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神様。
これは、真面目に働いた俺のへのご褒美ですか?
(たったの一週間だけど)
と、潤は、フワフワと夢見心地だった。
秋也が。あの秋也が。
俺がいなくて淋しい、なんて。
ずっと、ずっと。心のどこかで、居座って迷惑かも、とか。
うざったく思ってるかもって。
そんな気持ちを持っていた。
全てを捨ててあの町に来た以上、簡単に退くものかとは思っていたけど。
それでも、やっぱり、こんな俺でも、不安では、あった。
けれど。払拭された。
俺達は、両想いだ。完璧な両想いで。いつまで続くかわからないけれど。
今、この瞬間だけは。
俺でなければ秋也の淋しさは癒せないし、秋也でなければ、俺のこの渇きは潤せない。



潤は自分が泊まっているホテルに秋也を連れてくると、秋也はキョトンとしていた。
「さっきのホテルじゃないのかよ?」
と聞かれたので、
「いや、違うけど」
と答えたら、微妙な顔をした。
豪華なホテルじゃないから気に食わないのかな、とちょっと不安になったが、秋也はそれ以上は
なにも言わずについてきた。
手を繋ぎたかったけれど、我慢して秋也を部屋に招き入れた。
バタンとドアが閉じる音を聞くと同時に、反転し、潤は秋也を抱きしめた。
「じゅっ、潤」
「もうダメ。我慢出来ない」
抱きしめたまま、ベッドにもつれこんだ。
見ようによっちゃ滑稽なまでにバタバタと暴れながら服を脱いだ。
互いに生まれたままの姿になり、ベッドの上でキスをした。
「んっ」
長々と続いたキスが終わると、秋也はクタリと潤の腕に倒れてきた。
歳は大して変わらないが、秋也は淡泊で、セックスに重きをおかない。
弟を亡くして以来、自分の世界に閉じこもっていたせいかもしれない。
だから潤は、そんな秋也を気持ちよくさせることが大好きだった。
愛撫に戸惑いながらも、段々と気持ちよくなっていく秋也を見てるだけで、簡単に潤は勃起した。
でも、今日は。今夜は。
「秋也。して」
「してって・・・」
秋也が、目を丸くして、聞き返した。
「はあ?そりゃないでしょ。幾つよ」
「・・・」
口に突きつけられたペニスを、どうすればいいかわからないなんて、十代の小娘じゃあるまいし、と潤は苦笑した。
「ってるけど・・・」
プイと秋也は顔を反らした。
「コレで、秋也を気持ちよくしてあげるんだから。もっとおっきくして」
潤は、グイッと秋也の顎を掴んで、自分の方へと向かせた。
「おまえってやつは」
秋也は頬を染めながらも、潤のペニスにおずおずと指を絡めた。
「ん」
意を決したかのように、ペニスを口に含んだ。
「あ、きもちイイ」
これだけ体を重ねていても、秋也にフェラをしてもらったのは初めてだった。
いつも、秋也を気持ちよくさせることに、潤は夢中だったからだ。
正直。俺は、十代で結構経験してしまっていた・・・と潤はチラリと過去を思い返した。
エロ兄貴らの影響もあるし、元々それなりにモテたから、軽い気持ちでそういう経験をするチャンスもたくさんあった。
だから、ペニスへの愛撫も経験はしてきたけれど。
やっぱり好きな子にしてもらうのって格別なんだなぁと潤はうっとりと思った。
必死な顔で愛撫してくれる秋也を見下ろしているだけで、ゾクゾクした。
とはいえ。慣れていない秋也の愛撫はぎこちない。
潤的にはいつまでも咥えててもらいたいが、秋也は、大変だろう。
ごめんね、と思いつつ。
潤は、グッと秋也の後頭部を手で押さえた。
「ぐっ」
秋也が咽た。
自ら腰を動かし、秋也の口腔を攻めた。
「あっ、く」
