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教会を出て、人目を憚るようにして、春樹と綾瀬は、春樹の家へと戻った。
妹達が心配しているであろう。
「俺・・・。双子や勇樹達に来ないでって言われてるンだけど」
綾瀬が、家に入るのを躊躇していた。
「なに言ってんですか。今更」
春樹が綾瀬の腕を掴んで部屋へあがると、そこには町田と胡桃と、いつも町田と連れ立っている緑川がいた。
「やっぱり一緒だったんだね」
胡桃がにっこりと笑った。
「え、なんで?」
春樹がキョトンとして、三人を見た。
「だろ。春樹のヤツ、ぜってー綾瀬さんのとこ行ってると思ったんだ」
勝ち誇ったように町田が胸を張った。
「さすがてめーのダチだけあんな。行動が単純すぎ」
そう言って緑川は、大袈裟に溜息をついて見せた。
「緑川の坊ちゃん。アンタも似たようなもんよ・・・」
そんな三人の会話を聞きながら、春樹はキョロキョロと辺りを見回した。
「双子と勇樹達は?」
「二階で寝てる。胡桃さんのマズイ飯食ったら、気絶するように眠っちまったよ。おまえのことを心配しながらな」
町田の説明に、綾瀬がブッと吹き出した。
「なによ、綾瀬くん。料理のへたなオンナは嫌い?」
町田を蹴り飛ばしながら、むうっと胡桃が明らかに不機嫌な顔になった。
「いや、あの」
慌てて綾瀬は、春樹の背に隠れながら、言い足した。
「つーか。やっぱ、料理の上手いヤツが好きかな」
すると、町田と胡桃が、同時にニヤッと笑う。
「だよな。阿子さんの代わりに、料理の上手い春樹のとこに、綾瀬さんが嫁に来たんだろ。じゃなきゃ一緒にいねえよな」
町田の言葉に、綾瀬は顔を赤くし、言い返そうとしたところを春樹の掌で口をふさがれた。
「もがっ」
「そう。久人、俺、綾瀬さん、嫁にもらうから。今後ともよろしくなっ」
満面の笑顔で、春樹は、皆に堂々と宣言した。
「春樹、てめー」
恥かしがる綾瀬に、胡桃が、ウィンクした。
「いいじゃない。ステキよ。やっぱり恋愛は、諦めちゃいかん!だね。春ちゃん」
胡桃が二人に向けて、ステキな笑顔をおくった。
「そうと決まりゃ、もう今日は飲むっきゃねえだろ。祝い酒じゃ」
町田の提案を、お水な胡桃が熱烈に支持し、内田家の一階は、突如として、酒盛りの場と化したのであった。


「!!」
見回してみると、いつも使っている(春樹宅の)自分の部屋だった。
そして、覗き込む春樹の顔。
綾目をゴシゴシ擦りながら、綾瀬は「俺、いつの間に」と呟くと、春樹が説明してくれた。
「げえ。マジかよ・・・。みっともねー。酒にのまれたことなんかかつてなかったのに」
一階の酒盛りの場で、一番初めに倒れた緑川(町田の恋人)の後を追うようにして倒れた綾瀬。
町田&春樹&胡桃の三人は、倒れた二人を肴にしばらく飲んでいたらしいのだが、胡桃がカレシに呼び出されたのでお開きになったらしい。
クシャッと綾瀬は髪をかきあげた。
「良かった。もう気分はいいのかよ」
「ああ。なんか平気。ところで。、なんで俺のベッドで寝てんだよ」
と言って、綾瀬はドカッと春樹をベッドから蹴り落とした。
「ひでえっ」
ベッドからずり落ちた春樹が叫んだ。
「綾瀬さん。酔っぱらって忘れちゃったの。今日は、大切な俺達の初夜じゃないか
ムクッと立ち上がりながら、春樹は綾瀬に抗議した。
「しょや・・・」
言われた言葉を繰り返し、綾瀬はハッとした。
そうだ。俺、コイツに告って、だかんだで、なんかそーゆーことになっちゃって。
綾瀬は、自分の置かれた状況を一瞬、完全に飛ばしていた。
「まあ、そうだけど。そーゆーの、今度どっか旅行行った時にでもしようぜ。ほら、新婚旅行って感じでさ」
ただでさえ、今置かれた状況がこっぱずかしくてしょーがねーのに、更に恥ずかしいことなんか出来るかよ。
頭追いつかねえっつーのと、綾瀬は照れを必死に誤魔化そうとした。
「んな呑気なこと言ってらんねえよ。俺は、心臓バクバクするわ、股間はボキボキだしっ。新婚旅行までなんて、待てないッ」
