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「ふん。わかったよ。なら、後で電話かけてこいよ。必ず今日中にかけろよ。デレデレしてんじゃねえっつーの。じゃあな」
不機嫌な声で言って、玲は電話を切った。
「どったの」
繭と遊びながら、電話を聞いていた光が、玲の不機嫌な声の理由を聞き出す。
「まったく、あのボケ潤。今から秋也クンと市内デートだからってサ。あっきらかに邪魔すんじゃねー的な声で対応しやがって。
むかつくから、必ず電話しろって言ってやった。お泊りなんかで浮かれてやがったら承知しねー」
面白くないっと玲は腕を組んで、むくれている。
「玲兄。それって完全に僻みだよね」
「るさい。俺だっておまえとデートしたいのに」
そう言って玲は、光を恨みがましい目で見た。
「いや、あの、そりゃ俺だって・・・」
と、光が言いかけたものの、光のすぐ傍らでお人形を抱いてままごとをしていた繭が、振り返った。
「じゃあ、まゆもいっしょにデートするわ」
シャーッと玲を威嚇するかのように繭は、玲を睨んでは、そう言った。
「じょーだんポイよ。繭ちゃん一緒じゃデートにならんっつーの。んじゃ、俺、出かけてくる」
と、踵を返した。
「だあっ。玲兄、どこ行くの。まさか浮気じゃないだろうな」
光は追おうとしたものの、繭がキュッとシャツを引っ張ったので、思いとどまった。
「このまんまやらしてくんねーと、浮気の一つもされてもおかしくないんじゃないの」
階段を降りようとして立ち止まり、玲はチラリと光を見た。
「だって。そんなん、俺のせいにすんなよっ」
ちょっとベソ気味になった光を見て、玲は肩を竦めた。
「ちっとは、俺のことも構ってくださーい。じゃあな」
「マジ、どこ行くのっ」
「図書館だよ、バカ。浮気なんかするわきゃねーだろ」
そう言って笑い、玲はトントンと階段を降りて行った。
「・・・」
そんな玲を見送りながら、このまんま放っておくと、本当に浮気しそうで怖い・・・と光は本気で思った。
玲にその気がなくても、あやつはモテる男なのだ・・・と光は不安になった。
「ひかりにぃ。だいじょうぶ?」
くるくるとした茶色の瞳で繭は光を見上げている。
「う、うん・・・」
子供の純粋な瞳で見つめられ、思わずどもってしまった光だった。


夜。
「まったく。毎回毎回、拷問かよ」
部屋を覗き込み、またカーペットの上で絵本を開いたまま眠ってしまっている繭と光を見下ろし、玲は溜息をついた。
小さな繭のベッドに自分が寝ると壊れてしまいそうで怖い、と光は寝る前の絵本タイムをベッドでしない。
その結果がこれで、絵本を読んでいるうちに多分先に光が寝落ちし、後を追うように繭が眠る。
そして、カーペットの上で眠る兄妹の図が出来上がる。
「添い寝しながら読んでやれっつーの。かっるいテメーが寝たぐらいでベッドが壊れるかよ」
とぶつぶつ言いながら、玲はまずカーペットの上の繭をベッドに戻す。
「おやすみ、まゆたん」
頭を撫でて、毛布をかけてやる。
「さてと。問題はこっち」
玲は危なげなく、光を抱き上げた。
光は眠りが深く、よほどのことがないと、すぐに起きたりしない。
今も腕の中で、くぅくぅと可愛く眠っている。
「・・・」
いつもは理性的に光をちゃんと自分の部屋に戻すけれど、今日の玲はそういう気分じゃなかった。
だいたい、あの潤だってイチャイチャしとるし、もうそろそろいいんじゃないかな、と思う。
「光、許せ」
こうなったらもう、寝ている間にどうにも出来ないとこまで持っていけば、さすがの光も諦めて状況を受け入れてくれるに違いない。
玲は、自分にはない真面目な考え方をする光が好きではあるが、それにしてもその真面目さが度を越す時もあるのだ。
光は、繭がいるから、この家でヤるのはやだとぬかしていた。