きゅっと秋也の眉が苦しげに寄った。
腰を進め、秋也の初心な喉の奥にペニスを突っ込む。
「う、う」
ジュプジュプと擦れるような音が響く。
ブルリと潤の体が震えた。
「あ、イく」
逃げられないように、秋也の頭をがっちり押さえこみ、その喉奥へと、破裂した精液を流し込んだ。
「!」
ヒッと、秋也の喉が仰け反ったかと思うと、ガハッとシーツに突っ伏した。
「ゴホッゴホッ」
秋也が激しく咳き込んだ。
「潤、おまえ」
生理的な涙が、秋也の瞳から落ちた。
「どうしてくれんの。秋也の口ン中気持ちよくて、大きくなりすぎて、しぼんだ」
あはははと潤は笑って、突っ伏す秋也の髪を撫でた。
「俺のせいじゃ・・・ねえだろ」
口元をぬぐいながら、秋也は、潤を軽く睨んでいた。
「ごめん。だって、いつまでも舐めてもらう訳にはいかないじゃんか。秋也だって辛いでしょ」
どさっ、と潤は秋也を組み敷いた。
「やだ。ちょっ。シーツ濡れてるって。タオル持ってこい」
バタバタと秋也は、脚を浮かせ、抵抗した。
「いいよ。もう、どうせ朝までやりゃ、びしょびしょになるんだから。気にしないで」
潤は、赤く染まる秋也の頬に、唇を寄せた。
「ベッドダメにしたら、どこで寝るんだよっ。シングルなんだぞ」
いやだ、と秋也は、潤から顔を背けた。
「え?寝ないよ。朝までヤッて、そのまま帰るんだよ」
けろっと潤は言った。
「殺す気かっ」
「殺さないよぉ。大事に抱くだけだよ。時間をかけて、ゆっくりと」
そう言って、潤は秋也の首筋に、唇を寄せた。
「秋也が頑張ってくれたから、今度は俺」
首筋から、乳首へ。脇腹から、ペニスへ。
潤は言葉通り、ゆっくりと、秋也の体中に舌で愛撫を施した。
「ん、ん」
秋也は、ふるふると首を振り、目尻に涙を浮かべていた。
その表情は、普段の秋也からは想像も出来ないほどに、色っぽい。
「あ」
特に乳首を、潤は念入りに愛撫した。
舌で転がしたり、時に軽く噛んだり。
「んんっ」
秋也は声を出してしまうことに常に抵抗があるようで、ちょっと大きな声が出ただけで、ハッとしたような困った顔になる。
そんな秋也が好きで、何度か乳首を噛んでやった。
「やめろ。潤」
ハア、と甘い息を吐きながら、秋也が気だるげに言った。
気の済むまで前戯を施し、トロンとした瞳でこちらを見上げている秋也に、潤は、そっと囁く。
「いつもは、俺。秋也のこと気持ちよくさせるのに必死だったけど。今日は秋也も、俺にして。だって、
せっかく俺に会いに来てくれたんだもん。待ってれば、俺は帰るのに。我慢出来ずに、来てくれたんだから」
「・・・」


体中に落とされた愛撫の印をそのままに、秋也は起き上がり、潤の体に、唇を寄せた。
「秋也の唇、柔らかい」
首筋に、乳首に、脇腹に。さっき潤が通ってきたのと同じ手順で、秋也は潤に愛撫をくわえた。
「ん〜。気持ちいい」
うっとりと潤が囁いた。
引き締まった下腹に舌を寄せる時、ドクンと自分の体が一回疼いたのに気づいた。
勃起したペニスからジワリと先走りの液が滲む。
「くっ」
相手の体を舐めまわしているだけで気持ちよくなるなんて変態か俺?と秋也は密かに動揺した。
だが、今日は。潤が言うように、求めて来たので、体が素直だ。
酒の威力もあるだろうけど、それでもやっぱり素直に、潤が欲しいと思った。
秋也はキスを再開した。
潤の太股に唇を寄せた瞬間だった。
グイッと腰に手を回され、体を引き上げられた。
「秋也エロい。舐めてて感じてるの?」
濡れたペニスを指で弾かれ、恥ずかしさのあまり、秋也は硬直した。
そんな秋也を、悪戯っ子のような顔で見つめた潤は、
「ねえ。俺の顔の上に跨って」