「股間はボキボキ・・・」
綾瀬はチラッと春樹の股間に視線をやった。
「綾瀬さんが言ったんだぞ。こんなに酒に酔ったのなんて初めてだから、傍にいてって。俺のシャツの裾掴んで。綾瀬さんが俺をベッドに引っ張り込んだんだからな。
それなのに、なんだよ、このひでー仕打ちは」
「静かにしろ。双子らが起きるだろ。今何時だと思ってる」
綾瀬はシーッと人差し指を口に当てた。
「あのな。酔っ払っている時の行動なんて責任もてん。俺が本当にそんなこと言ったとしても、今の俺には記憶ねーもんね。だから今晩は、お引取りちょーだい」
バイバイと、綾瀬は上半身を起こしては、春樹に向って手を振った。
「って。バイバイは俺の方か。ガキらに、もう来ないでって言われたもんなぁ。明日、仕切り直して、ちゃんと挨拶に来るから」
よいしょ、と綾瀬は片手で体を支えながら、ベッドから起き上がった。
立ち尽くす春樹の横を綾瀬が通り過ぎようとした時だった。
「待てよ」
と、春樹の低い声が耳元をかすめ、グッと左手首を掴まれた。
「!」
ピクッと、綾瀬は振り返る。
「アンタのペースはもう懲り懲りだ。たまには、俺の話も聞けよ。真面目に聞けよ」
手首を引っ張られ、綾瀬はドサッ、とベッドに引き戻された。慌てて上半身を起こした。
「な、なんだよ」
迫り来る春樹の迫力に、綾瀬は眉を寄せた。
「いっとくけど。色男に力がねえと思ったら大間違いだぜ」
バキバキと綾瀬は指を鳴らして、近づいてくる春樹を威嚇した。
ギシッ、と春樹がベッドに片膝をついたので、ベッドが軋んだ。
「綾瀬さん」
「おう。なんだ」
キッ、と綾瀬は春樹を睨みつけた。春樹も綾瀬を睨みつけていた。
緊張した空気が二人の間を一瞬通り過ぎた。
「改めていいますっ。俺と一緒に暮らしてください。この国じゃ結婚は出来ませんが、いつか海外で結婚しましょう。そん時は、ちゃんと結婚式しましょう。
俺達二人、どっちも式を最後までやれずに花嫁に逃げられたけど。綾瀬さんは、もう俺から逃げないでしょ?」
「春樹・・・」
「もう一度言うよ。俺と家族になりましょう。てか、家族になってくれ。いや、違う。家族になれ」
「なんだよ。どんどん強引になりやがって」
チッと綾瀬は舌打ちした。
「だって。綾瀬さんの気持ちなんて考慮したら、綾瀬さん、逃げそうなんだもん。絶対的両想いなのに、綾瀬さん、逃げそうなんだもん」
強気な言葉を発してすぐに、春樹はシュンと項垂れてしまった。
春樹のこういうところに、自分はやられたんだろうなぁと綾瀬は思うのだ。
弱くて強い。そして、それを、誰にも隠さない。
駆け引きばかりの世界に生きてきたから、こんなストレートな行動には慣れていなくて。
でも、おまえのストレートな心が、俺に向かってくるのが、たまらなく幸せだ。
綾瀬は、ふっと笑った。
「おまえにゃ勝てねーな、春樹」
春樹に向かって、綾瀬は手を広げた。
「ごくつぶしの嫁になってやるよ」
「綾瀬さん」
ぼむっと春樹は広げられた綾瀬の腕の中に飛び込んで、ぎゅむっと綾瀬を強く抱きしめた。
「綾瀬さんは、俺の傍にいてくれるだけでいいんだ。なにも出来なくてもいい。なにもしなくてもいい。好きだ、好きだ、大好きだっ」
綾瀬は春樹の背に腕を回しながら、
「うん」
こっくりとうなづいた。
「綾瀬さん。愛してる」
春樹は、綾瀬にキスしながら、ドサドサッ、と綾瀬をベッドに押し倒した。
「ちょっと待て。おまえ、まさか」
綾瀬の手が伸びて、春樹の顎を押した。
春樹はその腕を振り払うと、組み敷いた綾瀬を見下ろした。
その真剣な視線に、カーッと綾瀬の頬が赤く染まっていく。
「綾瀬さん。俺のこのボキボキ、もう限界。直してよ。嫁さんの役目じゃない」
「いきなり強気になりやがって。やだって。やだ」
暴れる綾瀬だったが、結局は惚れてる弱みで最後まで抵抗しきれなかった。
春樹が、綾瀬の首筋にキスした。ビクッ、と綾瀬の体が竦んだ。
綾瀬の上着を捲り上げて、春樹の舌が、綾瀬の乳首をなぞった。
「ぎゃあ」
綾瀬が色っぽくもなんともない悲鳴をあげた。
