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-------Dearest1------

ファーシナーの国王ゲンスイが、病に倒れたとの報が、アルフェータにもたらされた。

ゲンスイは、カデナとエミールの見舞いを心待ちにしているとのことだった。
彼等にとって、ゲンスイは義理の父と祖父の関係だ。
ただちに、護衛の騎士達が集められ、カデナとエミールは、王の命令で、ファーシナーに向かうことになった。
カデナ・エミール親子と一緒に、カデナの夫であり騎士長であるイリアスと、エミールの世話役である騎士のアスクルが、ファーシナー行きの馬車に同行していた。


「お祖父様は大丈夫であろうか。我等は間に合うのか?アスクル」
馬車の中で、エミールはソワソワと落ち着きがない。
「王子。そのように、馬車の中で慌てても、ゲンスイ様が良くなられる訳でもありませぬ。少しはお父上を見習い、落ち着かれよ」
「ええいっ。貴様などに、我の気持ちがわかるかっ。我は、初めてお祖父様に会うのだぞ。ただ会うのだけならばまだしも、相手は病気ではないか。落ち着くことなど出来ぬ」
エミールは、小さな体でアスクルに向かって、怒鳴った。
「落ち着け、エミール」
カデナが、ビシッと言った。
「ち、父上」
「アスクルの言う通りだ。そなたがここで騒いでも、祖父殿がよくなる訳でもない」
並んで座っているカデナとアスクルは、互いに超冷静な顔で、同じような台詞を言っているのである。
「その通りですが・・・」
エミールは、縋るような瞳で、隣のイリアスを見上げた。
「お気持ちわかりますよ。エミール王子。確かにご心配ですよね」
「わかってくれるか!」
「はい。それは、もう、充分に」
ニッコリとイリアスは笑って、エミールを見つめた。
「そなたが居てくれて、良かった」
エミールは、嬉しそうに言った。