トドメをさすかのようなお願いを言ってきた。
「!?」
「秋也のお尻、舐めたいんだけど」
にこっと潤は無邪気なまでの笑みを秋也に向けながら、きわどいことを言う。
「・・・い、いやだ」
さすがに秋也は、拒否した。
「なんで。今日の秋也、俺の我儘聞いてくれてるじゃん」
拒否されるとは思わなかったのか、潤がむくれた声を出した。
「いやだ。そんなの」
想像しただけで恐ろしい。秋也の喉がゴクリと鳴った。
「お願い」
ジッと見つめられて、秋也は、怯んだが。
「いやだ」
譲れなかった。
そんなの恥ずかしくて、死にそうだ。
幾ら酒が入ってるとはいえ、俺には出来ない、と秋也は首を横に振る。
「もう。別にいいのに。見慣れているんだからさ。いつも、秋也のココが、俺ので広がってるのもちゃんと見てるんだよ」
そう言って、潤は、秋也の尻の奥に指で触れた。
「いっ、言わんでいいっ」
素直な潤は、エロいことも、平気で言ってくるから心臓に悪い。
「舐めたいなぁ、ここ」
長い指でモゾモゾと奥の入り口を撫でまわされて、秋也は体を捩った。
「ねえ。下から、ペロペロと舐めたい」
こんな風に、と潤は秋也の耳たぶを、舌でヌルリと舐めた。
「いやだって言ったら、いやだ」
ペシッと秋也は潤の頭を叩いた。
「・・・わかったよ。じゃあ、普通にする」
体を入れ替えて、潤は秋也を体の下に引き込んだ。
足首を掴み、挿入する時のように、大きく開く。
潤の舌が、秋也の最奥をベロリと舐めあげた。
「!」
うくっ、と秋也は声をもらし、目を閉じた。
「秋也、これ大好きだもんね。特別に今日はたくさん舐めてあげるね」
舌で突かれ、秋也は体を捩った。
「ん、あ。あ・・・」
ジュクジュクと卑猥な音が憚りなく部屋に響いた。
「う、ん。あ、あ」
どろどろに舐めまくられ、秋也の頬が紅潮していった。
挿入前、いつも潤はココを舐めるのだが、こんなに長時間されていたことはなかった。
ピチャピチャと響くイヤらしい音に耐え切れず、秋也は眉を寄せた。
「や、う。潤。潤」
突っ張っていた脚が、ヒクヒクと震えた。
「うん。いいよ。イッて」
股の間で、潤が呑気に言った。
「・・・だ、や・・・だ。んっ」
言葉では拒否しても、体は、無理だった。
ペニスを挿入されることなく、ただソコを舐められただけで、秋也は、イッた。
「くっ、う、う」
放出の余韻で体を丸めかけた秋也は、ギョッとした。
潤が圧し掛かってきた。
「潤。なっ。ああっ!」
まだペニスからドクンと白濁した液が出ているというのに、潤は強引にペニスを突っ込んできたのだ。
「や、う。ああっ」
ほぼ悲鳴が、秋也の口から上がった。
「んん。まだ出てるのに挿れちゃってごめんね。同時に気持ちイイかなと思って。秋也のペニスとお尻」
「ううっ。あ、あァ・・・」
悲鳴は甘い声に段々と変わっていった。
むろん、長時間そこを舐められたことによって蕩けたソコは、突然の侵入であっても苦痛は伴わなかった。
「あ、あ、あ、ん」
放出したばかりなのに、またイきそうになってしまうぐらいゾクゾクと感じ入ってしまい、秋也は潤の背に
慌てて腕を回した。
「ヤバッ、潤。やめ。ぬっ、抜いて」
「やめないよ。すっごいクるんですけど。またイく?」
「わけ・・・ねぇだろ」
だが、内部は燃え滾るように、押し入ってくる潤のペニスを包み込んでいた。
潤は腰を小刻みに揺するようにして、秋也の中を突きこんできた。
「ふっ、あ」
次第に激しくなる腰使いに、声すら出せずに、秋也は潤に縋り付いていた。
怖いほど体が熱く震え、秋也は、浮いていた脚を潤の腰に絡みつかせた。
「ん、ん、ん」
ぶつかり合う場所が、ぬっ、ぬっ、とイヤらしい音を立てている。