幾ら一つ屋根の下に、年端のいかない妹がいるといえど、ようはその妹に見つからないようにそればいいのだ。
だいたい、第二子を身籠った夫婦なんて、皆そんな感じの筈。
俺だって、知らない間にオヤジとおふくろがそーゆーことしていたから、潤と繭ちゃんが出来たんだっつーの。
要はバレなきゃいいんでしょ、と玲は心の中で呟きながら、光の体を自分のベッドに降ろした。
「うーん。コイツのベッドの方が質がよかったよな、確か」
ま、いっか、と玲は上着を脱ぎ捨て、ベッドの上の光に覆いかぶさった。
「ん・・・」
まだなんにもしてないのに、光がちょっと色っぽい声を出して、寝返りを打とうとした。
ここで起きてしまわれるとちょっと早いかなぁとは思うが、どのみち乗っかってるから、もう光には抵抗出来まい、と玲は光をギュッと抱きしめた。
「んんっ!?」
パチッと光の瞳が開いた。
「な、な!?ええっ。なにしてんの、玲兄ッ」
「見りゃわかんだろ。おまえに乗っかってンの」
確かに。どう見たってそういう状況だった。
「やだ、おりてよっ」
ググッと光が身を捩った。
「やだねーだ。もう我慢の限界。おとなしく抱かれろよ」
「やめっ」
抵抗しようとしてきた光の唇を玲は自分の唇で塞いだ。
「ッ」
口腔内を舌でまさぐり、唇が離れる時は、唾液が伝うほどの激しいキスを仕掛けた玲は、体の下でぐったりしてしまった光を見下ろし、ニヤリと笑った。
「この程度でグッタリしてんなよ」
「しっ、仕方ないだろ。こんなにやらしいキスされりゃ」
カアッと光の顔が赤くなった。
「そりゃたりめーだろ。やらしいことする前の前戯なんだから」
「だから、この家ではヤダって、あっ」
玲は手を光のシャツの中に潜り込ませて、まだおとなしい乳首を指で引っ掻いた。
「いっ」
ビクと体を震わせた光の隙をつき、玲は光のシャツを剥ぎ取った。
「玲兄、手慣れすぎ」
「全てはおまえとこの時を迎える為の練習の賜物さ」
「それって、単なる言い訳だよね、遊び人!」
「うんうん。なんとでも言って。嫉妬してきゃんきゃん喚くおまえは可愛いよ、ほんと。メロメロです」
「バカァッ、んっく」
玲の舌が、光の乳首を舐めあげた。
「はぅ」
舐められる度に、ピクピクと光の体が震える。
段々とおとなしかった光の乳首が、ぷっくりと勃ちあがっていく。
この体を感じやすく開発したのが光の過去の男達かと思うと、光同様、玲だってキれそうになる。
「おまえだって、ココ舐められただけで、ヒクヒクしちまって。随分感じやすい体だな。誰がこんな風にしたの?俺は今日、初めておまえに触れるのにな」
そう言って玲は、光の乳首を指で弾いた。
「あ、うっ」
切なげな声を、光が零す。
「玲兄の・・・意地悪ッ」
ぷくっ、と光の瞳に涙が浮かんだ。
「ははは。悪い、悪い。泣くなって。泣くのは、気持ちよくなってから、泣けよ」
「知るかっ」
プイッ、と涙を含んだままの瞳を、光は玲から逸らした。
「玲兄の手だから・・・感じちゃうんだもん。仕方ねえだろ」
ボソリと光が、股間直撃な一言をもらす。
「・・・どんな攻撃だよ、光」
つっ、と玲は眉を寄せた。
「いきなり突っ込みたくなる台詞を素で言うのはよせ」
ジッパーをおろし、玲は光の足からジーンズを抜き取った。
「待って、待ってよ、玲兄」
グイグイと光は、玲の体を押し返していた。
「ここまで来て、まだストップかけるたぁ、てめえは鬼か」
玲はすっかり自分の着衣を捨て、全裸で光にのしかかっていた。
「ねえ、聞いて。繭ちゃん、あの件以来、必ず夜に目を覚ますんだよ。だから、嫌なの。こんなところ見られたら、どーすんの。繭ちゃんがいないところにして。お願い」
「おまえの願いならば大抵のことは聞いてやりてーが、今回はダメだ。挿れさせろ」
グイッ、と玲は光の膝に手をかけ、カパッとその足を開いた。
「ひっ。やめて、やだ」
光が掌で顔を覆った。
「光。おまえは処女か!?」
