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恋する食卓

内田春樹(うちだはるき)
178cm。22歳。自営業。
奔放な遊び人時代だった大学生活が、両親の他界で一変。
酒屋のにーちゃんとなる。硬派なツラだが、性格は中々軟派。
ご近所のホスト、綾瀬に、邪な思いを抱いている。
妹の夏子と冬子(双子の7歳)
弟の勇樹(5歳)と洋次(1歳)の5人家族。


中村綾瀬(なかむらあやせ)
177cm。24歳。自称売れっ子ホスト。
気さくなヤローらしい。綺麗可愛い系の顔。
内田家の食卓に入り浸っている。
最近、とうとう春樹に襲われた・・・。

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綾瀬さんは、俺の家に通ってくる。
今日も朝飯を食ってから、家に帰っていった。
「綺麗可愛いっていうのかなー。あーん。私が今社会人だったら、綾ちゃんのお店に通うのにぃ」
双子の妹、夏子と冬子は、一字一句違えずに、ハモッて言った。
「男の俺が見ても、カッコイイんだよな。なんであんな人が、兄ちゃんと仲良しなんだろうか」
弟の勇樹が、溜め息をつきながら言う。
「悪かったな。生意気言ってんじゃねえの、てめーら」
俺は、末弟の1歳の洋次を背負いながら、せっせと弁当を作っていた。
「ほらよ。夏子、冬子、勇樹」
デン、デン、デンッと、弁当箱をテーブルに置いて、俺は小学生の妹、幼稚園の弟を学校へと送り出す。
「さてと」
洋次を保育園に送り、そして、俺は仕事に就く。
自営業。酒屋だ。
古くからこの町にあり、そして町中で酒屋が1件しかない俺の店は、それなりに繁盛している。
大学を中退して、俺は働き出した。
突然の事故で、おふくろとおやじは去年他界してしまったからだ。
俺達は、一気に大黒柱を失って、途方に暮れていたが、親類や近所の人達の支えで、なんとか生活を取り戻した。

綾瀬さんは。
近くのマンションのお得意さん。
前に、なんだか大量のビールを注文されて、配達に行った時に知り合った。
それ以来、店の前を通ると必ず声をかけてくれて、そんなこんなしてるうちに、夕食時や朝飯時を狙って、家に上がりこむようになった。
もう2年ぐらいのつきあいになる。

自称売れっ子のホストらしい。
確かに、顔自体は、むちゃ綺麗な人だが、なんだかとても気さくな人だった。
だから、普段はあまり、綾瀬さんが「ホスト」だということを意識しない。
が。出勤前の綾瀬さんを偶然見かけたりすると、「ああ」と納得したりする。
高そうなスーツをいともサラリと着こなして、背筋の伸びた歩き方。
そういう時は、ホストなんだな・・・。カッコイイと思ったりする。
だが、休日の綾瀬さんは、はっきり言ってヒドイ。
同じ人間か?と思うくらい、汚い格好。
頭ボサボサ、よれよれのティーシャツとジーンズに、おまけに下駄!
「なんで、こんな下町に住んでいるの?ホストって儲かるんだろ?もっと高級なところ住めるじゃんか」
と、かつて聞いたことがある。
すると、綾瀬さんはニヤッと笑い、「誰もこんなとこ、俺が住んでいるとは想像しねえだろ」と答えた。
確かにバリ下町のこんな小さな町に、金持ちで華やかな職業の人が住んでいるとは、考えにくい。
というか、おまえその顔で、こんな商店街とか歩いてるの恥かしくねえのか?と理不尽なことをコッソリと心の中で考えたことがある俺であった。
町は、顔で歩くんじゃねーけど・・・(笑)
「プライベートぐらい、自由に過ごしたいからね」
呑気に綾瀬さんはそう言った。

