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小川怜(オガワレイ)・・・29歳独身。見かけクールビューティ。ノン気。職業・商社営業マン

遠藤潤(エンドウジュン)・・・29歳独身。硬派ルックス。両刀。職業・高校教師

二階堂和彦(ニカイドウカズヒコ)・・・17歳。クールビューティー系子猫ちゃん。潤の教え子。

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好きだと告白されたのは、17歳の時だった。セックスしたのは、18歳の時だった。そして19歳で、友達に戻った。
あれから10年。相変わらず俺達は「友達」をやっていた。


「潤ちゃーん。泊めて、泊めて〜」
真夜中。恒例のごとく、酔っ払った俺は、潤のマンションの部屋のドアをガンガンと叩いた。
いつもなら、近所迷惑だ!と飛び出してくる潤だったのに、今日は違った。
「いねえのかよ〜。潤!」
すると、ガチャッとノブが回り、ドアが開いた。
「遅いって〜。潤〜」
俺はいつもの通りに、フラァッと潤に向かって倒れて、それから「?」と思った。
いつもなら、ガシリと受けとめてくれる筈の潤なのに、なぜだか俺は、床に転がっていた。

ガンッと顔を床に打ちつけて、一気に痛みで酔いが覚めた。
「なんで・・・?」
のろのろと顔を上げて、俺はドアの側に立つ潤を見上げた。
しかし、そこに立っていたのは潤じゃなかった。
「酔っ払い」
冷やかに俺に向かって言ったのは、学生服を着た少年だった。
「おまえ誰・・・?」
「誰だって関係ねーだろ」
そう言うと少年は、開けっぱなしになっていたドアをスルリとやり過ごし、飛び出して行った。
「なんなんだよ。潤・・・」
潤はいねーのか?と思って、俺はヨロヨロと部屋にあがりこんだ。
開けっぱなしになっていた寝室のドアに気づき、俺は寝室を覗きこんだ。
全裸の潤が、ボーッとベッドに寝そべっていた。
「潤?」
声をかけると、潤はハッとしたように、寝室のドアの近くに立つ俺を見た。
「なにやってんだよ、おまえ」
「まじーよ」
「へっ?」
「ヤッちまった。俺、教師失格」
「・・・なんだと?」
「教え子と寝ちまった」
古典的な驚き方の表現とは思うけど、その潤の言葉を聞いた時の俺は、頭の上にものすげーでっかい岩が落ちてきたようなショックを受けた。
で、この堅物は、そのショックに放心していたと言うわけか。
「やっちまったもんは仕方ねえだろ」
俺は、そう言うしかなかった。
「みっともねえから、さっさとシャワー浴びてスッキリしてこい」
なんつーか。この騒動で、俺は気持ち良かった酔いがすっかり冷めてしまった。
ま、さっき床に顔打ちつけた時点でとっくに冷めていたっていえば、それまでだけど。
「で…?これからどーすんだよ」
「どーするこーするも・・・。知るか」
シャワーを浴びてきた潤は、ドカッとソファに座って投げやりに言った。
「あのガキが出るとこ出たら、おまえ教師生命終わりだぜ」
「まあ、そうだろうな」
言いながら潤は煙草に火を点けた。
「そうだろうな・・・って。少しは慌てろよ」
「仕方ねーだろ。ヤッちまったもんは」
「らしくねーな。冷静なてめえが。ま、酒入ってたみたいだけど」
リビングに転がった空き缶の数を数えて、俺は溜め息をついた。
生徒と酒盛りでもしてたんかい?このバカは・・・と思った。
俺がそう言うと、潤はギロリと俺を睨んだ。
「な、なんだよ」
「一体誰のせいだ」
「誰のせいだよ」
「おまえだろうが!おまえ!」
「なんで、俺?」
「なんかかんもてめーが悪い」
「ふざけんな。いきなりなにを言い出すんだっ」
なんで、俺が悪いんだよ。コイツは昔から、突然訳のわからんことを言い出すんだ。
とくに酒が入ると、わからんことを捲くしたてる。
「なんで、俺が悪いんだよ」
「アイツ。さっきの、二階堂っつーんだけど。12年前のおまえにソックリなんだ。悪ぶってるけど、どこか繊細で。
俺、どうも放っておけなくって。危なっかしくて見てらんなくて・・・。色々構ってたら、こうなっちまった」
俺は、勝手に冷蔵庫から取り出して飲んでいたビールを、吹き出した。
「だから、おまえが悪い」
キッパリと潤は言った。
あんまりキッパリ言い切られて、ムカッとする。