もぞもぞと足を閉じようとする光を見下ろし、玲は呆れた口調で言った。
「だって、だって・・・。今までの男と玲兄は違うっ」
特別扱いされたのは嬉しいが、それでも、「今までの男」発言が、玲にはムッとした。
完全に自分が棚に上がってるのはわかっているが、それでも、むかついた。
「いい加減、全部俺のモノになりやがれ!」
嫌がる光の足を更に開き、露わになった尻の奥へと玲は舌を差し出した。
「わかったから、わかった。玲兄のモノになる。でも、それはイヤ。俺の部屋にローションあるから、そっち使ってぇ」
完全に涙目で、光は玲に懇願した。
「そこ、弱いの・・・。いや」
ふるふると光は首を振った。
「弱いトコだから、攻めるんだろ。んなの常識だろうが」
玲は乱れた前髪をかきあげ、イヤイヤ言う光を見つめた。
「これ以上は無理。こんな落ち着かない状況で、玲兄に、なっ、舐められておかしくなるのヤダ。そゆのは、もっと落ち着く、別の場所がいいんだよ」
ぐすんぐすんとごねる光に玲は溜息をついた。
「なに。この家でやるのやだっていうの、そーゆー理由もあんの」
確かに落ち着かないっていえば、落ち着かない。
繭がいつ起きてくるか、結構ヒヤヒヤしていたりする玲だった。
「あんの」
「おまえ。割引券使いたいだけじゃねえの?」
クスッと玲は笑った。
「違うよっ」
慌てて否定する光が可愛くて、玲は尚もクスクスと笑った。
「だから、玲兄」
光のうるうるとした瞳でお願いされては、さすがの玲もこれ以上強気には出れなかった。
惚れた弱みという部分だ。
「わかったよ。欲張りすぎはよくねえのかもしれないしな。おまえのことは、じっくり全部手に入れるっていうのも悪くはない」
美しい玲の顔が、どこか凶暴に見えて、光はゾッとした。
「ちなみにな。俺の部屋にもローションはあるからな」
玲はベッドサイドにある棚から、ローションを取り出した。
とろ〜っと、ローションの中身を光の股間に流して、玲はニヤリと笑った。
「んくっ」
覚えのある冷たさに、ひくひくと光の体が震える。
光のペニスに絡まり、それは、尻の奥の窄まりにも、流れていった。
「うっ」
声を抑える光の反応を、玲は楽しそうに見下ろしている。
「やらしいな。穴に流れただけで、感じるのかよ」
「どっちがやらしいんだよっ。変な言い方すんなっ」
即座に光が、真っ赤な顔で言い返してきた。
「エロい子好きだよ、俺。恥かしがるな、光」
玲は光の髪にチュッと音を立ててキスしながら、再び光の膝を割り、その奥目指して指を進めた。
「!」
クチュッという濡れた音と共に、玲の指が、光の体内に侵入した。
「あっ」
ぎゅっとシーツを握りしめ、光はその感覚に耐えた。
指が増えていき、その揃えた指を中で広げられたりして、体の中をグリグリ弄繰り回され、光はあえなく声を出した。
「や、う。あ、あ」
ぐしゅぐしゅと湿った音が響き、それが自分のソコから漏れる音で、その音を玲に聞かれていると思うと、もうどうしよもなく恥ずかしくなって光は、泣いた。
「玲兄っ・・・」
玲の答えはない。
ひたすら、ソコを指で緩急つけて抉られ、光はたまらなくなって目をぎゅっと閉じた。
「イイとこ、教えてくれるの?」
耳元に囁かれ、その声に、光は閉じていた目を開いた。
「な・・んで」
「だって。おまえ、腰動いてるぞ」
そういう玲の声も普段とは違って、欲望に濡れたようなかすれた声になっていた。
「!」
グッ、と更に足を開かれて、奥を突かれて、光はたまらず喉を仰け反らせた。
「や、あ、んん」
涙が目から溢れ、それが頬に伝わると同時に、光はいつのまにか勃起していた自分のペニスが爆発していたことに気づいた。
「ちっ。わかっていたけど、おまえってケツ弄られるだけで、イケるんだな」
そう呟き、玲は光をギュッと抱きしめた。
「くそっ。おまえが他の男を知る前に、とっとヤッときゃよかった。ずっと両想いだったのに」
