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『16才の誕生日。その日、初めて目が合った人が、貴方の運命の人となるでしょう・・・』
ピピピピ・・・。
「んなの、普通に言ったらババーに決まってンだろうが!俺に近親相姦しろっつーのかよ。あのインチキ占い師」
ケッと叫びながら、林田静は、アラーム時計を叩いてオフにした。
布団から、モゾリと起き上がる。
「冗談じゃねえよ。ババー寝てろ、ちきしょう」
ドカドカと階段を降り、静はキッチンへ向かった。
バンッとドアを開け、「俺と目を合わせるな、おふくろ」と叫んだ瞬間だった。
カチリ、と頭の奥で、本当に鳴ったような気がした。
視線が合った音。
カチリ。
カチリ、と。
「あ、アンタ誰?」
台所のテーブルには、見知らぬ人間が座っていた。
たぶん同い年ぐらいの黒い髪の短髪。
だが、その顔と言ったら、男にも見えるし女にも見える。
中性的な綺麗な顔。
静は、短髪の美少女!と思った。
目が合った。
誕生日のこの日。
初めて目が合ったのが、おふくろでもない、この子。
お、女だよな。女だよな・・・と静はドキドキしながら、ジッと見知らぬ人間を見つめた。
「あら。珍しく、一人で起きてきたのね、静。あ、この子ね。勝田瑞貴クン」
クン!?
「お、男ぉぉぉぉぉ?!」
静は叫んだ。
だが、静の母親美香は、そんな静を無視して、
「今朝方ね。外で大きな物音がしたから、アタシびっくりして。アンタ起こしても起きてくれないから、バッド持って外に飛び出したら、瑞貴くんが倒れていたの。新聞配達してたのよね。けど、おとといからなんにも食べてないってことでとうとううちの玄関の前でぶっ倒れてしまったらしくて。可哀想にねぇ」
「すんませんでした。飯、美味かったです」
男の声!
ズーンと静は落ち込んで、その場にへたり込んだ。
「アンタ。なにやってんのよ。ほら、アンタの分、そこにあるから」
クロワッサン一切れと牛乳。
「育ち盛りの少年に、パンと牛乳だけで足りるか。飯だよ、飯」
静は美香に文句を言ったが、
「ごめんねぇ。アンタの分、瑞貴くんが食べちゃった。それ、私の朝食なのよん」
「ぬわに?」
キッと静は、瑞貴を睨んだ。
「すまん・・・」
瑞貴は、ボソッと言った。
「きょっ。今日は俺の誕生日なのに〜!」
林田静の16歳の誕生日は、不幸な幕開けとなった。


「へー。可愛いところあんだね、静。小さい頃に占ってもらった占いの言葉信じていたなんて」
彼女の美穂は、クスクスと笑う。
「おりゃ結構こう見えてもロマンチストなんだよ。ったく、占ってもらってから10年、ドキドキしながら16歳を待っていたのによぉ」
「ロマンチスト。・・・には、見えな〜い。それにしてもいい天気。外で食べるのは気持ちいいねっ」
パクパクと昼食のパンをほおばりながら、美穂はウーンと伸びをした。
「でも、そんな瑞貴くんが、今じゃアンタとは顔を合わせれば喧嘩友達だもんね。笑える」
「ったくよ。当時、俺の住んでる町じゃ、当たるって評判だったんだぜ。テレビにも出ていたくせに。あのインチキ占い師」
美穂のパンを横から、モグッと食べては、静は美穂に叩かれた。
「もう。自分のはさっき食べたじゃん」
「あれじゃ足りねー」
緑の芝生に足を伸ばしながら、二人は昼休みの時間を過ごしている。
「でも、偶然っていえば、偶然じゃない?その瑞貴くんが、うちの学校に転校してきたんだからね。しかも隣のクラス」
「隣のクラスったって。2組しかねーんだから・・・。でも、ま。確かに偶然だよな。そこら辺はよ」
静は頭を掻いた。
腹をすかして家の前で倒れていた少年をお袋が拾って、飯食わせた。
それだけで終わる筈だったのに、瑞貴はしばらくして静の高校に転校してきて、また顔を合わせることになった。
別に仲良くする義理はなかったが、転校生で一人浮いていた瑞貴に、静は声をかけてやったり親身に接してやったりもしたが、どっこい瑞貴は一匹狼気質で、そんな静を極端に嫌がった。
そして、18歳になった今、二人は顔を合わせれば喧嘩という関係になっていた。
「最近、瑞貴くん休みがちなんだって。友達が心配してた」
「けっ。どーせまた腹すかしてどっかで倒れているんじゃねえの?あのビンボー」
「心配だわぁ」
美穂がホウッとため息をついた。
「なんだよ!俺がいながら、あんなヤツのことなんか気にしてんじゃねーよ」
「種類が違うんだもん。そりゃ静もカッコイイし自慢の彼氏よ。でも、瑞貴くんはね。なんか、女の私でもポーッとなっちゃうような綺麗さなの」
ムッとしつつも、確かに静にも美穂の言葉は一理あるな、とは思った。
「まあな。確かにツラは綺麗だよな。アイツが女だったら、俺も・・・」
言いかけた静に、美穂はニッと笑う。
「瑞貴くんが、運命の人でもいいって?でも、それ意外と当たってるかもね。だって、うちの国、少し前から同性結婚可能じゃない」
美穂の言葉に、静はフンッと鼻を鳴らした。
「けど俺は、女の子がいいんだよっ」
美穂は、少し出てきた風に、揺れる髪を押さえた。
「そろそろ、戻るか。風強くなってきた」
静は、美穂の肩を押した。
「うん。チャイム鳴りそうだしね」
二人は、仲良く肩を並べて、校舎へと戻っていった。