俺に似てるからって・・・。なんだよ、それ。俺は頼んじゃいねーよ。
「責任転化すな。バーカ。要はてめーの根性が足りねーだけだったんだろうが。それでなんで俺の責任よ?」
頭来んなァ。俺は潤から煙草を奪って、火を点けた。
「だいたいよォ。なんつーか、おまえのそういう勝手な妄想で、掘られちまった、にかいどーっつーガキだって可哀相だろうが。
シンクロすんね。12年前の自分と」
その言葉にピクッと潤が反応する。
「あん時、俺だってそれは、それは動揺したもんだ。いきなり、好きだって言われて、暴走こかれて、ある日突然犯されて。
10代の汚点だったぜ、あれは」
潤の顔色が青くなっていく。それを見て、俺はヤバイと思いながらも、止まらない。
「ヤる方はいいんだよ。ヤる方はな。ヤられる身になってみろよ。合意の上ならばいーけどサ。俺の場合は、
友達だと思っていたてめーに、裏切られた気分。きっとあのガキは、信頼していた教師に裏切られた気分。
考えてみれば、俺的には、心配してやりたいのはてめーの将来じゃなくってあのガキの心情だっつーの」
一気に捲くしたて、俺は煙草の煙を吸い込んだ。
「ま。あのガキに、12年前の俺のようにゆとりがあるといいけどな。同情っつーの?そんな感じでサ」
ギャハハと笑いながら、俺は言った。こんなこと、マジに言えるか。
「そうか。10年経ってみて初めて聞いたぜ。おまえのあん時の気分」
潤はうつむきながら言った。
「そりゃ。いいことしたって思っていねーぜ。俺なりに罪悪感で一杯だった。けど。
おまえの煮え切らない態度は、俺的にはある意味合意だったんだよ。なのに、同情だったって言う訳か」
潤は立ち上がると、テーブルの上に置いてあった包みを手にしては、俺に投げつけた。
「いてっ。なんだよ」
「それ持っていますぐ出てけ」
「なんだよ、これ」
「うるさい!出てけ」
俺は潤の怒鳴り声にギョッとした。潤は滅多に本気では怒らない男なのだ。
「マジになんなよ、潤」
「うるさい。人の気持ちも知らねーで」
「なんのことだよ」
潤はそれには答えずに、寝室に向かって歩き出していた。
俺は慌てて後を追いかけた。
「潤。おまえの気持ちって。なんなんだよ!ハッキリ言えよ」
寝室前で俺は潤の腕を掴んだ。
すると、潤はニッコリ笑って振り返った。
「心配すんな、怜。俺達、今度こそ同意なんだよ」
「え?」
「あのガキな。俺が好きなんだってサ。迫られたのは実は俺の方なんだ。でもな。
てめーの態度で今度こそ、俺は間違えないことに決めたよ。同情なんかで寝てくれるヤツより、
好きって言ってくれるヤツと寝る方が気持ちいいぜ」
「!」
俺は、潤を見上げた。
「10年経って。おまえにいきなり別れを告げられた19から、10年経っても気持ちが変わらないでいられたら、もう一度おまえに
告白しようと思っていた。だって、おまえは言ったよな。こんな若き日の過ちみてーな関係止めようぜって」
言われて、俺は思い出す。確かに言った。
20歳という大人になる前に、綺麗に精算しようぜって。
あれは確か俺の誕生日の日だった。
区切りをつけたくって・・・。
「10年経ったよ。あれから。数えてみろ。でも、俺のおまえを好きだという気持ちは変わらなかった。だから・・・。
でも、おまえは違ったんだな。最初から、違ったんだな。俺って、すげー少女趣味だぜ。笑っちまう」
潤の顔が強張った。
「手を離せ。おまえに触れられると、欲情すんだよ。10年経ってもこの結果だ。手を離せよ!」
その語気の荒さに、俺は思わず潤から、手を離した。
「帰れよ。もう二度とここに来るな。俺のことは心配ねーよ。あのガキとうまくやるから。おまえはなんにも心配すんな」
バンッと目の前で寝室のドアが閉まった。
「・・・」
しばらく、閉じられた寝室のドアを眺めていた。が、床に落ちた包みに気づいて、それを拾いあげた。
さっき、潤の手を掴んだ時に、落としてしまったのだ。
俺はボーッと、片手に持った包みを眺めた。そうだ。今日は俺の29回目の誕生日だった。
そんでさっきまで、会社の女の子達に祝ってもらって飲んだくれていたんだっけ。
ってことは、これは誕生日プレゼントか。潤らしい、マメなこっちゃ。
そんなことを思いながら、立ち尽していたが、いつまでもここにいるべきではないと思い、潤のマンションを後にした。