「もしかして。出さないでイッてる?」
「!?」
言われた意味がわからなく、秋也は、潤を見上げた。
「エロいなぁ」
潤はそんな風に言って、秋也の額にキスをした。
「秋也ってさ。素直になると、ぜ〜んぶ素直になっちゃうんだね。心も体も。知ってはいたけど、今日はまた格別」
そう言ったと同時に、潤が、グッと腰を進めてきた。
「んっ、あ、あ」
「可愛いよ。本当に、可愛い。普段素直じゃない分、めっちゃ可愛い」
「かわ・・・い、言うなよ・・・」
「それしか表現出来ない。俺を追いかけてきてくれて、そんでもって、こんなに素直に抱かれてくれて。
それ以外どういえばいいの。聞きたいよ」
「黙っ・・・て、抱けよ」
潤は、秋也を抱きしめながら、その耳元に打ち明けてきた。
「秋也。俺さ。柚子さんの会社に行くこと決めたの、実はさ。秋也のこと試すつもりだったんだ。きっと俺、柚子さんに
いびり倒されるだろうと思ったけど、秋也はどう反応してくれるかなって。秋也、素直じゃないから、もしかしたら、
柚子さんのことまだ未練あるかもしれないのに、俺の手前本当のことを言えないんじゃないかな、って疑っていた
んだ。ごめんね。俺、秋也のこと、半分しか信じていなかった」
それ、今言うの反則だろ、と秋也はかすれた声で言った。
「ごめん。でもさ。こんな秋也見ちゃったら、悪いけど、もう柚子さんに勝ち目ないなって思った。だって、こんなに俺、
愛されてるもん」
嬉しそうに。本当に嬉しそうに潤が、笑った。
「いい歳こいて・・・、〜もん、とか言うな、・・アホ」
そんな風にしか返せなかったけど、潤なら理解するだろう。
はっきりと「そうだよ」とは言えないけれど、否定もしないことを。
それに自分だって、潤のこと半分信じていなかった。美人社員達の妄想が頭を掠めたからだ。
俺達はお互い様だ、と思った。
「んっ」
体が熱くなる。
潤を含んでいるその部分は勿論のこと、そうじゃない部分も。
今更だけれど、己の行動の恥かしさが全身を包んでくる。
カッカッと熱くなっていく。
性衝動とは違う、また別の何か。
その熱さのせいで、淋しさが解けていく。
潤がいなくて寒かった体が、暖かくなっていく。
「秋也、好き。大好き。愛してる」
いつもそうやって潤は囁いてくる。
返事をする代わりに。
秋也は、潤の首に腕を回し、唇に口づけた。
舌を差し入れ、絡め合う。
そうしているうちに、潤の手が秋也の腰を抱き、起こした。
その反動で外れたペニスが、
「んうっ」
騎乗位となって、秋也の体の中に、ズプリと再び埋め込まれた。
繋がり合う部分から、ジュプジュプと淫らな音が零れ、秋也は、目を閉じた。
「もっと。秋也、もっと。もっと締めて」
ぶつかりあう体に喘ぎながら、潤が秋也にこそりと囁く。
「あ、あ、あ」
もっとと強請る年下の恋人の為に、秋也は下半身に力を込めた。
「あ、イイよ。ん、すげえ」
快感を感じている潤の顔は、いつも綺麗だった。
綺麗な瞳・・・と、その瞳を覗きこもうとして、秋也は仰け反った。
「や、やだ。あ、あ、あ」
ペニスが外れそうになるぐらい勢いよく退いていったかと思えば、ズズズッとゆっくり焦れるようにはめこまれる。
その焦れったさに、秋也は首を振った。
「やぅっ」
潤の引き締まった下腹部に手をついて、喘いだ。
「秋也。大好き」
ヘーゼルの瞳が、秋也を見上げて来る。
こくっと秋也は頷いた。
「潤。俺のこと・・・。信じろよ。この先・・・なにがあっても」
「うん」
「だから。・・・うん、とか、もんとか、止せって。いい歳こいてバカ・・・」
クスッと笑いかけた秋也だったが、潤の動きで、笑いが引っ込み、喘ぎに変わった。