「い、痛いよ、玲兄」
放出のショックと快感と、もういろんなことがごちゃまぜになっている光に、玲のこの強い抱擁は刺激的すぎた。
ぎゅうぎゅうと玲は光を抱きしめていた。
「玲兄。好きだ」
最中に、いじけモードになってしまった玲の唇に、光は自ら口づけた。
「俺がどんなにエッチでも呆れないで。確かに他のヤツと寝てたけど、心はずっと玲兄一筋だったんだから。大好きだよ、玲兄」
唇が離れ、光は玲を覗き込んで、必死に言った。
珍しく、いつもクールな玲の顔が、うっすらと赤らんだ。
「ちきしょう。こんなスケベな体で、可愛いこと言ってんじゃねえよっ」
ドサッと再び組み敷かれ、光は玲を見上げた。
「言ってみろよ」
「えっ?」
「玲兄挿れてって。その可愛い声で言えよ、光」
かあっと光の顔が赤くなった。
「おまえ、それ天然か?ほんっと、やってらんねえんだけど。どんなテクだよ」
赤くなった光の頬に指で触れ、玲はますますむくれてしまった。
「言えない・・・」
ふるふると光は首を振った。
「他の誰にも言えるけど、玲兄には言えない。だって、俺、おかしくなっちやうもん」
「だあっ。ったく・・・。なんだよ、おまえ」
そう言って、玲はガッと光の右の足首を掴んで肩に担ぎ上げた。
「こんの、小悪魔ッ」
玲は、ひくつく光の最奥に、グッと体を進めた。
「あっ」
ズプッと、ぬめった嫌らしい音を立てて、光の尻の奥に玲のペニスが侵入した。
「玲、兄っ」
閉じた光の目から涙がぽろぽろ零れた。
「大好きだ、光。こっから先は、おまえは俺だけのものだ」
「んっ、あ、あ、あ。う・・・ん。玲兄、好き・・・」
光の腕が玲の背に、そろそろと回った。
玲の舌が光の乳首を転がした。
「うっ」
その行為のせいで、玲を挟み込んでいる光のソコが、きゅるきゅると引き締まる。
「は・・・」
玲がくぐもった声をもらす。
「きっもちいいな、おまえの中」
耳元に囁かれて、光はボウッとなった。自分の体が玲を気持ち良くしているのが嬉しかった。
「ん、ん」
がつんがつんと玲の腰がぶつかってきて、挿入の角度が深くなると同時に、光の声が激しくなっていく。
「やだ、玲兄。も、声・・・我慢でき、な」
あ、ん、と光が身を捩った。
「ごめん、止まらねぇ」
ギシギシとベッドがひどく軋んだ。
「ひっ、う、ん。繭ちゃん、起きちゃう・・・」
光は玲の背にしがみつくように回す腕に力を込めた。
玲の腹でこすられているペニスが熱い。また出ちゃうかも・・・と光が思った瞬間だった。
電話が鳴った。
それと同時に、すぐに「ひかりにぃ、どこ」と、繭の声がした。
「!」
玲の部屋のドアのところで、ぬいぐるみと毛布をひきずった繭が立っていた。
電話の音で起きてしまったようだった。
「まっ、繭。きっと、じゅんにーからだ。早く電話に出ろ」
玲が、光を組み敷いたまま、ベッドの上から繭に向かって叫んだ。
すると繭は、寝ぼけてゴシゴシと擦っていた目を、ぱっちりと開き、電話のある部屋に「じゅんにー」と叫んで走って行った。
それを見送ってから、玲は光の腰を持ち上げた。
「光、さっさと俺をイかせろ」
「えっ。やあ、ああ」
騎乗位になって、ぐぷん、と光の中に、玲が更に深く突き刺さった。
「ああ」
悩ましげな声が光から、もれる。
「あと少しなんだ」
「な、玲兄」
玲はガバッと光にキスをしてきた。
深いキスだった。光は、うっとりとそのキスに身を委ねそうになり、ハッとした。
イかせろって・・・。
玲は再び、腰を進めてきた。
光は、その動きに合わせて、腰を自ら動かした。
恥かしい・・・。
さすがに、光は恥ずかしかったが、そうも言っていられない。
「玲兄」
「光、エロい・・・」
「だって、玲兄がしろって。あっ、あ、いやっ」
玲のペニスがイイところを狙ってくる。
「ずれたら、おまえが直せ。恥ずかしがるな。エロい子好きって言ったろ」
