね。じゃ、また明日」
「・・・」
おかしなヤツだと凛は思った。なんで自分と友好なんて深めたいと薫は思うのかな?と考えた。
薫はああいうヤツだから、友達なんて山ほどいる。別に自分に固執する理由はないのではと思うのだった。
俺はおもしろおかしい人間じゃねえ。むしろ、人づきあいが悪いタイプのはずだ。それなのに・・・。
「凛。俺コーヒー、おわかり〜」
向こうの部屋で、克巳の声が聞こえた。
あっちにもおかしい人間がもう一人。
「コーヒーならてめーの家で飲めよ。いい加減に帰りやがれ」
「けちくせーこと言うな。コーヒーぐらいで」
「・・・」
ムカつくヤツだと思いつつ、凛は克巳に言い返せない。
克巳には弱みを握られている。少しでも機嫌を損ねると、すぐに言い出すのだ。
「言っちゃおうかな。クール気取っているてめーの本性を」
そうやってすぐに脅すのだ。
つくづく、俺ってついてねえよと凛は思った。
俺は・・・。克巳が言ったとおり、見た目は完璧なヤンキーだった。
理由も克巳の言ったとおりである。兄の手によって髪の色を変えられた。
「地味な性格のおまえは、絶対苛められる。強気で行け」との腹違いの兄は強引だった。
見た目と裏腹に、俺は本来地味な性格なのだ。
ほとんど対人恐怖症と言える性格を変えてくれたのもそんな強引な兄のおかげだった。
小学校前半。苛められ続けた俺に兄は言った。
「トップを目指せ。なんでもいい。とにかく、人の上に立つ位置を目指せ。そうすれば、皆の態度は必ず変わる」
そのアドバイスを受けて、俺はがむしゃらに頑張った。
そのせいで、小学校後半・中学校と全ての学年で成績・運動のトップに立つことが出来た。
おかげで、苛められなくなった。皆が尊敬の目で見るようになったからだ。
対人恐怖症気味な性格も、生徒会やら委員会での活動によって少しずつ解消されていった。

それに気をよくした俺は、とにかくなんでも、常にトップに立つことを優先してきた。それはほとんど癖みたくなっていた。
人には努力を悟られずに、あくまでも自然に優位に立つことが出来るのだと、ふるまった。
その方が人々はより一目置くからだ。カリスマとでも言うべきか。

それが。この学園に来て、粉砕された。
同じ学年に、君津薫と黒藤克巳という存在があったからだ。
黒藤は抜けても、どうしても君津が抜けない。
どれほど頑張っても、君津だけは抜くことが出来なかった。
それが俺を苛々させていた。
黒藤の話によると、君津は試験勉強などほとんどしないらしい。
一度聞くと覚えてしまう、天才的な記憶力のせいらしい。
それを聞いて余計腹が立った。
1年の冬の中間試験の時だった。その時もやはり薫に負けたくない一心で、試験勉強を真夜中まで続けていた。
頭には、昔アニキからもらった「必勝」はちまきを巻きつけて。
おかしなことだが、俺はこのはちまきを巻くと、すごくやる気になるのだ。
幼い頃、これをつけて頑張って成果を得た快感が残っているからかもしれない。

真夜中に、黒藤が例の窓をコツコツと叩いていた。
ヤツも試験勉強に疲れて、息抜きしたいのだと思った。
だが相手にしている時間が惜しく、俺は無視しつづけた。
しかし、黒藤は相当しつこかった。
コツコツと窓を叩く音が、勘に触った。
「うるせーーー!」
我慢が切れた俺は、窓を開けて、思わずそう怒鳴った。
すると、窓の向こうの黒藤はビックリした目で俺を見た。
「な、なに、その格好」
声を震わせて、黒藤は言った。
「なんだよ」
言い返してから、俺はハッとした。ハッとして額を押さえた。
燦然と輝く、額に「必勝」の文字。
ブワッハッハッと黒藤は笑った。
まったくもって真夜中にいい迷惑な騒動なのだが、俺はあまりの羞恥に固まってしまった。
黒藤は気が済むまで笑い続けたが、そのうちに俺をジッと見つめていた。
「・・・」
妙に真剣に見つめられて、俺は不覚にも頬を赤くして恥じた。
すると、黒藤は黙って、窓をピシャンと閉めて引っ込んでしまった。
取り残された俺は、冷たい風が頬の熱を奪っていくのを感じながら、いつまでも黒藤の部屋をボンヤリ眺めていた。
その次の日から、俺は克巳に密かに、「必勝」という仇名をつけられた。
「薫にバラすぞ」
その一言で、俺は黙らざるを得ない。
薫には、バレたくない。これだけがむしゃらに勉強していても、勝てない自分を知られたくない。
それは自分のプライドなのだ。
克巳はそんな俺の性格を、完璧に把握していたらしい。
故に俺は克巳には、とことんまで反抗することが出来ない。
昔の、苛められていた頃の自分に戻っているのがイヤで、俺は克巳が嫌いなのだ。
「凛。どうしたんだよ、ボーッとして」
「うるせーな。コーヒーならやっただろ」
「いや、そうじゃなくて」
「俺がボーッとしているのが嫌ならばとっとと帰れ」
「なんでそんなに俺が嫌いなのかしら?凛くんは」
フッと克巳は苦笑する。
わかっているくせに。やなヤローだぜ。
「俺も薫もおまえが大好きなのに」
俺はおまえも薫も大嫌いだ!と心の中で凛は叫んだ。