だが、イリアスは・・・・。
俺は出来れば、同席したくなかった。
このメンバーでは・・・と心の中で嘆いた。
目の前の座席には、右にカデナ元王子が、そして左にはエミールの世話役のアスクルが座っている。
どちらも、恐ろしいぐらいの整った容貌の男どもであると同時に、性格も良く似ていた。
カデナの美貌は周知の事実であるが、アスクルとて、アルフェータ王宮では知らぬ者はいない美貌の騎士なのだ。
「イリアス。エミール王子を甘やかしてはならぬ」
アスクルが、低い美しい声で、言った。
「どこが甘やかしている。私は、気持ちがわかると言っただけだ」
「わかるなどと言って。一緒に馬車の中で、心配だ、心配だと騒がれてはたまらぬ」
「心配なお気持ちがわかると言っただけだ。一緒に騒ぐとは、言っておらぬ」
「当たり前だ。騒がれてたまるか」
シレッとアスクルは言った。
「くっ・・・」
イリアスは、拳を握り締め反論を堪えた。
「イリアス。アスクルはいつもこの調子なのだ」
「王子も大変ですね」
「わかってくれるか。やはり、イリアス。そなたを我の側に置きたいものだ」
「それには、私も賛成です」
アスクルは、うなづいた。
「私一人では、このやんちゃな王子は手におえぬ。イリアスが手伝ってくれるならば、私もかなり助かるのだが」
アスクルの同意に、イリアスは激しく抵抗した。
「冗談ぬかすな。アスクル。そなたがいつエミール王子にてこずったというのだ。むしろ、エミール王子のが、そなたを扱いかねておるではないか」
「その通りだ」
うむ、とエミールがうなづいた。
「なにを言う。私は顔に出さないだけだ。苦労はしている」
ギロリとエミールを睨んで、アスクルは冷静に言い返した。
「どこが、だ。いつだって、我のやることなすことに口出して、ダメだだの、いけませんだの。ちょっと凄めば我が黙ると思って」
「ちょっとぐらい凄んだくらいでは、王子は言うことはききません」
「なんだと!?」
エミールがカッと目を向いた。
「きさまら、やかましい」
カデナが間に入った。
「もう少しで眠れそうだったのに」
組んでいた脚を組み替えながら、ムッとした顔でカデナは言った。
「眠るって、カデナさま・・・。眠るおつもりなのですか?」
イリアスは呆れた。危篤の義父を訪ねる為に、馬車を急がせているというのに。
「ち、父上・・・」
エミールも同じような気持ちであるらしい。
「ぎゃあぎゃあ騒いでも事態は変わらん。静かな方がよかろう」
もっともらしくカデナが言った。
「申し訳ございません、カデナ様」
アスクルは、ニッコリと微笑むと、エミールを手招いた。
「王子。お静かになさいませ。お父上様に、これ以上みっともないところをお見せするのはよくないですよ。もう6歳になられたのですから」
「うっ」
アスクルは、エミールの痛いところを確実に突いた。
「だ、黙れば良いのだろう」
アスクルの膝の上に飛び乗り、エミールはプイッと窓の外を眺めた。アスクルは、エミールの頭を撫でながら、微笑んだ。
「イリアス。なんで先ほどからそのような苦虫を噛んだツラしている?」
カデナに遠慮してか、アスクルは声を潜めて言った。
「別に。そんなことはない。私は元々こういう顔なのだ」
「いや。おまえは、昔はもっとハンサムだった」
「殴るぞ」
グッとイリアスは拳を握りこんだ。
「怒るな。それより、今回は一緒に仕事が出来て、光栄だ。まるで昔に戻ったようだな。懐かしいぞ」
「ま、まあな」
それには、イリアスも渋々ではあるが、うなづく。アスクルはこう見えて、頭のキレが良い、仕事のしやすい相棒だった。
「そうか。そなたらは知り合いだと申していたな」
エミールは二人の会話を聞いていて、窓の外に投げていた視線を、馬車の中に戻した。
「はい。エミール王子」
「もうつきあいは長いのか?」
「ええ。とても」
なあ、とアスクルが同意を求めるので、イリアスはうなづいた。
「どういうキッカケで知り合ったのだ?」
エミールの質問に、イリアスはハッとした。
「はい。それは、私がイリアスに口説かれたのがキッカケでございます」
にこやかにアスクルが答えた。
「よっ、余計なことを申すな、このバカたれが」
ガタタッとイリアスは、立ちあがっては、ガンッ★と、頭をぶつけた。
「馬車の中で、立つな。バカ」
横目で、カデナが冷やかに言った。
「だっ、大丈夫か?イリアス。すごい音がしたぞ」
エミールは、呆然としつつイリアスを見た。
イリアスは、真っ赤になりながら、ペコペコと頭を下げた。
「は。すみません。エミール王子」
「騒がしいぞ、まったく」
アスクルも、冷やかに言う。
「誰のせいだ、貴様!」
「私のせいか?私は正直に、王子の質問に答えただけだ」
「正直にって・・・」
「口説かれたとは、なんだ?どういうことだ?意味がわからぬ」
エミールの言葉に、イリアスはホッとした。
これがダイアナ相手だったら、こうもいかなかっただろう。
「おっ、お友達になろうと、私が言ったのでございます」
くっ。不本意・・・と思いつつ、イリアスは言った。
「なんだ。それで、何故そんなに慌てるか。しかし、イリアスも物好きだな。こんなヤツと友達になりたいなどと思ったとは」
子供らしい解釈の、可愛らしいエミールに、イリアスはホッとしつつも
「ごもっともです。当時の私は、どうかしていたのでしょう」
冷や汗をかきながら、イリアスは、どうかしていた、のところに力を込めて答えた。
すると、クククと小さな笑い声が向こう側から聞こえた。
イリアスは、ハッとしてカデナを振り返った。
カデナは、体を窓の方に預けて目を閉じ、眠っているようだったが。
「カデナ様?」
「失礼」
カデナはそう言いながらも、目を閉じたまま肩を震わせていた。
「なんで笑ってるんですか?」
イリアスは、叫ぶように言った。
「いや。興味深い事実だなと思って」
言いながら、カデナはゆっくりと目を開いた。
いつものように、煌くような翠の瞳が現れる。
イリアスは、その瞳を見つめては、慌てて目を反らした。
「な、なにがです!?」
「おまえがアスクルを煙たがっていた影には、そういう事実もあったのか、と」
「・・・」
イリアスは黙りこんだ。
カデナは明かに面白がっている。
事実に、動揺したりすることなく、「面白がって」いるのだ。
わかっていたのだ。
カデナが、自分とアスクルがかつて、「そーゆー仲」であったからといって、怒ることなどないということも。
ましてや、不安に思ったりすることなど・・・。
わかっていたからこそ、隠したかったというのに。
ファーシナー訪問で、アスクルと同行するということがわかった時点で、感じていた危惧だったのだ。
「中々すごい関係だったのだな。おまえ達」
カデナは、微笑んでいた。
魂が抜けてしまったイリアスは、黙りこんでしまう。
「そうですか?なんてことはありませんよ。まあ、でも。自分が振られた原因であるあの方に、いきなり求愛された時は、少しは驚きましたけどね・・・」
アスクルは、面白くもなさそうに言った。
「なんてことはあると思うけど」
カデナは、チラッとイリアスを見ては、肩を竦めた。
「そうでしょうか?そうは思いません」
カデナの言葉に、アスクルは平然と言い返す。さすがに、ルナ相手に一歩も退かない男だけはあるようだった。
「なんだか。複雑な関係のようだな。イリアス。そなたとアスクルは」
エミールは、ジトッとイリアスを見上げた。
「べっ、別に。複雑なことはありません。単純明快です」
そうだ。単純明快だ。
アスクルとつきあってる最中に、ルナに惚れたが為にアスクルを振って、ルナと付き合い出した。
だが、そのルナは、いつしかアスクルに惚れて、アスクルとつきあうために、俺を振った。
それだけのことだ。単純では、ないか。自業自得だというだけのこと。
「複雑だろ、イリアス。顔に出てるぞ」
カデナは、クスクスと笑っている。
「放っておいてください」
キッとイリアスはカデナを睨んだ。
「夫婦喧嘩はよくないぞ」
アスクルは、至極真面目な顔で言った。
「やかましいっ」
だからイヤだったんだ。こいつと一緒に仕事をするのは〜!と、イリアスは心の中で絶叫した。