「や、ああ」
ぬちゅぬちゅと濡れた音が一層激しくなった。
「は、ああ、あ、あ」
ずん、ずんと突かれて、光は頭を振った。
「いや、いやだ。ああ」
「もっと腰浮かせ、光」
「んんっ、ん」
おずおずと、だが光は、玲の腰に自らの足を絡めた。
結合が究極に深くなって、光はたまらずに玲に縋り付いた。
「あ、んん。やだ、出るっ」
光が二度目の放出を迎え、そのせいで、激しく光の中が収縮し玲を締め上げた。
「こっちも出る」
くっと玲が呻いた。
「ひっ、う。あ、あ、玲兄。中、やだ。繭ちゃん、来たらどうす」
「抜いてる暇ねえ」
「う、んん。やだ、やだ、ああ」
びしゃっ、と玲の精液が光の中で爆発した。
「あ、あ、あ」
ぴくぴくと光の体が跳ねた。
余韻に浸る暇もなく、二人はバッと全裸の体を隠す為に、散らばった服に手を伸ばした。
「うん。うん。そうなの。今?うん。れいにーのおへやで、ひかりにーがいっしょにねてる。え?ふくをきてるか?ううん。きてないわ。
だからこれから、まゆもパジャマをぬいで、いっしょにねるわ」
子機でしゃべりながら、繭が玲の部屋に戻ってきた。
わははは、と盛大な潤の笑い声が受話器から聞こえてきた。
「ま、繭ちゃん。このベッド、すっごく寝心地が悪いから、ひかりにーのベッドで寝よう」
光がとりあえずジーンズだけを身につけて、慌てて玲のベッドから飛び出したが、当然のごとく、まだ快感を引き摺っている体だったので、コロンと転んでしまった。
「ひかりにー、だいじょうぶ?」
繭は、玲に受話器を押し付けて、光の傍に駆け寄った。
「潤。てめえ」
玲は受話器に向かって怒鳴った。
「なにおめでとうとか呑気に言ってんだよ!てめえの電話で、繭が起きただろ。こんな時間に電話してくんな。なんの用だ。あ、そか。俺が電話したんだっけ、昼間に。
そっか。あ、そうだよな。俺のせいか」
玲は、床から見上げている光の怒りの視線を受けつつ、頭を掻いた。
とりあえず潤に、父が帰ってくる日を告げ、その頃にはこちらに戻ってくるようにと伝言し電話を切った。
「ご、ごめんなー。明日でいいって潤に言っとけばよかった。急ぐ用でもなかったからな」
ハハハと玲は笑いつつ、繭に子機を手渡し、かろうじて身につけていたジーンズをきちんとし、床に蹲ったままの光をひょいっと抱き上げた。
「ちょっ、玲兄」
繭の目を気にして、光が動揺の声を上げた。
「おひめさまだっこー」
繭は、玲と光を見上げて、呑気に言った。
「そう。お部屋まで運んであげましょう。頑張ってくれたお姫様へのご褒美です」
「バカ言うな!」
今日何度目かよってぐらいにまた顔を赤くして、光がジタバタと玲の腕の中で暴れた。
「なにいってんの。ひかりにーはおうじさまなのよ。まゆのおうじさまなのー」
2人の後を毛布を引き摺りながら繭が追いかける。
「そっか。繭には光兄は王子様なんだ。でもな。玲兄には、光はお姫様なの。誰よりも可愛いお姫様なの」
「たしかにひかりにーはかわいいけど、おうじさまよ」
「お姫様だよ」
「おうじさまよ」
「お姫様だってば」
「・・・2人とも、やめてくんない」
玲の腕の中で、光は恥かしさに身を縮こまらせて、呟いた。
RRR・・・。
繭の手にあった子機が鳴った。
「はい。るいにー?なあに。え、なに。うん、わかった」
繭は、すぐに電話を切った。
「あのねー。るいにーがね。れいにーとひかりにーに、やっとだな。おめでとーって言ってくれって。なんのこと?」
きょとんとして、繭は泪からの伝言を2人に伝えた。
「潤め。もうチクったか」
玲がチッと舌打ちした。
「やばくね?この分だとあと少ししたら、国際電話が入るかも」
2人は繭の手にある子機を見て、顔を見合わせ、そして、笑った。



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