「やられる立場はどう?」
おずおずと春樹が訊いてくる。
「不愉快だっ」
むくれた綾瀬の声が戻ってくる。
「そうでもなさそうだけど・・・」
きゅっ、と春樹は綾瀬の乳首を摘まんだ。その瞬間、春樹の腹に、綾瀬のペニスが触れた。
「お揃いだ」
自分の股間を指差して、春樹は綾瀬のペニスにそっと指を絡めた。
「待って。駄目だって。俺、フェラ、苦手。や・・・」
やだ、と言い終えることが出来ずに、綾瀬の無防備なペニスは春樹の口に包まれてしまった。
「んんっ」
綾瀬はバッと漏れそうな喘ぎに自らの掌で口を塞いだ。
こんな声、隣の子供達に聞こえてしまったら大変だからだ。
ピチャ、ピチャと寝室に、春樹が綾瀬のペニスに奉仕する舌使いの音だけが響いた。
「ど、どうかな?こんなん、俺初めてで。前に彼女にやってもらったようにやってみてるんだけど」
コソッ、と春樹は綾瀬の耳元に囁いた。
「バカ。やり方わかんねーだったら、んっ。あ、止めろ」
小声で綾瀬は言い返した。その間にも喘ぎが漏れてしまって、異常に恥ずかしかった。
「でも。さっきより膨らんだ気がするよ、綾瀬さん」
春樹がギュッ、と綾瀬のペニスを掴んだ。
「うっ。く、ん」
綾瀬が仰け反った。スーッと、春樹の指が綾瀬のペニスの裏側をなぞっていく。
チュッ、と亀頭にキスをして、春樹は再び綾瀬のペニスを口に含んだ。
「は、あ。あ、あ」
綾瀬は、ペニスを弄られるのが、好き過ぎて苦手だ。
早漏だと思われてしまうからだ。けれど、けれど。
「んんっ。あ、んうっ」
春樹の舌に誘導されて、綾瀬はとうとう射精してしまった。
春樹は、綾瀬の股間から顔をあげ飲み込めなかった綾瀬の精液を掌で拭った。
そして片手で綾瀬の足首を掴んで、濡れた指を、小さな穴に差し込んだ。
「イテッ。イテテッ。痛いっ
綾瀬が叫んだ。ジタバタと綾瀬の持ち上げられていない方の左足がもがく。
「てめえっ。まさかいきなり尻かよっ。言っておくけど、俺はバックバージンなんだぞ。冗談じゃねえよ。もっとちゃんと用意してから、やれ。
おら、さっさとチンコ出せよ。しゃぶってやるから」
「萎えること言わないでよ、その顔でさぁ」
春樹は、綾瀬の小さな穴を指で突つきながら、笑った。
「俺は綾瀬さんのココでイキたいの・・・」
「突っ込んだら、泣くぞ、俺はっ」
「いいよ、泣いて」
「春樹、てめえ〜。横暴亭主っ。暴君夫!ドメスティックバイオレンスだぞ、これは」
「なに大袈裟な。夫婦のセックスだよ、これは」
グッ、と春樹が綾瀬の両脚を持ち上げた。
「やめろって。こら」
綾瀬は、両手で股間をガードした。だが、その手も春樹の舌で舐められて、ビクッと引っ込んでしまった。
その瞬間を逃さずに、春樹は綾瀬の小さな穴に勃起したペニスをゆっくりと押し込んだ。
「うっ!あ、あ、あ」
なに、コレ。痛い、痛すぎる。
綾瀬の体がピクピクと仰け反って、押し入る春樹のペニスから逃れようとしたが、無駄だった。
「酒飲んでたせいかな。綾瀬さんの中、すげえ熱い。ああ、俺、もうイッちゃいそう。夢にまで見た挿入だもん」
「夢に・・・見てたんかい。!気色わりぃ。う、ああ。ふっ・・・」
ズリズリと春樹のペニスが綾瀬の中を侵食していく。
「や、あ」
ギュッ、と春樹は綾瀬の両手首を掴んで、力を込めて挿入してきた。
綾瀬はシーツに腕を縫い止めれてしまって、喘ぎを掌で塞ぎ切れなかった。
「痛い。痛い。痛い・・・っ」
予告通り、綾瀬は泣いた。
体の中心を裂かれるような痛みに綾瀬は、恥も外聞もなく、泣いた。
処女の辛さを身をもって知った綾瀬であった。
「ごめんね、ごめんね、綾瀬さん。よくなる筈だから。きっとすぐによくなる筈だから」
ものすごく申し訳なさそうに言葉で言ってる割には、春樹の行動は大胆極まりなかった。
ペニスをすっかり収めてしまうと、緩やかに、だが徐々に腰を使ってきた。
「んん。ん、ん」
かつて自分が散々女にしてきたことをやられている。そう思った瞬間、綾瀬はカッと体が火照った。
女がイク時の声と、色っぽさを幾度も見ている。知っている。