と、馬車がカタンと止まった。
しばらくして、馬車のドアが開いた。
「国境でございます。これより、ファーシナーへの道に入ります。あと少しで王宮に到着致しますので、ご準備の程お願い致します」
騎士の一人が、そう説明した。
「なんだかんだとやってたら、もう王宮に着くようだ。良かったな。エミール」
カデナが、イリアスの心境などいざ知らず、呑気に言った。
「は、はい。緊張致しますが」
エミールは、ピシンと背筋を伸ばして言った。
「して。国王のご様子はどうだ?」
アスクルが尋ねた。
「ゲンスイ国王のご容態にとくに異変はないそうです」
「よし。ならば、王宮に急いでくれ」
「畏まりました」
そして再び馬車が動き出す。
「ここが母上のお育ちになった国か」
エミールが、窓から顔を出そうして、アスクルに止められた。
「どこから矢が飛んでくるかわかりません。ガラス越しになさいませ」
「わかった」
おとなしくエミールは、ガラスに手をつき、車窓を眺めていた。
ファーシナーは、緑濃い地だった。
四方をグルリと山に囲まれた小さな国だ。
言うなれば、都会的なアルフェータと比べると、長閑である分、田舎だということだった。
王の危篤という情報が国中に流れているにも関わらず、ファーシナーのあちこちの町は、お祭りムードだった。
それは、勿論、「カデナ・ル・アルフェータ」という、有名人を迎えるせいだった。
他国が喉から手が出る程欲しがっていたこの麗人を、この国のかつての王女「ミレンダ様」が、射とめたのである。そして、半分にファーシナーの血を持つアルフェータの王子を誕生させたことを、この国の人々は誇りに思っていたのだった。
厳重な警戒の中王宮に向かう馬車を、沿道の人々は熱狂的に見送っていた。
若い女性などは、口々にカデナの名を叫んでいた。
「すごい。人々があちこちで手を振っている。花まで飛んでるぞ」
エミールは、キョトンしていた。
アルフェータでも、むろん彼等の馬車は、沿道の人々に歓迎されていたが、それとは違う熱気をエミールは感じ取っていた。
「他国の馬車が珍しいのでしょう」
アスクルは、エミールに説明した。
「手を振ってあげたらいかがですか?エミール様。エミール様のお体には半分はこの国の方々と同じ血が、流れているのですから」
イリアスの提案に、エミールはうなづいた。
「そうだな。私は、半分はこの国の者なのだ」
エミールが手を挙げると、観衆は皆、体いっぱいで、手を振り返していた。
「なんだか恥かしいな」
エミールはボソリと言っては、頭を掻いた。
その様子を見て、イリアスは微笑んだ。
「なんてお可愛いらしい。それに比べて・・・」
カデナは、半分席からずり落ちるかのようになりながら、スカスカと眠っていた。
「大半は、皆カデナ様見たさで集っているというのに」
当の本人は、きっちりと窓にカーテンをひいてしまって、さっさと居眠りを始めてしまっていた。
これでは、沿道の人々があまりに気の毒だった。
「良いではないか。見世物になる気などさらさらナイというカデナ様の心意気が、私は好きだぞ」
アスクルは、苦笑していた。
「しかし。それも、王族として生まれたからには覚悟しなくてはならない仕事だ。それなのに」
それもそうだが、さっきの自分とのアスクルの関係にだって、ちっとも気にした素振りは見せずに、グーグーと寝やがって!!
ジワジワと悲しみの空気が自分に纏わりついてくるのを感じて、イリアスは溜め息をついた。