「ん、ん。あっ」
「バカとか言うからだよ〜だ」
「・・・よ〜だって。言ってるそばから、おまえ。ほんと、バカ」
秋也は、ハッとした。
事実は事実だが、今言うべきではなかった。
「よっしゃ」
潤はニヤリと笑って、腹の上から秋也を振り落した。
「!」
シーツの上に転がった秋也は、潤を振り返った。
「お仕置き、決定」
「やめろ、潤」
グッと背中の上に乗られて、秋也は悲鳴を上げた。
「秋也のキライなバックで突っ込んで、ヒィヒィ言わせたる」
「いやだ、あ、うっ」
暴れる暇もなく、潤のペニスが尻の奥に挿入された。
「あ、あ、あ」
バックから抱かれるのが苦手な秋也は、すぐさま体を竦ませた。
深々と潤をその身におさめて、思うさま揺すぶられ、秋也は体の奥に、今晩初めての潤の情熱を受け止めた。
「まだまだだよ。わかってるよね?」
そしてその言葉通り、夜明けまで飽きることなくベッドは、ギシギシと淫らに軋み続けた。





愛し合った余韻を引き摺ったまま、一緒に自宅へ・・・。
などという潤の妄想は打ち砕かれた。
「ごめん。俺、西脇さんと一緒に帰ることすっかり忘れてて」
出張なんだから、当たり前だった。
とりあえずチェックアウトを済ませて、2人は駅まで来ていた。
「別に。俺、マイペースで帰るからちょうどいい」
腰痛え・・・と腰を摩りながら秋也は、面倒くさそうに言った。
「ちょうどいいって、そんな・・・。まっ、待ってるね、秋也。無事に帰ってくるんだよ」
ヒシッと潤は秋也を抱きしめた。
「よせ。こんな人目のあるところで」
くっつく潤を引っぺがし、秋也は、小さく笑った。
「おまえ。柚に余計なことを言うなよ」
「わかった」
こくっと潤は真面目な顔で頷いた。
「同じところへ帰るのに、別々なんて、切ないぜ」
「アホ。たった数時間離れるだけじゃねえか。じゃあな」
と、秋也は、券売機の前に立って、考え込む。
「えーと。そんでもって。特急券ってどう買うんだっけ」
そんな秋也の呟きが聞こえ、潤は、呆れた顔で秋也の横顔を盗み見た。
視線に気づいたのか秋也は、ハシッと潤の上着の裾を掴み、
「おい、潤。とりあえず、俺に切符の買い方教えろ」
と、睨みつけた。
「って。なんで睨んでんの?教えるよ。てか、買ってあげるよ」
昨夜の可愛さは、微塵も感じられない、えばりんぼうの秋也の復活だった。
なぜかえばったまま、電車で一足先に帰っていった秋也を見送り、潤は慌てて西脇の待つ空港へ向かった。
飛行機で帰った潤のが当然早く着く。
部屋に入り、暖房を入れる。明日は、ここから会社に出勤だ。
やれやれ。ようやく自宅に戻ってきた、とソファに寝転がって潤は目を閉じた。
さすがに疲れた・・・。
明け方まで秋也とイチャイチャしていたのだから。
どれくらい寝たのか。
チャイムの音で目が覚めた。
秋也かな?と思ったが、ちょっとまだ時間的に戻ってくるには早いなと思った。
「やほー。お帰り」
出ると、小夜子と柚子だった。
「ああ、どうも」
秋也の不在を告げれば柚子は帰るかと思ったが帰らず、待ってると部屋に上がってきた。
「確か。秋ちゃんが潤ちゃんの為に酒買ってた筈」
ごそごそと小夜子は、勝手に台所を漁り、酒をゲットしてきた。
そして、主人不在のこの部屋で、恒例?の酒盛りが始まった。
「話は聞いたわよ。かぐやの件。あれさわざとなのよ。小野田くんが困ればいいと思ってやったの。
でも、パパに怒られたわ。まさか私、野瀬グループの会長のパーティーだとは思わなくて」
柚子は苦々しい顔で言った。
「そりゃそうでしょうよ。わかってやってたらすげーよ」
