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「ご立派な屋敷ですね」
連れて行かれた大和の家は、バリバリの日本家屋。広い敷地は、高い塀でぐるりと囲まれている。
「うーん。そうだね。まあ、歴史は古いみたいだよね」
面倒くさそうに大和はそう言って、さっさと玄関に向かっていく。
「ま、寛いでよ」
通された部屋は、どうやら大和の部屋らしく、外観の和式とは違いベッドもある洋式だ。
だが。
「この、窓際にやたらとベタベタ貼ってあるお札は勘弁してくれ〜」
ぞわぞわーーーとりおは、鳥肌を立てる。
大和が戻ってきた。
「化粧とかしてると、お肌が荒れちゃって。おまえらはいいよなー。すっぴん勝負でさ」
タオルで顔を拭きながら戻ってきた大和だったが・・・。
「!」
化粧をとった大和のが数倍美しかった。
「先輩。マジ気持ち悪いっす。なんでそんなにきれいなの?」
だかんだで、美形大好きなりおの瞳が輝いた。
「両親が綺麗だから」
にっこりと大和は微笑む。
「・・・でした・・・」
美里奈々は、確かに美人だ。
「俺ンちねー。俺が25になるまでは、女でいないと、死んじゃうんだって。なんかうちの祖先がその頃に悪さしたりしたそうで。まあ、俺がその7代目らしいんで、
俺クリアすれば祟りもはれるらしくて。ま、そんな訳で、俺はこんな感じなんだけどさ。あと少しの我慢だから、小泉もまあ、楽しんでくれよ」
どえらいことを、やたらと軽く説明する大和だった。
「楽しめませんよっ。第一部屋から楽しめません。こんなお札ベタベタの部屋っ」
あわあわとりおは、部屋の隅で震えていた。
「そこらにアルバムとかあるから、昔の忍とか見て楽しんでろよ」
「えっ」
どこ?ときょろきょろと見回すと、本棚にわかりやすくアルバムが飾ってある。
「それの3冊目かな。忍のこと、預かってた時期があってさ。忍の父ちゃんが山で遭難しちまって、母ちゃんが死にもの狂いで探しに行っちまって。
一人にされちゃった忍をうちが預かっていた頃のヤツさ」
りおは、ふんふんと頷いた。
「へえ。そんな過去が・・・」
そんな過去もどんな過去も。
俺、そういえば、忍の過去なんざろくに知らない・・・と思った。
「うちの母ちゃんさ。恋多き女だったけど、忍の父ちゃんにはマジ惚れでね。けど、忍の父ちゃんは、山と男が好きなソッチ系の人だったんだよ、元々ね。
けど、母ちゃんが策略こいて根性で孕んじまってさ。女はほんと怖いね。んでまあ、結果、遭難したまま帰らず、いまだに見つからないまま。だから、
母ちゃん忍には、すごい執着があってさ。愛する男、まんまなのよ、忍って。ほんと、そっくりでさ。忍の父ちゃんも写ってるから、見つけてみ」
ページをめくりながら、りおは、五条を探した。
「・・・いた」
「そう、それな」
親戚なのか、たくさんの人とちゃんと列をなして写真におさまってる集合写真。
その中で、五条を、りおはすぐに探せ出した。
「あ。で、これが・・・」
集合写真ではなく、スナップ写真の中に、五条の父らしき人物が写っていた。
「うわ。そっくり。マジかっこええ」
歳をとった五条がそこにいた。
「だろー。いや、この人は、ほんと、美形揃いの俺ら一族のやつらも、文句つけられなかったよ。天然でカッコよかった」
山に行く前だろうか。大きなリュックを背負っている。
「母ちゃんさ。すごいデカい映画の話が入ってきていたんだけど、忍産む為に断ったらしくて。今でも、この話受けてれば、多分大女優の仲間入りだったろうって
みんな言ってる。母ちゃんの後釜についた女優が、今は某大物女優として幅利かせちゃってるぐらいだから。ま、女優っつーより映画が大ヒットだったんだけどな」
大和の横顔が楽しそうだ。
「今でこそ我儘でどうしようもない女だけどな。人って本当に好きな人の為には、一途になれるんだろうね。忍産む為にあの人は全ての仕事を断った。