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騒ぎは、沿道の人々だけではなかった。むろん、ファーシナー王宮もざわめいていた。
「そろそろ到着されるとのことよ」
「ああ、カデナ様がおいでになられるなんて。王宮勤めしていて良かった〜。友達に自慢しちゃうわッ」
「どうしよう。間近で見て、恋に落ちてしまったら〜♪」
「でも再婚されたのよね。きーっ。悔しい」
「まあしょせん、高嶺の花よね」
「エミール王子様は、ミレンダ様とカデナ様のお子よ。さぞやお美しいに違いないわ」
「今から目をつけておきましょうか」
侍女達の騒ぎを、最近の王の1番の寵姫であるマリアは、興味深く眺めては、自室に戻ってきた。
部屋には、マリア付きの護衛・ウルゼが待機していた。
「ホホホ。バカな娘達。カデナ様は侍女に心を動かされるような方ではないのに。あの方は、あのアルフェータの王族なのよ。下々の者に目などむけるものですか。ねえ、ウルゼ」
「はい」
「どう?今日の私は綺麗かしら?」
マリアは、王に買ってもらった一番上等なドレスを、若若しく着こなしていた。
「マリア様は、この王宮で1番お若く、美しくあられます」
「ありがとう」
ニッコリとマリアは微笑んだ。
「こんなチャンスは、滅多にないわ。いいこと?手筈どおりにうまくやるのよ」
コソッとマリアは、ウルゼの耳元に囁いた。
マリアの従順なしもべであるウルゼはコクリとうなづいた。
「成功したら・・・。貴方には、騎士長の位をあげるわ。王様は私のいいなりですからね」
「ありがたき幸せでございます」
ウルゼは、深々と頭を下げた。
「ああ、カデナ様。お会いしたかった。この日を待ちわびていたわ」
マリアはうっとりと呟いた。
そして、鏡に移る自分の姿を見、ニッコリと微笑む練習をするのだった。
そろそろ到着しようしている麗人に、とっておきの自分の微笑みを披露する為に・・・。

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とうとう馬車は、長い道程を経て、ファーシナーに到着した。
「お待ちしておりました。カデナ様、エミール様。ようこそファーシナーへ」
次期国王であるマリク王子(ゲンスイの長男で、ミレンダの兄)が、二人を迎えに馬車口まで来ていた。
「わざわざのお迎え、ありがとうございます。マリク王子殿」
カデナは、すっかり眠りから覚めていて、元王子の顔に戻っていた。
優雅に体を傾けては、礼のポーズを取った。
「カデナ殿。結婚式以来ですが、お元気そうでなによりです」
マリクも礼を返す。
「マリク王子も。そして、こちらが」
カデナは、エミールを紹介しようと振り返った。
だが、エミールは、アスクルの右足にひっつかまって、もじもじとしていた。
「エミール様。マリク王子様でございますよ。エミール様の、叔父様になられます。こら、王子。ご挨拶をなさい」
アスクルが、エミールに向かって言った。
「おお。そなたがエミールか!こちらへ来なさい。私はマリク。そなたの母、ミレンダの兄だ。エミール」
「こ、こんにちは。叔父上」
エミールは、アスクルに背を突つかれて、もじもじとしながら、カデナと同じようにアルフェータ式の礼を実行した。
「お目にかかれて、嬉しゅうございます」
「可愛らしい。しかしまあ、カデナ殿によく似ておられる」
そう言いながら、マリクはエミールを抱き上げた。
彼には子供はまだなく、だが無類の子供好きであった。
「叔父上?」
「良いではないか。私はそなたの叔父であるぞ」
「は、はい」
「では、カデナ殿とその護衛の方々も。王宮に案内申し上げます」
そう言ってエミールを抱っこしたまま、マリクは歩き出した。
「行くぞ」
カデナは、正装である長衣を翻しては、歩き出す。
「はい」
イリアスとアスクル。そして、その他のおびただしいぐらいの護衛の騎士達も歩き出す。