部屋に戻ってきて、留守電をチェックすると、ピーッと音がして、次々と女の子達からの
誕生祝いのメッセージが聞こえてくる。
「怜ちゃん〜。愛してる。29歳の誕生日オメデト」
それらのメッセージを聞きながら、俺は潤から貰った包みを開けた。
CDだった。
忘れていたが、去年、誕生日プレゼントに欲しいと潤にせがんだのだ。
俺は探すのが面倒くさいから、潤に探して貰おうと思っていたのだ。
でも、どこの中古屋回っても手に入らないと潤は嘆き、結局誕生日には別のモンを貰った。
少し古ぼけたパッケージは中古だとわかる。きっと、潤は忘れずに覚えていてくれて、探してくれていたんだろう。
俺ですら忘れていたと言うのに。
「怜〜。はっぴばーすでー。洋子ちゃんより♪」
誰だか知らない女からのメッセージが耳にうるさかった。
俺は、留守電の再生を止めた。
「知ってっか?潤。この曲なァ。17歳の頃のてめーが好きだって言ってたん。でも、俺は一度も聞いたことがなくってな。だから・・・」
だから、俺は、聞いてみたいと思ったんだよ・・・。
「・・・っ」
俺はCDのパッケージをバンッと床に叩きつけた。
「ふざけんな!」
俺のせいか?俺のせいかよ・・・。
勝手に俺のこと好きになって。
別れを了承したくせに、勝手に10年間も俺のこと好きでいたなんて・・・。
俺のせいかよ。全部、俺のせいかよ・・・。
心の中で叫んで、俺はベッドに倒れこんだ。俺は目を閉じた。
遠藤潤。高2のクラスメイト。出席順で俺の前だった。性格違うけど、なんか気が合うヤツだった。
ああ、そうだ。
俺のせいだよ・・・。
わかっている。
知っていたんだ。
ずっと。ずっと。おまえが俺のことを好きでいること。
あの別れだって、おまえが本意でなかったことも・・・。
全部、俺が悪い。俺のせいだ・・・。
「潤」
その名は、いつも。俺にとっては特別だった。
いい意味でも悪い意味でも・・・。