そして。今日も今日とて、出勤前。
高級スーツに身を包み、綾瀬さんは俺の家で飯を食っている。
今日のメニューは、きんぴらごぼうにサラダに鳥の唐揚げに味噌汁。
どこといって、変わり映えのしないメニューなのである。
「いつ食っても、おまえの飯は美味いな。おまえ、いい嫁さんになれるな」
ガガガガと、綾瀬さんは、飯をかっ食らう。
品の良さは、宇宙の彼方だ。
「あのさ。遅刻しそうならば、さっさと行けば?飯なんてどこでも食えるじゃん」
「ま、そーなんだけど。おまえの飯食ったら、他では食えないっつーの」
マジっ、といわれて、俺は照れた。
「なに言って、あ。洋次。ダメだって」
洋次は、ハイハイしながら、綾瀬さんの側へ行っては、その膝の上に這いあがった。
「いーよ、いーよ」
「ダメだって。洋次、涎すげえもん。綾瀬さんの高そうなスーツ、ひどいことになるぜ」
「げっ、そりゃマズイ」
と言ってる間に、なにが楽しいのか、洋次はキャッキャッと笑っては、だら〜っと大量の涎を、綾瀬さんのズボンにふりまいた。
「い、言わんこっちゃねー」
「こんくれーは大丈夫だろ。あ、勇樹。それは俺のだ」
「えー。綾瀬兄ちゃん、飛び入りのくせにーッ」
呑気なもので、綾瀬さんは、勇樹と最後の1つの唐揚げを箸で取り合っている。
「けど。うあっ」
こっちは気が気じゃない。さっさと洋次を、綾瀬さんの膝の上から取り上げようとした時だった。
「きゃーい♪」
本当になにが嬉しいのか、洋次は綾瀬の膝の上で暴れ捲くった挙句、小さな足でテーブルを蹴っ飛ばし、ドカカカッと、テーブルの上のものが、
全て綾瀬さん目掛けて横滑りしてきた。
「ぎゃ〜!」
俺は悲鳴をあげた。
「春樹・・・・。スーツ貸して」
さすがに綾瀬さんは、顔に縦線を浮かべて、そう呟いた。
2階の自分の部屋に、綾瀬さんを連れて来た。
「スーツってさ。俺、ろくに持ってないんだよな。
就職活動用にって、おふくろが何着か買ってくれたんだけど」
「いーよ、なんでも。あ、白着てなくて良かった」
勝手に人のベッドに腰掛けて、綾瀬さんは投げやりに言った。
「でも」
「店まで行ったら、なんとかなっから。とにかくなんでもいいから、ズボン貸せ」
「ああ」
綾瀬さんは、ポイッとズボンを脱ぎ捨てた。
「・・・うえ」
「なんだよ」
「黒ビキニ」
「あはん。似合う!?」
綾瀬は、クスッと笑って、下着を指差した。
「なんかやらしい。すげえ・・・」
「中身はもっとすげえよ。見る?」
「見たくねえ」
いや。本音は見たいが、ここでマジにそう言っても、困られるだけ。
いや待てよ。けど、この人ならば見せてくれるかもしんねーけど、でも、見てるだけじゃどーしよもねえし・・・と一瞬のうちに色々思い、俺はハッとした。
「どーした、春樹」
綾瀬さんは、キョトンとしている。
「んでもねえっ」
不覚にも顔を赤くしてしまったので、慌てて顔を反らし、ポイッと、オーソドックスな黒のズボンを綾瀬さんに向かって投げた。
「サンキュ。って、春樹。てめえの脚、生意気に長いから、俺、ヤバイかも」
と言いつつ綾瀬さんはズボンを身につけた。
「・・・」
「・・・」
どう考えても、俺の脚のが長かったらしい。
「だーっ。ふざけんな。これしかねえのかよ」
「ない。サイズはみな同じだし。オヤジはスーツなんて持ってなかったし」
「あー、もういいっ。俺、家戻る」
僅かに顔を赤くしつつ、綾瀬さんは言った。
「んじゃ、送ってくよ」
「いい。どうせ遅刻だし」
そう言って、携帯を取りだしながら、綾瀬さんは溜め息をついた。
「も、いっか。今日、休もう。病欠、病欠」
「ええ?」
「だって、俺、飯途中だもん」
「飯ってねぇ。綾瀬さん、最近多くない?こーゆーの」
「休み、休み。そうと決まれば、休み。飲もっ。春樹」
「え・・・」
けど。けど。
それは、俺は、嬉しいけどさ・・・。