長い廊下を歩いていく。
あちこちに、歓迎の意思を表し、ファーシナーの騎士や、王宮勤めの侍女達が、頭を下げたままで一行を見送る。
「ご覧になった?カデナ様」
「き、気絶しそう・・・」
「あの見事な金髪。触ってみたいッッ」
「翠の瞳。光輝いてない?」
「ああ、もう。生を見られて、このまま死んでもいい〜ッ」
こそこそとファーシナーの王宮の女達が言うのが、イリアスの耳にも届いた。
「さすが。女泣かせの美形だけあるな。どこの国の女も皆同じことを言う」
アスクルが隣を歩くイリアスに囁いた。
「黙って歩け」
「おまえ。この国から無事帰れるかな?」
「どういう意味だ」
「そなたがカデナ様と結婚したことは、皆知ってるぞ」
「だからと言ってそれがどうした」
「嫉妬の嵐だ。侮るなよ。それが、この国の王女ミレンダ様が殺された原因であるのだからな」
「よくわかっている」
とは言え。確かに、女達のギンギンの嫉妬の視線は、いつまでたっても慣れるものではない・・・と、イリアスは思うのだった。


広間に通され、カデナ達一行とファーシナーの王族達は対面し、自己紹介をすませた。
エミールは完全にファーシナーと縁続きであるから、王族達の注目が集る。
だが、それとは別に、カデナは注目の的だ。
ズラリと並んだ王の寵姫達や、王子の正妻・寵姫である女達は、カデナに釘づけだった。
カデナは、そんな視線を、慣れたものであっさりと無視して、広間の絵を眺めていた。
一方、別の意味でイリアスも注目されていた。
王族達とは少し離れた場所で、互いの国の騎士達の自己紹介が行われていた。
「アルフェータの騎士長、イリアス・カーンスルーです」
ファーシナーの騎士長、ジーラと握手を交しながら自己紹介すると、「貴方様でしたか。カデナ様とご結婚なされたというのは」と言う台詞が即座に返ってきた。
「はい」
「いや、これは羨ましいものですな。あんなにお美しい方と」
ジーラは頬を染めながら言った。
「男の私でも、ちょっとグラつきそうです。ファーシナーは同性の結婚は認められておりませんが」
コソッと囁くようにジーラは言った。
「は、はあ」
どうやら、嫉妬の視線は女達だけではないようだった。
カデナと結婚して以来、アルフェータでの公式の場に出席することはあっても、他国の公式の場は初めてだった。
想像以上に、厄介なことになりそうだと、イリアスは気を引き締めた。
「城の中をご案内致します。警備には万全の姿勢でおりますが、アルフェータの騎士の方々にもご協力いただきたいので」
ジーラに言われ、イリアスはうなづいた。
「では、お願い致します。アスクル。そなた、エミール様とカデナ様のお側についていてくれ」
「なにを言っている。私も城の中を見ておく。広間には、ファーシナーの騎士の方々もおられる。大丈夫だ」
アスクルは、そう言って、イリアスの後についてきた。
「・・・ったく。では、ルドル。あとを頼む」
「畏まりました」
部下のルドルに任せ、イリアスはジーラの後をついて広間を出た。
王との対面は、夕方に始まるとのことだった

続く

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ぎょえ。長くなりそうなので一旦切ります。

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