潤はビール片手に、ぱりぱりとせんぺいを食べていた。
「やな性格ね、柚ってば」
小夜子は、軽く柚子を睨んだ。
「あら。そんなことないわよ。クビになれば、小野田くんだってまた秋也とずっと一緒にいられるでしょ。
私はそうしてあげるつもりだったのよ」
「嘘ばっかー」
小夜子と潤が言うと、柚子はフンッと鼻を鳴らした。
潤ちゃん、みかん取って〜と小夜子がリクする。
「秋也の前で、散々俺をこきおろす作戦だったんでしょーが」
ポイッと潤がみかんを小夜子に投げた。
「そうだ、そうだ」
受け取ったみかんをむきながら、小夜子が同意した。
「まあ、それも有りっちゃ有りだったけど。とんだ計算違いなことになっちゃって。まったく小野田くんってば
やってくれるわよね」
「なんですか」
なんのこと?と潤は目を細めた。
「パパったら、今回の件で、すっかりあなたのことを気に入っちゃって。まさか野瀬グループとのパイプが
あるなんてって。初日からパパは貴方のことが気に入ってみたいだけど、もうますますよ」
「あざーすっ」
潤は、ペコッと柚子に頭を下げた。
「そんでね。パパってばね。秋也くんとの結婚はやめて、小野田君とにしないかって。もう超ノリノリでさ。
そのうち絶対に貴方に話行くわよ」
澄まして言う柚子に、小夜子と潤がプーッとビールを吹き出した。
「まあね。私としては、どっちでも構わないわよ。貴方にはもれなく秋也がついてくるからさ」
赤いマニュキィアの人差し指を口に当てて、柚子がニヤリと笑った。
「あ、あの・・・。それってどこまで本気の話なんですかね」
潤が冷や汗を拭う。
「どこまでって全部本気の」
と柚子が言いかけて、
「あら、チャイム」と言った。
ピンポン、と部屋のチャイムが鳴る。
「秋也だ。俺、出る」
ナイスタイミング、と潤はそそくさと玄関に走った。




ドアが開いたと同時に、鼻先に風が起こり、秋也はクシュンとくしゃみをした。
「さ、さみッ」
思わずブルリと体を震わせ呟くと、
「お帰り〜、秋也。7時間ぶりだねっ。会いたかったよ」
迎えた潤が、ガバッと秋也を抱きしめた。
「おまえなぁ」
と、言いつつ、潤を抱きしめようとした秋也だったが、部屋からの妙な視線を感じて、抱きしめるどころか、突き飛ばした。
「な、なんで、いる?」
秋也の視線の先には、小夜子と柚子がいた。
2人はテーブルを囲んで、秋也に向かって、ヒラヒラと手を振っている。
「お邪魔かしらぁ〜。秋ちゃん、温泉ありがとね。楽しかったわよん」
小夜子が言う。
「お土産持ってきたんですけどぅ」
柚子が手に一升瓶を持っていた。
イテテ、と突き飛ばされた潤が起き上がった。
サンダル脱げた〜と潤がサンダルを探している間に、秋也は潤を押しのけ、部屋に上がった。
「こっち、こっち〜。酒もつまみもあるわよん」
小夜子が手招く。
「とりあえず、上着脱いでくる」
隣の部屋で、マフラーやらコートやらのもこもこの防寒着を脱いだ。
その間に、潤が柚子と小夜子に合流したようで
「潤ちゃん。みかんもう一個」
「またかよ。どんだけ食うの」
と言った会話が聞こえた。
「さっきの続きだけど」
ワイワイと会話が弾みだしたのが聞こえた。
なにを話しているのか、時々は爆笑が聞こえる。
潤はすっかり、柚子とも馴染んでしまった。
なんとなくぼんやりと、秋也は、部屋からリビングの三人を眺めていた。
小夜子と柚子はそのままに、潤が、春也にダブり、そしてまた潤に戻っていく。
ここが、俺の場所。
秋也は目を細めた。
小夜子さんがいて、柚がいて、俺がいて。
そして。
潤がいる。
「ねえねえ、秋ちゃ〜ん。お留守の間に衝撃事実よ」
小夜子のなにか面白がる声が聞こえた。