いつからだろう。自分が、綾瀬さんに、人道外れた想いを抱くようになったのは。
そう遠くはない筈なのに、思い出せない。
飯を食うことを再開し、その後は、俺と綾瀬さんの飲み比べ。
綾瀬さんは、職業柄、むちゃ酒が強い。
だが、俺も生まれ付いたのが酒屋の息子。
酒は小さい頃から、水だ、水。負けることは、ほとんどなかった。
気づくと、もう真夜中だった。
チラッと綾瀬さんを見た。
さすがホスト。
右手に夏子。左手に冬子を侍らせて、綾瀬は畳みに大の字になってグーグーと眠ってしまっていた。
ちなみに、腹の上には、勇樹が乗っかっている。
酒は異様に強いのに、今日は割とあっけなく陥落してしまった。
綾瀬さんは疲れていたのかもしれないな・・・と、俺は思った。
なんだか物足りね〜と思いつつ、俺は立ちあがった。
妹と弟を両手に抱えて、2階の部屋に放り込んだ。
洋次は、俺の部屋の小さな専用ベッドで既にスカスカ眠っている。
あとは、綾瀬さんだけ・・・。
さすがに抱えて運んでいく訳にはいかないが、かと言って、あのままでは風邪をひかせてしまう。
つけっ放しのテレビの音にもメゲズに、綾瀬はグーグー眠っている。
「綾瀬さん。起きてくださいよ。綾瀬さん」
その時。携帯が鳴った。
その音で起きるかと思いきや、全然起きる気配がない。
それにしてもさっきから、やかましくテレビや携帯が鳴っているっつーに、ことごとく無視している神経もどうかと思うが。
「電話鳴っているよ、綾瀬さん」
「うるせ・・・」
「ねえ。起きてよ。家に戻りなさいって。ここは俺の家なんだから」
「うーん・・・」
「綾瀬さん。起きて。ったくもぉ。それとも俺と一緒に寝る?」
なんて。
相手が意識朦朧としているのをいいことに、大胆なこと言ったりして。
と、一人で照れていると、ニョキッと腕が伸びてきた。
「んあっ!」
「んー。いいぜ。一緒に寝よう。アキラ」
グイーッと引っ張られて、俺はドサッと綾瀬さんの胸の上に覆い被さってしまう。
「アキラ?俺、春樹っすけど」
「一緒に寝よ。アキラ。アキ・・・」
と言って、ガバッと綾瀬さんは起きあがった。
目をパチクリして、綾瀬さんは俺を見ていた。
バシンッ★
いきなり、殴られて、俺は目を見開いてしまう。
「なにしやがんだっ」
綾瀬さんが思いっきり、叫んだ。
「それはコッチの台詞じゃねえかよ!」
なに寝惚けてんだよ、こいつ・・と俺は思った。
「まぎらわしいこと言ってんじゃねえよッ」
「は?」
「ガキ!」
「ええ?な、なんだよ、それ。なんで俺、いきなり怒られなきゃなんねーんだよ。しかも殴られて」
「うっせー」
どうしたことか、綾瀬さんは顔が真っ赤である。
「ひでーよ。いてて」
俺は殴られた頬を擦りつつ、呆然と綾瀬さんを見た。
「ごめん」
「へ」
「ごめんな」
突如豹変して、綾瀬さんは、殴った俺の頬に手を伸ばして、俺の顔を覗きこんだ。
むちゃくちゃ心配そうな顔である。
「悪かった。俺・・・」
初めて、こんな間近で綾瀬さんの顔を見て、俺は怒るどころか、異常に興奮してしまった。
なんて。なんって、綺麗な顔・・・。
「わり。俺、帰る」
バッと綾瀬は、顔を反らした。
「大丈夫っすか?」
それは自分だよと思いつつ、一応言ってみた。
「うん」
フラッと立ちあがって、綾瀬さんはよろめいた。
「っと」
パフッと俺は綾瀬さんを受けとめた。
「ちーっ。生意気。2年前までは、俺のが背も高かったのにさ。今だにスクスク伸びてやがって。なんか、頭来る。脚だって、こーんな長くなりやがってさ」
ブランブランと、綾瀬さんは左脚を振って見せた。
