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テーブルに飾られた、いつもより数倍豪華な花々を見てカデナは首を傾げた。
「ずいぶん豪華だな。今日の食卓は」
花どころか、用意された食事までもが、ものすごくゴージャスだった。
王族であるカデナの口にあうよう、食事はいつでも豪華ではあったが、それでもいつもの数倍はキラキラした食卓だった。
「今日はなにかあったのか?」
カデナはモニカに聞いた。
「今日はイリアス様の誕生日ですわ。カデナ様」
「・・・」
モニカに言われて、カデナはハッとした。
「誕・・・生日」
そういえば。数日前にダイアナとモニカが町に買物に行く時に聞いた筈だった。
『3日後は、イリアス様の誕生日だから、プレゼントを買いに行くのです』とモニカは言った。
一緒にどうですか?と誘われたが、警備の都合もあるし、それに町にいったところでイリアスへのプレゼントなどなにを買ったらいいかわからないカデナは丁寧に辞退した。
二人が出かけてからしばらく「プレゼント・・・・」と思いつつ、考えていた記憶はあるのだが、そのうち睡魔に負けて眠ってしまった。
眠ったら、そのうち綺麗サッパリそんなイベントのことなど忘れてしまった、薄情なカデナだった。

「カデナお兄ちゃまは、お父さまになにをプレゼントなさるの?」
ダイアナが聞いてくる。
「・・・」
カデナは返事に困った。
「俺は・・・」
と言いかけた瞬間、玄関の方が騒がしくなった。どうやらイリアスが仕事から戻ってきたようだった。
「お父様だわ」
パッとダイアナが踵を返す。
ダイアナを片腕にぶらさげながら、イリアスが食堂にやってきた。
「お待たせしました。さあ、食事にしましょう」
席につくと、イリアスはキョロキョロとした。
「モニカ。今日の食事はやたらと豪華じゃないか。今日はなにかあったのか?」
「まあ、イリアス様ったら。カデナ様と同じことを言われてますわ」
クスクスとモニカが笑う。
イリアスは、正面の席に座るカデナを見た。
「なんだ。自分の誕生日を忘れたのか?しょうがないヤツだな」
カデナが冷やかに言った。
「誕生日って・・・。ああ、そうか。今日でしたっけ」
「俺が知るか」
あくまでもカデナは冷たい。
「今日なんですよ。そうだった、そうだった」
イリアスもめげない。だが、イリアスはハッとした。
「あー。だから、アスクルからバラの花束が100本執務室に届いたのか。とうとう頭がやられたか・・・と思って、ルナ様にあげてしまった」
申し訳なさそうにイリアスは頭を掻いた。
「と、いうことで。今日はイリアス様のお誕生ですわ。ですから、イリアス様のお好きなものを特別に精魂こめて作らせていただきました」
モニカはニコニコと微笑んでいる。
「あ、ありがとう、モニカ」
イリアスは感動して、モニカを見つめた。
「食っていいか?」
そんな二人の間に流れる雰囲気をまるで無視して、カデナが食事を指差す。
「はあ。どうぞ・・・」
相変わらず雰囲気の理解出来ない人だな・・・と思いつつ、イリアスはうなづいた。
食事は和やかに進む。
あらかたメインを食べ終わり、デザートに移行する時期に、ダイアナが改めてイリアスに「おめでとう」を言った。
「お父様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、ダイアナ」
「ダイアナからのプレゼントです」
そう言って、ダイアナは、イリアスの頭に、裏庭で摘んだ花で編んだ花冠を乗せた。
「花冠♪キレイでしょ」
「おっ?ありがとう。し、しかし・・・。なんだか恥かしいな」
自分の頭の上に乗ったピンクだのオレンジだのの可憐な花冠。
イリアスは、それに指で触れては、照れくさそうだった。
「見事に似合わない」
カデナがマジマジとそんなイリアスを見て、ボソッと言った。
「うっ。ほっ、放っておいてください」
ううう・・・。ちょっと悲しく、かなり恥かしいイリアスであった。
しかし、愛しい娘からの贈り物だ。
にこやかに「ありがとう。嬉しいよ、ダイアナ」と言う。
「どういたしまして♪」
ダイアナは満足そうだ。
「私からはこちらを。いつもお世話になっておりますイリアス様へ」
モニカがキレイにラッピングされた包みをイリアスに手渡す。
「ありがとう。なにかな?開けていいかい?」
「はい」
包みから出てきたのは、飾り置き時計だった。
「以前、イリアス様がカタログをご覧になっていて欲しいと言われていたのを覚えておりまして・・・」
「これは嬉しい。ありがとう、モニカ。執務室が寂しかったので、時計が欲しいと思っていたのだ。嬉しいよ、ありがとう」
ニッコリと微笑むイリアスに、モニカはうっすらと顔を赤くしてうなづいた。
「さあ、次はカデナお兄ちゃまよ」
ダイアナが言った。
「え?カデナ様からもいただけるのですか?」
パアッとイリアスの顔が輝く。嬉しいらしい。
「無理だ」
カデナはあっさりと言った。
「は?」
「俺は忘れていた。おまえの誕生日」
「・・・」
「従って、贈るものはなにもない。スマンな、イリアス」
「は、いいえ。元より全然期待していなかったので」
「嫌味か?」
「とんでもないっ」
「・・・」
シーン・・・と、悲しい静寂が食堂に響いた。
「んもー。カデナお兄ちゃまったら。ちゃんと3日前に言っておいたじゃない」
「確かに聞いたが、眠ったら忘れた」
イリアスにとっては、ほとんどトドメの一撃のようなものだった。
「眠ったら忘れた・・ね。ハハ。カデナ様らしいですね」
そう言いながらもイリアスは明らかにガッカリとした顔だった。
ダイアナは、敏感に父親の心境を察して、叫んだ。
「わかりました。それならば、ダイアナは今夜モニカの部屋で眠ります。いつもお父様の横で眠るダイアナの権利を、カデナお兄ちゃまに譲るわ。
カデナお兄ちゃまは、それをお父様にプレゼントすればいいの。そうしたら、二人っきりでゆっくりお眠りになれるし、お父様なんかかなり喜んで
くださると思うわ。いい案でしょ。カデナお兄ちゃま」
ブーッ!イリアスは飲んでいたワインを噴き出した。
「・・・」
そのワインの飛沫は、目の前に座っていたカデナに、盛大に降り注いだ。
「・・・イリアス。これは、誕生日を忘れた俺への仕返しか?」
カデナは、前髪から赤い雫をポタポタ垂らしながら、ギロリとイリアスを睨んだ。
「よい提案でしょ」
イリアスはゴホゴホと咽せていたので、返事がない。
「それって早く言えば、カデナ様ご自身がプレゼントってことですね。ダイアナ様」
モニカが言う。
「そうよ。だーって、お父様は、カデナお兄ちゃまがダイスキなんだもの。横に寝てもらえれば、嬉しい筈だわ」
モニカは堪え切れずに笑い出す。
「いかが?カデナお兄ちゃま」
ダイアナは、楽しそうにカデナを振り返った。
つづく
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