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今日の俺は最低だ。教え子と寝るわ、親友にあたるわ・・・。
酒なんか飲むんじゃなかった。
だが。言ったところで時間は取り戻せない。
「10年か・・・」
俺もよくあんなバカ、好きでいたもんだよと思った。
女癖悪いし、酒癖悪いし、一体どれだけ迷惑かけられたか。
それでも。なんだか、やっぱり、悪い夢でも見てるかのように、アイツを好きでいることを止められなかった。
友達に戻ろうといわれて、それが自分にとってどんなに辛いことだとわかっていても、アイツと縁が切れるのが怖かった。
「まあ。どうせ結果はわかっていたけどな。こんな喧嘩別れみてーなオシマイにしちまったのは情けない」
寝煙草。煙が天井にのぼっていくのを、俺はジッと見つめた。
小川怜。高校2年の時のクラスメート。出席番号で、俺の後ろだった。簡単に言うと、一目惚れだった。
すれているように見えて、実は純情。すれてなく見えていた俺のがよっぽどアイツより擦れていた。
ノン気な怜に、好きだ好きだを連発し、挙句に押し倒して強引にモノにした。
「そう言えば。一度もアイツから好きだと返されたことなかったっけ」
でも。キスすれば、キスを返してくれたし,抱けば感じてた。
それだけで・・・。
一縷の望みを抱いて、この10年。我ながら、赤面ものの純情だ。
怜のこと言えねーぜ。
いつか。
いつか。思いつづければ、怜は応えてくれると思っていた。
でも。人の気持ちなんて、そんな簡単じゃねえんだよな。
二階堂和彦は、俺の教え子で。
タイムスリップしたみたいに、怜に良く似ていた。
顔から、性格から、なにからなにまで・・・。だから、俺は溺愛しちまった。
でも。怜と違うのは。
二階堂も、俺に気があるってことだ。
「先生。俺も、先生のことが好きだ」
言いっぱなしの俺が、言われることに快感覚えちまうのは、仕方ねえよ。
あんなに怜にそっくりの二階堂に言われてしまえば。
「潮時だったのかもしれねーな」
怜の20代の最後の誕生日。何件も中古CDの店を回って、やっと探し出したあのCD。
「どうせ、なんだこんなモンって、床にでも投げつけてんだろうなァ」
想像出来て、俺は笑っちまった。
「探していたことすら、忘れていたんだろうよ」
もう一度、やり直そうって言いながら、渡すつもりだったのにサ。
「同情か。・・・同情ね。すげー辛いぜ・・・」
涙が出てきた。チッと思うものの、止められなかった。
「怜」
おまえはいつでも、俺の特別だった。
どんな時でも・・・!