余った裾が、悲しい感じである。
「んなこと言ってる場合じゃねーでしょ。フラフラじゃん」
「うるせーよ」
綾瀬さんは、クニュッと俺に抱きかかえられたまま、プラプラと脚を振り続けている。
「なあ、春樹。おまえの家って、いいな。なんつーか、アットホオムでさ。俺ね。いっつもいいなーって思ってたんだ。店通りかかる度。
おまえん家の食卓って、店から丸見えじゃん。そりゃ。オヤジさんとおふくろさんは残念だったけどさ・・・。大家族でさ。みんな仲良し
さんでさー。今時、こんな丸卓で家族揃って飯食ってるのって珍しーよな。サザ○さん家じゃあるめーし」
プププと、綾瀬さんは、自分で自分の言葉にうけている。
「あのね。ここは下町だから、そんなの珍しくねえよ!?第一仲良しっつったって、妹や弟まだガキだから、一緒に食わなきゃ」
「そーなんだけど。そーなんだけど。でもなー。なんか羨ましくて」
「んな。いつも便乗してるんだから、いーじゃん。アンタも一緒だよ。今じゃ家族同然」
「ホント?」
「そうだろ。店に来た人に言われたもん。なんか家族みたいだねーって」
「あはは。そーか。なんか、すっげ、ウレシー」
クシャッと無邪気に、綾瀬さんは笑った。
腕の中の、綾瀬さんの重み。そして、罪な笑顔。
なんというか。いきなり、俺は、その気になってしまった。
「綾瀬さん」
「ん?」
ガバッと俺は綾瀬さんを抱き締めて、そのまま、キスしてしまった。
「春樹っ、は」
吃驚したようだが、そこはそれ。
職業柄だかなんだか知らないが、舌を入れたらしっかり返されてしまった。
唇が離れても、綾瀬さんは相変わらず、俺に寄りかかっている。
色の抜けた綾瀬さんの髪に、俺は思わず手を伸ばしては触れてしまった。
柔らか・・・。などと思っていたら、綾瀬さんがこちらを見上げている。
「春樹。おまえさー。顔とかスタイルとかいいんだからさ。適当に遊べよ。なにが悲しくて、男にキスとかしてんの〜?」
「この状況で、どう遊べ?と。奔放な大学時代とは違い、今の俺の人生、一変してるんすけど」
「そーだよな。おまえ、最近までは、女とっかえひっかえ、遊んでいたのにな〜」
「綾瀬さんほどじゃないっすけど」
「俺は仕事なの」
ニャハハと綾瀬さんは笑った。
「でも、おまえ。中々キス上手いな」
「そうですか?」
「キスも上手いし、顔もいいし、体もいいし、なにより料理が上手い。おまえは出来た男だよ。女だったら嫁にもらってやってもいいけどさ。
けど、おまえは男だから、ざーんねんッ」
「俺は綾瀬さんが男でも一向に構いませんけど」
「バーカ。俺が構うんだよ。って、マジにする話でもねえな」
ヨレッとしつつ、綾瀬さんは俺の腕から、体を離そうとした。
「離せよ。春樹」
「離したら、綾瀬さん、倒れるよ」
「大丈夫だって。こんくらいしょっちゅうなんだから」
といってる側から、ドサアッと綾瀬さんは畳みに倒れた。
「もう」
と言いつつ、俺は綾瀬さんに跨り、再びキスしてしまった。
「っ。春樹!」
ブンッと拳が飛んでくる。
ヒョイッと避けて、俺は何度も綾瀬さんにキスをした。
「ん〜」
さすがに綾瀬さんは、バタバタと暴れ出す。
やべえ。今まで押さえてきたのに。
頭に火が点いてしまった。
ああ、どうしよう、俺・・・!

続く

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私もどうしようかと思っている・・・(汗)

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