ある程度忍が大きくなるまでは、自分で育てるって。今まで何人も産んだ子供は、全部ダンナ側に押し付けてきたくせにさ。ま、そんな珍しいことしたから
あんなことになっちゃったのかもね。忍のおやじさんの雪山での遭難。本当にやりきれなかった」
悲しそうに大和は目を伏せた。
「大和先輩」
「あ、これね。無駄話じゃないんだよ。実は」
悲しみの表情から一転、パチッと大和が片目を瞑った。
「美里奈々ね。忍がすげえ大切なの。突然亡くしちゃったダンナの代わりにもうめちゃくちゃ愛してるんだよ。俺ら子供を平等に愛そうと必死なんだけどね。
俺らからみると忍命なのがもろばれなの。その忍がさ。本命出来たら、大変だろうねって兄弟一同で想像してたの。それがさ、出来ちゃった訳じゃない」
スーッと大和がりおを指差した。
「・・・えっ、それ、俺!?」
「アイツがフラフラ遊んでいるのは、皆知ってた。母ちゃんも、忍が誰か一人にマジこくとは思ってなかったようだから、今まで容認していたけどさ」
大和は言葉を切って、りおをジッと見つめた。
その視線に、りおは、眉を寄せた。
「な、なに?」
「ねちこく虐められているうちが花だぜ。うちの母ちゃん、やる時はぱねえから、そん時は俺らのことを思い出せよな。忍はプライドで俺ら兄弟に頼れない。
けど、俺らは別に忍になんのわだかまりもねえ。母ちゃんがああいうやつだって知ってるし、愛し尽くせぬうちに終わってしまった者は美化されるのもわかってる。小泉」
「は、はい」
条件反射で、りおは、ビシッと背を正した。
「困った時は、俺を想い出せ。愛してるからなにもかも許されるって訳じゃねえ。けどな。それがわからないヤツっていうのも、天然でいるもんだ。
おまえと忍じゃ解決できねえことにぶち当たったら、俺を想い出せ」
「大和先輩。それが言いたかったンすね。話長かったけど」
「悪かったな」
「大和せんぱ〜いっ」
りおは、ノリで、ガシッと大和に抱きついた。
「ありがとうございます。俺、そんな先輩の気持ちにも気づかずに、気持ち悪いとか言ってすみません。先輩についていきますっ」
「まあまあ、わかってくれれば、別に俺もそんな」
と言いつつ、大和もがっちりとりおを抱きしめた。
「先輩」
「小泉」
ぎゅううう〜。
「あ、あの、先輩。なんかちぃと、抱擁が長い気が・・・」
抱きしめられたまま、りおは、目をぱちくりとした。
「うん、ごめん。今、来てるんだ。ほら、例の」
「えええっ」
「だからおまえにくっついてんの。やつら、やっぱりおまえがいると、近寄って来れねえみたい」
グイグイと大和はりおを抱きしめてくる。
「そ、そんな。今まで生きてきて霊感あるなんて思ったことねえですよ」
ガタガタとりおは震えだした。
「早坂が言うぐらいなんだから、気づかなかっただけで、あるんだよ。小泉」
ふーっと大和はりおの耳元に息を吹きかけた。
「ぎゃあ。この状況で、んな悪ふざけせんといてくださいっ」
涙目で、りおは大和を見上げた。
「あ、ごめん」
てへへへと大和は笑った。
「・・・」
なんっか、大和先輩怪しい。けど、怖い。怪しい、けど、怖い。
さすがのりおも、この状況をどうしていいかわからない。
「うわっ」
大和が突然声をあげ、そのまま、ドサドサとりおを巻き込み、ベッドに倒れ込んだ。
「ど、どうしました、大和先輩」
下敷きにされたりおが、ガタガタと声を上擦らせて、大和を見上げた。
「今、やつらが動いたっ」
どこぞの空間に視線を走らせながら、大和が言った。
「ひぃえええ。どこっ、どこにいるの」
ぼよよん、とベッドのスプリングが軋んだ。
「やば、こわっ。うそ。ついていきません。やっぱり、無理。俺、先輩にはついていけません。ごめんなさい、無理」
ひいいいとうめくりおに、大和はクスクス笑う。
「おまえ、今時、こんな芝居で、ヒイヒイ言えるなんて、中二かよ」
「は?」
「可愛いなあ、小泉。なんか、モフモフしてて、おまえ犬みてえ。忍、やっぱり目がいいよ、アイツ」
「え、大和先輩。って、あっ」
いきなり、大和にキスされて、りおは目を見開いた。
なにぃいいい?!