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その日の俺は、放課後の教室で居眠りをしていた。
掃除当番が周りで、うるさかったけど、俺の机だけは無視して掃除を終えて出て行った。
夕日の差しこむ教室。気持ちいい・・・。
こうやって少しだけ待っていれば、やがて先生がやってくる。
遠藤潤。数学教師。俺のクラスの担任だった。
すげー男前なセンコーで、女からキャーキャー言われているようなヤツだったが、ミーハーじゃなくって硬派で俺は好きだった。
ハスキーな声が好きで、数学の時間に、居眠りしながらその声を聞いてはゾクゾクとしたもんだ。
構われたくって、色々悪いことをやってみたりもした。案の定、遠藤は俺に注目した。
親身になって心配してくれた。してやったりと思った。
自慢じゃねえが、俺は男を落とすのは得意だ。
この女顔のせいで、ヤローにはひでー目にあっている。
20代の教師なんざ落とすのはチョロイと思っていた。
だが、遠藤は頑固だった。どんなに兆発しても乗ってこない。俺の勘では、遠藤はノン気ではない筈だったのに。
しかし。チャンスは思いがけなくやってきた。
放課後。いつものように遠藤の家に押しかけていっては、ダラダラしていた。そこで、大量に買いこんである酒を見つけた。
飲みたいと言ったら、堅物で、「未成年が酒はダメだ」と言っては、冷蔵庫にしまわれてしまった。
そのうちに、誰かから電話が入って、その電話を切った途端、遠藤は豹変した。
「ちくしょう。またぶっちされた」
と、ヤツは言った。
それからだった。遠藤は、やけを起こしたように酒を飲み始めた。
すかさず俺は、遠藤に迫った。
そっからは簡単だった。やっぱり遠藤はノン気じゃなかった。
抱かれればわかる。コイツは男を抱いている。
屈辱だった。イく時に、別の男の名前呼びやがった。
「怜」だぜ。ムカツク。
「思い出しても腹立つぜ」
俺はガバッと起きあがった。
あの日。酔っ払って遠藤の家に現れた、小川怜。
遠藤はよく言った。
「二階堂。おまえは怜に良く似ている。俺の親友なんだけどな」
そう言っては、遠藤は眩しそうに俺を見たっけ。
どこが似ている。冗談じゃねーぜ。あんなタラシ顔。俺のが、ぜってーイイ男だぜ。
「和彦。いつまでグータラしてやがる。さっさと帰れ」
ハッとした。遠藤が教室の入口に立っていた。
「あ、センセ。待ってたんだ。一緒に帰ろうぜ」
俺はウキウキとして、遠藤の側へ走った。抱きつこうとして、拒まれた。
「ここどこだと思っている」
「誰もいねーよ。こんな時間じゃ」
「用心しろよ。ったく」
遠藤は照れたように笑った。俺はその顔にドキリとする。
ヤバッ。やっぱり、俺惚れてるぜ。この人に・・・!
「生憎だけど、俺これから会議なんだ。そっから後は、体育の里美と飲んだくれて帰る予定だから。今日はダメだぜ」
ポンッと頭を叩かれて、俺はしょげた。今日は一緒にいられない。
「俺も行く」
「バカ。大人の飲み会になに言ってやがる。未成年」
「なんかあったのか?あの小川ってヤツと」
「いきなり、なんだよ」
「アンタ。今日はずっとボーッとしていた。それに、飲んだくれて帰る予定なんて・・・」
「俺。ボーッとしてたか?」
「ああ。公式3回間違えたぜ」
俺がそう言うと、遠藤は苦笑した。
「バレてたか。まーな。失恋したんだよ。俺」
「え?」
「だから、な。たまには飲みたい気分なんだよ」
「昨日だって飲んでたじゃねえか」
「相手がいねー飲みは飲みじゃねえ。里美と色事ベラベラガタるつもりはねーけど、アイツは大酒のみだから、
安心して酔えるんだ」
「里美を襲うなよ」
俺は心配だった。遠藤は酔うと、絡み酒だ。
「アホタレ。俺にも好みがある。あんな大男。誰が」
「わかった。今日は諦める。あんたが失恋したってことは、俺にもチャンスがあるからな」
「可愛いこと言うな。んじゃ、おとなしく帰れよ」
「ああ」
遠藤の背を見送ってから、俺はカバンを抱えて学校を飛び出した。
幸せだった。
失恋だって?失恋したって?やったーーー♪
これで、俺にもチャンスが巡ってきた。
誰がおとなしく帰るもんか。今日だってアンタの家に遊びに行ってやる。
そして、アンタの帰りを待って、失恋を慰めてやるんだ。
俺はとっくに勝手に作った合鍵を持って遠藤の家に向かった。
結局。
ベロベロになって帰ってきた遠藤を介抱して、そのままなし崩しにまた、セックスしてしまった。
気持ちいい時間が過ぎると、そこには遠藤の告白が待っていた。
小川怜との出会い。別れ。そして今までのつきあい。
「なあ。おまえ、こんな俺でもいいのかよ?」
遠藤は、俺に聞いてきた。
「うん。いいよ。俺は・・・。アンタが好きだ。小川に似ているっていうの、ムカつくけど。
それが理由でアンタに振り向いてもらったならば今はいいと思う」
これは本心。過去なんてどうでもいい。
「気持ちいいもんだな」
「え?」
「好きって言われるのってサ。俺、怜には言うばっかりだったから」
「うん。いつでも言ってやるよ。好きだ、好き」
「バッカ。あんまり言うとありがたみねーぞ」
遠藤は俺を抱き締めては無邪気に笑った。その笑顔を見て、俺は嬉しくなった。
「俺も。おまえのこと好きになれると思う。いつかは怜ぬきで。今はまだ。
引き摺っているかもしれねーけど」
「うん。俺、待つから。あんたが、俺だけになる日」
「サンキュ。おまえって大人だな」
その夜。俺はとても幸福だった。
遠藤に抱かれて、とても幸せだった。

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