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今日の生徒会の議題も、こてんぱに克巳に反対された。
出す意見、出す意見、全て克巳がケチをつける。
凛は疲れて、とうとう黙りこんだ。

結局、会長・薫の意見でお開きになる。
いつものパターンだ。
凛の意見に克巳が反対し、克巳の意見を薫があっさり却下して、凛の意見を容れる。

役員達は、そのパターンを知りつつ、凛と克巳のやり取りにいつもハラハラしていた。

凛と薫が部屋を出て行ったのを見計らって、会計の尾谷がボソリと克巳に言った。
「苛めすぎッスよ〜。副会長、あれじゃカワイソですよ。克巳先輩」
「愛だよ、愛」
「屈折してんなァ」
「うるせーな。おまえも凛のファンか?尾谷」
「そりゃファンッスよ。金髪良く似合うし、綺麗だし。頭いいし、喋りうまいし。クールだし。しびれるッスよ。
俺ら一年の女子の間でも、えれー人気なんですよ。あんまり苛めていると、克巳先輩、女どもからリンチ受けますぜ」
それを聞いて、克巳はフフッと笑った。
「へっ。完璧みな、騙されてンなァ」
「なんか言いました?」
「いんや。ま、俺のは前提、愛だから。それに、てめーじゃあるまいし、この学園の女が俺にリンチなんざする筈ねーだろ。
おまえこそ、そんな生意気なこと言ってると、俺のファンクラブの親衛隊達に射殺されるぞ」
「ううう・・・。克巳先輩には勝てないッス」
尾谷がハハハと笑った。
「じゃーな。薫と凛を追いかけるぜ。部屋の鍵よろしくな」
そう言って克巳は走って行った。
「やれやれ」
生徒会トップの面子らには参るなァと思いながら、尾谷は部屋の後片付けをしていた。
その時だった。床に落ちている手帳を見つけて、拾い上げた。
中を見て、尾谷は慌てて部屋の鍵を閉めて、昇降口に向かった。
ちょうど、昇降口には、女の子とデレデレ喋っている克巳の姿が目に入った。
「克巳先輩。丁度良かった。これ、副会長の定期です。ご近所ですし、届けてやってください」
「お?凛の定期?ああ、わかった。サンキューな」
女の子は、尾谷の姿を見ると、バタバタ走って逃げていってしまった。
「あれ。お邪魔でしたね。先輩。ひょっとして、またラブレターっすか?」
「まあな」
ヒラッと、手にしたファンシー封筒を克巳は尾谷に見せつけた。
「ちーっ。モテる男は辛いッスね〜。せんぱぁい」
「まーな。俺、本命いるから、断るのが辛いけどな」
「けっ。え?先輩って今つきあっている人いるんですか?」
「いねえけど。ちょっとそろそろ口説きに入ってもいい時期かなと思っているヤツならいるんだよ」
スッと、切れ長の迫力ある克巳の瞳が細められた。
「う、うわ〜。獲物を狙う目って感じッスね。こ、こえ〜。先輩に惚れられた女の人ってカワイソ。逃げられねえって感じですよね」
封筒で、克巳は尾谷の頭をポスッと叩いた。
「光栄なことだと思ってもらいたいね。俺に惚れられるなんざね」
「・・・ステキなほどの自信過剰ッスよ。さすが克巳先輩デス」
「るっせ。それより、凛の定期は任せろ。悪かったな、走らせちまって」
「いえ、頼みますよ。んじゃ。あ、それと、口説き落としたら、その人俺に紹介してくださいよっ。お手並み拝見ですからね〜」
「ああ、じゃーな」

靴を履き替えながら、尾谷はふと考えた。
「あの克巳先輩が惚れた人ってどんな人だろ。興味あんなァ」
あれだけモテていながら、克巳にはほとんど浮いた話がなかった。
それは、口説き落とす機会をジッと待っていたからなのか・・・。
「へへ。すげー楽しみだ」
尾谷は、ニヤニヤしてしまう自分を止められなかった。

唐突に続く・・・・
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