「んっ」
舌まで絡むようなキスをされて、りおが目を回した。
「やまとひぇんぱい」
パンパンとあちこちで壁が軋んだ音をするのを耳にしながら、りおはなんとか大和を叩く腕を振り上げた。
バシッ☆
「あーん。やだぁ。女の子に手をあげるなんて、いたいっ」
大和が頬に手をやり、飛びのいた。
「いきなり、女にならんでください。人にオンナ相手みたいなキスぶちかましといて」
くわあ〜。大和先輩とキスしちまった〜とりおは、顔を真っ赤にしていた。
「だって、小泉、可愛いんだもん。ほんと、時間があれば、最後までやっちゃいたいくらい」
大和は全然懲りてない。
「アンタもソッチ系かい」
腰が半分抜けてる状態で、りおは、顔を顰めた。
「・・・ま。俺の場合は、どっちでもどうでも。男でも女でも、ネコでもタチでも。すげえだろ。楽しいぜ」
「単なる好きモンなだけでしょ」
「そうとも言う。気持ちのねえヤツとはやんねーけどな」
どんな一族だよ、とりおは、心底ゲッソリとした。
「まあまあ。そんなに怒らないで」
「怒りますよっ」
パタン。
ドアが開く音に
「ひいいいい」
と、りおが盛大に悲鳴を上げた。
「大丈夫?大和」
入ってきたのは、早坂だった。
「おう。遅かったな」
「まあね」
早坂はポケットに手を突っ込んだまま、りおを見た。
「な。小泉、役に立つだろ」
「うん。いいね。忍のじゃなきゃ、俺のにしてえよ」
ぱふっ、と大和はベッドの上のりおの肩を抱いた。
「は、離してください。早坂先輩来たならば、俺帰ります。忍も心配してるだろうし」
大和の腕を振り払いながら、りおが言うと、早坂は苦笑した。
「おまえの彼氏。女抱えてどっか行ったよ」
「え?」
「さすが大和の弟だけあるよね。うちの部員、お持ち帰りされちゃったみたいよ」
「・・・」
あのどさくさに紛れてなにやっとんじゃ、あの男は!と、りおはきりりと歯軋りした。
「邪魔しにいく?協力はしてやるぜ、小泉」
大和と早坂は、顔を見合わせて、クスッと笑いあう。
「結構です。あいつの浮気にいちいちオロオロしていたら、きりがねえし。ところで、大和先輩。俺、お願いがあるんですが」
「なに。小泉の言うことならば、なんでも聞いてあげる」
すりっと大和はりおに擦り寄ってきた。
その大和を腕でグイグイと押し返しながら、
「女紹介してください」
身も蓋もなく、ズバリと言い切る、漢・小泉りお。
「へっ?」
大和と早坂はキョトンとしていた。
「童貞捨てたいッス」
一瞬の沈黙の後、部屋に大爆笑が響く中、りおは、キリリと真面目な顔で、「捨てたいッス」ともう一度、呟いたのだった。
続く
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