アレを俺もコイツの前ですんのかよ・・・とそう思うと、もうどうしようもなくたまらなく恥ずかしかった。
大股を開いて、尻に男のペニスを受け入れている自分を想像して、綾瀬はプラチナのホストである自分を心の中で捨てた。
「あ。あ。あ」
痛みと快感のスイッチが入れ替わる瞬間を綾瀬ははっきりと感じた。疼くような快感が、じわじわと股間から競りあがってくる。
綾瀬は春樹の腰に自分の足を巻きつけた。
そして、春樹の胸元に顔を埋めた。
これ以上真上から顔を見られるのが恥ずかしかったからだ。
「よ、よくなってきた?綾瀬さん??」
訊くなと思いながらも、綾瀬はうなづいた。
「よかった」
そう言って春樹は、腰を揺すった。
「ふっ。うっ。ああっ」
その瞬間に溜まっていた涙が綾瀬の瞳からまた零れ落ちた。
「俺はとっくに気持ちいいんだ。綾瀬さん。綾瀬さん。愛してる」
「はる、き。俺」
答えようとした瞬間、淫らな音が響いていただけの部屋に、バタンッという音が響いた。
そこには、双子と勇樹が眠そうな顔で立っていた。
「ほらぁ。だから言ったじゃないの、勇樹。Hしてるだけだって」
夏子が目を擦りながら言った。
「そうよ、そうよ。大騒ぎして」
冬子がうなづく。
「Hってなに?だって綾ちゃんが泣いている声がしたんだもん。また春樹兄と喧嘩してるんだよ」
春樹と綾瀬は硬直したまま抱き合っていた。
「Hっていうのは、仲直りのことよ、おバカさん」
冬子が勇樹の頭をポンッと叩いた。
「さ。また寝よ。心配ないって、勇樹。朝起きたら、綾ちゃんと春樹兄はもう仲良しさんの筈だから」
夏子に言われて、勇樹はキョトンとしながらも、
「春樹兄。綾ちゃんをあんまり泣かせちゃまた嫌われるよ」
と言っては、バタンとドアを閉じて去っていった。
「・・・」
二人は顔を見合わせた。
「つ、続けていいですか?」
春樹の顔が赤くなっていく。綾瀬の顔も真っ赤だ。
「ど、どうぞ」
一瞬危うく外れかけた春樹のペニスは、無事に綾瀬の中に戻り、春樹は長い時間をかけて、綾瀬の中で長い間の恋心を解き放った。


朝。
内田家の食卓には、朝ご飯が用意されている。
「おっはよー」
双子は涼し気な顔で食卓に着いた。
「おはよ」
勇樹はなんだか不安気だ。
「お、おはよう」
ぎこちなく、綾瀬は返事をした。
春樹はまだ台所でバタバタしていたが、綾瀬は席に着いている。
「ご、ごめんな。俺、戻ってきちゃったよ」
綾瀬が頭をかきながら、ボソリと言うと、
「無事仲直りしてくれたならば、いいのよ」
夏子が。
「綾ちゃんは内田家の食卓の花だもの。居てくれなきゃ」
冬子が。
「仲直りしたんだね。よかったぁ。綾ちゃんがいなかったから、淋しかったよぉ」
勇樹が。
それぞれに綾瀬に言葉をかけた。
綾瀬はテレながら「ありがとう」とペコッと頭を下げた。
綾瀬の膝の上には洋次がチョコンと座っている。
春樹が自分の茶碗を持って、台所から戻ってきて、席に着く。
「・・・」
一瞬、シーンとした内田家の食卓だったが。春樹はにっこり笑うと綾瀬の肩を抱き寄せた。
「俺。綾瀬さん、嫁にもらったから。これから、ずっと一緒だから。おまえら、文句ねえよな」
春樹の言葉に、双子と勇樹はすぐにうなづいて、
「ないっ」
と一斉に叫んだ。
理解ったのか、綾瀬の膝の上の洋次も機嫌よく「あーい」と言って、笑っていた。
「よっしゃ、食おうぜ」
春樹の言葉と共に、皆が同時に箸を持って、「いただきまぁす」と大合唱だった。
昨夜の情事のせいか食欲旺盛にご飯を平らげていく綾瀬を見て、春樹はホッとしたように笑った。
それに気づいて綾瀬は「やっぱりおまえの飯がサイコー」と照れたように言って、同じく笑った。
「ラブラブだわ」
「ラブラブね」
「いつのまに・・・。報われたな、春樹にーちゃん」
妹弟の呟きを知らずに、春樹と綾瀬はテレテレしながらも、互いを見つめあっていた。

今日から内田家は、恋する食卓なのである!

END

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