「だから!どーして、おまえはいつも俺の家の前で倒れるんだよ」
「偶然だ」
「嘘つけっ」
「静。いいじゃないの。瑞貴くんは、私の料理が好きなんですって。美味しいって言ってくれるのよ」
静が、学校から家に戻ってくれば、なぜか食卓には瑞貴が居たのだ。
パクパクと飯を食っている。
「けっ。こんなくどい味の料理のどこが美味いんだか」
呆れて、静は肩を竦めた。
「まー。失礼ね。ところで、静。ママ、これから急遽出勤なのよ。留守番してて」
「冗談ダロ。美穂とこれからデートなんだよ。留守番なら、ソイツにさせりゃいいだろ」
ピッ、と静は瑞貴を指差した。
「なに言ってるのよ。よそ様のお家の子なのに」
美香は怒ったが、瑞貴が美香を見上げて、微笑んだ。
「してますよ、留守番」
「ホント?ごめんね・・・。ありがとう、瑞貴くん。うちのユータ、知ってるよね。まだ子猫だから、心配で。じゃあ、お願いしちゃうわね。よろしく」
美香は、そそくさと支度をして出勤していった。
食卓には、瑞貴がぽつねんと座っていた。
学ランを着替え、静は一階に降りてきた。
「おい」
瑞貴に声をかける。
「なんだよ」
「このツラ。どーしたんだよ」
瑞貴の顔には、青痣が散っていた。
顎に指をひっかけ、静は瑞貴の顔をヒョイッと覗きこんだ。
「・・・」
ジッ、としばらく静と瑞貴は見つめあってしまう。
静は、ドキッとした。瑞貴の黒い瞳が、逸らすことなく、静を見つめているからだった。
「別にてめーにゃ、関係ねーよ」
そっけない瑞貴の言葉に、静はムッとした。
バッ、と静は瑞貴の顎から指を外し、視線を逸らした。
いつものことだ。
愛想もへったくれもあったもんじゃない。
「あー、そうかい。確かに関係ねーけどな」
可愛くねー・・・と思いながら、静はとっとと玄関に向かった。瑞貴がついてくる。
腕には猫を抱いていた。
「行ってらっしゃい」
猫の手を持ち上げて、バイバイと手を振らせる。
珍しく瑞貴にしては可愛い態度だ。静は目を見開いた。
「バッ、バッカじゃねーの。可愛い子ぶりやがって。似合わねーんだよ。気色わりーんだよ、そゆのてめえがやると」
シューズの紐を結びながら、静は背中で動揺しつつも、怒鳴った。
「悪かったな。ところで、デート。張り切りすぎて、孕ませンなよ。ケダモノヤロー」
フッと笑って瑞貴は言うと、猫と共に奥の部屋に引っ込んでいく。
「っせえ」
バタン、と静は乱暴に玄関のドアを閉めて出て行った。
瑞貴の腕の中で、猫がニャウと鳴いた。
「おまえともそろそろお別れかな・・・」
瑞貴は呟き、目を伏せた。


なんだか盛り上がらないデートになった。
どうしてだかわからない。
胸がザワザワする。
静のそんな態度は、美穂にも伝わったらしく、美穂が早々に「帰る」と言い出した。
「わりぃな」
そう言って、静は美穂を家まで送って、帰途を急いだ。
なんでだろう。
どうして、こんなに胸が騒ぐ?
駅を降り、自宅に戻るまでの道では、走りさえもした。
なんだろう。
どうしてだ?静は自分に問いかける。
「!」
家の前に車が止まっている。
見知らぬ車だ。その脇には、小さな人だかりが出来ている。
スーツ姿の男達が数人立っていた。
「なにやってんだ!」
静が叫ぶと、人だかりが僅かに動いた。
「瑞貴!」
瑞貴が、アスファルトに倒れている。
目をこらせば、アスファルトには血らしきものが流れているのが見えた。
「てめえらっ」
静が拳を握りしめて走っていくと、倒れていた静をスーツ姿の男達が素早く抱き上げ、車に押し込んだ。
「瑞貴をどうするつもりだ」
一人のスーツ姿の男の胸元を、静の手が掴んだ。
だが、男はビッ、と拳で静の手を跳ね返した。
「つっ」
打たれた静の拳がビィンと響いた。
相当力の強い男だった。
男はすぐに車に飛び乗った。
車がキキキッと軋んだ音を立てて、発進していく。
「み、瑞貴。瑞貴っ」
静は、瑞貴を追って、車の後を走ったが、到底追いつける筈もなかった。
「な、なんだよ。なにが起こったんだよ・・・」
唇をグッと噛んで、静は仕方なく引き返した。家の前には、飼い猫のユータがウロウロしていた。
「ユータ。瑞貴は一体どうしちまったんだろう」
と、ユータが手で転がしているものが目に入った。
「なんだ、これ?」
小さなバッジだった。
さっきの男達がつけていた物か・・・?!
静は、それを拾い上げて、握りしめた。
「・・・」
放っておけない。
瑞貴は拉致された。
このバッジの男達に。一体なぜ・・・?!

続く

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なんだかね。カンビクカップル第二弾を書きたくなったのです。
だから、町田緑川コンビと似てます。静と瑞貴は。あと、受を女の体にしてしまいたかったのね。
そして、もちろん子供を産ませる!だから、ファンタジー分類にしました。どーでしょ(笑)

↑って、これ、もう10年前のコメントですけど・・・(^^ゞ
今はオメガバースがあるのに、あえて女体化。深刻にしないライトな話にします。(15/6/2)

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