ろくでもないことのようだった。
「あー、小夜子さん、シーッ」
潤が慌ててる。
「なんだよ」
着替え終え、秋也は、三人の所へ戻った。
「どいてくれ」
小夜子に言ってから、ハッとした。
「あらあら。秋ちゃん。座る場所いっぱいあるのに、潤ちゃんの隣ですか〜」
小夜子が潤の隣から退きながら、ニシシと笑った。
やっぱり言われた。
もう無意識に、潤の隣にすわる癖がついている秋也だった。
「るっせ。なんとなくだよ」
テーブルを囲み、柚子、潤、秋也、小夜子になっている。
「で。なんだよ、衝撃事実って」
柚子が、秋也をチラリと横目で見た。
「うちのパパね。私の結婚相手、秋也じゃダメだって。小野田くんがいいってさ。だから、私、小野田くんと
結婚しようと思うの。玉の輿だわよ。いいよね、秋也」
その言葉に驚いている暇もなく、潤がドササと抱きついてきた。
「秋也〜。やだよ、俺。俺、嫁ぐなら貧乏でもグータラな秋也のとこがいいよぉ。柚子さんのとこじゃ、こき使われる〜」
「なに言ってんの、小野田くん。私と結婚したら、今までプーだった貴方はいきなり社長よ、社長。秋也は私に任せて、
アンタはうちの美人女子社員と酒池肉林よ!」
「うわー。それ、イイ」
小夜子がパチパチと手を叩きながら、ドンッと秋也をどつき、潤の前に身を乗り出した。
「潤ちゃんには、ハーレムの王様的なキャラ、似合うっ。超似合う。ね、それいいじゃない。とりあえず、柚と結婚
しちゃいなさいよ」
小夜子の目は完全に据わっていた。
「そうね。小夜子さんの言う通り。その歳で秋也一人に決めちゃうのはもったいないわ。色々つまみ食いしてみるべき。
妻の私が言ってるんだから、遠慮しなくたっていいんだから」
柚子も負けずと酔ってるようだった。
「妻って・・・」
ひくひくと潤の頬が引き攣っていた。
「おるぁ。潤。こんな美味しい話、即答せんたぁ、おまえ男かっ」
ドンッと小夜子は、グラスをテーブルに叩きつけた。
「お、男ッス」
ビクッと潤が、後ずさった。
「そうと決まれば、明日にでも婚姻届貰ってくるわ、私」
柚子が楽しそうに言った。
「いや。決まってねえって。柚子さん、決まってないからねっ」
女性2人にグイグイ来られて、さすがの潤も、タジタジだ。
秋也は、堪えきれずに、クスッと笑った。
「あ、なに笑ってんの、秋也」
柚子が気づき、秋也の顔を覗きこんだ。
「だって。てめーら、本当にバカなんだもんよ」
クククと秋也は肩を揺すって笑う。
「なんだと?」
小夜子が。
「なによ。なんで私がバカ?」
柚子が。
「え〜。てめーらって、まさか俺は入ってないよね?」
潤が。
それぞれ、秋也の言葉に、眉を潜めて抗議の声を上げる。
秋也は、空のグラスを見つけて、それを持ち上げた。
ホッとした。
やっぱりここは、俺の居場所。
愛すべきバカ達の住む、この水辺の小さな町が、やっぱり俺の生きる場所だと秋也は思った。
「まさか。飲むの?秋也、禁酒してた筈じゃ」
柚子が、ちょっと戸惑った顔をした。
「安心しろ、柚。もう無茶なことはしねえよ。今度は酒に溺れても、俺には潤がいるから大丈夫」
潤がこちらを見てニコッと笑ったので、秋也はそれに応え、ちょっと照れくさそうに笑い返した。


END



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2013/12/10完結
BGM スキマスイッ/チ  奏
もっと柚子に暴れていただこうと思って書きだしましたが、
なんか早く終わった方がいい雰囲気だったので、超縮めてしまいました。
でも、コンパクトに終われて逆に良かったですv